確かめあう愛って
◆yuri0euJXw
「さ‥‥さぁ,お風呂にしよっか。」
食事を終え,微妙な空気の中での雪乃の一言は,憮然とした咲夜の顔を一変させた。
「奏先ぱぁ~い♥いっしょに‥‥。」
「さ‥‥咲ちゃんは私とお風呂に入ろうね~。」
咲夜の言葉を雪乃が遮った。
「え~。あたしは雪姉ちゃんと入りたいぃ~。」
ぷぅっと頬を膨らませて雫が割り込む
「うちのお風呂はそんなに広くないっしょ?しーちゃんはあたしと入ろうね~。」
奏はぼやく雫をつれて部屋を後にする。
部屋を出ていく二人がちらっと残りの二人を見ると,ひきつった笑顔で雪乃が咲夜を押さえ込んでいた。
「咲ちゃんはお客様だからお先にどうぞ。温泉じゃないけどごめんね。」
と奏は声を掛けた。
もがもがという擬音と雪乃がひらひらと手を振るのを見届けると,
「さぁ,しーちゃん。一緒にお布団ひきにいこうか。」
と奏は雫の背を押しながら強引に部屋を後にした。
雫はブスッと膨れ面をしたまま仕方なさそうに奏に従った。
◇◆◇
「あの人さ‥‥。」
むくれたまましばらく黙っていた雫は広げた敷き布団を叩きながら徐に口を開いた。
「ん?」
「かなねぇちゃんと入った方が嬉しいんじゃないの?あたしだって雪姉ちゃんと入るの楽しみにしてたのに」
「いやぁ‥‥ねぇ‥‥。」
頬をぽりぽりとかきながら奏は返事に困っていた。
「あの人かなねぇちゃんのカノジョ?」
さらっととんでもないことを宣う妹に奏は即答で否定した。
「ひぇ?!ないないない。そんなのない。絶対あり得ないってそんなの。!」
「そんなに必死に否定しなくてもわかるよ。全然そんな風に見えないもん。」
「あ‥‥そ‥‥。」
雫は淡々と作業をこなした。
それから二人の間にはたわいもない会話が交わされる。
相変わらずの雫の辛口への対応に焦る奏と雫の二人を並べるといやに雫が大人びて見えた。
「でたよ~。」
ほくほく顔で雪乃が二人を呼びにきた。
後ろにはやや疲れ顔をした咲夜が続いていた。
もうずいぶんと眠そうなあどけない顔が奏の方を向いていた。
「咲ちゃん。今夜はここ使ってよ。」
「ふみゅ~ん。ありがとうございますぅ~。奏せんぱぁい。」
咲夜は眠そうな顔で枕元にいた奏に倒れこむ。そして奏の胸元で深呼吸しながらうっとりと語りだした。
「あぁん。奏先輩。このまま私と熱い夜を過ごしませんか。いやそうしましょう!それが良いです!それしかありません!」
「いやいやいや。何言うかな?この娘は‥‥。てかそんな眠そうな顔しててもそういうのだけは忘れないんだね‥‥咲ちゃんて‥‥。」
「だって,ここは大好きな奏先輩のご実家ですよ?それも同じ屋根の下,ご両親不在というおいしいシチュエーション。人目をはばからず二人は愛を確かめあう‥‥。」
「雪ちゃんもいるししーちゃんもいるし‥‥それに確かめ合う愛もないっしょ。」
奏がげんなりとしている隣で咲夜はトリップしながら悶えていた。
「かなちゃんかなちゃん。どうせ咲ちゃんは悶え疲れて寝ちゃうから先にしーちゃんとお風呂入っておいでよ。すっごく気持ちいいんだからぁ。」
「ん。そうする。うちのお風呂久しぶりだし。いこっ!しーちゃん。」
奏が雫に手を差し出すとその手をすり抜けるように雫は動き出していた。
「かなねぇちゃんに付き合ってたらお湯が冷めちゃうよ。」
