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―1― リエステール西街道・ミナルへの道。 この日も若干の雲は存在するものの、太陽はさんさんと輝き、川に沿って散歩でもすると、川のせせらぎもあいまって気持いいかもしれない。 ……そんな中、ミナル川を渡る橋の付近で、ひとつの支援士のグループが魔物の一団と交戦していた。 「我が右手に集え紅を纏う火精 我が左手に集え緑旋を宿す風精」 その中の一人――三人の前衛に守られるように立つ小さな少女が、呪文の詠唱を開始する。 …彼女達の前に立ち塞がるのは、この世界でも最弱とされる魔物であるスライム。 主に集団で現れる事の多い魔物だが、戦闘能力そのものが微弱であり、駆け出しの支援士のいい的だったりする。 ついでに言うなら、赤、青、黄……と様々な色が並んでいるものの、実際は色能力すらも持たない個体であり、弱点等を気にする必要もない。 「我が力を糧に一つとなりて敵を討て! ブレイズウィンド!」 その呪文が完成すると同時に、少女の両手の赤と緑の光が融合し、火をともなう風の刃となってスライムの一団に襲いかかる。 それは着弾と共に炸裂し、広がる風と共に、その火も密集したスライムを巻き込んでいた。 「イリスちゃん凄い……複数の属性の統合なんて…」 そのさらに後方から、感嘆にも似た声を出すリスティ。 これまでヴァイと共に旅をし、何人かのマージナルに会うこともあったが、『天』や『幻』などといった特殊な組み合わせ以外の属性統合は見たことがなかった。 「……精霊王の記憶か……成長に従い、能力も自動的に開花していくと言うが……」 その横で、冷静に分析をするマージナル――エミリア。 『記憶』に宿る経験もその開花の内にあり、属性統合の才も、ごく最近に自然と出来るようになったということかもしれないが…… 「…私は、なにを馬鹿なことを……」 自分は、イリスの事は妹のように思っているし、火と風、と自分と属性は違うものの、同じマージナルになると言いウィッチの道に入った事は嬉しかった。 ……ただ、最近になって一つの懸念が産まれていた。 それに対しては、自分に向けてそんなことは考えるものではないと言い聞かせているのだが…… 「――エミィ! リスティ! 後ろ!!」 「……なっ!?」 うかつだった。 いくら相手が雑魚といっても、戦闘中に余計な事を考えるものではない。 ……特に、ここは下級とはいえ様々な魔物がうろつくフィールドの上。 戦闘中に、全く違う魔物が乱入してきてもおかしくはない。 「レムリナム!?」 ……イリスの戦闘訓練だからと、後方待機でぼんやりしすぎていたのが問題だったのだろう。 気がつけばスライムに向かっていた四人との距離が大きく開いていた。 「……ちっ!」 舌打ちしながらヴァイが飛び出し、リスティに斬りかかろうとしていたトカゲ人間の一匹に斬りかかる。 「ヴァイさん!」 ゼロコンマ秒単位で、一瞬早くヴァイの剣がトカゲ人間の剣を持つ腕を斬り飛ばし、リスティへの一撃を回避する。 ……が、“乱入してきた敵は一体ではない” 一瞬遅れて、また別の一体がエミリアに向けて剣を構えていた。 「あ……アイス…」 とっさに詠唱破棄による呪文を放とうとするが、それでも距離が近すぎる。 発動の鍵となるキーワードだけを口にするにも、紙一重の状態だった。 「エミィ!」 「!?」 死をも覚悟しかけたその瞬間、聞き慣れた声と共に横から衝撃が走る。 しかし、それは“攻撃”によるものとは違い、強く抱きしめられるかのような、苦しくも安心にも似た感覚を覚えるものだった。 「…ディン!?」 とっさに閉じてしまっていた目を開けてみると、自分をかばうように立ち、トカゲ人間の剣をその身で受けるディンの姿。 「な、何を無茶な…」 ……ディンの身に付けているジャケットは、布地の内側に鎖帷子のように鋼線が張り巡らされ、大抵の刃物を弾き返すように作られている。 しかし、それでもジャケットに覆われていない首から上にでも当たればそんなものは意味をなさないのだ。 「……悪い、離れすぎてた…」 ディンは、誰よりも早くレムリナムの接近に気が付いていた。 しかし、そこは速さでは劣るパラディンナイト。 一瞬遅れて気が付いてなお、行動が追い付いたブレイブマスターであるヴァイのようにはいかず、あの距離では間に飛込むまでが限界であり、その上で斬り返す程の行動は出来なかった。 「…あぁっ!」 一泊おいて、ディンはその重装備の重量にモノを言わせたタックルを目の前のトカゲ人間に加え、その体を大きく吹き飛ばす。 そして、それを追うようにヴァイが駆け出し、体制の崩れた相手のその首をはね飛ばしていた。 「ディンさん、大丈夫ですか!?」 直後、リスティがディンにかけより、治癒聖術の詠唱を始める。 …刃自体はジャケットが防いだものの、打撃としての衝撃までは防ぎきれない。 多少のダメージは残されているだろう。 「……ん? ティールは?」 その治癒を受けている間、ふと自分達のギルドマスターの姿が見えないことに気付く。 