選べるプレゼント~一番ほしいもの


――11月11日・放課後――

梓(ちょっと遅くなっちゃった。今日に限って日直だなんて…。
  さっさと部室行かなきゃ。みんな待ってるよね)

ガチャ

梓「ごめーん、お待たせー」
憂「あ、梓ちゃん来たよ」
純「遅いぞ、梓ー!今日は主賓のあんたが来なきゃティータイム始まらないんだからね!」
梓「純、それだと私の誕生日祝うことよりティータイムの方が重要みたいに聞こえるんだけど?」
純「聞こえるも何も、実際そうだしー?」
梓「帰れ!」

唯「まあまあ、あずにゃん。純ちゃんも冗談で言ってるだけだよ。
  ほら、もうすぐお茶の準備もできるから座って座って!」
梓「あ、はい。ありがとうございます唯先輩……唯先輩?」

唯「ん?どしたの?」

梓「ゆゆゆ、唯先輩!?なんでここにいるんですか!?」
唯「なんでって、やだなぁもう。
  あずにゃんのお誕生日をお祝いするために決まってるよー♪」ダキッ
梓「にゃあっ!?い、いきなり抱きつかないでください!
  …って、確か来週末に私と唯先輩のを兼ねた誕生会を先輩方とやることになってましたよね?
  離れて住んでるし、私も受験生だからまとめよう、って」
唯「うん、そっちもやるよー♪」
梓「それなのにわざわざ来たんですか?」
唯「うん!だってやっぱり、あずにゃんの誕生日は当日にお祝いしたかったからね!」ニコッ
梓「っ…!(ドキッ)そ、そうですか…でも、大学は大丈夫なんですか?」
唯「心配ご無用!今日の午後はフリーになるように、ずっと前から計画を立てていたのだよ!」キリッ
梓「そこまでして…何というか、その…ありがとうございます…」カァァ
唯「いいってことよー♪ついでにあずにゃん分補給もできるしねー」ギュー
梓「ふにゃぁ…って、むしろそっちが目的なんじゃないですか?
  っていうか、そろそろ離れてください」
唯「えー?久しぶりなんだし、もうちょっとくらいいいじゃーん♪」ナデナデ
梓「にゃぁん…もう…」ホワーン

菫「…えっと、その…お取り込み中すみません、お茶が入ったんですが…」
純「お二方、いちゃいちゃ時間(タイム)はひとまずその辺でおやめになってくださいな。
  スミーレが声かけづらくて困ってますわよん」ニヤニヤ
憂「お姉ちゃんも梓ちゃんも、久々に会えて嬉しいのは分かるけど、程々にね♪」ニコニコ
唯「おっと、こりゃ失敬失敬」
梓「――ふぇっ!?あ、えと、ごめ…って、べ、別にイチャイチャとかしてないし!
  これは唯先輩が一方的に…!」ワタワタ
直「…とおっしゃる割には、先程の中野先輩は嬉しそうに見えたのですが、気のせいでしょうか」
純「いやいや、口ではああ言ってるけど、梓は素直じゃないからね。
  間違いなく内心メチャクチャ喜んでるよ」
憂「頬が緩んじゃいそうなのを必死に抑えてツンツンしてみせる梓ちゃんもかわいいよね♪」
梓「ちょっ、2人とも何言って…!」
純「さーて、そんじゃ始めるとしますか!」
憂「そうだね。梓ちゃんのお誕生会!」
梓「流すなー!」


