今宵は十五夜
その光に誘われて
私は夜のお散歩へと繰り出した

「満月……か……」

見上げる先には大きな丸い月
私はそれを追いかけるようにして歩く

「あれ……ここって……」

気付くと、いつの間にか近所の川原まで来ていた
月明かりの下、思い出の河原を一人で歩く
私の想い人は、今頃何をしているのだろうか

「学祭が迫ってるって言ってたからな……」

『今年は学祭で演奏対決するんだよ!!』
数日前の電話で、そんなことを言っていた
演奏対決……あの日を思い出すな……

二人で初めて出場した演芸大会
結果は散々だったけど……
二人だけの衣装を着て
二人だけで歌って

「楽しかったな……」

あの日、二人だけで練習をした場所
私は腰を下ろして携帯電話を開く
発信履歴は、あの人の名前しか残っていない

「今なら大丈夫かな……」

いつものように、発信ボタンを押す
数回のコール音


『はいはーい』
「あ、唯先輩……今大丈夫ですか?」
『うん。大丈夫だよ~』
「えっとですね……実は今、河原に座っています」
『ほぇっ!?こんな時間に?なんで?』
「夜のお散歩です。今日は十五夜なので」
『え?そうなの?』
「唯先輩の部屋からは見えませんか?」
『……見えない……ちょっと待ってて!外でるから!!』
「あ、は、はい」
『……んしょ……っと……扉を開いて……』
「クスッ……なんでわざわざ実況してるんですか?」
『えぇ~?だってあずにゃん退屈しちゃわない?』
「まぁ、少しは」
『だからだよぉ~。……あそこに行けば見えるかな?……てってって~っと……おぉ~!!きれいな満月!!』
「あ、見えました?」
『うん!あずにゃん教えてくれてありがと~!』
「どういたしまして」
『……ねぇ、あずにゃん』
「……なんですか?」
『……月って、不思議だね……』
「……どうしてですか?」
『だってさ……今、こんなにも二人は離れているのに……月は同じ姿を見せてくれてるんだもん』
「……そう、ですね……」
『ねぇ、あずにゃん』
「はい」
『……寂しくない?』
「……寂しくない……って言ったらどうします?」
『えぇ~!?』
「フフッ。……寂しいに、決まってるじゃないですか……」
『……私も、寂しいよ……』
「……だけど、少しだけ寂しくなくなりました」
『……そうなの?』
「はい。……離れていても、同じ月を見ているって思ったら……なんだか唯先輩が隣にいるような気がして」
『……私も、そんな感じがするよ』
「……唯先輩」
『……な~に?』
「……来年は、一緒に見たいです」
『……そうだね』
「だから、お願いがあります」
『お願い……、どんな事?』
「私、一生懸命に勉強して、唯先輩の居る大学に行きます」
『うん』
「だから……それまでにお月見するのに最適な場所を調べておいて下さい」
『……わかった。ちゃんと調べておくよ』
「お願いします」
『……ちゃんと調べるから、あずにゃんもちゃんとここに来なきゃダメだよ』
「はい……必ず……だから、待ってて下さいね」
『えへへ……待ってるからね。……っと、もうこんな時間か……』
「あ、ホントだ……そろそろ帰らないとまずいですね」
『じゃ、あずにゃん……またね』
「はい。唯先輩、おやすみなさい」
『……来年……楽しみにしてるからね』
「クスッ……はいっ♪」


今宵は十五夜
その光の誘いを振り切り
私は家へ向かい元来た道を戻る

「ふぁ……ちょっと眠いかな~」

振り返ると、空には大きな丸い月
つかず離れず私を追いかける姿は、まるで唯先輩みたいだ

「私が地球で……唯先輩が月……なんてね」

気付くと、いつの間にか家に着いていた
親に外の様子などを話した後、自分の部屋へと戻る
私の想い人は、もう眠っているのだろうか

「今日の勉強……は、いいや」

受験生たる者、勉学をおろそかにしてはいけない
でも……一日位は……いいよね
だって……
今夜は……

ゆいせんぱい……おやすみ……なさい……」

唯先輩の夢を見られそうな気がするから……



おしまい!!


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最終更新:2011年09月16日 22:33