「暇ですね」
「そう?私は結構楽しいよ」
聞かせるつもりではない私の呟きに、唯先輩は耳聡く、本心からそう思ってそうなふんわりとした笑顔で答えてきた。
「だって、やることないじゃないですか」
「そんなことないよ。ほら~」
そういうと先輩は、コタツの天板にぽてりと上体を倒すと、ぐったりと体中を弛緩させた。
「なんですか?」
先輩がなにを言いたいのかわからず、私は尋ねる。
「ほら、のんびりしてる」
「それは何もしてないって言うんです」
ぴしっと反射的に突っ込みを入れると、あいたって、全然痛そうに見えない笑顔で先輩は笑った。
それは本当に楽しそうで、思わず私までなんか楽しくなってしまう。
「いいじゃん。せっかく二人きりなんだからさ、一緒にのんびりしようよ」
「まあ、いいですけど」
さすがに先輩のようにあからさまにだらりとはしないけど。私もとんと天板にひじを付いて手のひらに頬を載せると、それに預けるように体の力を抜いた。
そんな私を見て、先輩はえへへーと笑う。私もそうしてくれたってことが嬉しいよって、そんな表情で。
ちなみにえへへーというのは笑いの形容ではなくて、先輩の笑い声を指して言っているだけ。
えへへーなんて口にしながら笑う人がいるなんて、先輩に会うまでは思いもしませんでしたよ。
本当に嬉しそう。えへへーを形容に使うとしたら、それを選べるとしたら私はきっとこの先輩の笑顔を対象にしてしまうと思う。
ふんわりとやわらかくて、あたたかくて、こちらまで笑顔になってしまうような、そんな笑顔だから。
「えへへ、あずにゃんものんびりだぁ」
「することないですからね」
というよりは、他に選択肢がない、という方が正しいんだとおもう。
私のさっきの呟きも、それを打開すべき何らかの可能性を模索するものではなく、ただ現状を指し示したに過ぎないのだから。
つまり、先輩の言うとおりなんだ。
私は、唯先輩と二人きり。
それはこの上ないほどに的確で、無慈悲なまでに正確な表現だった。
逆に言えばそれ以外の言葉で私たちの状況をあらわすことはできないといってもいい。
頬杖を付いた姿勢のままで、私はぐるりと視線をめぐらす。
コタツの天板、コタツ布団、マットレス、そしてぐたーと突っ伏しながらにこにこ私を見つけてくる唯先輩。
それ以外は、ここには何もなかった。
あえて言い表すなら、純白。真っ白な世界。その色以外、何一つない世界。
純白によって閉じられた世界。
そこに私と唯先輩はいた。
何の緊張感もなく、ぬくぬくコタツで温まりながら。


さて、一体これはどういう状況なのか。
別に私の唯先輩好きが臨界突破してこんな妄想世界を構築してしまったとかではない。……と思う、多分。
そんな能力を保有した覚えはいまだかつて一度も自覚したことはないし。
それにもしそんなものが私にあったとしたら、もっと有効活用して見せる自信はある。
もしくは夢じゃないか、とも思ったりはしたけど、それにしては感触がリアルすぎる。
ここまで五感がはっきりとした夢を私は見たことはない。もしかしたら、そういう夢かもしれないけど。
「ううん、夢じゃないよ」
そんな私に先輩は、本当にあっさりとそう言ってのけた。
「どうしてわかるんですか?」
「うーん、なんとなくかなあ」
なるほど、なんとなくですか。何の確証もない答えをありがとうございます。
だけどきっと、それは正しいんだろうと思う。私も何らかの確証を持っているわけじゃないけど。
そもそも仮に夢の中に私がいるとしたら、その私がそれを証明するための術を持っているはずがないけれど。
少なくとも唯先輩の言葉に納得してしまっている自分がいるから。
だからきっと、これは夢じゃないのだろう、とそう結論付けていた。
だとしたら、これは紛う方無き現実ということになる。
影すらもない、本当に床になっているかどうかすらあやふやなその上に、唯先輩と二人、コタツに入ってのんびりぬくぬくしている今が。
「うーん」
