「やっぱりこっちが良いんじゃない?」
「えぇ~、ちょっと……派手じゃない?」
「このくらいの方が可愛いって~」
「そうかなぁ……」
「あ、すみませーん。ちょっとフィッティングお願いできますか?」
「かしこまりました。では、サイズを測りますのでこちらへ……」
うぅ……知らない人に胸のサイズを測ってもらうのって嫌なんだけど……仕方ないか……。唯やさわちゃんなら構わないのに……。
はぁ、クーラーさえ壊れなければ、今頃みんなと海で遊んでたのになぁ……。

 ♪My Favorite 『○○』♪

「あ~ちゅ~い~」
フローリングに寝転がって、唯がそんな事を言っている。
「ねぇ~、あずさぁ~、電気屋さんっていつ来るの~?」
「ん~?わかんな~い……出来るだけ早く来るって言ってたけど……」
そう言う私も、唯と同様フローリングに寝転がっている。……だって、暑いんだもん……。
「はぁ~、今の温度ってどんくらいなんだろ……あずさぁ~」
「ん~?ここからは見えないよぉ~。ゆいのところからならよくみえるでしょ~……」
「あ、そっかぁ~。どえどれぇ……うぉっ!38℃!!……はぁ、見るんじゃ無かった……」
暑さの原因はクーラーが壊れてしまったから。
洗濯を終えて窓を閉め、出かけるまで室内バカンスを楽しもうと思ったら……。
「まさか、あのタイミングで壊れるとはねぇ……」
主電源を入れ直しても、コンセントを抜いてしばらくしてから同じ事をしても、クーラーからの返事は全く無かった。
「『アイス片手にバカンス気分を先取り!』の予定だったからねぇ~。……お!そうだよ!アイス!!アイス食べようよ!!それで少しは涼しくなるよ!!」
あ……そうかも……。
「じゃぁ、アイス持ってくるね~」
私はノロノロと身体を起こし、冷蔵庫へと向かった。


「お待たせ~」
冷蔵庫には悪いけど、冷気で少し暑さを紛らわしてからグラスに盛りつけたアイスを手に居間へと戻った。
唯はさっき居た場所から少しだけズレてフローリングの『ひんやり感』を味わって……あぅ……。
「ゆーいー、その恰好はどうかと思うんだけど……」
「ほえっ?」
多分、涼しい場所を求めて転がりまくったんだろう。スカートがはだけて下着が丸見えだ。
「……水色のパンツ、丸見えだよ」
「えっ!?あっ!……いやん、梓のエッチ……」
なっ!?
「エ、エッチって……唯がそんな恰好で居るから見えちゃったんでしょう?」
「そりゃ、まぁ、そうだけど……」
全く……自分がいけないのに、そんな事言うなんて……。そうだ!
「じゃぁ、今のは唯が悪いって事で、アイスは没収ね」
「そ、そんな!」
ふふっ、折角アイスを持ってきたのにそんな事を言った罰だよ。
「いただきまーす……んー!ヒンヤリしてて美味しい!」
唯はというと、指をくわえて恨めしそうにこちらを見ている。……ちょっと、かわいそうかな?
「あずさぁ~、もうあんな事言わないから~」
「……本当に?」
「うん!約束します!」
はぁ……まぁいいか……。あんまりやると後で色々と言われるし……。
「しょうがないなぁ~。約束だよ?はい、どうぞ」
「おぉ~!アイス~!ありがとう~!!……はぁ~、ヒンヤリするねぇ~」
唯はアイスの入ったグラスを両手で包み、ヒンヤリ感を楽しんでいた。
「唯……溶けちゃうよ……」
「はうっ!早く食べてあげないと……あれ?スプーンは?」
ん?……あ!
「ごめん……忘れてた。今持ってくるね」


