オリキャラ(二人の子、柚と愛)注意
柚…唯似、6歳
愛…梓似、5歳


とん、っと腕に何かがぶつかって……
テレビ画面から自分の脇に視線を移すと、
半分眠ってしまっている愛の顔が見えた。
私の二の腕に頭を載せたまま、こっくりこっくりと何度か舟をこいで……
テレビの大きな音にはっと目を開けると、慌てた様子で姿勢をもとに戻した。
さっきから何度も同じことを繰り返している愛。
眠いのを我慢しているのは明らかで、私はそんな愛を見ながら、

「愛、我慢しないで寝ちゃっても大丈夫よ?」

と言った。愛を挟んで私の隣に座っている唯も、
愛が眠そうなことには気づいていて、愛の顔を覗きこみながら、

「愛、もうお布団行こっか?」

そう聞いていた。そんな私たち二人の言葉に、

「だ、だいじょーぶ、です……ねむくなんて、ないです……」

あくびをこらえながら、愛はそう言った。
愛の返事を聞いて、でも言葉とは裏腹に眠そうな様子を見て……
私と唯は顔を見合わせて、そろって苦笑を浮かべた。
テレビ画面には、猫の国で猫たちと遊んでいる女の子の姿が映っていた。

「ねこさんのえーが、みたい!」
「みたいです!」

柚と愛、二人そろってそう言ったのは、朝食のすぐ後のことだった。
朝刊をさっと通して眺めた私が、テレビ欄で夜の映画に気づいて、
そのことを唯に言ったのがきっかけだった。
それは、女の子が猫の国に行くという内容のアニメ映画。
私と唯がまだ学生の頃、デートで一緒に見た映画だった。
その思い出話を聞いて興味を持ったのか、
それとも猫がたくさん出てくるという内容に惹かれたのか、
柚と愛は二人そろって、その映画を見たいと言った。

「それじゃ、今晩、みんなで一緒に見よっか♪」
「うん!」
「みるです!」

唯が笑いながら言うと、柚と愛は二人そろって両手を上げて喜んだ。
私はそんな二人の頭を撫でながら、

「じゃ、今日のお昼寝の時間は、二人ともちゃんと寝なきゃダメだからね?」

と言った。映画は8時に放送が始まって、終わるのは10時近くになる。
晩御飯やお風呂を先に済ませておいたとしても、
ベッドに入れるのは10時過ぎになってしまうのだ。
子供にとっては充分遅い時間で、普段なら私も唯も、
その時間のテレビを二人に許したりはしなかった。
でも、今日は金曜日の週末だ。明日はお休みなのだから、
少しの夜更かしぐらいは許してあげてもいいだろう。
それに幸いにというか、二人の通っている幼稚園は保育時間が長めで、
それにあわせてお昼寝の時間もあるのだ。
そのときちゃんと寝ておけば、睡眠不足にはならないはずだった。

「うん、わかった!」
「がんばってねるです!」

私の言葉に、柚と愛が元気に返事をする。
二人に笑顔を向けて、それから私の方を見て「楽しみだねぇ」と言う唯に、
私も「そうだね」と頷いた。
週末の夜の夜更かしと、休日の朝の朝寝。
その贅沢は、何歳になってもちょっと楽しみなもので、
私の顔にも自然と笑みが浮かんでいた。

それが朝のことで……そして夜。
みんなで映画を見るために、私も唯もがんばって早く帰ってきて、
晩御飯もお風呂も早々に済ませた。
そしてテレビの前のソファーにみんなで座り、
週末の贅沢でお菓子とジュースも用意して映画を見始めたのだけれど、

「うぅ~、ねむいよぉ~」

映画が始まって早々に、柚はそう言って落ち着きなく体を揺らしていた。
愛は眠いとは言わなかったものの、
猫が顔を洗うような仕種で何度も目を擦っていた。
二人ともひどく眠そうだった。

「二人とも、ちゃんとお昼寝しなかったの?」
「ね、ねたよぉ~」
「ねたです……」

私がそう聞くと、二人ともちょっと慌てたような声音で返事をした。
明らかにウソだった。きっと映画が楽しみで、
そのあまり興奮して眠れなかったのだろう。
お昼寝ができなくて、
それでご飯を食べてお風呂にも入っての気持ちのいい状態では、
眠くなってしまうのも当然だった。

「映画は明日でも見られるから、今日はもうお布団に行く?」

落ち着きのない柚を自分の膝の上に座らせて、
だっこをしながら唯がそう尋ねた。
映画は録画しているから、今晩無理に見る必要はないのだ。
でも柚は、唯の言葉に、

「うぅ~、いまみるぅ~」

そう言いながら首を左右に振った。
目はもう半分閉じてしまっているし、
画面だってとっくに見ていないのだけれど、
柚はまだお布団には行きたくないようだった。

お布団に行きたくないのは愛も同じなようで……
フラフラと体を揺らして、私や唯の腕に頭をぶつけては、
目を覚まして画面を見るということを繰り返していた。
愛はどうにかテレビの方を見ているけれど、
もう内容は頭に入っていないだろう。