先程ディンが防いだエミリアへの一撃も、彼女ならばヴァイと同じようにきりかえせたはずなのだが…… 「……あそこだ!」 直後、ヴァイがある方向へ目をむけて声をあげる。 全員がそれに従い目をむけてみれば、そこにはティールとイリスの姿があり…… 「お……大きい……!?」 その二人と対峙するように立つのは、全長にして二メートル以上はある巨大なレムリナム。 以前、とある支援士のグループが、ミナル川付近で巨大なレムリナムと戦ったと言う話を耳にしたことがあったが、それはそのグループの手で退治されたはず。 ……尤も、魔物は”コア”から一定周期で再生される存在なので、一度倒されたからといっていなくなるものではない。 「……いくぞ、今度は離れるな!」 改めて剣を構えるディンと、駆け出すヴァイ。 「――ぁあ!」 ガキィィン……と響く金属音。 すれちがいに斬りつけたヴァイの一撃は、巨大レムリナムのウロコの表面に多少キズをつけただけだった。 「…ちっ、堅いか…」 ブレイブマスターの性質上、ヴァイは攻撃に重さを出す事は出来ない。 反撃が来るその前に相手の射程を離れ、再び攻撃に移るべく体勢を立て直す。 「エミィ! なにぼーっとしてる!?」 「っ! う、うむ…!」 その間に、間合いに踏み込んだディンがエミリアに呼び掛けつつ、斬りかかる体勢に入っていた。 そして、エミリアは杖を構えて詠唱体勢に入り… ―ヴァイのフェルブレイズでもウロコ一枚……ショートカット・スペルでは歯が立たぬな……― 「我が手に宿りし氷精 ここに命ず 汝、万象を断つ冷たき刃と成りて……」 それは、普段詠唱破棄で発動させている“アイスニードル”の上位詠唱。 単純に術式を長く伸ばしただけのエミリアのオリジナルスペルだが、その分召喚される氷槍の貫通力は大きく強化されている。 「グルォオ!!」 が、―それだけの知能があるかは不明だが―その詠唱を食い止めようとするかのようにエミリアに斬りかかろうとするレムリナム。 だが、その前に壁のようにして立つディンが、振り下ろされたその剣を、水平に構えた自らの剣で受け止め、その腕ごと振り上げるようにして弾き返した。 「ディヴァイン・&ruby(フレア){F}・ブレイド!!」 ――そして、そのまま剣を持ち直し、ヴァイが斬りつけた傷目掛けて、炎のメンタルを込めた渾身の一撃を振り下ろし…… その一振りは、前の傷口から大きく抉るように鱗を斬り裂き、鱗の下にある血に塗れた皮膚を露出させる。 「……我が前に立ち塞がりし愚かなる者を打ち貫け! フェイタル・フロ-ズン!!」 そして、その直後に完成するエミリアの術式。 急速に周囲の温度を奪いつつ、撃ち出されるのは巨大な一本の氷槍。 その一撃は、ヴァイとディンが斬りつけ、抉られた皮膚の上に向けて放たれた……はずだった。 「あっ――!?」 それは僅かな……ほんの僅かなズレ。 二人の攻撃を受け、レムリナムはよろけるようにして体勢を崩し、身体を傾けて膝をついた。 それは普通ならば、こちらにとって絶好の機会である。 しかし、相手のその行動により、”立ち上がった状態の”相手を狙って放たれた氷槍の狙いも逸れ、相手の身体の表面を掠めただけで通り過ぎていってしまった。 「……そんな……」 いつもの自分なら、こんなヘマはしない。 ある程度相手が動こうが、的確に照準を定める自信もあった。 それが、こんな絶好の機会になって失敗するなど…… 「――イリス、いくよ!!」 「うん!」 ……そう落ち込みかけた時、後方から聞こえてくる声。 振り返ると、ブレイブハートの炎をその手に持つ槍の切っ先に集め、突撃の体制をとるティールの姿が目に映る。 そして同時に、さらに後方で火のメンタルをその両手に集中させるイリス。 「焦熱の赤をまとう火精 猛々しきその咆哮は万象を討つ槍とならん! ファイアランス!!」 しかし、何を思ったのだろうか。 集中されたメンタルは火の槍となってその手から撃ち出されたが、その切っ先は『親』であるティールに向けられている。 そしてその先にいるティールも、イリスの魔法の接近を待つかのように、槍を構えたまま動こうとしない。 「――なっ!?」 真っ先に驚愕の声を上げたのは、エミリアだった。 イリスの火はティールの槍先の炎に飲み込まれるかのように一体化し、その直後にティールはそのままレムリナムに向けて走り出す。 当のレムリナムは僅かな時間がひらいたせいか、今にも立ち上がろうとしている。 ……しかし、完全に体勢を整えていない現状、ティールにとってはそれはさしたる問題ではなかった。 「――デュアルブレイズ・スラスト!!」 イリスの紅き火槍と、ティールの蒼き炎槍。 二つの力が重ね合わされたその一撃は、先の傷ついた皮膚を的確に捉え、一撃の下にその肉体を撃ち抜いていた。 「ガッ……ァ!」 そして、槍を引き抜きティールがその足元より離れた直後、力無く倒れていく巨大レムリナム。 その瞳は既に光を映さず、その身体の鼓動は完全に途絶えていた。

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