「持ってきたよ~。……って、何してるの?」
唯お気に入りの『くまちゃんスプーン』を持って居間に戻ると、唯は床に寝転がったまま、目の前に置いたアイスを見つめていた。
「……アイスが『溶ける前に早く食べてー』って言ってる感じがするから、『スプーンが来るまで頑張れ!』って念を送ってるの」
……はぁ……なんだかなぁ~。
「……で、アイスは溶けずに済んでるの?」
「えへへ~、やっぱり無理みたい」
私の問いに、いつものほんやりとした笑顔で答えた。
……いつ見ても、この笑顔には癒されるなぁ~。
「あずさ~、スプーンは~?」
はっ!!いけないいけない。唯の笑顔に見惚れててスプーンの事忘れてたよ。
「はい、どうぞ……って、受け取る時位立ち上がってよ~」
「別にいーじゃん、ありがと。……ん?」
「な、何?このスプーンじゃないほうが良かった?」
スプーンを受け取った唯は、そのままの姿勢で私をジーッと見ている。
「ど、どうしたの?」
アイスが溶けるのも構わず、上半身を起こした姿勢のままで。
「梓……あのさぁ」
「な、何?」
えっ?一体何を言われるの?実はバニラアイスじゃなくてチョコアイスが食べたかった?
私があれこれと考えを巡らせていると、唯は私の顔を見つめて意外な言葉を発した。

「その恰好ってさ、もしかして……『私のイチゴもトッピングしてね』って意味?」

  ∵

……一瞬思考がフリーズしていたらしい。

「ご、ごめん。よく……わからないんだけど……」
「えぇ~、あんな恥ずかしい台詞をもう一回言うの~?」「あ、台詞もそうだけど恰好って……そんなに変かな」
「えー、だってさぁ……」
そこまで言うと、唯は再び私を見つめた。
私の恰好ねぇ……。変な所、あったっけ……?
「別に何時もと同じ恰好だけど……へっ!?あっ!!にゃぁぁぁ!!!」

この時期、家事をこなすと必ず汗をかく。
汗をかいたら気持ち悪いので、必ずシャワーを浴びる。
だから、当番の日の朝は、ほぼ必ず『ノーブラ』&『動きやすい服』だ。
因みに今朝はかなりゆったりサイズのTシャツと短パンを着用している。
その恰好で前屈みになったのだから……。

「うーん……良い眺めだねぇ~」
私は慌ててシャツの胸元を押さえ、しゃがみ込んだ。
「も、もぉ!唯の方がエッチじゃない!」
「まぁいいじゃん、おあいこって事でさ……よっと」
唯は掛け声と共に起き上がり、床に座り込んだ。
「『おあいこ』って……下着と生身じゃ釣り合わないじゃん……」
「ほらほら~、ぶつくさ言ってないでさ、溶ける前にアイス食べちゃお。電気屋さんも来るだろうし」
「……むぅ……」
私は不承不承ながら唯の言葉に従った。
「なーに?不満そうな顔しちゃって……」
そりゃ、不満だよ。当たり前じゃないの。
私がむくれていると、不意に唯が顔を近づけ耳元で囁いた。
「じゃぁ、デザートに『さくらんぼ』、食べてみる?」
「んなっ!!!」

な、何をいきなり……。
てか私がむくれていたのは『下着』と『生身』が釣り合わないって思っていたからなだけで。
別に『さくらんぼ』が食べたいって訳じゃなくて、でも食べられるなら食べたいなぁー。
あ、でもまだ昼間だよね、やっぱり明るいうちからってのはまずいよねぇ。んー、でも明るいと色々と見ることが出来てそれも良いかも。

「唯の『さくらんぼ』自然の光だといつも以上に美味しそう」「梓の『イチゴ』も同じくらい美味しそうだよ」とか言ったり。
「唯、『あずき』には蜜をたっぷりかけて食べてね……」「梓……美味しく食べてあげるからね」とか言っちゃったりして……。
あ、でも部屋だと暑いからお風呂場ってのも良いかもね。
お互いにシャワーをかけながら「ほら、梓の『イチゴ』が水に濡れて美味しそう」「唯の『さくらんぼ』だって、今すぐ噛み付きたいくらいだよ」なんて耳元で囁きあったり。
ぬるいお湯を張った湯舟に入って「あ、『さくらんぼ』が浮かんでるよ」「『イチゴ』は沈んだままだねぇ」「……イジワル……」「でも、触って軟らかさを確かめる事はできるよ」
なーんて、なーんて!むきゅー!ひゃぁー!うきゃー!

