唯「おおー、すごい!本当にお月さまが欠けてきたよ!」
梓「いよいよ始まりましたねー。今夜が晴れでよかったです」
唯「でも、どうしてああいう風になっちゃうの?」
梓「太陽と月の間に地球が割り込んで、その地球の影が月に映るんですよ」
唯「へぇー、そうなんだぁ。
あずにゃん物知りだね!」
梓「唯先輩が知らなさすぎるだけで…くしゅんっ!」
唯「あれ、どうしたの?風邪?」
梓「まだ引いてないと思いますけど…思ったより寒くて。上着が薄すぎたみたいです」
唯「もう、12月なんだから油断しちゃダメだよ!受験だって近いんだから気をつけなきゃ!」メッ
梓「す、すみません…あれ?そういえば唯先輩に怒られたの初めてかも?」
唯「そうだっけ?私はいつもあずにゃんに怒られてばっかりだったけど」
梓「そうですね、後輩のはずの私が面倒みてばっかりでした」ハァ
唯「むむ…それじゃ、少しは先輩が先輩らしく面倒を見てあげよう!」フンス
梓「どうやって…」
ギュッ
梓「にゃっ!?」
唯「可愛い子猫ちゃんが風邪引いちゃわないように、先輩が全身であっためてあげるよ♪」ギュム
梓「なっ、何を言ってるんですか!都合のいいこと言って、いつもと結局同じじゃないですか!」
唯「違うよ~、いつものは私のあずにゃん分補給だけど、今日はあずにゃんへのあったか補給だよ!」フンス
梓「どっちだって一緒です!他に誰か来て見られたら恥ずかしいですから、離れてください!」
唯「えー?でもあずにゃん、さっき寒かったんだよね?」
梓「へ?ええ、まあ…」
唯「でも、今はあったかいでしょ?」
梓「……それは、まあ、そうです…けど…」ゴニョゴニョ
唯「だったらいいじゃ~ん♪私もあったかいし、お互いあったかあったかで一石二鳥だよぉ♪」ギュー
梓「…今夜だけ特別、ですからね」カァァ
唯「ところで、あれが地球の影だってことはさ」
梓「はい」
唯「私たちの影も、ほんのちょっとくらいはお月さまに映ってるってことかな!?」
梓「いや、それは…でも、ちょっといいって言うか、素敵な考え方ですね、それ」クス
唯「手とか振ったりしたら映ってるのが見えたりして!」
梓「それはないですね」キッパリ
唯「あう、そんなバッサリ…」
唯「それにしても…お月さまが綺麗だね」
梓「はい…えっ!?」
唯「ふぇ?」
梓「つ、『月が綺麗』って…それって、その、えと、あの、どういうことで…」ワタワタ
唯「え?どういうも何も、そのまんまだけど…」キョトン
梓「へっ?」
唯「お月さまが少しずつ影に隠れていくのが、なんか神秘的で綺麗だなぁ、って」ニコ
梓「…うにゃああああああああああ!!」
唯「わっ!?いきなりどうしたの、あずにゃん!?」
梓「なっ、なな、何でもありません!ちょっと
勘違いしただけです!」カァァァァ
唯「か、勘違い?どんな?」
梓「秘密です!!」
唯「なんかお月さまがだんだん赤くなってきたね」
梓「赤く見える波長の光だけが影の部分に散らばるからだとか聞きました。私も詳しくは分からないですけど」
唯「へぇー…日本中のいろんな人に見つめられて、お月さまが照れちゃったワケじゃないんだね!」
梓「またそういうメルヘンな発想を…」
唯「でも、さっきのあずにゃんのお顔に比べたらまだまだだね♪」
梓「もっ、もうその話はやめてください!そもそも暗いんですから顔色なんて分からないじゃないですか!」
唯「またまたー、あれだけ恥ずかしがってたのに顔が赤くならないわけがないよ!」
梓「うぅ…そうですけど…」
唯「澪ちゃんほどじゃないけど、あずにゃんも結構恥ずかしがり屋さんだよね。人がいるところで抱きつくとイヤがるし、私が見つめるとすぐに目線逸らしちゃうし」
