梓「はぁー…」
私、中野梓は自分のベッドに寝転がりながら、むなしくため息をついた。今年のクリスマスも終わりかぁ…
ま、まぁ別に全然寂しくないけどね。家族と楽しく過ごせたし。
…とはいえ、高一の女子高生が恋人の一人も作らずそれでいいのか、という気持ちはある。
近頃は中学生、いや小学生ですら手を繋いで街を歩いているというのに…
梓「はぁー…」
再び情けなくため息をつくと、どういうわけか唯先輩の顔が浮かんだ。
そういえば、あの人はどんなクリスマスを過ごしているんだろう…ま、大方ケーキでも食べてニヤついているんだろうな。いつもと変わらない、屈託のない笑顔で。
梓「…唯先輩」
ピンポーン♪
梓「わっ!」
唯先輩の名前を呟いてハッとした瞬間に玄関のチャイムが鳴ったので、私は飛び上がってしまった。
クリスマスの、しかもこんな時間に誰だろう。下の様子を窺っていると、お母さんが私を呼んだ。
「梓ー!お客さーん!軽音部の平沢さんですってー!」
梓「なっ…!?」
その言葉を聞いたとたんに、私は奇妙な感覚に襲われた。
動揺しているようでどこか嬉しくなるような、そんな感覚に。
唯「あずにゃ~ん♪こんばんはー!」
玄関に行くと、もこもこに膨れた唯先輩が立っていた。
もちろん体そのものが膨れているわけではなく、着膨れしている、という意味だけど。
梓「唯先輩…どうしたんですか?こんな時間に…」
唯「えへへぇー♪実は…へっきし!」
梓「ちょ、ちょっと先輩!とにかく中に入ってください!」
唯「え、いいよ用が済んだらすぐ帰るから」
梓「だめです!いいからあったまってください!」
唯「おぉう、
あずにゃん?」
まったくこの人は何を考えているんだろう。例年より多少気温は高いとはいえ、夜に外に出れば寒いに決まってるのに。
私は唯先輩に呆れる一方で、自分の顔が緩んでいることに気付いた。
な、なんで私こんな?そうだ、唯先輩が来て調子がおかしくなってるだけなんだ。そう、そうにちがいない。
唯「ふぅ~♪あずにゃんの部屋あったかいね~♪」
梓「…それで、用ってなんなんですか?」
唯「あ、そうそう!これ!」
梓「?」
唯先輩が持っていた手提げ袋から取り出したのは、小さな紙袋だった。
そしてそれを、ぽかーんとする私に差し出した。
唯「メリークリスマス!あずにゃん!」
梓「え…えぇ?」
唯「
プレゼントだよ!受け取って♪」
梓「そ、そんな…でも私、何も用意してないし受け取れません!」
唯「そんなこと気にしないでいいんだよ!これは私が勝手にしてるんだから」
梓「でも…」
唯「いーいーかーらー!はい!」
梓「あ…ありがとう…ございます」
強引に私の胸に押し付けられた紙袋を、私は仕方なく受け取った。
もちろん、プレゼントをもらうのが嫌なわけじゃない。ただ、一方的にもらうというのに抵抗があるだけなのだ。
それに…嬉しいのは確かだし。
唯「開けて開けてー♪」
梓「は、はい…」
袋の中に入っていたのは、ヘアゴムだった。ピンクの花柄の飾りがついているあたり、唯先輩独特のセンスを感じずにはいられない。
唯「どうかなぁ、あずにゃんに一番似合いそうなの選んだんだけど」
梓「…こ、これが私に?」
唯「えぇっ、似合わないかなー?」
梓「正直、付けるのものすごく恥ずかしいと思います…」
唯「ガーン!そんなぁー…」
がっくりとうなだれる唯先輩を見て、私はクスッと笑ってしまった。
売り場であれこれ悩んでいる先輩の姿が浮かんできたからだ。私のために一生懸命悩む、唯先輩の姿が。
梓「…唯先輩」
唯「ん…?あ!あずにゃん…」
梓「どうですか?似合います?」
唯「あずにゃん…気にいらないんじゃなかったの?」
梓「誰がそんなこと言いました?…すごく、嬉しいですよ」
唯「あずにゃん…うん!やっぱりすっごく似合うよ!」
梓「そ…そうですか」
私は、さっきまでなんとなく寂しかった心がすっかり満たされているのに気付いた。
唯先輩のあったかいプレゼントで、すっかりいつものような気持ちに戻れていたのだ。
本当に唯先輩は、いつだって私の調子をおかしくする。どんなに沈んでいる時だって、こんな風にあったかい気持ちにしてくれる…
唯「じゃあプレゼントも渡したし、帰るね?」
梓「せっ先輩!」
唯「なに?」
梓「…今日はもう遅いし…その、私の家に…その」
唯「あずにゃん家に、なあに?」
梓「と、泊まっていってください!」
唯「え?でも私お着替えとか用意してないし…」
梓「そんなの私の着ればいいんです!だから早く憂に電話でもなんでもしてください!」
唯「あずにゃん…じゃ、お言葉に甘えちゃおっかな♪」
唯先輩は私の頭にポンと手を載せて、優しい手付きで撫でた。
全身の力が抜けそうになるのをどうにかこらえて、私はムキになって先輩に怒鳴った。
梓「か、かか
勘違いしないでください!私はただ、唯先輩がこんな時間に外に出てなにかあったらと…」
唯「心配してくれるんだぁー♪ありがとうっ♪」
梓「……っ」
…だめだ。これ以上何か言ってもドツボにはまるだけだ…私はクルリと先輩に背を向けた。
唯「あり、あずにゃん?」
梓「は、早く憂に電話してください!」
唯「うん、わかった♪…あずにゃん、ありがとね」
梓「……こ、こちらこそ…ありがとうございます」
…しばらく、私は後ろを向けそうにない。
嬉しさと、幸せな気持ちと、照れ臭さのおかげで赤く染まったこの頬と、緩んだ顔が元に戻るまでは。
終わり
- 2828 -- (名無しさん) 2010-02-13 11:37:14
- ここでまた優さんが邪魔するならやるしか…。 -- (あずにゃんラブ) 2013-01-21 02:52:17
最終更新:2009年12月31日 14:14