―――――――――――――――――――――――
ザー・・・ザー・・・
朝から、絶え間なく雨が降り続けています。
少し前までは毎日カラッとしたいい天気だったのに。
今では、雨の傘マークがズラッと新聞の天気予報欄に並んでいます。
カレンダーを見ると、6月。
そうです。梅雨の季節です。
「あずにゃ~ん・・・暑いよー・・・」
私は暑くて、思わず隣にいた
あずにゃんに抱き付きます。
さっき食べたアイスの冷却パワーも遂に底を尽きました。
「も、もう・・・私に抱き付いたら、もっと暑くなるよ?」
「えー?あずにゃんは冷たくて気持ちいいよー? すりすり」
もちろん、冷たいというのは嘘です。
本音を言うと、暑いです。
しかもあずにゃんは私が抱き付いたせいで、顔を赤くして更に体温が上がっているような・・・?
「・・・それに、もうあずにゃんって私の事を呼ぶのは」
おっと。そうでした。
私と『梓』は、呼び方をお互い変えたのでした。
「えへへ。ごめんねー、梓」
「もう・・・唯ったら・・・」
そうです。私と梓は、もうお互い呼び捨てで呼び合っています。
でも私はたまに、高校生だった頃の「あずにゃん」というアダ名で梓のことを呼んでしまいます。
『あずにゃん』。いいアダ名だと思うんだけどなー・・・?
「ねえ、どうして『あずにゃん』じゃダメなの?」
「そ、それはもちろん・・・恋人同士、だから・・・」
そう言うと、梓は赤い顔を更に赤くさせ、俯いてしまいます。
そういえば説明を忘れてました。
私と梓は、恋人で―――もう、大学生です。
そして二人で、とある安アパートに住んでいます。
安アパートなので当然エアコンなどなく、それで暑い暑いと言っていたのでした。
ザー・・・ザー・・・
雨は相変わらず激しく降っています。
小さく、カエルの鳴き声が聞こえます。
「はい、どうぞ」
「おぉー・・・梓は気が利くね~♪」
梓が、氷入りの麦茶を私に渡してくれました。
私はそれを一口飲み、テーブルに置きます。冷たくて美味しいです。
「それにしても・・・やっぱり退屈だね」
梓が溜め息をつきながら言いました。
今日は大学も休みだし、ご覧の通り大雨なので、朝からずーっと部屋でゴロゴロです。
テレビもないし、アパートなので楽器の練習もできず、確かに梓が退屈だというのもよくわかります。
私は再び、麦茶を一口飲みました。
「そういえば・・・あの日も、こんな
雨の日だったよね」
梓が、窓枠に座り―――外に広がる、雨の街を見ながら言います。
あの日。
もちろんよく覚えています。
というのも、私と梓が結ばれた日で―――。
“あの日”。
私が高校3年生で、梓が2年生だった時。
季節は―――今日と同じ、梅雨だっけ。
◇ ◆ ◇
ザー・・・ザー・・・
私は学校の玄関で、呆然と立ち尽くしていました。
他の人たちは皆、傘を差してそれぞれ帰宅しています。
でも、私の手には傘がありませんでした。
「ううー・・・こうなるなら憂の言う通り傘持ってくればよかったよぉ・・・」
私は後悔していました。
朝方は、とってもスッキリとした晴れだったのです。
でも、お昼頃から急に天気が悪くなってきて・・・。
『お姉ちゃん、天気予報では昼頃から雨が降るって・・・』と憂が言っていたのに。
私は、こんなに晴れてるんだから大丈夫だよ、と傘を持ってこなかったのでした。
それに、今日は部長のりっちゃんが風邪でお休みなので、部活も無し。
憂も何か委員の仕事だったかがあるそうなので、しばらく帰れないそうです。
「はぁ~・・・」
思わず溜め息が出てしまいます。
どうしよう。一旦部室か教室に戻って、憂の仕事が終わるのを待つべき?
それとも、びしょ濡れ覚悟で猛ダッシュ? あぁ、でもギー太が濡れちゃう。
うう・・・今日はついてないなぁ・・・。
そういえば朝のテレビの星座運勢ランキングでも、私の星座、射手座は最下位でした。
「あれ?唯先輩、こんなところで何してるんですか?」
突然、後ろから聞こえた声。
その声は、とてもよく知っている声で―――。
「あ・・・あずにゃん~!」
「んにゃっ!? ちょ、ちょっと!こんなところで抱き付かないでくださいっ!」
私は気付いたら、あずにゃんを思いっきり抱き締めていました。
他の人たちが私達を見ていますが、お構いなしです。
私は一旦あずにゃんから離れ、訳を話そうとするのですが。
「あー・・・傘、忘れたんですね?」
「えっ、なんでわかったの?」
「・・・唯先輩のことですから」
私が話す前に、ズバリと当てられたので、思わずびっくりしてしまいます。
あずにゃんって、ひょっとして超能力者・・・!?
