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白いつばさの旅日記・４ - (2011/10/13 (木) 19:57:32) のソース

<p> </p>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　通路を歩き始めてしばらくすると、意外にもすぐに広い場所へ出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　天井には無数の管やロープのようなものが縦横無尽に走り、高さは通路の倍以上は高くな</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　その広い場所の逆側には、さっき歩いていたものと同じ通路が伸びていたが、目の前には</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんな物が意識の外に追いやられるような物が存在していた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　古い、古い扉だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　武骨な両開きの巨大な扉は一体どんな金属を使っているのか、表面が赤錆びてはいるが劣</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">化しているようには見えない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　その重厚な扉の存在感の前に思わず、二人そろってしばらく呆気に取られていたくらいだ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
った。「すっごーい……」と思ったことを口に出したティラに対して、ライトはというとニヤリと</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">口元が自然と釣りがるのを止められなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　間違いない。これは当たりだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　放心状態から立ち直った俺はそわそわと扉に近づくと、一通りトラップがないことを確認</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">してから扉へ手をついた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「すごいな。これは」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『技術や形状、材質などから、恐らくは旧時代の物かと思われます』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「旧時代……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　声は冷静だが、内心では興奮のせいで心臓は早鐘のように打っているし、手の平なんか汗</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">でぐっしょりと濡れている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　旧時代の代物などは、ロストテクノロジーの結晶そのものだ。そもそも旧時代崩壊から千</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">年以上が経過している今、原形を留めている物自体が稀で、それもその殆どが最高難易度</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ダンジョンとして有名な大地の裂け目・グランドブレイカーでしか発見されないため、いまだ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">その技術のほとんどは解明できてないと言ってもいい。おかげでその技術を応用して</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">制作された機械武器は恐ろしいほどの価値になる。つまり、旧時代の物は冒険者にとって</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">は宝箱の中の財宝に等しい存在なのだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　恐らく俺の目算だと、とライトは目の前の扉を撫でながら思案した。目の前の扉だけでも</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">持って帰ってそれ相応の場所で売れば億は確実にいく代物だろう。無論こんな巨大で重そ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">うなものを持って帰るのは事実上不可能と言わざるを得ないが、そんな扉で守られている</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">代物には、はたしてどれほどの価値がつくのか……。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……ライトー、よだれ出てるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　ティラに指摘され、はっと我に帰る。そうだった。まずはこの扉をどうにかしなくちゃな！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">と思い直し、改めて扉をぺちぺちと叩いた。やはり何の反応もない。見上げてみると、や</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">はり大きい。これだけ大きいと、どんな怪力自慢でも、押したり引いたりして開けられる</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ものではないだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「さてと…この扉どうやって開くんだ？鍵とかいるのかな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　もしそうだったら泣くなぁ……と思っていると、そこでまたもやティタノマキアが声をか</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『どうやらパスワード式の電子ロックが掛けられているようですね』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「…ぱすわーど？でんし？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　なんのこっちゃ。とまるで呪文のような言葉の羅列に思わず首を捻ってしまうが、ティタ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ノマキアは構わずに続けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『どうやらそこまで複雑なシステムにはなっていないようです。命令があれば電子ロック</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">の解錠を試みてみますが、いかがなさいますかマスター』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……あ、ふえ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　その時になってやっと我に返ったティラが間抜けな声を出す。それからぼーっと現状を把</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">握するために上の空になった後、ふと視線を戻した先でライトがものすごい笑顔で「わた</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">くしブチ切れますわよ？」と言外に語っているのを見て、一気に現実へと引きずり戻され</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ひぃっ！？は、はははい！お願いしまひゅ！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　どもりまくった挙句に噛んだが、幸いティタノマキアはきちんと命令として認識したらし</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
い。『了解しました。パスワードの解析を開始します』というと、杖からはキュイィィィィ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ンという不思議な駆動音が鳴り出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