「あの~、梓さん?……アイス、食べないんですか?」
「はっ!!!」
しまった……妄想が大暴発してた……危ない危ない。
「……大丈夫?」
「あ、あぁ、うん。大丈夫……だよ……あはは……」
「そぉ?なら良いんだけど……ほら、溶けてきてるよ」
その言葉にグラスを見ると、アイスが半分位溶けて下に溜まっていた。
「私のアイス……。もぉ……唯が変なこと言うからだよ」
「変な事って……確かに言ったけど、その後の『妄想』は梓が勝手にしてただけじゃん」

……へっ!?
「エット……ワタシ……ナニカイッテマシタカ」
「んもぉ……別に何も言っていないよ。……ただ……」
「……ただ!?」
「ただ……真面目な顔だったのが、急ににやけだして、かと思えばボーッとなって、次の瞬間には『にへ~』って笑って、おまけによだれまで口の端に浮かべてたら……」
「はい!OK!わかったから!それ以上は言わないで!お願い!!」
「まぁ……妄想するのも悪くはないけど……アイス溶ける程に妄想し続けるのはどうかと思うよ」
「はい……以後、気をつけます……」
はぁ……自業自得とは言え……恥ずかしい……。

「……で、どうする?」
一足先にアイスを食べ終えた唯が変な問いかけをしてきた。
「どうするって……何を?」
僅かに残った『固形』のアイスを食べつつ、質問を返す。
「え~、……電気屋さん、まだ来ないよね」
「……多分ね」
すると唯はグイッと私に顔を近づけて、こんな事を言ってきた。
「じゃぁさ……『デザート』、食べない?自然の光に照らされた『イチゴ』って、……美味しそうな気がするんだよねぇ……」
!!!!?な、な、何をいきなり……!?
「ねぇ……梓は……どうする?」
そ、そんな、艶っぽい声色で言われたら……。
はっ!!ダメダメ!!これは唯の作戦よ!!引っ掛かってなるもんですか!!
「そ、そんな声で言ったってダメだよ!暑いんだし、電気屋さんが来る前にシャワー浴びて着替えるんだから!」
私はそう言い放つと、二人分のグラスとスプーンを手に持ち台所へと向かった。

「シャワーねぇ……。あ……濡れた『イチゴ』ってのも美味しいかも……」

……その一言に動揺して、ドアのレールに足を引っ掛けて転んだのに、持っていたグラスを落として割らなかった私を、誰か褒めて下さい……。


「では、失礼致します」
『ありがとうございましたー』

あの後、取り敢えず唯に『ウメボシの刑』を与え、シャワーを浴び、新しい服に着替えて……勿論ブラも着けて……少ししたら電気屋さんがやってきた。
どうやら原因は電源部の基盤にあるらしく、そこを交換したらすぐに動き出した。

「電気屋さんも大変だねぇ~」
「そうだね~」

汗だくになっていたので、冷えた麦茶と一口チョコを幾つかお盆に乗せて持って行ったんだけど……。

「やっぱり、この猛暑で故障が相次いでいるみたいだね~」

この後何件か設置と修理に行かなくちゃならないと言って、麦茶だけ一気飲みをして慌ただしく車に戻っていった。
「で、これからどうする?」
居間に戻り、手をつけなかったチョコを食べながら、唯がそんな事を聞いてきた。
「どうするって……特に予定は……晩御飯の買い物くらいかなぁ~」
「そっか~。あ~あ、クーラーが壊れてなければ……」
唯が残念そう呟いた。そうだよね……今頃は海で思いっ切り遊んでいたはずだもんね……。
「むぅーん……お!そうだ!ねぇ、買い物行こうよ!」
「へっ!?今から晩御飯の買い物に行くの?」
「そうじゃなくて……まぁ、それも買うけど……。梓、最近ブラがきつくなってきてない?」
「んー、そうじゃないのも有るけど……きつい方が多いかな?……ってなんでわかったの?」
「えー、だって……着けてあげる時、たまにきつい感じがするから……」
「それもそっか……って!恥ずかしい事を素で言わない!」
「別に良いじゃ~ん、誰も居ないんだし。よし!という訳で、これからブラを買いに出かけるよ!ついでにランチも食べに行こう!ブラ&ランチ、略して『ブランチ!』」
「……別に通販で良いじゃん……てかその略し方はどうなの……?」
ブラとランチが逆じゃん……という言葉は敢えて飲み込んだ。
「通販も悪くはないけどさぁ、たまにはちゃんと測って買うのも良いよ~。絶対に『着け心地』が違うから~」
『着け心地』ねぇ……。
「……それにしても珍しいよね。唯がこんなに外出したがるのって」
「……だってさ……今日は朝から『外モード』だったから……」
それもそうか、みんなと遊ぶのをあんなに楽しみにしてたんだもんね……。
「よし!じゃぁ、行こうか!あ、そのかわりランチは唯のおごりね」
「オッケー!任せといて!この間食べて美味しかったお店があるんだよ。次は梓と一緒に行こうって思ってたんだ~」
「それじゃ、エスコートお願いしますよ、ゆ・い♪……ふふっ」
「かしこまりました。梓様!……えへへ」
……二人でランチかぁ~、久しぶりだなぁ。


