「花嫁さん、きれいだったね~」

 「そうですね~」

今日はさわ子先生の友人の結婚式があり、私たちHTTのメンバーには、その二次会で演奏してほしいと
頼まれていたのだ。
特にハプニングもなく演奏でき、とても楽しく充実した時間を過ごせた。

その帰り、他の先輩方からやや遅れて、私と唯は並んで夜道を歩いている。

 「今日の演奏、すっごく楽しかったです」

 「うん! みんなも喜んでくれてたね~」

 「でも、唯はちょっとはしゃぎすぎでしたよ」

 「え~ そっかなぁ~」

 「そうですよ だいたいアドリブ入れすぎなんです」

 「だってだって、楽しくってつい」

 「ついていくのがやっとでしたよ…
  ふふっ でも、かっこよかったです」

 「えへへ ありがと、あずにゃん♪」

ライブの興奮とアルコールで火照った体に、夜風が心地いい。
今日は帰ったらぐっすり眠れそうだ。
そんなことを思いながら隣を歩く唯に声をかけようとしたのだけど、

 「…結婚… かぁ…」

誰に話すでもなくため息交じりに囁かれたその言葉に、何か切なさが含まれている気がした。
夜空を見上げている唯は、一体どんな表情をしていたのだろう…



翌日・N女軽音部部室

 「ふ~ん、唯がそんな事をねぇ」

 「はい、結婚式の帰りだったので、つい出た言葉だとはおもうんですけど、
  何か妙に引っかかって…」

 「澪~、どう思う?」

 「そうだな… 普通に考えてみて、”結婚したい”って事じゃないか?」

 「やっぱりそうゆう事なんでしょうかねぇ」

あれからちょっと元気がない唯が心配になった私は、翌日、大学のサークル棟の部室で、
唯以外の先輩方に昨晩の事を話してみた。
都合の良いことに今日は唯はバイトで部室に来られない。

 「でも意外だな」

 「何がだ、律?」

 「ん~、唯ってさどちらかというと、結婚とかにこだわら無いでさ、

  ”あずにゃんと一緒にいられるだけで私、幸せだよ~”

  って言いそうじゃん?」

 「…ま、まぁ確かに、そう言ってましたけど…
  ってういうか、微妙な声マネはやめてくださいよ」

 「意外じゃないぞ?
  唯って普通に女の子してるんだから、結婚披露宴とかパーティとか憧れてるんじゃないかな」

 「唯ちゃん、みんなで騒いだりするの好きだからね~」

 「そういやそうだな、ウェディングドレスなんてむちゃくちゃ喜んで着そうだし」

 「…でも、結婚式となると…」

 「あ、ごめん、梓…」

 「い、いえ…」

実は私と唯はお付き合いをしている。
私がN女子大に入学し、ずっとため込んでいた想いを伝えて、受け入れてもらって… もうすぐ二年目になる。
お付き合いは順調だ。
でも、女同士ということでもちろん結婚はできない。
その代りと言っちゃなんだけど、二人でずっと一緒に居ようねって約束を交わした。
先ほど律先輩が言ったように、私と一緒に居るだけで幸せって言ってくれたし、私も同じことを口にしている。

たしかに結婚式に関しては、唯は憧れていると思う。
芸能人の披露宴のTV番組をみて、きゃあきゃあ言ってるくらいだ。
逆に私の方が、そういったことにあまり関心がなかったりする。
式なんて挙げなくても先輩のそばにずっと居られさえすれば、それでよかったから。

