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音楽準備室の扉を開けると、中には下着姿の唯先輩がいた。
予想外の光景に、楽器を置きにきたことも忘れて、私は立ち尽くしてしまった。
「あ、あずにゃん、おっはよー!」
「お、おはようございます……」
唯先輩が手を大きく振って声を上げた。
腕の動きにあわせて、若干控えめな胸が揺れた。
その胸を覆うのは小さめのピンクのブラ。
同じ色のショーツも小さめだけど、確かな存在感で私の目に映っていた。
体つきは、細すぎず、かといって太すぎもしない。
とても健康的な美しさだと言っていいと思う。
同性だけど思わず見惚れてしまい……
一瞬の後、正気に返った私は大声を張り上げていた。
「な、何してるんですか、唯先輩!?」
「何って……雨で制服グショグショになっちゃったから、
またさわちゃん先生の服を借りようかなぁって思って……」
「説明はいいですから早く何か着てくださいっ、早く!」
「ぶー、あずにゃんが聞いてきたんじゃん……」
小声でブツブツ言いながら、下着姿の唯先輩が、
先生の作ったコスプレ衣装の物色を始める。
「どれにしようかなぁ」なんてのん気に言いながら、
あっちを手に取りこっちを手に取り……あれこれ悩むばかりで、
いつまでたっても着替えが始まる気配はなかった。
「もうっ、何してるんですか!」
唯先輩ののんびりさに我慢できず、私はつい怒鳴ってしまった。
乱暴に扉を閉めると、足音高く唯先輩に駆け寄る。
「何でもいいですから、早く着てください! 
そのままじゃ風邪をひいちゃいますよ!」
「えー、でもせっかくなんだから、なんか可愛い服を……
そうだ! 隠しておいた着ぐるみがまだあっちに……」
「ああもうっ、いい加減にしてください!」
下着姿のまま倉庫の方へ行こうとした唯先輩の腕を、私は掴んで引き止めた。
いつまでも下着のままでいては、本当に風邪をひいてしまう。
それにいくら女子高といっても、下着姿のままでいいわけがない。
いくらなんでも無防備すぎる。入ってきたのが私だったからまだいいけど、
他の人だったらいったいどうなっていたことか。
思わず口調もきつくなってしまった。
「私が服選びますから、それ着てください!」
「ええ、でもぉ……」
「唯先輩!」
「……はぁい」
「ぶー、もっと可愛い服が良かったのに」
これから授業あるんですから、コスプレ衣装じゃまた怒られちゃいますよ。
大人しくそれ着ててください」
ブツブツ文句を言う唯先輩の髪をタオルで拭きながら、私はそう言った。
今唯先輩が着ているのは、私のジャージだ。
先生のコスプレ衣装は変なものが多いし、
まともなものでもさすがに授業中着るのはどうかと思うものばかりで。
早々にコスプレ衣装の中から服を探すことを諦めた私は、
バッグの中の自分のジャージを唯先輩に着せたのだった。
「でも、私がこれ着てて、あずにゃん大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ、体育は午後からですし。お昼になって制服が乾いたら、
返して頂ければ……あ、でも……やっぱり小さかったですね。
窮屈じゃないですか?」
唯先輩だって体が大きい方ではないけれど、私はもっと小柄で。
サイズが一番小さい私のジャージでは、手足をきちんと覆うことはできなかった。
「ん、大丈夫だけど……袖、伸びちゃったら申し訳ないなぁって……
ちょっと心配」
手を擦り合わせながら、唯先輩が言う。
伸びちゃったら確かに困るなぁと私も思ったけれど……
でもそのときはそのときだ。唯先輩に風邪をひかれたり、
変な衣装で歩かれたりするよりはまだましだった。
「……にゅはっ、ちょ……あずにゃんくすぐったいよぉ」
「もうダメですよ、じっとしててください」
「だって、くすぐったくて……」
「我慢してください。乱暴に拭いたら、髪の毛ボサボサになっちゃいますから」
丁寧に丁寧に、時間をかけて唯先輩の髪の毛を拭いていく。
髪を一掴み持ち上げ、タオルで挟み水分をとっていく。
それでも、乾いてきた髪の毛がはねてしまうのはどうしようもなかった。
「うー、やっぱりすごいことになってる……」
手鏡を見ながら、唯先輩は憂鬱そうに呟いた。
手で抑えてみても、離した途端髪の毛ははねてしまう。
それを見て「うー」と不満の声をあげ、手で抑えて、離して、
はねる髪を見てまた「うー」とうなる。
何度も同じことを繰り返すその姿が、
まるで自分の尾と戯れようとする子犬を思わせて……
私はつい笑ってしまった。
「あ、あずにゃん笑った……ぶー、ひどいんだぁ……」
「あ、ごめんなさい……」
「つーん……知らないっ」