「美味しかった~、ごちそうさま」
「どう致しまして。ね、良いお店でしょ?そんなに込んでないし」
「そうだね~。また来たいなぁ~」
良かった……『私のお気に入り』、気に入ってもらえたみたい。
「さて、じゃぁ次は……買い物……かな?」
「そだね~。んーっと、こっちだよ~」
さて、次の『私のお気に入り』はどうかな?梓も気に入ってくれるかな?


「いらっしゃいませ……あら唯ちゃん、久しぶり~」
「店長さん、お久しぶりです~」
「丁度良かったわ~。唯ちゃんの好きそうな新作が、先週出たばかりなのよ~。ねぇ試してみ……あら?……唯ちゃん、あそこでこっちをジーッと見ているのって……」
店長さんが指差す方向を見てみると……おぅ、本当だ。……誰かさんがディスプレー棚の陰に隠れてこっちを窺ってる。
「あずさぁ~、そんな所に居ないでこっち来なよぉ~」
私の呼び掛けに、「う……うん」と小さく返事をして、トコトコとまるで子供のような足取りで歩いてきた。
「あ、やっぱり梓ちゃんだ。初めまして、店長の水野です」
「は、初めまして。えと、中野梓です。今日はよろしくお願いします」
「よろしく……?あ、じゃぁ今日は唯ちゃんじゃなくて……」
「そぉでーす。今日は梓の下着を買いに来ましたー」
「へぇ……梓ちゃん、こういったお店は初めて?」
「はい……高校生の頃から通販で済ませていたので……」
「んー、通販も悪くは無いんだけどね~。出来ればきちんと測って自分に合った物を着けた方が良いわよ。着け心地の良さだけじゃなく肩凝りが良くなったりするんだから」
「唯にも同じ様な事を言われたんですが、やっぱりそうなんですか」
「そうよ~。それじゃ、まず始めに梓ちゃんのカルテを作るわね。えっと……ここに腰掛けてもらって……この用紙に氏名・生年月日・住所・電話番号……」

梓がカルテに記入し始めたので、私は店長が言ってた『新作』をチェックし始めた。
おぉ、ピンクの花柄……カワイイなぁ、こっちは……レース付きのライトブルーか……ちょっと派手かなぁ……ん?これは……。
「店長さーん、やっぱり私も買いますね~。フィッティングお願いしま~す」
私がそう言うと、梓の相手を他の店員さんに任せて私の方へやってきた。
「あらそう、気に入ったのが有ったの?」

「はい、これなんですけどね……なんだか、気に入っちゃって……ほら、前に店長さんが『これだと思った時が買い時』って言ってたじゃないですか」
「よく覚えてたわねぇ、そんな事……。それじゃ、フィッティングしましょうか」
そう言うと、店長さんは私の選んだブラをチェックしてフィッティングルームに向かった。
「あずさぁ~、先にフィッティングしてるから~」
「わかった~」


フィッティングを終えて部屋を出ると、梓がブラの選定をしていた。
「お待たせ……どぉ?気に入ったの有った?」
「うーん……いっぱい有りすぎて目移りしちゃうよ……はぁ~、どんなのが良いんだろ……」
「そうだなぁ~、やっぱりこういったのは『これだ!』って感じた物を選べば良いんじゃない?」
「それが難しいんじゃない……。むぅ……」
随分と悩んでいるなぁ……あ、でも私も最初はそうだったなぁ~。よし!ここは一つ見立てでもしてみますか。

