無題(前編)
◆yuri0euJXw
今日もウキウキと雪乃は机に向かってブログの更新に励んでいる。
「うっふふふ♥」
「ゆきちゃん。今度また変なこと書いたら‥‥わかってるよね?」
「わっ,わかってま~す。奏さま~。」
そう言って何度奏にほっぺたを引っ張られたことか‥。
全く懲りてない雪乃に奏は軽くため息を吐く。
部屋の隅でスケッチブックを広げ、ブログ更新にいそしむ雪乃をスケッチする。
小さい頃は二人で白いスケッチブックに向かっていろんなものを書いた。
雪乃は外で遊ぶのが好きで奏は絵を描くのが好きで部屋の中でクレヨン遊びをしているといつも先に眠くなるのは雪乃だった。
それからいつもお昼寝タイム。奏は雪乃の隣でそのあどけない寝顔を見るのが好きだった。
柔らかくプニプニと触感のいい雪乃の頬をツンツンと突きながらそこにキスしたこともあった。
奏は昔のことを思い出して,クスッと微笑む。
ノスタルジックな感傷に浸る自分が少し恥ずかしかった。
「ん~。なぁに?」
「ん。何でもない。」
脇目も振らず真剣にノートパソコンに向かっている雪乃に声だけで返事した。
そういえば、あの柔らかいほっぺたを引っ張るようになったのは何時からだろう?
「‥‥ゃん。」
「‥‥ちゃん。」
「ぅうわぁっ!」
雪乃は奏の手が止まったのに気付いて終わったのかと声を掛けたのだが,どうも反応がない。それにどこか表情がトリップしているような感じだ。
雪乃は奏の真正面から顔をつき合わせるが奏の意識は一向に戻ってくる気配はなかった。
一方奏は雪乃のことを思いながら物思いに耽っていたため、目の前に急に雪乃が現れた時には,驚きのあまりスケッチブックとデッサン用の鉛筆を放り投げてしまっていた。
「どうしたの?かなちゃん。」
「あ‥‥いや‥なんでもな‥‥。」
「無いわけ無いでしょ?」
奏の前で小首を傾げながら、雪乃はクスッと笑いながら言った。
雪乃は立ち上がると,奏が放り投げたスケッチブックと鉛筆を拾い上げる。
手に取ったスケッチブックには、書きかけの雪乃の姿があった。
「はい、かなちゃん。」
雪乃は奏にスケッチブックと鉛筆を渡すと,奏と同じ位置に目線を揃えた。
「ブログは?」
「終わったよ?」
「かなちゃんは?」
「あ‥‥うん。今日はこんなとこかな。」
奏は手渡されたスケッチブックを閉じると両手を大きく広げ一息伸びをした。
「それいいでしょ~?」
雪乃は笑顔を振りまいてどうにか奏の同意を得ようと必死だった。
「あ‥うん‥ま,そうだね。」
「でっしょでしょ~。」
雪乃が差した「それ」とは雪乃の懸命なトライの前で敢え無く散っていった数々の低反発枕であり,それは今は奏の尻の下にある。
今や枕の姿はそのままで,その能力を座布団として発揮していた。
「と~っても気持ちいいんだから~。」
雪乃はお気に入りの低反発枕の良さを切々と語り始めた。
しかしそれは奏によってバッサリと遮られた。
「そんな調子のいいこと言っても誤魔化されませんよ~だ。」
「か,かなちゃ~ん。」
「それもこれも生卵は臭うから枕は嫌って雪ねぇが言うから仕方なくあたしが使い方を考えたんであって‥‥。」
「ごっ,ごめんなさ~い。奏さま,すご~い。えら~い。」
反省しているんだかしてないんだか,見た目だけは反省している雪乃だった。
「もぅ。雪ちゃんたら‥。枕にいくら費やしたと‥。」
「あっでも、お金が少ないのはかなちゃんが衝動買いしたからで,枕のせいでは‥」
それを聞いた瞬間奏の顔が赤く染まる。
「あ‥あの‥それは‥‥。」
奏がしおらしくなったかと思った瞬間,にゅっと伸びた奏の手は雪乃の頬をとらえた。
「かなひゃんひやい~。」
「こらっ,話を逸らすなっ!話をっ!」
「ふぁ~い。」
「もう。」
奏はプンすかとふくれっ面を見せるが,その顔は赤くなったままだった。
雪乃は引っ張られた頬を撫でながら,奏にはわからないように優しく微笑んでいた。