でも、確かに付き合っているうちに、唯に結婚願望が出てきてもおかしくはない。
だけど、本当にそうなんだろうか?
昨日の唯の言葉の真意はなんなのだろう…

 「仲間内でパーティやるってのは?
  式場借りてさ、結婚披露宴ぽくやれば、唯も満足するんじないの?」

 「それいいわね、やりましょう」

 「まぁそれが一番かもな どうかな、梓?」

 「あ、はい… パーティ自体は嬉しいですし、唯だってすごく喜ぶと思います
  だけど…」

 「…だけど?」

 「なにか違うような気がするんです
  結婚式をあげたいっていうのじゃなく、もっと他の何かが…」

 「ん~… まぁ梓がそう思うなら、そうかもしれないな」

 「すみません、せっかく私たちのためにいろいろ考えてくださってるのに…」

 「いいって、いいって」

 「でもりっちゃん、パーティ自体はやってもいいんじゃないかしら?
  私、唯ちゃんと梓ちゃんをきちんとお祝いしてあげたいと思っていたの」

 「あ、それは私も思ってたんだ だから私もやりたいな」

 「そういうことなら私も賛成だ」

私たちの事をそれほど思ってくれていたんだ…
女同士の交際を理解し見守ってくださっているだけでも感謝しきれないのに…
皆さんの優しさが心に響き、目頭が熱くなる。

 「み、みなさん… ありがとう…ございます…」

 「おいおい、泣くなよ、梓」

 「す、すいません… でも、うれしくって」

 「私たちは唯と梓が幸せになってほしいだけだから」

 「はい… ありがとうございます」




N女学生寮

 「たっだいま~」

 「あ、おかえりなさい バイトお疲れ様」

 「あぅ~ 疲れたよ~ あずにゃ~ん」ギュウ

 「んもぅ///」ギュッ

疲れて帰ってきた唯を抱き留め、労いの意とお帰りなさいの挨拶を込めて唇を重ねた。

 「ん…」チュ

 「んっ」

 「疲れ、少しは取れましたか?」

 「うん、ばっちり♪」

 「今お茶入れますから、ゆっくりしててください」

 「ありがとぉ、おずにゃん」

大学の寮に入っていはいるけど、付き合いだしてからは大抵は唯先輩の部屋で一緒に過ごしている。
所謂同棲状態だ。
狭いといえば狭いけど、その分近くに居ることが出来るから嬉しいのだ。
律先輩たちに言わせると私たちはイチャイチャしすぎだそうけど、
なにせ恋人なんだから、高校生の頃のように唯先輩のスキンシップを拒む理由もない。
もちろん一緒のベッドで寝るし、その、体の関係だって…

部屋着に着替えたてTVを見ている唯にお茶を差し出し、私もその隣に腰を下ろすと、
どちらからともなく体を寄せ合う。

TVを見ながら雑談。でもやはり唯はどことなく元気がない。
バイト疲れもあるだろうけど、それとはちょっと違う気がする。
となるとやはり昨日の事なんだろう。
結局あれこれ考えても分からなかったから、思い切って本人に聞いてみることにした。

 「ねぇ、唯?」

 「ん? なぁに?」

 「えと… 昨日から何か悩んでいますよね?」

 「え? べ、別にそんなことない…よ」

図星だったのだろう、唯は少しうろたえていた。

 「隠さなくてもいいじゃないですか… 一体何を悩んでるんです?」

 「だ、だから、そんな事無いって~ あずにゃん、考えすぎだってば」

あくまでシラを切ろうとする唯に、少々苛立ちを覚えた私は唯を見据え、強い口調で訴えかけた。

 「…そんな言い逃れできると思ってるんですか?
  私がそう思えるって言ってるんですよ?
  唯の事、一番近くで見てきた私が! 違いますか!?」

 「あ、あずにゃん…」

 「昨日から少しだけど元気がなくってすごく心配で、ほかの先輩方にも相談して…
  でもやっぱりわからなくて…」

 「……」

 「約束したじゃないですか…」

 「!」

 「困ったこと、悩んでいることがあったら、なんでも相談しようねって…
  悩みもすべて半分こして、一緒に解決しようねって…」

 「うん…」

相談してくれなかったことが、私じゃ力になれないって言われているみたいで悔しくて… 
途端に視界がぼやけ、頬を熱い何かが伝って落ちて行った。

 「唯が元気ないのは嫌なんです!
  元気になってもらいたいから… 一緒に悩みたいんです!
  だから… お願いです… 話してよぉ…」

 「そうだったね… ごめんね、あずにゃん」

泣き出した私をそっと優しく抱き寄せ、唯は静かに話し出した。

 「昨日の二次会でね、新郎さんと新婦さん、すごく幸せそうだったよね」

 「はい」

 「みんなにお祝いしてもらってさ、法律上正式に結婚出来てさ…」

 「結婚…」

 「あ… も、もちろん、私たちは女の子同士だから結婚できないのはわかってるよ?
  それに、もしできてたとしても、まだお付き合いして二年だから早いかもしれないんだけどさ」

 「べ、別に早くは無いと思いますよ?」

 「そ、そっかな?///」

 「ええ、多分///」

 「あ、でね…
  ちょっと考えちゃったんだよね…」

 「何をです?」

 「二人は凄く愛し合っているから結婚して、みんなに認められて、ますます幸せになるんだよね」

 「はい、そうなると思いますよ」

 「じゃあ、私たちは?
  想い合っているのはあの二人と同じなのに、どうして私たちは認めてもらえないんだろうって」

 「唯…」

 「どうして女同士ってだけで、認められないんだろうって… なんか悔しくって…」

正直驚いた。
結婚したいとかそういったことではなく、私たちの関係が一般的に認められない事が悩みだったことに。
唯はどちらかと言えば型にはまらない自由奔放な振る舞いをする人だから、
女同士のお付き合いだって、あんまり深く考えていないものだと思っていた。
確かにいままではそうだったと思うけど、昨日の二次会で色々と感じるものがあったようだ。

