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SS-07

駄作5号 追加エピソード

◆yuri0euJXw


「ゆきちゃん。ゆきちゃん。起きる時間だよ。」

髪も服装もすっかり整えた奏は,幸せそうな顔をして寝ている雪乃を起こそうと雪乃の体をゆすってみる。

「うぅ‥ん‥‥かなちゃん‥‥また‥まるまるバナナ食べてるぅ‥‥ムニャムニャ。」
「なに寝言言ってんだか。」

あどけない雪乃の顔を見ながら,奏は幸せそうな溜息を吐く。
さわり心地の良いほっぺたをつつきながら,どうやって起こそうか思案していると,雪乃はまたいくつかの寝言を言うのだった。

「ムニャムニャ‥‥だからかなちゃんのおなかぁ‥‥ぷにょぷにょなんだよ~。」

うふふと幸せそうな笑みをこぼしている雪乃はまだ夢の中。
奏を包んでいた柔らかい空気は,雪乃の寝言で一気に消え去った。

「いつまで寝てんのよ!!雪ねぇ。食堂閉まっちゃうでしょ?!」
「いひゃいひゃいひゃいひゃい。(;>Д<;)」

雪乃は安らかな眠りを盛大な頬っぺた伸ばしで妨げられた。

「かなちゃ~ん。もっと優しく起こしてよ~。」
「頬っぺた抓られたくなかったら早く起きなさい!!」
「かなちゃんのいけずぅ~。」

ベッドからためらいなく起き上がった雪乃の肢体は,輝くような朝日に照らされ,奏にはとても眩しかった。

(うわ‥‥‥やばっ‥‥思い出しちゃうよ‥‥‥。)

奏は赤面する顔を隠しながら,雪乃に背を向け自分も出かける用意をする。
雪乃はそんな奏の様子を横目でとらえると,上着だけを羽織ったラフな格好で,奏の背中に抱き付いた。

「どうかしたの~?かなちゃん♪」
「べっ,別になんでもないわよ。」
「‥‥‥そんなんだと首に付けたキスマーク見えちゃうよ?」
「え゛っ!!!!!」

奏はあわてて自分の首に手を回し,雪乃を振り返る。
そこには舌をペロッと出して,微笑む雪乃の顔があった。

「うっそだよ~ん♥」

慌てふためく奏を楽しそうに抱き締める雪乃と,何とか雪乃の頬っぺたをつねろうともがく奏は部屋の中央でもつれ合うように取っ組み合っていた。
傍から見ればどう思われるだろうということはこの時の二人の頭には全く考えもなく,そんな時に限って不幸は訪れる。
パタパタという足音とともに勢いよくドアが開けられた。

「おーい,奏。ゆきちゃ~ん。今日のごみ当番なんだけどさぁ‥‥‥。」

突然の来客は天使とともに参上。そして天使が過ぎ去る数分間,沈黙が流れた。

「‥‥あんたたちさぁ,一応双子なんだから‥‥まぁ,あんま野暮は言いたくないけど,少しは自重したら?」

来室した寮生は明らかに双子の状況に誤解しているようだった。
「あ~あ。あてられちゃうね~。」と冷やかす寮生のせいで,奏と雪乃は今の自分たちの状況をやっと客観的に見ることができた。

「あ‥‥あのね。着替えてる途中だったんだよ。別になんでもなくって‥‥。」

おっとりと答える雪乃をよそに,奏は叫んだ。

「部屋に入る時は,ノックくらいしろって何回言ったらわかるんだー!!!」

結局散々からかわれる始末となった。
当然犠牲は奏だけで雪乃は奏を窮地に追い込むようなギリギリの冗談を飛ばすものだから,食堂に集まってきた他の寮生にも奏はいいようにからかわれ,散々な一日の始まりを迎えることとなった。