梓「…つまり、今日唯先輩がここに来ることを私以外はみんな知ってた、と…」
憂「うん。他のみんなには伝えてもいいけど、
  梓ちゃんにだけは絶対内緒ってお姉ちゃんに言われたからね」
唯「サプライズってやつだよ、あずにゃん!」ドヤッ
梓「何と言うか…いかにも唯先輩が思いつきそうなことですよね」
唯「いやいや、それほどでも~」
梓「褒めてないです!みんなも普通にその思いつきに乗っかってるし…」
純「だって面白そうだったし♪」
直「中野先輩の面白い姿が見られると鈴木先輩に言われたので、つい…」
菫「わ、私はとある方からも同じ情報を聞いて、やはり内緒にするように、と…」
梓「あんた達…」
純「まあまあ、予期せぬプレゼントの方が貰った時の喜びも大きいってもんでしょ!
  実際、抱きしめられてすっごい嬉しそうにしてたじゃん」
梓「なっ!?べ、別にそんなことっ…!」カァッ
憂「えー、お姉ちゃんが来て嬉しくないのー?」
唯「そんなっ!?」ガーン
梓「えっ!?あっ、いや、そういうわけでもなくて…ですね」
唯「うん?」
梓「えっと、その…き、来てくれたことは…嬉しい、です…。
  ありがとうございます、唯先輩」
唯「…えへへ、どういたしまして!」ギュッ
梓「にゃっ!う、嬉しいと言ったのは来てくれたことだけです!」
純「抱きしめられるのも嬉しいって素直に言えばいいのに」ボソッ
梓「うっ、うるさい!」
唯「?」

憂「ところでお姉ちゃん、梓ちゃんに何かプレゼント渡すんじゃないの?」
唯「うん、それなんだけどね」
純「どうかしたんですか?」
唯「あずにゃんを喜ばせるようなプレゼントはどんなものか、ずっと悩んで悩みぬいた結果!」
梓憂純直菫「結果?」
唯「決まりませんでした!」ジャーン
純「…えー」
憂「お姉ちゃん…」
梓「唯先輩らしいです…」
唯「いやいや、まだ話は終わってないよ!?結局、プレゼントが決まらなかったので!」
梓「ので?」
唯「今日、帰りにあずにゃんの欲しい物を何かひとつ買ってあげることにしました!」ジャジャーン
梓「えっ?」
純「そう来ましたか」
直「貰う人が確実に欲しい物を選べるという点では、確かに合理的ではありますね」
菫「『選べるギフト』みたいですね」
唯「あんまり高いものはちょっと無理だけどね」
梓「唯先輩、いいですよそんな。
  ここまでの交通費だって往復で結構かかるでしょうし、
  特に今欲しい物もないですし、お気持ちだけで十分ですから」
唯「遠慮しなさるな、あずにゃん!お誕生日様はおとなしくプレゼントされるものなのだよ!
  ピックでも弦でもスコアでも、何でもリクエストしたまえ!」
梓「急にそんなこと言われても、欲しい物なんて…」

純「…ははぁ~ん。分かったよ、梓」
梓「…なにが?」
純「『唯先輩が来てくれたことが最高のプレゼントです!』ってことでしょ!」
梓「んなっ!?」
直「おお、なるほど。その発想はありませんでした」
憂「確かに、梓ちゃんにとってはそれが一番だね」
菫「お2人の間には物なんていらなくて、ただお互いがいればそれでいいんですね。素敵です…」
梓「ちょっと、純!何言ってんのよ!みんなも納得しないで!」
唯「あ、あずにゃ~ん!そんなに喜んでくれるなんて!私もはるばる来た甲斐があったよぉ!」ダキッ
梓「うにゃぁ!わ、私が言ったわけじゃないです!あといちいち抱きつかないでください!」
唯「でもプレゼントはプレゼントでちゃんとあげるから、何か考えておいてね♪」スリスリ
梓「聞いてくださいよ…んにゃぁ……あ」
唯「お?何か思いついた?」
梓「えっと、まあ、はい。プレゼントと言っていいのかどうか分かりませんが…」
唯「ん?どういうこと?」
梓「と、とりあえず放してください!後で教えますから!」
唯「ちぇー」パッ