『―――パスワード解析中。解析進行率30％……45％……67％……84％……99％……、解</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">析完了。パスワードを入力。電子ロックを解除します』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　ティタノマキアが言い終わると、扉の内部から何かが外れる堅い音が聞こえてきた。続い</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">てガコォン、と重々しい音を立てて扉が中央から割れ始める。割れた扉は、そのまま左右</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">の壁へと呑み込まれていき、やがて完全に壁の中へと収まると、扉が開いた向こう側から</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">漏れ出てくるものがあった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　音だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　ティタノマキアが駆動する時の音の何倍、いや何十倍にもした奇妙な重低音が、扉の奥か</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ら聞こえてくる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　はやる気持ちを抑えて扉の奥へ足を踏む入れると、そこは一つの装置を中心に据えた巨大</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">な広間だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　うす暗い広間の中、中央の巨大な装置の円を描くように沢山の机が設置され、その机上に</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">は沢山のボタンが埋め込まれていた。その机と垂直になるように、青色に点灯する横長い</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">板がいくつも立てられている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　それらが囲む巨大な装置の中央には、人ひとりがすっぽりと入りそうなほど大きなガラス</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">の容器が鎮座し、中で蒼色の液体が揺れていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　そして、その容器の中に、人の姿があった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　年齢は10歳にもなっていないだろうか。金糸を伸ばしたような綺麗な長い金髪は液体内で</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">好き勝手に広がって、華奢な体に纏わりついている。膝を抱えた態勢で液体内で浮いてい</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">る幼い少女は、一糸纏わぬ姿のまま静かな眠りについていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……扉を開けたら、オンナノコの薬漬け、かぁ……。ここまで完璧に遺体を保存できる</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ってのはすごいんだが」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　でもなぁ？と落胆を隠しきれない様子で、ライトは蒼色の液体に満たされた容器の中で眠</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">っている少女を眺めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　こんなにも厳重に保管されているということは、恐らく旧時代でもかなり重要な立場にい</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">た少女だったのだろうというのは想像に難くない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　無限迷宮は実は旧時代の陵墓だった。なんていう説もあるくらいだから、そんな予想も荒</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">唐無稽ではないだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　……だが、少女が薬漬けになった容器などどうしろと言うんだ。確かに中の液体などには</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かなりの価値があるかもしれないが、好きでこんなものを買い取りたいと思う研究者は少</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ないだろう。よくて物好きな一部の好事家だけだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「マキア、これがなんなのかわかるか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『いいえ、残念ですが私のデータベースにも存在していません』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　そうか、と頷いてから、まぁ旧時代風の墓かなにかだろうな。と取りあえず仮定しておく。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　とりあえず墓なら何か副葬品があるはずだと、ライトはめげずに探索を開始した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　だが広いと言っても、その大部分を中央の巨大な装置と周りの机が占めているような部屋</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なので、探索はすぐに終わってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　結論から言うと、何もなかった。中央の巨大な装置は床に固定されていて外すことはでき</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なかったし、そもそも大きすぎて持って帰るのは無理だ。まわりの机にも、大量のボタン</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">が埋め込まれているだけでペンの一本すらない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　徒労、という言葉が頭に浮かび俺は手頃な位置にあった椅子に倒れこむように座った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　ぼへーっと周りを見てみると、何が面白いのか、ティラが目を輝かせながら熱心に装置を</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">観察している。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　それを眺めながら深い溜息を吐いて机に肘をつくと、コツン、とその肘先に何かが当たっ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　埃が厚く積もったそれを手で拾い上げ、埃を払うと、出てきたのはとても古い本だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">表紙は劣化が進んでボロボロになっていたが、奇跡的に中は綺麗なままだ。ページの最初</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">に日付が書かれていたり、内容がすべて肉筆で書き殴ってあることから、たぶん日記かな</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">にかだろう。書き方から、恐らく男性。ボロボロになった表紙にも辛うじで持ち主の名前</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">と思しき筆跡が残っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ギブソン・J・ワイルダー、か」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　誰に言うでもなく一人呟く。散々戦ってトラップを掻い潜って粘液で全身ドロドロになっ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">て、ようやく見つけたのは旧時代の少女の遺体とボロボロの手記が一冊。怨むぜギブソン</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さん。