「酷いよ。ゆきちゃん。」

いつものようにホームに佇む二人。しかし,奏はやけに疲れた顔をしていた。
流石に,悪いと思ったのか雪乃はまるまるバナナで奏の機嫌を取ろうとしていた。

「奏先輩!雪乃先輩!おはようございます!」

今日も元気いっぱいな咲夜が二人に声をかける。

「‥‥咲ちゃんおはよ。」
「おはよう。咲ちゃん」

いつもにもましてげんなりとした奏に咲夜は心配そうに声を掛けた。

「どうしたんですか奏先輩?なんだかまるで徹夜で頑張った新婚の旦那様のような疲れた顔をなさってますぅ。」
「あ‥‥あのね‥‥。」

こめかみをひくひくとさせる奏だったが,咲夜を相手にする気力もなかった。

「それじゃあ,私が奏先輩を看病します。添い寝をして,着替えを手伝って‥‥。」

あれもしてこれもしてと妖しくくねりながら咲夜は妄想を口にするが,突っ込む気力もない奏だった。
雪乃はそんな咲夜にこそっと話しかける。
多分,奏には聞こえないだろうとたかをくくって。

「そう言えば,咲ちゃん。例のものなんだけどね。」
「えぇ?!本当ですかぁ?」

妖しいくねりをやめて現実世界に戻ってきた咲夜は小さく驚嘆の声をあげた。
ぴくりと奏の耳が動く。不穏な動きを察知するのにも奏は幾分慣れたようだ。

「‥‥もちろんですよ。雪乃先輩なら絶対本物ですから。でもここじゃちょっと‥‥。」

一つ一つ奏の耳に届く会話がすべて不穏なものに聞こえるのは習慣のなせる技か。

「でも今日部活ないし‥‥‥‥だから,はい♪」
「やぁん,雪乃先輩ったらぁ。でもでもぉ,ありがとうございますぅ,雪乃先輩。それじゃお約束の高級ホテルカフェの20種類ケーキ食べ放題のチケットを‥‥。」

それまでかけらも相手にしなかった奏が音もなく近寄り,咲夜の手から,雪乃が渡した紙袋を奪った。

「あぁ!!奏先輩!!」

ガサガサと咲夜の手から奪った紙袋の中身を出すと,それは奏が朝探しても見つからなかった昨日着ていたスパッツだった。

「ゆきちゃん。これ‥‥どういうこと?」

ドスの利いた声がホームに響く。

「いや‥‥それは‥‥痴漢のお守りに咲ちゃんに頼まれて‥‥。ねぇ?咲ちゃん。」
「はい。奏先輩のにおいの染み込んだスパッツをお守りにしてればもう痴漢にあっても大丈夫です!」

冷汗をかく雪乃と,何が大丈夫なのか分からないが自信に充ち溢れた咲夜がこぶしを振り上げている。
二人の前に奏が立ちはだかる。

「いい加減にっ‥‥‥しなさ~~い!!」

そして,二人の頬っぺたに片手づつ手を伸ばして,必殺の頬っぺた伸ばしを炸裂させたのだった。

「いひゃいひゃいひゃいひゃい。(;>Д<;)」
(あぁん。奏先輩の愛の鞭。私,奏先輩だったら,痛いのも平気ですぅ。)

ふんと顔を背け,脹れっ面をする奏は,赤く腫れた雪乃の頬っぺたを見てあまりの痛そうな様子に,それで許すことに決めた。
もちろん奏の着用済みスパッツは回収済みだ。

咲夜が頬っぺたを抑えて,うっとりしているのをよそに,奏の隣に雪乃が戻ってくる。
もうそろそろ電車もホームへ到着する時間だ。
脹れっ面で,不貞腐れたまま奏は雪乃に問いかける。

「ゆきちゃんはさ‥‥‥あたしとおやつとどっちが大事なのよ?」
「‥‥。」

質問と同時に電車は到着し,雪乃の返事は到着の爆音にかき消されてしまう。
しかし,雪乃は駅の喧騒の中でも奏にだけ聞こえるように奏の耳傍でそっと呟くのだった。

―――かなちゃんに決まってるじゃない―――

風が吹き通るような軽やかな声で呟かれたその言葉に,雪乃の真実が見え隠れする。
それまであったすべてのことを吹き飛ばすような爽快さを感じて奏は雪乃と電車へ乗り込んでいった。
そっと繋いだ手が,また奏の胸を熱くさせるのだった。

軽快な音を立てて発射する電車の影から,少女が一人姿を見せる。

「あー。そこの妖しく悶える女の子!!危ないから下がって!!」

今日も咲夜は遅刻決定だ。



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最終更新:2010年11月18日 22:56
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