「もう、拗ねないでください。ブラシで梳かしてあげますから」
「……キレイにしてくんなきゃ怒っちゃうからね」
「はい、気をつけますから」
カバンからヘアブラシを取り出し、椅子に座っている唯先輩の後ろに立つ。
ちらっと時計を見たけど、幸い、朝のホームルームまではまだ余裕があった。
時間をかけても大丈夫そうだった。
「そういえば……他の先輩方は?」
「ムギちゃんは日直のお仕事中。りっちゃんは、今全力ダッシュ中って、
さっきメールがきたよ。あ、澪ちゃんはりっちゃんの後ろで号泣中だって」
「……澪先輩、大変ですね」
この雨の中を走っては、律先輩も澪先輩もずぶ濡れだろう。
唯先輩と違って着替える時間もないでしょうし……
風邪をひかなければいいのですけど。
話をしながらも、手は止めない。髪の毛の様子を見ながら、
ブラシを優しく、でもしっかりと動かして、唯先輩の髪を整えていった。
「ん~、あずにゃんのブラシ……気持ちいいねぇ……」
「そうですか?」
「うん! これなら将来、立派なブラシ屋さんになれるよ!」
「せめて美容師さんって言ってください……はい、終わりましたよ」
「おー、しっかりキレイになってる! ありがとう、あずにゃ……っくし!」
言葉の途中で、唯先輩は大きなくしゃみをした。
「だ、大丈夫ですか?」
「へ、平気へい……っくし!」
言葉の途中で、またくしゃみが出た。よく見れば、体も小さく震えている。
服は着替えたし、髪も拭いたけれど……体は冷えたままのようだった。
「もう……下着のままでいたりするからですよ」
「へへ……申し訳な……っくし!」
またくしゃみ。
冗談ではなく、このままでは本当に風邪をひいてしまいそうだった。
(体、温めてあげないと……)
そうは思ったものの、どうすればいいのかわからなかった。
いくら時間に余裕があるといっても、さすがにお湯を貰ってきたり、
温かい飲み物を買ってきたりするほどの時間はない。
冬ではないのだからヒーターなんかもないし、
カイロだって持っているわけがなかった。
(どうしよう……)
そう悩んでいる私に、
「あ~ずにゃん!」
「にゃっ!」
いきなり唯先輩が抱きついてきた。
「ちょっ……いきなりびっくりするじゃないですか!」
「えへー、ごめんごめん……
でも、あずにゃんがあったかそうだったから、つい……」
「あったかそうって……私はカイロじゃないんですよ」
「はぁ……やっぱりぬくぬく、あったかあったかだぁ……」
「……聞いてくださいよ」
私の声を無視して、唯先輩は抱く力を強めた。
私の体が唯先輩の体に包み込まれ、頬を顔に押し付けられる。
文句を言おうと私は口を開いたけれど……
押し付けられた唯先輩の頬があまりに冷たくて、
そのことに気づいてしまうと、もう文句は言えなかった。
「……もうっ、ほんとにしょうがないんですから、唯先輩は……
今日だけ、特別ですからね」
「エヘヘ、ありがとう、あずにゃん……
ごめんね、冷たいよね、私の体……」
「いいですよ、もう。でもその代わり、風邪なんかひかないでくださいよ」
「は~い」
私の言葉に、唯先輩はのんきな声で返事をした。
(まったく……ほんとしょうがない人なんですから……)
朝からドタバタして、ほんとにしょうがない人だ。
(でも……)
「あったかあったか……」
そんなしょうがない人なのに、こうして私の側で笑っているのを見ると、
あきれつつも全部許せてしまう気持ちになってしまって……
そんなことを思ってしまう私も、
端から見たら唯先輩と同じしょうがない人なのかもしれない。
外は雨。ふと窓ガラスを見れば、
そこには満面の笑みを浮かべた唯先輩と、口元を緩めた私の顔が映っていた。

END


  • あずにゃんは唯専用のカイロだな -- (名無しさん) 2010-07-15 09:33:58
  • ゆいあずは我々の心のカイロだ -- (名無しさん) 2010-07-17 22:14:42
  • 俺のアソコはあずにゃんカイロでwwwwwwwwwwあwwwwwwwwwwwたwwwwwたwwwwwかwwwwwいwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww -- (名無しさん) 2011-01-04 01:17:51
  • ↑一番上から同意。二番目、マジ同意。 三番、ヤメイ!!!!!! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-20 02:51:07
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最終更新:2010年05月19日 20:40