といまは亡き人物に愚痴りながら手記を懐に入れた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　その直後。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　うす暗かった広間が突然昼間のように明るくなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　は？と突然の事態に呆気に取られている間に、今度は人工的な響きのある女性の音声が大</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">音量で降ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『フュージョン・システム、起動します』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　さっきから聞こえてきていた一定の重低音とは違う、明らかに装置が動いていると思わせ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">る大小様々な音が装置から聞こえてくる。それはまるでオーケストラが様々な楽器で音楽</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">を奏でているようだ。そんな中で音声は続ける。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『現在フュージョン・システムは、オートモードで稼働しています。繰り返します。現在</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">フュージョン・システムは、オートモードで稼働しています。システムをマニュアル操作</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">に切り替える場合は既定の手順を踏んで……』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　そこでようやくはっと我に返った俺は、即座に椅子から立ち上がると、機械の傍でおろお</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ろとしているティラに向かってダッシュで近づいて叫んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「おいティラ！お前いったい何をした！？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「えっ、い、いや、ちょっとここのスイッチを押して……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「馬鹿野郎！トラップだったらどうすんだ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　どうしたら止まる！？と慌てて机に埋め込まれているボタンを凝視するが、操作の方法な</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ど皆目見当もつかない。そうこうしている間にも、机の上に立てられていた板には無数の</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">記号が次々と表示され、どんどんと上に流れては消えていく。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『現在フュージョン・システムは、オートモードによる培養器開放へ向けてのシーケンス</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">コントロールを続行中。プログラムを停止する場合は、管理システムにログインして、停</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">止コマンドを入力してください。繰り返します……』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　機械の前であたふたとしている二人を置いて、機械はさらに変化を見せる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　ゴボゴボと音を立てながら、中心の容器の中を満たしていた蒼い液体が波打ちながらどん</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どんと減っていくのだ。やがて液体の水位は少女の頭よりも低くなり、それから肩・胸・</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">腰と次々に水面の外に出ると、ついには容器の中の液体は完全になくなり、中には少女の</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">裸体のみが残った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　それから数秒の間を開けて、バシュゥ！という音と共に容器の一部が割れて開くと、中か</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ら液体に濡れた少女の体が転がり落ちてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「うおっと！？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　目の前に落ちてきた少女の体を反射的に抱き止める。抱いた拍子にひんやりとした液体で</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">服が濡れてしまったが、もともと化け物の返り血や粘液でドロドロだったのであまり気に</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ならない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『シーケンスコントロール完了。フュージョン・システムを終了します』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　そう言ったきり、目の前の装置は沈黙した。心なしか部屋を照らしていた蒼い光源も暗く</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なっている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ら、ライト、大丈夫？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「見りゃわかるだろ。つーかなに余計なことしてんだよこのアホ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「うっ…ごめんなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「まったくだよ。って、うへぇ、なんで俺死体なんか抱いてるんだよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　一通りティラに文句を言ってから、自分がいまだ少女の遺体を抱いていることに気づいて</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">顔を歪ませる。だが、と俺は少女の顔を至近距離でまじまじと見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　遺体とは思えないくらいその肌には艶がある。瑞々しく、張りがあり、生気に満ちている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">と言っても大袈裟ではない。まるでいまにも動き出しそうな……。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　ぱちり。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「…………え？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　見開かれた少女の目と、目が合った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　綺麗に澄んだ琥珀色の右目と、エメラルドグリーンの左目。見たこともない様な色合いの</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">オッドアイの瞳に、処理限界を超えてしまって固まっている俺のマヌケ面が映し出されて</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　どれくらいそうしていただろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　少女は俺と目を合わせたまま小さく首を傾げると、不思議そうに声を漏らした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「…………がおー？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>