唯「
あずにゃん!私たち、一度破局してみようよ!」
梓「いつもいつも注意してるじゃないですか。思いつきで喋らないようにって。相手が私だから良かったものの、他の人だったら変な誤解を受けますよ。
悪くするとそこから関係がこじれて本当に破局するかも知れませんし」
唯「だから私は破局を経験してみたいんだって!」
梓「そういう言葉は嘘でもやめてください。ていうか私をハグしながらじゃまるで説得力ありませんけど」
唯「えー…じゃあ一旦離れるよ~」
梓「離れられるんですか?私から?本当に?」
唯「…ごめんなさい、大きく出過ぎました。あずにゃんを離したら死んじゃいます」
梓「まぁ、唯先輩が気まぐれに離れても私の方から追いかけますけどね。誰が飼い主で誰が飼われてるのか体で教えますから」
唯「ちなみにどっちがどっち?」
梓「逆に聞きますけど私を飼い慣らしたのは誰でしたっけ?」
唯「私でした」
梓「だったら出来もしないことを言わないこと。破局なんかしちゃったらもうこうやって抱き合うことも出来なくなるんですよ?正直、私、泣きますよ?」
唯「うっ…そ、それはダメだよね。あずにゃん泣かせるわけには行かないよ」
梓「私だって唯先輩を泣かせるのはごめんです」
唯「でも、私が泣いてるときは涙を吸い取ってくれるでしょ?」
梓「感動ものの映画とかドラマ見て出る涙と悲しいときに零れる涙は別物です。それに破局したら涙を舐めてあげることもできませんよ」
唯「おぉう、破局も大変なんだね~」
梓「大変なんてもんじゃありません」
唯「うーん、破局してさやえんどうに戻るまで半月として…やっぱりダメダメ!私には半日だって耐えらんないよー」
梓「それはひょっとして元サヤって言いたかったんですか?」
唯「そうとも言うっ」
梓「しかも半月ってまたリアルな日数ですね。そういう漫画があったんですか?今度は何見て影響されましたか」
唯「漫画じゃないんだけど、でもなんでわかったの?」
梓「あなたのそばに何年いると思うんですか。唯先輩のことならなんだってお見通しです」
唯「えへへ…そっかぁ~」
梓「半月って言えば、澪先輩が和先輩の家に転がり込んでた期間と一緒…あ、なるほど、わかりましたよ」
唯「そーですっ、澪ちゃんと律ちゃんに刺激を受けたのですっ」
梓「そんなので刺激を受けないでくださいとか和先輩との同棲生活をめちゃくちゃにされた憂があのあと大変だったのにとか言いたいことは山ほどですけど、
あのふたりの痴話喧嘩に刺激されて唯先輩は何がしたかったんですか?」
唯「まつぼっくりに火を点けた感じを体験したかったのですっ」
梓「焼け木杭ですね。あらゆる意味で間違えてます。第一、あのふたりのは破局じゃなくてただの喧嘩です。むしろスキンシップです」
唯「でも記者に書かれたじゃん、幼なじみカップル破局でHTT解散って」
梓「あのテの人たちはなんでもかんでもゴシップにこじつけるんですよ。それにその記事書いた人、もうどこにもいないでしょ?」
唯「あのときのムギちゃんはすごかったね。殺意の波動ってあるんだなって思ったよ」
梓「ムギ先輩もそのとき繰り返し言ってましたよ。梓ちゃんは唯ちゃんの嫁だって。平沢梓だって」
唯「確かにムギちゃん、あの場に全然合わないこと言ってたけど、今それを思い出すあずにゃんもおかしいよー。
まぁ、あずにゃんが私のお嫁さんてことは揺るがないけどね」
梓「何回生まれ変わっても私は平沢梓です。前世でも来世でも絶対に絶対です」
唯「あずにゃんが可愛くて生きてるのが楽しい…って、あれ?何の話してたんだっけ」
梓「唯先輩が私を欲しくて仕方ないって話でした」
唯「澪ちゃんと律ちゃんは別に破局してないって話だよね、とりあえず」
梓「私の体当たりの冗談は無視ですか」
唯「いいえ、夜になるまで待とうとしてるだけです」
梓「夜になったらよろしくお願いします」
唯「いえいえこちらこそ」
梓「夜のお楽しみまでの時間潰しに律先輩と澪先輩のことに話を戻します。あれは破局でも焼け木杭でもありません。むしろ反対です」
唯「憂と和ちゃんの部屋に転がり込んでも?」
梓「澪先輩は律先輩に構って欲しくて家出したんです。確か喧嘩した理由もそんな感じでしたよね」
唯「うん、律ちゃんが最近ちゃんと相手してくれないって澪ちゃんに相談されたもん。
私とあずにゃんを見習ってスキンシップ取れば良いんだよってアドバイスしたらデコピンされたけど」
梓「唯先輩って時々シャレにならないことやらかしますよね。澪先輩が家出した
きっかけ、殆ど唯先輩ですよ」
唯「その後、律ちゃんにめちゃくちゃ叱られたよ…」
梓「でもその家出がきっかけで迎えに来た律先輩と澪先輩、仲直りできたわけですから、怪我の功名と言えばそうなのかな」
唯「功名が辻!」
梓「人のアイデアパクって出世した人の話は置いとくとして…私は家出も愛情表現の一種だって言いたかったんです。
律先輩を愛してなかったら友達のところに転がり込むんじゃなくて、本当に部屋を出ますよ」
唯「それって家出じゃないの?」
梓「迎えに来てくれるのがわかっていて距離を置くのが家出。
もうお互いの体温が届かない距離に離れてしまうのが破局です」
唯「そっか…私、
勘違いで大変なことになりそうだったんだね」
梓「澪先輩は律先輩を愛して信じていたから家出しても平気だったんです。
これは焼け木杭とかそんなんじゃありませんよ。れっきとした愛情表現です」
唯「私たちがこうして抱きしめ合うのとやってることは変わらないってこと?」
梓「そうです。あの二人なりのスキンシップなんですよ。…ね?破局と全然違うでしょう?それでも唯先輩は私と破局したいと言いますか?別れたいですか?」
唯「言えませんっ!別れたくありませんっ!」
梓「わかってくれたなら良かったです。じゃあ、次は埋め合わせをして下さい」
唯「埋め合わせ?」
梓「私を不安にさせた埋め合わせです。ほんの一瞬ですけど、心臓が凍るくらい怖かったんですから」
唯「あっ……ごめんね…梓。私、二度とこんなこと言わないよ。梓の不安、責任持って全部門取り除いてあげるからね」
梓「よろしくお願いします、唯」