頬の痛さが懐かしいとでも言いたげな,そんな微笑みだった。
「かなちゃん。ほら~。」
髪をかきあげ奏の方に耳を向ける。
奏はそれを見て,驚きの表情を見せる。
「ちゃんと描いてくれた?私たちの記念の印♥」
「ちょっ,だってそれつけてるの左だし!」
「だってかなちゃんがつけてくれたの左でしょ?」
右から見てた奏にはわかるはずもなく。
む~とむくれる奏に雪乃は嬉しそうに追い打ちを掛ける。
「かなちゃん。もしかして気付かなかったの?」
その言葉に胸を抉られた奏は,半分泣きそうな顔で瞳を潤ませていた。
気が付かなかったことを相当後悔しているようだった。
にやにやと楽しそうに雪乃は奏に詰め寄る。
「あの時のかなちゃん可愛かったな~。」
雪乃はそっと奏のあごをとって,自分の方を向かせる。
「真っ赤な顔で,必死に告白してくれて,照れた顔がとっても‥‥。」
静かに近づく雪乃の顔を感じながら,奏はじっと雪乃の唇から目が離せないでいた。
急に訪れた雪乃のスキンシップ。思いもかけない衝撃に戸惑いの声を上げた。
あの時,誰もいない公園でよかったと,心底思ったものだ。
しかしあの出来事以来,雪乃の挙動が気になって仕方ないことも事実だった。
近づく雪乃の唇に意識が行ってしまう。あの時の衝撃が印象的すぎて,どうしても意識してしまう。
雪乃の湿った桜色の唇がゆっくりと言葉を紡ぐ。
そこから漏れてくる声は,奏の拍動に掻き消されて奏の耳へは届かなかった。
「ああああ‥‥あのねぇ。ゆきちゃん。」
もう少しで,雪乃との距離が0になろうとした時,奏はものすごい勢いで,
雪乃の両手をつかみ,がばっと距離をとった。
それまで緊張の余り息することも忘れ,はぁはぁと奏はやっと呼吸することができた。
キッと強い視線で雪乃を見つめ,今度は逆に雪乃に詰め寄る。
詰め寄られたまま後退ると,雪乃の背にはベッドの縁が来てそれ以上の逃げ場はなかった。
「そうやって,いっつもやられてばっかりじゃないんだからね!」
顔を赤くして,半分叫ぶように,奏は雪乃にタンカを切る。
でも雪乃は怯むどころか,そのままきょとんとしていた。
奏のセリフを受け止めると雪乃は,そのままたっぷりと時間をおいてから,おもむろに口を開くのだった。
「じゃあね~,かなちゃんがして♪」
「はぁっ?!」
「ん~♥消毒?そしたらかなちゃんとおあいこでしょ?」
にっこり微笑む雪乃は,左耳にしたピアスを奏に見せながら,そう言うのだった。
「自分が何を言っているのかわかってるのか!」と突っ込むはずの奏は‥‥。
「雪ねぇってば‥‥まったく‥‥。」
「嫌?」
突っ込みを入れるどころか,既に堕ちていた。
ごくりと唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえる。
奏が自分で作った沈黙が,自身に重く圧し掛かる。
しかし,奏にとってそれはもう大した障害ではなかった。
「‥‥もう‥‥ばか‥‥。」
はにかむ奏はそっと雪乃の頬に触れる。
足は冷たいくせに,雪乃の頬っぺたは昔から,柔らかくて,温かくて‥‥。
奏はそこへ,そっと唇を寄せた。
初めて触れた時のことを思い出すように。
柔らかくて,温かくて,食べてしまいたいようななんとも言えない気分。
「ほっぺじゃないでしょ,かなちゃん?」
「わかってるって‥‥。」
もう一度だけ,そこに触れる。チュッと音がするくらい,少しだけ吸いついてみる。
くすぐったそうに雪乃は目を瞑る。
「あ‥‥。」
何かを思い出したように,奏から声が漏れた。
雪乃は片目を開けて奏の様子を伺う。
その瞳には,とてもうれしそうに微笑む奏の笑顔が写った。
「どうかしたの?」
「ううん♪別に~。」
弾むように奏は答え,今度は雪乃の耳たぶをペロッと舐めた。
「ひゃっ。急に舐めちゃやだ~。」
「ゆきちゃんだっていきなりだったでしょ~が。」