考え込む。本当はもっと焦るべきだと思うんだけど。
気が付いたらこんなわけのわからないところにいて。
何でこんなところにいるのか、一体ここは何なのか、いつまでここにいればいいのか、全然わからないのに。
唯一つわかることはここは閉じられた世界だということだけ。ここ以外のどこにも行くことはできないということなのに。
だけど、私は変に落ち着いた気分だった。
「どうしたの?」
そんな私に、唯先輩は天板にもたれた姿勢のまま、首を傾げて見せる。
「えっと、一体どうしてこんなことになってるのかなって」
「うーん、さばおち!ってことらしいけど」
「さばおち?何ですか、それ」
「私にもよくわかんない」
ですよねー。
「わかんないからね、きっと気にしないほうがいいってことなんだよ」
「なんですか、それ」
答えになってない答えに、結局私は笑い返していた。
だって先輩が、唯先輩がそこでにこにこと笑っているから。
私はそれだけで、なぜか安心してしまっていた。
私がいて、唯先輩が傍にいて、そして笑っていてくれたらそれだけで私にとっては十分なんだと。
自然とそう思ってしまっていた。
だから私は、唯先輩の向かい側、こうして下半身をコタツに突っ込んだままのんびりと時間を過ごしている。
それでいいと思い、そしてそれに疑念を抱くことはできても、否定まではできずにいる。
仕方ない。だって、もし何事にも変えがたい願いが私にあるとしたら、それはこの状況を指すのだろうから。
そして、それはきっと先輩にとっても。
だから、つまりは何も問題はない、ということになるのだろう。
不安よりも焦燥よりも、そんなものより先に私が浮かべてしまうのは幸福感なのだから。


「あずにゃん、みかん食べる?」
不意にひょいっとその手にミカンを取り出して、唯先輩は私にそう尋ねてきた。
「また唐突ですね」
唐突過ぎて驚くこともできませんでしたよ。
「もー、コタツといったらみかんでしょ!」
「それには賛成ですけど」
どこから取り出したんですかそれ、と聞くのは野暮なのだろうか。
「じゃあ、せっかくですからいただきます」
「うん、わかった」
そういうと先輩はみかんをむき始めた。ぷすりと親指をへたの正反対の位置に差し込むと、くいっと皮の一辺をへたの方まで引き剥がす。
それの繰り返し。所謂オーソドックスなみかんのむき方だ。
工程が完了すれば皮のむけたミカンと、頭を?がれた蛸みたいになったその皮が出来上がるという。
私はりんごの皮むきみたいにむくのが好きなんですけどね、なんてどうでもいい意見を浮かべてみる。
そう、本当にどうでもいい。ここで問題にすべきなのは、私の手元にはみかんがないということ。
えっと、どういうことなんですか、先輩。私にみかん食べるかどうか聞いておいて、はいと答えたら自分のみかんをむき始めるって。
ひょっとして、「あずにゃんみかん食べたいんだ、そっかー、それじゃ私みかん食べるね、あ、あずにゃんの分はないから、聞いただけだから」的な嫌がらせか何かなんですかこれは。
私、泣いてもいいですか。
「できた!」
本当にそうしようか私が迷っている間に、唯先輩の手元にはつるりと剥かれたミカンが出来上がっていた。
なるほど、唯先輩は白い筋まで取るタイプなんですね。
「おいしそ~」
むしりと、一房もぎりとりながら唯先輩は呟く。
ええ、本当においしそうなミカンです。そしてそれを美味しそうに食べちゃうつもりなんでしょう。
やっぱり泣いた方がいいかな、私。
「ほい、あずにゃん」
その次の瞬間、私の口元すぐ傍にそれは差し出されていた。
「へ?」
思わずきょとんとする。何で唯先輩が食べるはずのミカンが、私の目の前に差し出されているのか。
それも、口をあければひょいっと入り込んでしまいそうな位置に。
これじゃまるで――
「あずにゃん、あーんだよ」
そう、まさにそんな状況みたい、って。
「な、何言ってるんですか!」
「え?だから、あーん」