「はぅ‥‥すみましぇん。」
奏は雪乃と顔を見合わせると,こそこそと雫の後を追うのだった。
◇◆◇
「かなねぇちゃんは,あの人のこと好きじゃないの?」
「はい?」
奏は雫の髪を泡立てながら素っ頓狂な声を上げる。
「だってあの人鼻血出しちゃうくらいかなねぇちゃんの事好きなんでしょ?」
「しーちゃん,何で鼻血出したこと知ってんの?」
「雪姉ちゃんに聞いた。」
「あ‥‥そ‥‥。じゃあ咲ちゃんの事も雪ちゃんから?」
「ううん。でも見てれば分かるよ。‥‥そのくらい。」
「際ですか‥‥。」
「で,どうなの?」
洗い終わった髪から流れ落ちる水滴を払いながら雫は返事を求めた。
「一部の性癖を除けばいい子だとは思うけど,好きとかそういうのはちょっとね‥‥。」
「じゃあさ,かなねぇちゃんは他に好きな人いるの?」
雫は真っ直ぐな視線のまま奏を見つめて言った。
純粋すぎる問いかけに奏は言葉に詰まるが,言葉が続くことはなかった。
「あ‥‥あぁ。しーちゃん。そろそろ出ないと雪ちゃんが退屈してるよきっと。」
何となく答えをはぐらかす奏に向かって雫はぼそっと零すのだった。
「‥‥かなねぇちゃんの‥‥ばか‥‥。」
「ん?何か言った?」
とぼけた顔で聞き返す奏を見てため息を吐きながら雫は少し大きめな声で言い直した。
「かなねぇちゃんみたいに勢いで旅費を散財しゃうような人を好きな物好きもいるんだなぁ~って言ったの。」
「はぅぅ~~。」
キツいなぁ~しーちゃんは‥‥と言いながら二人は湯船に浸かった。
少し熱めの柔らかいお湯に優しく包まれ,奏は旅の疲れを癒すのだった。
「心配しなくてもあたしはしーちゃんも大好きだよ。」
「も‥‥か。でも私は雪姉ちゃんが一番好きだからね。」
「はは‥‥左様でございますか。」
雫の「雪乃が一番宣言」に奏は少しショックを感じつつ二人で居間に向かった。
「あれ?咲ちゃんは?」
「案の定寝ちゃったよ♪」
「流石にお嬢には厳しかったか。」
あどけない顔で眠りにつく咲夜の顔を覗き込んで奏は優しく微笑む。
「雪姉ちゃん。一緒に寝るくらい良いでしょ~?」
「ん~。私はぁ,かなちゃんを狼から守らないといけないんだけど‥‥。」
チラッと奏の方に視線を向けた。
「でもでも~しーちゃんのお部屋客間の近くだもんね。一緒に寝よっか?しーちゃん♪」
「わ~い!」
「ちょっと,雪ちゃん!あたしのこと見捨てるつもり?」
「あの人連れてきたのはかなねぇちゃんが旅費使い込んだからでしょ?そう言うの自業自得っていうのよ。」
「はぅ~~。すみましぇん~~。」
「と言うわけでお休み。かなねぇちゃん。」
雫は雪乃に楽しそうに絡みつきながら自室へ向かった。
空を掴むように手を伸ばす奏は,若干の心細さに半べそをかきながら渋々自室へ向かった。
咲夜に荒らされそうになったが間一髪免れた自分たちの部屋。
二人で寝るには調度よいダブルベッドに一人潜り込むとそこは思っていた以上に広かった。
「寮のベッドはシングルだからなぁ‥‥。」
この部屋にいた頃よりも今はずっと雪乃のことを近くに感じる。
身も心も‥‥。それはベッドのせいだけではなかった。
「雪ちゃ~ん‥‥。」
雪乃の名を呼びながら奏はベッドで丸くなった。久しぶりの一人寝に心細さを感じながらも,
