「はぁ…。」
クラスでも部室でもため息は絶えなかった。
特に部室では酷かった。今も朝練で一人で練習しているが、最近3年生の先輩方の姿を見ていない。
なぜなら進路や受験を間近に控えたため3年生は家庭学習期間に入り、学校自体に来なくても良くなったのだ。
澪先輩と律先輩のいつもの掛け合いや、ムギ先輩のお菓子やティーセットも無い。さわ子先生も吹奏楽の顧問も元々担当しているせいか、放課後に軽く顔を出すくらいになり、部室では私一人の時が多かった。
虚しくムスタングの音色が響く。
そして何よりも足りないのが、

唯先輩の温もりだった。

最初は確かに嫌がっていた唯先輩からのスキンシップ。いや…ホントは嫌じゃ無かったのかもしれない。
私に最初にスキンシップをしてきたのも唯先輩。怒った私を落ち着かせてくれたのも唯先輩。それからは部室は愚か、廊下、はたまた私の教室まで抱きつかれるのが当たり前になっていた。
そして、当たり前になったという事は、私も唯先輩の温もりを欲しがっている証拠だった。
最近は学校がつまらない。特に唯先輩が抱きついてきてくれた廊下を歩いていると、抱きつかれていた日々が戻ってきてほしい衝動にかられた。
そして何も無いまま月日は流れ…。
………
……


「はぁ…」
「大丈夫?梓ちゃん…今日は特に元気無いよ?」
「憂…大丈夫だよ…。」
教室でのいつものやりとり。元気が無いのは解りきっていた。でも周りを心配させたくない私は決まって「大丈夫」の一点張り。
「この後は卒業式だぞ~?まさか倒れたりしないよな?」
「純まで…大丈夫だって…。」
また私は元気の無い大丈夫を繰り返した。
「ほら、そろそろ講堂に行く時間だよ?」
「あ、うん。」
憂に促され、私達は講堂に向かった。

講堂で整列する私達。目の前にはポツンと空いた三年生の座るパイプ椅子。
そしてぼーっとしていると…

「卒業生、入場。」

BGMが流れると同時に卒業生が入場してくる。
一番最初に見つけたのは澪先輩。緊張してるのか顔が強ばっている。
次に見つけたのはムギ先輩。いつものおっとりとした表情で入場している。
次に律先輩。いつもは前が開いているブレザーもきちんと正し、笑顔で入場している。
そして…

「あ…」

平沢唯先輩。何だろうこの懐かしい感じは。でも何だか今日はどこか寂しそうだ。

「これより、第84回、卒業証書授与式を挙行いたします。」

最後の日が始まった。
とうとうこの日が来てしまった。
私は卒業式の間、ずっと過去を振り返っては懐かしんでいた。
思えば私が軽音部に入部した時、律先輩と唯先輩に質問攻めにされたっけ…。
そして私が唯先輩のギターで簡単な演奏をしたら、先輩方は何だかポカーンとしてたよなぁ…
次の日には猫耳をつけられて…そうだ、そこで始めて唯先輩にスキンシップされたんだ。あずにゃんってあだ名もつけられたなぁ…。
そして始めての合宿、文化祭。学年が上がっての新歓ライブ。何もかもが懐かしい。

軽音部の思い出…いや、放課後ティータイムの思い出は語り尽くせないほどだった。
思い出す度に私の胸は苦しくなっていく。
そしてあっという間に…

「卒業生、退場。」

拍手で迎えられる卒業生。泣いてる生徒もいたが、放課後ティータイムのメンバーは誰一人と泣いていなかった。
ただ一人、私を除いて。

「梓…」
「梓ちゃん…」
教室に帰っても私は泣き止まなかった。
それこそバレないように大きな声では泣いていなかったが、それでもいつも一緒にいる憂と純にはバレバレだった。
「部活…行くの?」
「うん…。もう放課後だしね…。」
結局、放課後もしばらく憂と純に慰めてもらっていた。
「ねぇ…どうせなら私も練習に付き合おうか?」
「ううん、大丈夫だよ。一人は慣れっこだし…今日は何だか一人で練習したいんだ…。」
「分かった。無理しないでね?」
純の誘いはありがたかったが、今の私は部室で大泣きしたい気分だった。
そして今日も音楽室に足を運ぶ。
そしていつものように扉を開けると…

「あずにゃん。」

え…?

「唯…先輩…?」

「会いたかったよ~。」
目の前には唯先輩がいて、今、私は抱きつかれていた。数ヶ月ぶりの感触。そして嬉しさ。
「他の…先輩方は…?」
「あ…最初はいたんだけど…あずにゃんが来ないから帰っちゃった。みんな用事があったみたいだし…」
「そうですか…。」
それはそれで寂しかったが、今の私には唯先輩だけで十分だった。
部室で二人っきり。だからかもしれない。
私は唯先輩に思いっきり甘えて、思いっきり泣いた。

「あ…あずにゃん…」
最初は泣きついた私に唯先輩も戸惑ったが、すぐに頭を撫でてくれた。
「私…寂しかったんですよ…?先輩方…特に唯先輩が居なくて…。」
「ごめんねあずにゃん…。受験で忙しくて…。」
「ホントに…ひどいですよ。いつも私に構ってくるくせに…最近は…最近は…!」
「あずにゃん…もう大丈夫だから…。一人にさせちゃってごめんね?」
「唯先輩…もう二度と私の前から居なくならないでください…。もう私…唯先輩が居ないと生きていけません…。」
「あずにゃん…。」
「好きです…。大好きです…。唯先輩。これからは…私の飼い主として…一生側にいて下さい。」
雰囲気のせいかもしれない、甘えてるせいかもしれない。いつの間にかそんな言葉を口にしていた。普段の私なら絶対に言わない言葉。
「ありがと…あずにゃん。大学に行ったらどうなるか分からないけど…できる限りあずにゃんの側にいるよ。恋人として…飼い主として…。だってこんなにも可愛い子猫ちゃんだもん。放っておけないよ。」
次の瞬間。私達は口づけを交わした。それはもう深くて…甘い…とろけるような時間だった。


口づけを終えても終始私達は抱き合っていた。
「私ね…私もね…あずにゃんの事…大好きだったんだよ…。」
「私もです…。でもいいんですか…?女の子同士なのに…。」
「そんな事いったら…あずにゃんこそどうなの…?」
「それは…私は構いません…。むしろ嬉しいくらいです…///」
「でしょ?それは私も同じ…。そうじゃなかったら私だってあずにゃんにあんな事言わないもん。」
「唯先輩…。」
「これからよろしくね?私の彼女として…。ね?あずにゃん。」
「…はい!こちらこそ宜しくお願いします。唯先輩!」
「よし、あずにゃん!今夜はうちに泊まっていかない?憂の美味しい手料理が待ってるよ~」
「じゃ…じゃあお言葉に甘えて…。ていうか唯先輩は食べ物の事ばっかですね…。」
「えへへ~。でもあずにゃんの事もちゃんと考えてるよ!」
「もう…唯先輩ったら…」

数ヶ月ぶりに手に入れた幸せ。もう一生手放しません。
例え貴女が私に飽きたとしても、私は貴女に一生ついていきます!

おわり


  • 大丈夫!唯先輩はあずにゃんに絶対飽きたりしない。 -- (あずにゃんラブ) 2013-01-20 01:38:00
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最終更新:2010年07月07日 23:06