なんて私が目を輝かせていると、あずにゃんは傘を差し始めます。
そうだ。あずにゃんに、傘に入れてもらえないか聞かないと・・・。
「はい、どうぞ。一緒に帰りましょう?」
あずにゃんが、私を傘に入れてくれました。
まだ私、何も言ってないのに。まるで全部お見通しのよう。
やっぱり、あずにゃんは凄いなぁ・・・。
「ありがとうっ!あずにゃんはやっぱり優しいなぁ・・・」
「も、もう・・・。次は傘忘れないでくださいよ・・・?」
あずにゃんが、少し顔を赤くしながら歩き出します。
私も傘から外れないよう、慌てて前へ。
大粒の雨が、傘に降り注ぎます。
そんなに大きい傘ではなので、少し傘からはみ出たあずにゃんの肩が濡れてしまっています。
本当にごめんね、あずにゃん・・・。
私は心の中で謝ります。
「あ、そうだ・・・少しファミレスに寄っていかない?」
「ファミレスですか?いいですよ?」
傘に入れてくれたお礼に、今日は私があずにゃんにご馳走をしようと思います。
でも、普通に奢るよ、って言ってもあずにゃんは間違いなく遠慮するので―――
お勘定の時に、「あ、私が払うよ!」って、カッコよく財布を取り出して払えば・・・うん、自然です。
よし。この作戦でいきましょう。
しばらく歩いて、私達は軽音部御用達のファミレスに入ります。
そしてお店の人に案内され、とりあえず禁煙席に。
まずギー太や鞄を椅子に置き、あずにゃんと向かい合うように座ります。
そして私はブラックコーヒーを、あずにゃんは紅茶とチーズケーキを注文します。
先に言っておきます。私はブラックコーヒーなんて飲んだ事ありません。
でも、なんとなくあずにゃんの前ではカッコつけたくて・・・。
やがて、注文したものが運ばれてきます。
ブラックコーヒー。どんな味なのでしょう。
「唯先輩・・・飲めるんですか・・・?」
あずにゃんが心配そうに私を見ています。
私はとりあえず、一口だけゴクリと飲んでみます。
「・・・っ!? ごほっ、ごほっ!」
に、苦いっ・・・!
思わず咳き込んでしまいます。
あ、あれ・・・?私は苦いココア的なのを想像していたのですが・・・。
ほんの少しの酸味と、後は120%の苦味。うえぇ・・・。こんなの飲めないよ・・・。
「ゆ、唯先輩・・・」
せっかく、カッコいいところ見せようと思ったのに。
これじゃ逆効果です。
私はコーヒーカップをテーブルに置き、しょんぼりと俯きます。
「あの・・・唯先輩。よかったら私のと交換しますか・・・?」
「え・・・でも・・・」
「まだ一口も手を付けてませんし。私、コーヒーなら家でよく飲んでますから」
ああ・・・。ますますカッコ悪い。
でも、あずにゃんのチーズケーキ、とっても美味しそう。
「えっと・・・それじゃ、お願いしていい・・・かな?」
あずにゃんは、笑顔でコーヒーと紅茶、チーズケーキを交換してくれました。
うう。情けない・・・。でもこのチーズケーキ、美味しい・・・。
一方、あずにゃんは表情をまったく変えず普通にコーヒーを飲んでいます。
私と違って、カッコいいなぁ・・・。
そして、私がチーズケーキを食べ終え、紅茶を飲み干した頃。
雨が少し弱くなってきたようなので、そろそろお店を出よう、ということに。
さて。さっきはカッコ悪いところを見せてしまいましたが、今度こそは・・・。
私とあずにゃんは、荷物を持つとレジの方に向かいます。
そしてあずにゃんが財布を取り出そうとした瞬間。
「あ、今回は私が全部払うよっ!」
ここでカッコよく財布を―――あれ?
財布、財布・・・あ、あれ?
たしかポケットに入れたはず・・・。
鞄の中だっけ・・・?