何で私の方が、何言ってるのこの子?的な顔をされないといけないんですか。
「あずにゃん、ミカン食べるんだよね?」
「あ、はい」
「だから、あーん」
えっと、つまり唯先輩は私に食べさせるためにミカンを剥いてくれたんですか。
そして今それを食べさせてあげようとしてるってわけですね。
「うん!」
その気持ちは嬉しい。それこそ、意地悪と勘違いしていたさっきの自分に全力でチョップをお見舞いしてあげたいくらいに。
唯先輩が剥いてくれたってことで、きっと私にとってそのミカンの美味しさはきっと何倍にも膨れ上がっているだろうし。
「あずにゃん、あーんしないの?」
「だ、だって」
「むー、マシュマロあーんはしてくれたのに」
あれはその、まだ自分の想いに気が付いていない無邪気な頃だったからというか。
今は、意識しすぎちゃうというか、恥ずかしいというか。
「大丈夫だよ、恥ずかしくないから」
先輩はにこっと笑ってそう続ける。
「今は私しかいないんだよ」
だから、いっぱい甘えていいんだよ、そう言うかのようにまたにこっと笑う。
確かに。そっか、今先輩と二人きりなんだ。だから、いつもはできないけど、いっぱい甘えちゃってもいいのかな。
だけど、ちょっと怖い。いつも頑張って作ってるたがを外しちゃったら、自分がどこまで行ってしまうのかわからないから。
でも――そうだよね、ミカンを食べさせてもらうくらいは、大丈夫だよね。
「あーん」
「……あーん」
恐る恐る口を開いて、ぱくと目の前に差し出されたミカンを唇ではさみ取る。
ぷちりと前歯で表皮を破ると、甘い果汁が口いっぱいに広がって、美味しい。
本当に美味しい。普通に食べるよりも、きっとずっと。唯先輩にあーんしてもらっただけで、脳までとろけてしまいそうなほどに美味しくなってる。
「ふふ、あずにゃん、かわいい」
おそらくはとろんとした表情をしている私を見て、唯先輩が笑う。
唯先輩がそういってくれるほどに、自分が可愛いとは思えないけど。
だけど、それで唯先輩が喜んでくれるのは嬉しいかも。
「んー、でもちょっと遠いかな。食べさせにくいかも……」
唯先輩はちょっと思案顔。確かに、コタツを挟んでの位置からだと、私にあーんするには腰を浮かせて、ちょっと乗り出さないといけないから。
「そうだ!」
名案!とキラーンと顔を輝かせた唯先輩は、少し後ろに腰をずらすと、ぽんぽんと自分のひざを叩いて見せた。
「ほら、ここにおいでよ、あずにゃん」
えっと、それは膝の上に来いと言うことですか。
「大丈夫だよ、恥ずかしがらなくたって。ほら、二人きりなんだから」
そうだった。だから今は甘えてしまってもいいんだよね。
素直になってしまっても、いいんだよね。
そうすれば、先輩はもっと私のことをかわいいって思ってくれるかな。喜んでくれるかな。
まだとろんとした思考のまま、わたしはのそのそとコタツから這い出して、唯先輩の下へ向かう。
まるでコタツから抜け出してきた猫みたいに、のそのそと。
先輩がいつも私をそう呼ぶ、猫のように。
だってそう、いっぱい甘えていいんだよといわれて、いっぱい甘えようとしている私はきっと猫だから。
「あずにゃんっ」
ほんのその近くまで寄り添った私の肩を、先輩が捕まえる。
そのままひょいっと子猫を抱えるような仕草で、私の膝の上に誘導してくれる。
でも私は子猫じゃないから、そのまま乗ってしまったら先輩の足痛くないかな、と心配したあたりで、唯先輩は無造作に足を開いて、丁度私分開いたスペースにトンと私の腰は降りた。
そして、そんな私を先輩は両腕両脚を使ってぎゅうっと抱きしめてくれた。
「ひゃうっ!」
「ふふ、あずにゃん、ひゃうっ!だって。かわいい~」
「も、もう!」
そんな声を出してしまうのも仕方ない。だって、こんなに深く先輩から抱きしめられたのは、初めてだったから。
背中から抱え込まれて、体の半分以上を密着させられて。いつもの腕だけじゃなくて、両脚まで使われて抱きしめられて。
