「唯先輩!こっちです!」
「遅れちゃったーっ」
「唯先輩らしいですね」
「えへへーごめんね」
「いいですよ、来てくれただけで帳消しです」
今日は唯先輩とデート。
といっても、
休日にできた暇を使って遊ぶだけ。
唯先輩も今日は忙しくないみたい。
「レポートは終わったんですか?」
「終わったよー。アレは強敵だったー…」
「巨人でも相手にしてきたような余韻に浸ってますね」
「小人だって皆で団結すれば巨人だって倒せることを証明してきたよ!」
「唯先輩が皆の足を引っ張っている図しか浮かばない…」
「あっ、ヒドイなーもう」
皆で机を囲んでレポートに取り組んでいる図が浮かぶ。
きっと大学に行っても変わらない関係なんだろう。
明らかに変わったと言えば、
私がそこにいないということ。
………。
でも、寂しくないもん!
「
あずにゃんは特に変わりない?」
「特に悪いこともなければ良いこともないです」
「平凡だねーそれでこそ軽音部って感じだよ」
「それ、純も同じこと言ってました」
「ホントに?純ちゃんってオモシロイの?」
「まあ、面白い方だとは思いますよ?ちょっと滑るけど」
「大丈夫!私はそれでも笑える自信があるから!」
「純に聞かせてあげてください。泣いて喜びますから」
なにをするでもなくブラブラ歩く。
アクセサリーショップやCDショップを回る。
気にいったものを見せあったり聴かせ合ったり。
他愛のない時間が過ぎていく。
「あずにゃんこの曲どーお?」
「まさにポップなロックって感じですね」
「私たちのと似てない?」
「んーでも唯先輩の歌声の方が好きです」
「んまぁ恥ずかしい♪」
「本当のことを言ったまでですから」
CDショップで時間を潰す。
片方ずつイヤホンをつけて二人で試聴。
「これだ」というものを見つけて即購入。
またコレクションが増えた。
「いい曲と巡り合えたね♪」
「唯先輩と選んだおかげです」
「えへへ、あずにゃんに褒められちゃった」
照れる唯先輩。
正直にカワイイ。
お持ち帰りしてしまいたいほどに。
でもなんとか押さえる。
「そろそろお昼ですね」
「そうだねーなに食べよう」
「パスタとかどうですか?」
「いいねーじゃあレッツゴー♪」
「そっちはなにもないです!!」
ノリで突き進んでいく唯先輩を引きとめ、
着いたのは安くもなく高くもないで評判の
イタリアンレストラン。
いかにも私達にはお似合いの。
「見てよあずにゃん!アイスが一杯!」
「あはは、よかったですね」
訂正…。
ここのレストランは侮ってはいけない。
特にアイスやらパフェのメニューが!
唯先輩にとっては宝庫に映ったらしい。
しばらくメニューから顔を離せずにいたぐらい。
「ふぅー満腹満腹」
「お腹でてるんじゃないですか?」
「大丈夫だよ。私太らないもん!」
「それ、絶対澪先輩とムギ先輩の前では禁句ですから」
「えーなんでー?」
「地の果てまで吹き飛ばされちゃいますよ?」
「なんかわかんないけど怖いからわかった…」
ちょっと二人のイメージに泥が…。
しかしこれはお互いのために必要な犠牲。
澪先輩、ムギ先輩、ゴメンナサイ。
「次どこ行くー?」
「映画館とかどうですか?」
「いいねーでも今なにやってるのかな」
「海猿とか言うのが流行ってるらしいですけど」
「ウミザル?どんなお猿さんが出てくるんだろ」
「まあ予想通りの反応です」
結局『海猿』は満席で見れなかった。
代わりに見たのは題名が長い恋愛モノ。
つい熱くなる唯先輩が可愛かった。
映画の内容はもちろん頭に入らない。
「結局あの二人、別れちゃったね」
「そうですね」
「世界って不条理なんだね」
「そうですね」
「じゃああずにゃんにコレをあげよう♪」
「どんな流れで『じゃあ』なんですか!?」
唯先輩に「腕を出して」と言われる。
私は腕を差し出した。
唯先輩がその腕に何かをはめる。