「唯先輩・・・元気出してください」
私はショックで落ち込んでいました。
まさか、財布を忘れるなんて・・・。
結局お金は全部あずにゃんが払ってくれました。
本当に、本ッ当に・・・情けない。
「あの、少し公園を散歩しませんか?まだ時間もありますし」
私は黙って頷きました。断る理由はありません。
それに、さっき財布を探した時・・・家の鍵も忘れてることに気付いたのです。
公園へは、いつの間にか到着していました。
雨のせいか誰もいません。
広く、大きな原っぱと散歩コースがあるだけの公園なので、本当に静かです。
私とあずにゃんは、その散歩コースをとぼとぼ歩き始めます。
「あずにゃん・・・迷惑ばかり掛けて、本当にごめんね・・・」
涙がぼろぼろと溢れてきます。
そうです。よく考えてみれば、私はずっとずっとあずにゃんに迷惑掛けてばかりで・・・。
「も、もう・・・泣かないでください。全然気にしてませんから・・・」
あずにゃんがハンカチで私の涙を拭いてくれます。
本当に、あずにゃんは優しいです。
なんだかちょっぴり、気が楽になったような気がします。
「それにしても・・・今日はどうしたんですか?ちょっぴり変ですよ?」
「変・・・って?」
「飲めないブラックコーヒーなんか頼んだり、いきなり私が払うよ!なんて言い出したり・・・」
- 確かに、今日の私は変です。自分でも、よくわかっています。
「えっと・・・カッコいいかな、って思って・・・」
少し恥ずかしい気もしますが、素直に言いました。
そしてそれを聞いた瞬間、あずにゃんはくすくすと笑い出します。
「・・・まぁ、唯先輩の気持ちはよくわかりますよ。私も今日はカッコつけてましたし」
「え・・・?」
「私も、実はブラックコーヒー飲めないんです。カッコつけて、無理して飲んでました」
あずにゃんが、笑います。
それに釣られて―――私も笑ってしまいます。
なんだ、あずにゃんも飲めないんだ。
「唯先輩、やっと笑ってくれましたね」
うん。ありがとう。
あずにゃんのおかげで、さっきまで落ち込んでいたのが嘘みたい。
天気は雨ですが、私の心はなんだか晴れ晴れとしています。
「っと・・・なんだか、また雨が強くなってきましたね」
「うん、そうだねー」
さっきまで弱かった雨が、再び強い大粒の雨に変わっていきます。
私とあずにゃんは雨に濡れないよう、自然にぴったりと寄り添うようにくっつきます。
「ねー、あずにゃん」
「なんですか?」
「今さらだけど・・・これって相合傘だよね」
「っ・・・!? な、何言ってるんですか・・・!」
あずにゃんが、顔赤くします。
相合傘。
雨に濡れないよう、お互いに肩を寄せ合う情景から二人が恋愛関係であることを暗示する・・・といいます。
「こうしてみると、私とあずにゃんって恋人みたいだね」
なんちゃって・・・と最後に小さく言ったのですが。
あ、あれ?あずにゃん・・・?
私はあずにゃんのツッコミを待っていたのですが、反応がありません。
「あ、あずにゃん・・・?」
「えっ!あ、そ、そうですねっ!」
そ、そうですねって・・・。
見れば、あずにゃんは顔はもちろん耳まで真っ赤になっています。
あ、あれ・・・?
「あの。唯先輩・・・聞いてくれますか・・・?」
あずにゃんが私の手をぎゅっと握ります。
そして私の目をじっと見つめながら、静かに言葉を紡ぎます。
「唯先輩・・・なぜ私がカッコつけてたか、わかります?」
あずにゃんは一度深呼吸をしてから―――
「私は・・・唯先輩のことが好きなんですっ・・・!」
◇ ◆ ◇
「はぁー・・・あの時の梓、可愛かったなぁ~・・・」
私はあの時のことを思い出して、頬を赤く染めます。
あの時も―――今のように、激しい雨が降っていたんだっけ。
「あ、もちろん今の梓も可愛いよ?」
「っ・・・も、もう・・・恥ずかしいこと言わないで・・・」
あの時より、少しだけ大人っぽくなった梓。
でも、その顔を赤くして俯く照れ方は、昔とちっとも変わってません。
そしてふと気付けば、麦茶の氷はもう殆ど溶けていました。
結構、長いこと恋の
思い出に浸っていたようです。
「それで・・・あの後どうなったんだっけ?」
「あれ?忘れちゃったの? あー・・・まぁ、無理もないかもね」
梓が、何かを思い出してくすくすと笑い始めます。
「ほら。唯ったら、私が告白した途端手に持ってた鞄とギー太を落としちゃって」
「あー・・・あの時は本当にびっくりしちゃって・・・」
「それで、結局唯から告白の返事がもらえたのは、唯の家に着いてからだったよね」
そこは、はっきり覚えてます。
それは・・・今の私と梓の関係を見れば、わかる・・・よね?
「あ・・・晴れてきた」
見れば、もう雨は止み、雲の隙間から太陽の光が漏れ始めています。
なんだか、さっきの思い出話をしているうちに・・・またあの公園に行きたくなってきました。
「ねぇ梓、今からあの公園に―――」
おわり
- ホントにそこにいるみたい… -- (名無しさん) 2010-10-15 16:40:14
- もう!〜このラブラブカップルめ〜♪早く結婚しろよ〜? -- (あずにゃんラブ) 2013-01-19 22:31:53
最終更新:2010年06月15日 20:14