 「ねぇ…唯?
  私は結婚できなくても、唯とずっと一緒に居るつもりですけど… それだけじゃダメなんですか?」

 「…私だってそう思ってるよ
  でも、今はいいかもしれないけど、メジャーデビューして有名になった時、
  私とあずにゃんの関係が公に曝されたとしたら…」
  同性愛者、レズって世間から奇異な目を向けられたとしたら…」

 「…」

 「私は別に気にならないんだけど… あずにゃんがそんな風に思われるのが、私は嫌なんだ」

 「…私の事を…」

 「認められさえしてれば、こそこそと隠さなくてもいいし、みんなに応援してもらえるのにね…」

 「そこまで考えてんですか」

 「うん… ごめんね、心配かけちゃったね」

将来の事も、自分じゃなく私を心配してくれていた唯の優しさに嬉しさがこみあげてくる。
そしてちゃんと唯に教えてあげないといけない。
私は唯に抱き着いて言った。

 「唯のバカ!」

 「え? あ、あずにゃん?」

 「唯らしくないよ!
  女同士が奇異な目で見られるからって、それがどうしたって言うんですか!
  メジャーデビューしても堂々といちゃついてやればいいんですよ!」

 「で、でも…」

 「唯は世間に何て思われても平気なんですよね? じゃあだったら、私も平気です!」

 「あずにゃん…」

 「私の事を心配してくれるのは嬉しいですけど、私は唯の恋人なんですよ?
  ずっとずっと一緒に居るって言ったじゃないですか! それくらいの覚悟、最初っからしてます
  だから、世間に認められないなら、認めさせてやりましょうよ」

 「え?」

 「法律的にはどうしようもないかもしれないですけど、世間の人たちになら私たちの演奏で何とかなりますって!」

 「演奏で…」

 「はい! 放課後ティータイムはすごいバンドだって認めさせてしまえばいいんですよ
  それに私たちが堂々としてれば、逆にそれが話題になるかも知れないじゃないですか」

 「あ、そ、そうだね!
  後ろめたいことなんてしてないんだし、私たちの仲の良さを、みんなに知ってもらえばいいんだね!」

 「そうです! 私たちならできますよ!」

 「ふふっ ふふふっ…」

 「…唯?」

 「あ~あ… なんか悩んでたのが馬鹿らしくなっちゃたよ」

 「そうですよ、唯は何も考えてないくらいの前向きさが取り柄じゃないですか」

 「…あずにゃん、それなんだか馬鹿にしてない?」

 「さぁ、どうなんでしょ? ふふっ」

 「もーっ! あずにゃんなんて知らない!」

私に抱き着かれながらもプイッとそっぽを向いてしまった唯が可愛くって、さらに強く抱き着いた。

 「ねぇ、唯… いつか結婚式しようね」

その言葉を聞いた途端唯はにこちらへ向き直り、お互い抱きしめあう。

 「…うん、大きなステージで、観客とカメラの前でプロポーズするよ」

 「それ、すっごく素敵です」

 「また叶えたい夢ができちゃったね」

 「叶うよ、きっと
  私たち、ずっと一緒に居るんだから」

 「そうだね、ずっとず~っと一緒だよ、梓…」

 「ん… 唯… 大好き」

自然に唇が重なり合い、私たちは深く愛しあった。


唯を元気づけるためとはいえ、結果的に将来を約束してしまったが、それはむしろ望んでいたこと。
この先唯から離れるつもりもないし、唯が離れて行くこともないってわかっている。
例え認められなくても、私たちの気持ちは変わらないんだから。




数年後

 《放課後ティータイム スペシャルライブ in 東京ドーム》

「あ、あずにゃん! わ、私と結婚してください!!」

「… はい! 
 って、なんでそこで ”あずにゃん” なんですか!!」

「ええ~」





おしまい



  • 結婚ネタめっちゃ好き// -- (鯖猫) 2012-09-11 22:58:50
  • とうとうプロポーズしおった!やった! でも最後の最後で、しまらないね? ははは!見たか! 全国の人々よ!! お似合いなお二人さん!法律なんて作り変えちゃえ!負けるなよ!!ヒューヒュー! -- (あずにゃんラブ) 2012-12-29 22:52:36
  • 唯って呼び捨てにするならタメ口が良いわ -- (名無しさん) 2018-04-30 00:26:17
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最終更新:2012年09月11日 05:55