「これなんかどうかなぁ」
私が選んだのはクリーム地に苺柄でフリルが付いている物。私の見立てではかなり梓に似合うとおもう……けど……。
「うーん……私って、そんなイメージ?」
「うん、こんな感じだと思うんだけど……じゃぁこれは?」
次に選んだのは白の総レース。薔薇の柄が大人っぽさを醸し出している。
「総レースは……ちょっと……恥ずかしいよ……」
「んじゃ、これならどぉ?」
私のお気に入りでもあるライトブルーのシンプルなブラを差し出した。
「……これって、唯が持ってるのと一緒じゃん……」
「あ、ばれた?下着で『ペアルック』ってのも良いかなぁ~って思ったんだけど」
「……流石に、それは、どうかと……」
そっか……じゃぁ。
「やっぱりこっちが良いんじゃない?」
そう言って差し出したのは、最初に選んだ物。
「えぇ~、ちょっと……派手じゃない?」
「このくらいの方が可愛いって~」
実際、梓によく似合うと思うんだけどなぁ~。
「そうかなぁ……」
よし、それじゃぁちょっと強引に……。
「あ、すみませーん。ちょっとフィッティングお願いできますか?」
「かしこまりました。では、サイズを測りますのでこちらへ……」
不承不承ながら、梓は店員さんの後をついていった。
どうかな~、気に入ってくれるかな~。


「あ、支払いはカードでお願いします」
「かしこまりました」
ふふっ……やっぱり私の見立ては間違っていなかったみたい。
「それでは、商品はこちらになります。お手入れの仕方を書いた紙もいれておきますね……。お買い上げ、ありがとうございました」
梓が購入したのは私が最初に選んだ物だった。フィッティングルームで実際に着けてみて、自分に似合っている事を実感したみたい。
「それじゃ、唯ちゃん、梓ちゃん、また来てね……っと、いけないいけない。それでは、またのご来店をお待ちしております」
「店長さ~ん、わざわざ言い直さなくても大丈夫ですよ~。私達相手なんですから~」
「あら、そうはいかないわよ。『一応』お客様なんだし……」
『一応って言われた!?』
あぅ……酷いよ店長さん……思わず梓とハモっちゃったじゃない……。
「ごめんごめん……でも、けじめとして最後はきちんとしないとね」
店長さん……変にこういった所で真面目なんだよなぁ~。ま、そのギャップのおかげでこのお店が人気なんだけどね~。
「んと、じゃぁ、また……来ますね」
「おぉっ!梓、今の本当!?」
「うん。お店の雰囲気も良いし、店長さんだけじゃなく店員さんも良い人ばかりだからね~」
「そ?ありがと。じゃぁ改めて……。本日は、お買い上げいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。……それじゃ、またね」
『はい!』


「ねぇ、梓。さっきのって、本当?」
「さっきの……?何の事」
お店を出てしばらく歩いたところで、梓にお店の事を聞き直してみた。
「さっき、お店を出る時に『また来ますね』って言ってたでしょ?それの事」
「あぁ、それね……。うん、本当だよ。……唯に感謝しなきゃ、あんなに良いお店を紹介してくれたんだから……、ありがとね、唯」
「えへへ……どういたしまして」
良かった……また一つ、『私のお気に入り』を気に入ってくれたみたい……。
「あ、所でさぁ、唯は一体どんなのを買ったの?」
「……見たい?」
「な、何を……こんな所で見るわけにはいかないでしょ?」
「まぁね~。買ったのはね……サクランボ柄のブラだよ。帰ったら見せてあげるね」
「いや……別に……見たいわけじゃないんだけど……」
ふふっ……あんなに顔を赤くしちゃって……あ!そうだ!赤くなるついでに……。
私は梓のそばに近づき、近くに人が居ない事を確認して小声でこう伝えた。
「なんなら……私の『さくらんぼ』も、見せてあげるけど?」
「なっ……こっ……こんな人通りのある道の真ん中でそんな事言わないの!」
「別にいーじゃーん、聞いてる人なんか居ないんだし。……さ、次は晩御飯のお買い物にレッツゴー!」
さーてと、今日の晩御飯は何をつくってもらおうかな~。……あれ?梓は?
不思議に思って振り向くと……。
「ゆーいー!そっちじゃないよー!!もぉ……先行ってるからねー!!」
あれ?もしかして……間違えた!?
「あぁん……待ってよぉ~!!」
私の叫び声が、午後の町中に響き渡った……。


「ふぅ、おなかいっぱーい……ごちそうさまでしたぁ~」
晩御飯を食べ終えた私はソファーに横になった。
「はい、おそまつさまでした」
今夜のメニューは梓特製の『ハヤシライス』。……これも、『私達』のお気に入りだったりするんだけどね。
「ゆーいー、お腹落ち着いたら先にお風呂入ってて良いよ~」
「そ~お~?……じゃぁもう少ししたら入るよ~」
珍しいなぁ……何時も必ず先に入るのに……。