純「さーて、梓の欲しい物も決まったみたいだし、ケーキも食べたし、
  少し早いけどこの辺でお開きにしますか!」
憂「そうだね。お姉ちゃんと梓ちゃんのデートの時間も確保してあげなきゃ」
梓「デっ…!?そ、そんなんじゃないってば!」
唯「よし!それでは早速デートに繰り出そうか、あずにゃん!」
梓「だからデートじゃないって…じゃなくて、唯先輩。ちょっと待ってください」
唯「ほえ?」
梓「デー…買い物の前にちょっとお話したい事があります。
  みんなが帰ってから話したいので、ちょっとここに残ってもらえますか?」
唯「ふぇ?別にいいけど…」
純「今デートって言いかけたよね」
梓「言ってない!とにかくそういうわけだから、みんなは先に帰ってね」
純「やれやれ仕方ない。
  軽音部員全員から、唯先輩と2人きりの時間をプレゼントしてやりますか!」
梓「いちいちそういう言い方しないでよ!」
憂「あはは、それじゃ梓ちゃん頑張ってね!お姉ちゃんも、またね!」
直「それでは、お先に失礼します。中野先輩、よいお誕生日を」
菫「お2人とも、是非ゆっくりと楽しんでくださいね」
梓「うん、ありがとう、みんな。また明日ね」
唯「ばいばーい!」

梓「…みんな帰りましたね」
唯「そうだね。あずにゃんと2人きりだ~。それで、話したい事って何かな?」
梓「あ、はい、えっと…まず、今日は本当にありがとうございました。
  唯先輩がお祝いに来てくれて…すごく嬉しかったです」
唯「えへへ、どういたしまして♪そう言われるとこっちも嬉しいよ」
梓「それで、プレゼントの件なんですけど…」
唯「おおう、そうだった。何が欲しいんだい、あずにゃんや?」
梓「はい…正直に言いますが、別に唯先輩に買ってほしい物はないです」
唯「ええっ!?わ、わわ、私からのプレゼントなんか、い、いらないってこと!?」ガーン
梓「ち、違います!ただ、本当に『買ってほしい』ものは思いつかないってだけです!」
唯「なんだ、そっかぁ。うーん…でも、ちゃんとプレゼントもあげたかったなぁ」ムー
梓「すみません……それで、その…代わりにと言ってはなんですが…」
唯「?」
梓「えっと…ですね……唯先輩、ふ、不足してませんか?」
唯「何が?」
梓「……あ…」カァ
唯「あ?」
梓「あ…あずにゃん分…」カァァ
唯「……ふぇ?」
梓「ほ、ほら!前に唯先輩が自分で言ってたじゃないですか!
  私に抱きつくときに、あずにゃん分が足りないとかなんとか!」
唯「う、うん、言ったけど…」
梓「そ、それで!だ、大学に行って私と離ればなれになっちゃったわけですし!
  なかなか私に抱きつく機会もなくて、あずにゃん分が不足してたりするんじゃないかな、と!」
唯「うーん、確かに足りてないといえば足りてないかな?
  まあ、あずにゃんにはいつでもどこでも抱きつきたいけどね!」
梓「でっ、でで、ですから!今日の私は誕生日で、結構機嫌が良かったりしますし!
  遠路はるばるお祝いに来てくれたお礼の意味も込めて…その…すっ…すっ、すす」
唯「酢?」

梓「す…好きなだけ…あずにゃん分補給させてあげるです!」

唯「…本当に?」
梓「本当です!」
唯「…好きなだけ?」
梓「好きなだけです!」
唯「…さっきまでよりも、いっぱい補給しちゃうよ?」
梓「どっ、どんとこいです!」