そしてそんな状態でコタツに足を入れているから、暖かくて暖かくて、熱すぎるくらい。
コタツからの熱すらも、唯先輩のぬくもりに思えてきて、本当にもう体中先輩に包まれているような、そんな錯覚に陥ってしまう。
ゆいせんぱい……ぃ」
「あずにゃん、すっかり甘えちゃって。本当に猫さんみたいだよ」
「いいです、それで……わたし、せんぱいのねこで」
「いいよ、私だけの猫にしてあげる……あずにゃんのこと」
私の肩に顎を乗せて、頬を摺り寄せるようにして耳元で囁く唯先輩。
その感触が心地いい。唯先輩から与えられるもの全てが、気持ちよく思えてしまう。
「そうだ、ミカン食べるんだよね、あずにゃん」
ひょいっと私の視界にミカンが現れる。唯先輩の手にもたれた、美味しそうなみかんの房。
それを私に示した分だけ、私を抱きしめる力が緩んでしまったのは少し残念だけど。
だけどこんな状態で食べさせられるミカンは、さっきよりずっと美味しいだろうから。
私はこくりと頷いて、それに応えた。
ついっと上体と首を傾けて、さっきと同じように先輩の手からミカンを咥えとる。
そして噛み締めてしまえば、さっきよりもずっと美味しいその味を味わうことができるんだろうけど。
だけど、私はそこで思いついてしまった。きっと、それよりもずっと美味しいだろうミカンの食べ方を。
「あずにゃん?」
動きを止めた私に、先輩は怪訝そうな声を返す。
この位置からは見えないけど、おそらくは私の想像通りのきょとんとした顔をしながら。
「せんふぁいも、みかんたべたいですよね……」
「え?」
緩んだその腕と、聞き返したその隙を狙うように、私はくいっと先輩の腕から抜け出して、その開いた分のスペースを利用してくるりと体を反転させた。
視界に現れたのは、びっくりした先輩の顔。私よりずっとずっと可愛くて、愛しい唯先輩の顔。
大好きで、大好きでたまらない。もっといっぱい甘えないと、どうかなってしまいそうなほど大好きな、唯先輩。
「あずにゃ……んむっ!?」
その衝動のままに、ミカンを咥えたまま私は先輩に口付けた。
ぷちっと咥えたミカンが間ではじけて、その果汁が私と唯先輩を汚す。
かまわずに、むしろそれごと貪る様に、弄るように先輩の唇を押し開けて、その中に入り込んだ。
果汁に染まった舌先に、違う味が現れ、混ざり合うのを楽しむように。
「んんっ……ぅ」
びっくりして固まっていた先輩の体から、ゆっくり力が抜けていく。甘える私を受け入れてくれるように。
それに流されるまま、ゆっくり私は先輩を抱きかかえながら、唇を離さないままにマットへと倒れこんだ。
そのままより強く先輩の体を抱きしめる。唇と舌を合わせあう。
先輩もそれに応えるように、ぎゅうっと強く私を抱きしめ返してくれた。
「ぷは……っ」
ずっとそうしていたかったけど、さすがに息が持たなくなって私は口を離す。
先輩もそうだったのか、私と同じタイミングで大きく息を吸い込んでいた。
「もう、あずにゃん、びっくりしたよ」
酸欠とおそらくはそれ以外の理由で頬を赤く染めて、先輩は私を見上げてきた。
私を挟み込んだ状態でそのまま倒れこんでしまったから、先輩の両脚は丁度私の太腿と体に挟み込まれる形になって、押し開かれたまま。
さすがの先輩もその状態は少し恥ずかしいのか、もじもじと所在無さ気に脚を蠢かして、私をくすぐってくる。
私がつぶしてしまった果汁は先輩の口元から首筋の方まで汚していて、だけど先輩は気にすることなくにこりといつもより少し熱を帯びた笑みを私に向けていた。
それはもうどうしようもなく扇情的な光景で、それは今までがんじがらめにしていたものをするするとあっけなく解いていってしまう。
「唯先輩……いっぱい甘えて、いいんでしたよね?」
我慢ができなくなってしまう。
めちゃくちゃにしたくなってしまう。先輩の全てを見たくなってしまう。
先輩の全てを私で埋め尽くして、私の触れていない箇所なんてそのどこにも存在しないようにと、そうしてしまいたくなってる。