「ふぃ~、気持ち良いなぁ~」
今日は朝から色々と大変だったからねぇ~。しっかりと身体をほぐして疲れをとらないと……ん?
湯舟に浸かってリラックスしていると、磨りガラスになっているお風呂のドアに人影が見えた。
「……梓?どしたの?」
「……」
梓からの返事は無かった。代わりに、服を脱ぐ衣擦れの音がお風呂場に響いている。
「ねぇ~、あずさぁ~」
「ゆ、唯……入る……ね……」
そう言って入ってきた梓は、どことなく色っぽくって……普段と変わらないはずなんだけど、何故かそんな雰囲気を漂わせていた。
「梓……ど、どうした……の?」
思わず私は上半身を湯舟から乗り出してそう聞いた。
「あのね……朝、唯が言ったでしょ……『じゃぁ、デザートに『さくらんぼ』、食べてみる?』って……。私……その時から……おなか……すいちゃってたみたい……」
「え、あ、確かにそう言ったけ……んむっ」

私の抗議の声は、梓の唇によって中断させられた。
湯舟の中と湯舟の外、今までに無かったシチュエーション。
今、私の身体が熱いのは、きっとお湯に浸かっているから……だよね……。

「ねぇ……わたし……『さくらんぼ』……食べたい……な……」
唇を離した梓は……そんな事を言っている……みたい。なんだか……身体が……ふわふわしてきた……。
「水に濡れて美味しそう……ねぇ……唯……良いでしょ……?」
「んぁっ……」
私が……良いって言う前に……梓……『さくらんぼ』……たべはじめちゃった……。

「……おいしいよ……唯……」
「んふぅ……ふぁ……」
ふわふわ……ふわふわ……なんだか……ボーッとしてきたな……。
でも……私も梓に……言いたい事が……あるんだよね……。

「んんっ……あ、あずさぁ……」
「……な~に?」
「わたしも……おなか……すいちゃっ……た。……『いちご』……たべたい……な……」
「……良いよ……じゃぁ……お風呂出たら……たべよっか……」
「……うん……」

その晩……私達の寝室からは……。
「ぅん……『さくらんぼ』……おいしい……」
「ひぁっ……ぁあっ……い……『いちご』……も……おい……しい……よぉぉっ!」
そんな声だけが……響いていた……。


「ただいまー」
「おかえりなさーい……あら?お土産?」
「うん、スタッフの人に、絢音がウチに来て丁度一年だって言ったら、絢音にプレゼントだって~。……ところでその当人は?」
「あ、歯磨きしてるよ」
ほぅほぅ、それは好都合……。

「あーやーねっ!」
「あ!ママ~!おかえりなさーい」
「ただーいま。……歯磨きは終わったかな?」
「うん!今終わったよ!……な~に?手に持っているの……?」
「絢音へのお土産、歯磨き終わったのなら、食べても良いよ~」
「あ、イチゴだ~。ママ、ありがと~」
「どういたしまして……。食べたらちゃんと寝るんだよ」
「はぁ~い」


「よく寝てるよ……。疲れているのかなぁ?」
「あぁ、そう言えば帰ってきていきなり『はぁー、今日は体育で疲れたー!』って言ってたから、そうかもしれないわね」
ふぅん……。じゃぁ、今夜は目を覚ます事、無いよね……。
「ふぁ……私もちょっと眠いかな……。唯は?まだ起きてるの?」
「ん?あぁ、私も寝るよ……歯磨きして、苺を食べてからね」
「あ、私も歯磨きしたら食べておこーっと」


「お休み、唯……」
「お休み、梓……」
寝る前には必ず、梓にお休みのキスをしてから眠る……んだけど……今日は……特別に……。
「ん……ちゅ……んむ……」
「んん……ぷはぁ……。ど、どうしたの?唯……」
「梓……『いちご』が食べたいんだけど……良いよね……」
「え?あぁっ……ん……んんっ……」
「『いちご』……おいしいよ……。ねぇ……『さくらんぼ』……食べる?」
「ふぁっ……はぁっ……んくぅっ……た……んあっ……たべ……たい……な……ぁあんっ……」
ふふっ……じゃぁ……


「一緒に……『デザート』……食べよう……ね……」


おしまい!!


  • 何この隠語の群れw -- (名無しさん) 2010-08-24 19:13:23
  • この〜子持ちのラブラブ妻妻め! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-17 19:32:12
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最終更新:2010年08月24日 01:34