唯「あっずにゃぁぁぁぁ~ん!!」ガバッ
梓「はにゃぁ!!」
唯「へっへっへー、あずにゃんGETだぜ!」ギュー
梓「にゃぁ…もう、勢い付けすぎですよ」クスッ
唯「ん~~、やっぱりあずにゃんの抱き心地は最高だねぇ~」スリスリ
梓「んにゃあ…」ポワーン
唯「よしよし、あずにゃんいい子いい子~♪」ナデナデ
梓「ふにゃ…ゆいせんぱぁい…」ギュ…
唯「おおっ!?あずにゃんが抱き返してきた!?」
梓「…こ、こっちの方があずにゃん分がいっぱい溜まるかな、と思いまして…」
唯「そっかー…えへへ、嬉しいな」
梓「…今日は、特別ですから」
唯「抱きしめるとあったかくて気持ちいいけど、抱き合うともっとあったかいね」
梓「…そうですね」
唯「あったかあったかだね♪」
梓「…はい、あったかあったかです…」
梓(そう、とっても暖かい。私を優しく、柔らかく包み込んで、
  身体も心もぽかぽかに、幸せに暖めてくれる…久しぶりに感じる、あなたの温もり。
  みんなの前じゃ…2人きりでも恥ずかしくて、素直にはお願いできなかったけれど…。
  これが、私の一番欲しかったプレゼントですよ…唯先輩)

唯「…あずにゃん」
梓「はい?」
唯「ひょっとして、あずにゃんが欲しかったプレゼントって…これ?」
梓「……!」カァッ
梓(本当に、この人はどうしてこう…)
梓「…これがプレゼントだと唯先輩が言うのなら…受け取ってあげるです…」カァァ
唯「ふふ、そっか♪」ギュー
梓「……」カァァァァ


純「さて、帰ったフリしてこっそり覗いてみたら案の定の光景が展開されているわけですが」
憂「まあ、梓ちゃんの一番欲しいプレゼントって言ったら、ね」
純「しっかし梓のヤツ、本当に素直じゃないなぁ。
  『抱きしめてください』って言えば済むものを…。
  いくら恥ずかしいからって、回りくどいったらありゃしない」
憂「そもそも、誕生日じゃなくても抱きしめてほしいっておねだりしていいのにね」
直「中野先輩、とても嬉しそうです。
  貰う人に『欲しいもの』を選ばせる、平沢先輩のお姉さんの作戦は大正解でしたね」
菫「2人とも幸せそうですね…。
  これは確かに、何だかとっても素晴らしい世界のような気がします…」
純「ここでこのドアをバーンと開け放って、
  梓を羞恥のあまりのたうち回らせることもできるけど…」
憂「もう、純ちゃんったら。さすがにそれはかわいそうだよ」
純「だよね。ま、せっかくの誕生日だし、今日はこのまま幸せに浸らせてやりますか。
  明日は色々追及させてもらうけどね!」
憂「そうだね。それには私も参加させてもらおうかな♪」
直「その結果は是非私にも聞かせてください」
菫「わ、私にも…」


唯「――そういえば、これがプレゼントってことは…もしかして、この後のデートはなし?」
梓「だからデートじゃ…行ってもいいですけど、補給が終わった時間次第です」
唯「私はもう十分、あずにゃん分補給したよー?」
梓「…ほ、本当に十分ですか?」
唯「ふぇ?」
梓「………」ドキドキ
唯「…あー、言われてみれば、まだ十分じゃなかったや」クスッ
梓「そっ、それじゃ、もっといっぱい補給してください」
唯「うん、そうするよっ♪」ギュッ
梓「にゃう…」
梓(我ながら素直じゃない…。
  もっと素直になれたら――素直に私の気持ちを伝えたら、もっと抱きしめてくれるのかな…。
  今はまだ恥ずかしくて、ちょっと怖くて、そんな風にはなれないけど…でも、今日は…)

唯「改めて…お誕生日おめでとう、あずにゃん♪」ニコッ

梓(そう、今日は私の誕生日なんですから)

梓「…ありがとうございます♪」ニコッ

梓(私が満足するまで、いっぱい、いっぱい…唯先輩分、もらっちゃいますからね)


END


  • やっぱりあずにゃんはかわいいなあ -- (はむ) 2011-12-14 23:36:58
  • 純達の気遣いが世界を変える!最高のプレゼントだ! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-07 19:56:07
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最終更新:2011年12月03日 22:14