でもそれは、やはり、超えちゃダメだと思うから。
私がいくら先輩を好きでも、どんなに愛していても、世界中の何よりもその存在こそが私にとっての一番だと思っていても。
私はまだ先輩の後輩のままで。先輩にとっての私はただの後輩で。もしそう言ってもいいのなら、先輩の可愛い後輩で。
そうしてしまう事は、きっと。それを壊して、犯してしまうものになってしまうから。
だから、ちゃんと断ってください。拒絶してください。そうじゃないと、私は――
私が恐れていたとおり、私が思うままにどこまでも行ってしまいそうだから。
「いいよ」
なのに先輩は、さっきよりずっと赤く染まった顔でそんなことを言うものだから。
最後に一つ繋ぎとめていた糸は、あっけなく千切れてしまっていた。
「でもね」
その勢いのまま先輩に覆いかぶさろうとしていた私を、続けられた先輩の声が止める。
もう止められないくらいに私の思考は熱く溶けてしまっていたけど。だけど止まる。
その言葉が逆接だったから。
「その前に、聞かせて。あずにゃんにとって、私ってなんなのか」
そして、じっと熱を帯びた瞳が、真っ直ぐに私を見つめていたから。
その先に行きたいと思っていたのが、そう願っていたのが、私だけじゃないってことに気がついたから。
「大好きですよ。世界で一番、大好きな人です。唯先輩は」
「そっか」
それを聞いて先輩はくすりと笑う。こんな状況なのに、それはいつものような、放課後の音楽室で見せてくれるようないつもの先輩の笑顔で。
「じゃあ、私と一緒だね」
そういって先輩は笑った。
「だから、いいよ」
もうただの先輩と後輩じゃないから、と。
だから超えてしまってもいいんだよ、と。
「あずにゃんと、したい」
その言葉で本当に、最後だと思っていたものの更に奥の方で、ぷちんと何かが切れる音が聞こえた。


そして同時に聞こえてきたのは、どさどさと何かが崩れるような音と、それと呼応するような悲鳴の数々。
「「へ?」」
私と先輩はきょとんと顔を見合わせた。
だってここは二人きりの世界で、閉じられた世界で、私たち以外の音なんて聞こえてくるはず無いのに。
だけど、聞こえてきた音とその悲鳴は、明らかに私たち以外のもの。
そして、とても聞き覚えのある声。
どういうこと、と思って回りを見渡すと、いつの間にか真っ白だった世界は私と先輩のよく知る光景へと変わっていた。
そこは閉ざされた世界ではなく、いつもの唯先輩の家のリビング。
言ってみれば、遊びに来た私がいつも他愛も無い話を繰り広げている、日常の場所。
くるりと振り返ると、まるで崩れ落ちたブレーメンの音楽隊状態の先輩方。
さすがの唯先輩も予想外!なんて表情で呆気にとられていて、きっと私もそれとほぼ変わらない表情を浮かべているんだろう。
「えっと、さばおち!とかだったはずじゃ……」
「あー、それさっき復旧されたぞ」
一番下で潰されながら、律先輩が答える。
「ごめんね、覗くつもりじゃなかったのだけど……」
ならその手に持っているデジタルビデオカメラは何ですか、ムギ先輩。
「あの……ちなみに、どこから?」
「ミカン食べる?の辺りから……かな」
「ほとんど最初の方からじゃないですかー!」

ええ、わかってましたとも。どうせこういうオチだろうとは。
とりあえず、何はともあれ唯先輩と想いを確認しあえた、ってことでよしとしておきます。
この後どうなったかですって?
ああ、何とか先輩方を振り切って、ようやく二人きりの夜を迎えられたときの話はここでは語れませんから。
アウトです、アウト。
では、そういうわけで。

(終わり)


  • いいね~♪ -- (匿名希望) 2014-03-30 21:53:30
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最終更新:2010年03月06日 11:37