梓「それが普通なんです!唯先輩の恥じらいが足りないんですよ、もう…」
唯「えー?そんなことないよぉ。私だって、恥ずかしくて顔が真っ赤っかになっちゃうことくらいあるよ!」
梓「へぇ、どんな時ですか?」
唯「ふぇ?どんな時…どんな時かぁ…うーん、そうだなぁ、例えば…」
梓「例えば?」
唯「例えば――もしあずにゃんが熱烈に私のことを見つめてきたら、さすがに照れ臭くなっちゃうかも」ニコ
梓「!」ドキッ
唯「…ちょっと、試してみようか?」
梓「試すって…」
唯「言った通りだよ。あずにゃんが私に熱視線を送り続けて、私が恥ずかしがるかどうか」
梓「そ、それって…お互いに見つめ合うんですか?」
唯「変顔なしのにらめっこみたいなもんさね。それじゃ、スタート!」ジッ
梓「えぇ、いきなりですか!?」ジッ
梓(って、ついつい乗っちゃったけど別にやらなくてもよかったじゃん!私のバカ!)ジー
唯(何だかんだで付き合ってくれるんだよね、あずにゃんは♪)ジー
梓(うう、恥ずかしい…)ジー
唯(あずにゃん、早くも赤くなっちゃったみたい)ジー
梓(…でも、今までこうしてじっくり見ることなんてなかったけど…)ジー
唯(でも今日は結構頑張ってくれてるね…嬉しいかも♪)ジー
梓(唯先輩の瞳って…なんだか綺麗…かも。真っ暗なのに、僅かな光を反射してキラキラして…)ジー
唯(…あれ?)ジー
梓(冬の夜空みたいに澄み切ってて…)ジー
唯(なんか、あずにゃんの様子が…?)ジー
梓(なんだか、吸いこまれそう…。心も身体も思わず引き寄せられそうな…引力が…)スッ
唯「…あずにゃん?」ドキ
梓(もっと…もっと近く…)ススッ
唯「どうしたの…?」ドキドキ
梓(唯先輩、少し戸惑ってる?少しは赤くなってくれてるのかな…意識してくれてるのかな…)
梓「唯先輩…」
唯「あずにゃん…」
グゥ~ッ
唯「………」
梓「………」
唯「……えへへ、おなか空いちゃったぁ」テレテレ
梓「…うにゃああああああああ!!」
唯「ほわっ!?ま、また!?」
梓「何おなか鳴らしてるんですか!もう少しムードってものを考えてください!」
唯「ええっ!?そんなこと言われても鳴らしたくて鳴らしたわけじゃ…」
梓「で、でも…腹の虫に負けるなんて!もう!もう!」
唯「へ?何が?」
梓「何でもないです!はぁ…まったく…」
梓(ま、唯先輩らしいけど…というより、私たちらしい、かな)クスッ
唯「月食が終わったらコンビニでお夜食買って帰ろうね、あずにゃん」
梓「私は別におなか空いてないです。っていうか夜食は太…らないんでしたね、唯先輩は」
唯「何がいいかなぁ…そういえば月食って『月を食べる』って書くよね」
梓「『月が食われる』んだと思いますけど…」
唯「お月さまみたいな食べ物がいいかも!黄色くて真ん丸なカスタード蒸しケーキがいいかな?それとも逆に辛め方向でカレーまん?あっ、赤いお月さまにちなんでピザまんもいいかも♪」
梓「まったく、夜食のことばかり考えてないで、ちゃんと月食も見てくださいよ」クスッ
唯「そういえば月餅っていうお菓子あるけど、あれって『月』に『餅』って書くんだよね。それもいいかなぁ♪あ、お菓子って言えばどっかのお菓子で『萩の月』ってのが…」
梓「もう、そんな話ばかりされたら私までおなか空いてきちゃうじゃないですか」
唯「そしたらあずにゃんもお夜食買えばいいよ。それで、ふたりで一緒に『月食』しよう♪」
梓「…ふふ、そうですね。そうしましょうか」
END
最終更新:2011年12月27日 01:57