どうやらブレスレットのようだった。
たぶんさっき立ち寄ったアクセサリーショップの。
「コレは…さっきのお店の?」
「うん、あずにゃん喜んでくれるかなーって」
「どうでもいいところで気が回るんだから」
「どうでもよくないよ私にとってはね」
「私だって嬉しいですよ…」
「そう?」
「驚き半分ですけど…」
「サプライズだもん♪」
唯先輩の優しさに胸が熱くなる。
恥ずかしさと嬉しさで息苦しい。
こんな苦しさがあったんだ。
新しい発見をした気分。
「よーく見てごらん♪」
「え…」
促されてブレスレットの装飾を見る。
その形は、
「ネコ?」
「そうネコ!」
「私だけに?」
「あずにゃんだけに!」
もう一度マジマジと眺めてみる。
何度見ても、猫以外の何物でもない。
それでも、どこか…
「私だから…なんですね」
「そうだよ。あずにゃんだからだよ♪」
「大切にします…」
「じゃああずにゃんが出世したら返してね」
「出世払い!?というか貸しなんですか!?」
「世の中というのは不条理にできているのだよ」
ハッハッハと愉快に笑う唯先輩。
でも、絶対にはずしてなんかやらない。
これは、たった今、
私だけの宝物になったのだから。
901 名前: date. [sage] 投稿日: 2010/09/16(木) 01:59:18 ID:gjDIkRvm0
「コレは返しませんからね。別ので我慢してください」
「その時は私に
プレゼントしてね」
「忘れてなければ、ですけどね」
「えー忘れないでよぉー」
「じゃあ忘れないようにおまじないでもしますか?」
「おまじない?」
「はい…でも、ちょっとだけ恥ずかしいおまじないです」
「ちょっとぐらいの恥ずかしさ耐えて見せます!」
あぁ、と自分の発言に自己嫌悪。
それでも時間は巻き直らない。
ひょっとしてこれは神様の悪戯?
ううん、例えそうでなくても…
「唯先輩、目閉じて…おまじないします」
「う、うん…」
「終わるまで、開けたらダメですよ」
「うん…」
「じゃないと、魔力が薄れちゃいますから」
「うん…」
不安そうに震える唯先輩。
場所は公園に移したし、人目もない。
最後にもう一度確認する。
すると、唯先輩が口を開く。
「ん…あずにゃん…?」
「ごめんなさい、もう準備できました」
「私は準備できてるよ?」
「私だって準備が必要なんです…」
唯先輩の頬に手を添える。
ビクッと震えた。
緊張してるのかな…。
きゅっと目を瞑って何かに震えるよう。
それでいて、何かを期待するような…。
「唯先輩……いいですか…?」
「うん……いいよ…」
「しますよ…?」
「うん……して…」
魔法がかかる。
「………」
「………」
この瞬間私たちは
見えない何かで繋がれた
気がした…
「……おまじない終了です」
「えへへ、随分と長いおまじないだね♪」
「唯先輩が吸うから」
「あずにゃんだって」
「そうですけど…」
「随分と暗いね」
「え?」
当たりはとっぷり暮れていた。
そもそも公園に来るまでの意識が朦朧すぎた。
すでにあの場所からスイッチが入っていたのか。
「おまじない」を口にしたあの時から。
案外自分はムッツリなのかもしれない。
「唯先輩
これからどうするんですか?」
「明日もあずにゃんといるつもりですがなにか?」
「大学は…?」
「ちゃんと行くよ。明日の午後には帰ろうかな」
「じゃあ今日は…」
「なんのためにご両親がいないか聞いたと思う?」
「察しはついてましたけどね」
「まだ緊張するの?」
「なにが」
「私と二人っきりになること♪」
「そんなの、もう卒業しましたよ」
「私だって卒業したよ」
「……」
「……」
「でも、ちょっと…」
「うん、そうだね…」
公園のベンチで肩を寄せ合いながら。
これからの事に思いを馳せる。
私たちの一日はまだ終わらない。
おわり
最終更新:2010年09月16日 14:06