「柚も愛も、無理しなくても大丈夫よ?」
「してないもん~」
「みる、です……」

私の言葉にも、柚と愛は首を振って映画を見ると言って……
でも目蓋はやっぱり、半分閉じたままだった。
眠いのを我慢しているのがかわいそうでもあり、
でも子供らしい意地がちょっとかわいくも思えて、
私は小さな声で笑っていた。
見ると唯も、同じように笑みを浮かべていた。
二人一緒に笑って、唯は柚の背中を、私は愛の頭を撫でてあげた。

「それじゃ、もうちょっと頑張って、映画見ようねぇ」
「うん……」
「眠かったら、寝ちゃってもいいからね」
「だいじょーぶ、です……」

唯と私の言葉に、柚と愛が返事をする。
もう半分以上寝言みたいなその声に、私たちは苦笑を浮かべていた。


そして、時計は進んで9時過ぎ。
映画が半分を終えた頃にはもう、柚も愛もほとんど眠ってしまっていた。
あれから、目を覚まそうとしてか、
ソファーの周りをぐるぐる歩いていた柚は、
後ろから私に抱きついたところで力尽きてしまい、

「あめちゃん……あむあむぅ……」

私の首を甘噛みしては、寝言でお菓子を食べていた。

愛は唯に完全にもたれかかって、もう舟をこいでもいなかった。
一応顔は画面に向けたまま、ときどき思い出したように目を開けるけれど、
もうテレビは見ていないだろう。
瞳に映っているのはきっと夢の世界だ。

「そろそろお布団に行った方がいいみたいだね?」

そんな愛の頭をそっと膝に移して、優しく髪を撫でながら唯が言った。
私も「そうだね」と頷いた。
愛は膝枕をされても起き上がろうとしないし、
柚は頭を撫でてあげると気持ちよさそうな寝息を返してくる。
ほんとにもう寝てしまっている状態で、
このまま寝かせていては風邪をひいてしまいかねない。

「それじゃテレビ、消すね?」

二人を起こしてしまわないよう、ちょっと小声でそう言って、
私はリモコンでテレビを消した。
画面いっぱいにはしゃいでいた女の子と猫が姿を消して、
ソファーに座る私たちの姿がおぼろげに浮かんだ。
テーブルの上には、ほとんど手つかずのお菓子とジュース。
二人のがんばりと、週末の夜のちょっとの贅沢と夜更かしは、
残念ながらここで終わりのようだった。

「よいしょっと……あずにゃん、平気?」
「うん……っと、大丈夫」

唯が愛をお姫様だっこのように抱え、私は柚をそっとおんぶする。
こうして背負うと、柚も本当に大きくなったと思う。
唯も愛を落としたりしないよう気をつけているようだった。
考えてみれば、柚は来年にはもう小学生で、愛も年長さんになる。
こういうとき、子供の成長は本当に早いと思わされた。

「じゃ、あずにゃん。私たちももう寝ちゃおっか?」
「えっ、もう?」
「うん。だって、柚も愛も、明日はきっとすごい早起きさんだよ?
だから私たちも、早めに寝ておかないとっ」

ふんすと気合いを入れるような口調で言う唯に、私は小さく吹き出していた。
でも確かにその通りだとも思った。
どういうわけか、子供というのは休日の方が早起きだったりするものだ。
早めに寝ておかないと、休日の早起きさんたちのお相手はできないだろう。

「それじゃ、みんなで一緒に寝よっか」
「うんっ、そうしよ、あずにゃんっ」

私の言葉に、笑顔で頷く唯。
明日はきっとみんな早起きさんで、時間はたっぷりあることだろう。
週末の夜の、ちょっとの贅沢と夜更かしはここで終わりだけど……
代わりに朝から家族みんなで、明日はたっぷりと遊べるだろう。
それはきっと、週末の夜更かしと同じぐらい贅沢なはずだった。
あの日唯と二人で見た映画を、まずは家族みんなで見て……
それからみんなでお出かけするというのはどうだろう。
あの日のデートコースを、柚と愛を連れて歩くというのもいいかもしれない。

「明日のお休み、楽しみだね、あずにゃん」
「うん、そうだね、唯」

柚を背負い、愛をだっこした唯と一緒に寝室へと向かう。
明日はきっと、素敵な休日になることだろう。
本当に楽しみだと、私は思った。


END



  • 子供ネタ最高 -- (名無しさん) 2011-08-11 19:27:42
  • これコミックアンソロジーにできる! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-08 16:52:03
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最終更新:2011年07月13日 00:51