「そうだっけ?‥ひゃぁ‥‥ん。あ‥‥くすぐったいよぉ‥‥ぁ。」
「だ~め。念入りにしないといけないんでしょ?消毒♪」
「ふぅ‥ん。」
はじめは余裕たっぷりだった雪乃だったが,たっぷり念入りに耳を弄られたせいか,
徐々に声は熱を帯びたように変化し,瞳は潤んでいた。
「ゆきちゃん‥‥?」
奏は背に回された雪乃の腕から力が抜けたのを感じると,ちょっとだけ雪乃の表情を見た。
頬を高揚させ,少し困ったような表情を浮かべる雪乃がそこにいた。
普段ではちょっとお目にかかれないような雪乃の姿が,奏の胸をキュンと締め付ける。
もうちょっとだけ,雪乃を困らせたらどうなるだろうと‥‥奏は思った。
空いている手を雪乃のうなじに移動させ,普段髪で隠れているうなじに触れる。
生え際を撫でるようにそっと触れると,雪乃は小さく声を上げた。
耳朶だけでなく,奏は耳に穴にも舌先を滑り込ませた。
少しづつ少しづつ,思いっきりよく行う度胸はなかなか出なかったが,その動きがかえって雪乃には絶妙だったようだ。
「んんんん~。かなちゃ‥‥んっ,そこっ‥違っ‥‥ぅん‥‥。」
「ゆきちゃん‥‥。」
「ひゃぁん‥‥。だ‥めぇ‥かな‥‥ちゃん‥‥ふぁっ‥‥。」
耳元で囁いたせいか,吐息が耳にかかり,雪乃の体が震えた。
色っぽく身悶える雪乃が奏の目には新鮮で,目が離せない。
露わになっている首筋にそっと唇を移動させると,雪乃は鼻に抜けるような甘い声を漏らした。
首筋に沿って舌先を伝わらせる。そっと首の付け根にできたくぼみをなぞるとまた甘い息を漏らした。
小さく小さく響く,雪乃の声。でもそれはとても甘く奏の脳裏に響き渡る。
もっと聞きたい。ただそれだけの想いが,奏を行動に駆り立てる。
「ゆきちゃんもさ‥‥こんな声‥‥出せるんだね。凄くエッチで‥でも可愛い声‥‥。」
「はぁ‥‥ぅん。酷い‥よ,かなちゃん。ぁ‥‥その言い‥‥方っ。」
「だって不思議なんだもん。」
どんなふうにすれば雪乃を鳴かせられるのか,奏は触れられるところすべてに触れてみる。
服を着たままでも意外とそこかしこにポイントはあるようで,いくつか見つけたポイントを奏は重点的に攻めてみた。
「ぁ‥んぅ‥‥かな‥ちゃ‥‥ん。」
一際甘えた声で雪乃が奏の名を呼ぶ。
静まり返った部屋に,二人の衣擦れの音と,雪乃の艶のある声だけが静かに響く。
ベッドの縁にもたれかかったまま,雪乃は熱心に施される奏の愛撫に身を任せていた。
じわじわと密着してくる奏を受け止めるように,雪乃は奏の背に力の抜けた腕でしがみつく。
しかし,施された愛撫に蕩け始めた雪乃の体は次々と攻めよせる官能的な刺激に身を震わせて耐えるしかなかった。
「はぁ‥‥。」
一心不乱の愛撫に一息つけた奏は,初めてまともに雪乃を見る。
高揚した肌,熱に潤んだ瞳,軽く弾んだ呼気は雪乃の魅力を惹きたてる。
女性としての色っぽさを最大限に表した雪乃を前に奏は改めて息をのんだ。
呆然と見つめる奏に気がつくと,雪乃はそっと身を起こして,
奏の額に自分の額をくっつけた。
「かなちゃん。ちゃんと責任取ってくれないと,メッなんだからね♥」
「うぅ~~。」
「私をこんな風にしたのはどこの奏さんですか~?」
にっこり微笑んで,そっと奏の頬を撫でながら雪乃は言う。
「もうホントに‥‥雪ねぇってば。」
奏は吐き捨てるようにそう言うと,雪乃の両頬を掴んで,ぐいっと顔を引き寄せる。
重なる唇ははじめての接吻。触れるだけの軽いものだ。
でもそれは,奏の想いがしっかりと込められていた。
「どうなっても,知らないんだからね!」
放れた唇から聞こえた第一声は,奏らしい元気な声だった。
それを聞くと,雪乃は嬉しそうに微笑み返す。
「私だって,かなちゃんじゃなきゃ,やだも~ん♪」
しっかりと抱き締め合う二人は,どちらからともなくベッドへと沈んでいった。
最終更新:2010年11月08日 09:41