やや懐かしい雪乃の匂いに包まれながらうつらうつらし始めた時だった。
静かに部屋のドアが開いた。すうっと入り込んできた冷たい空気が奏の頬を撫で,意識を呼び起こす。
朦朧としたまま奏は人の気配を感じた。
「だっ誰?!」
身を強ばらせて声を上げようとした奏の口元は優しく手で塞がれた。
「騒いじゃダメ~♥」
それは雪乃だった。
「どうしたの?雪ちゃん今夜はしーちゃんと寝るって‥‥。」
小声で会話をする二人の距離は息がかかるほど近い。
「えへっ♪かなちゃん寂しがってるかな~と思って様子見に来たの~。」
しーちゃん寝ちゃったしね♪とにっこり微笑んだ雪乃の笑顔は二人の周りの空気を暖かく感じさせた。
「でもしーちゃん起きたら悲しむよ‥‥今日だって‥‥。」
「大丈夫~。気が済んだら戻るからぁ。」
「気が済んだらっ‥‥てぇ!」
雪乃の唇が奏の頬に触れた。そのまま滑るように首筋へと落ちていく。
捕まれた両腕には力が込められ,スルリと難なく奏の隣へ滑り込んだ。
「ちょっ!雪ちゃん。今日は‥‥っん。」
「同じ屋根の下,両親不在のおいしいシチュエーション。人目をはばからず二人は愛を確かめあうぅ♪」
「っん。それじゃ咲ちゃんと同じじゃない!」
「えぇ~違うよぉ。」
拒む奏に甘く囁くように耳元で雪乃は言った。
「私たちにはぁ,確かめ合う愛があるでしょ~?」
「ふぁっ‥‥雪ちゃっ!」
雪乃の言葉がゾクゾクと奏の心を揺さぶった。
甘く響く言葉は,残っているはずの理性を麻痺させる。
雪乃が触れる場所ひとつひとつが熱を持って奏をじわじわと責め立てていく。
「かなちゃんは,違うのぉ?」
「ふっ‥‥んぁ‥‥そんなの‥‥い‥‥言わなくても‥‥わかっ‥‥る‥‥でしょうに‥‥。」
「いつもよりヒクヒクしてる。感じてるの?」
「‥‥っ‥‥ダメ‥‥。見つかっちゃうっ‥‥。」
「こんなに濡れてるのに‥‥。」
「ぁ‥‥ダメぇ‥‥声‥‥出ちゃう‥‥ってぇ。」
「ふふっ,そんな声だすと聞こえちゃうよ?」
「くぅっ‥‥ん‥‥。」
「かなちゃん‥‥大好き‥‥。」
雪乃はすり寄るように奏に寄り添い二人の間を埋めるように熱っぽい愛撫を施していく。
奏は苦しそうに漏れる声を抑えるが,熱っぽい溜め息だけは堪えきれなかった。
目尻に浮かぶ涙を愛しげに口に含むと雪乃の口の中には切なさが広がった。
「かなちゃん‥‥。」
二人で一つずつのピアスにそっと口付ける。
静かにパールが転がり,アレキサンドライトが妖しく煌めいた。
その煌めきに魅入られたように雪乃は陶然としたまま奏の耳を愛でた。
「ゆきっ‥‥ゆきちゃっ‥‥ぁ。」
切羽詰まったような奏の声に雪乃は我に返ると奏の唇にそっと口付けた。
「もう‥‥我慢できない?」
濡れた唇をじらすように軽く触れながら問いかけると,奏の唇が震えた。
「ふっ‥‥ぅ‥‥‥‥ん。」
「ん~♥かなちゃ~ん。」
「はぁ‥‥ゆきちゃ‥‥。もっ‥‥っ!」
「ひとりでイく?それとも一緒がいい?」
「ぁ‥‥一緒‥‥一緒がいいっ‥‥。」
「うん‥‥私もかなちゃんと一緒がいい‥‥。」
奏の潤んだ瞳を包み込んだ瞼に口づけながら,雪乃は奏の手を自分の秘所へ導く。
「かなちゃんも触ってくれる?」
潤沢な愛液に奏の手は滑るように雪乃の秘裂を行き来する。
同じように雪乃も奏を優しくなぶる。荒く繰り返す呼気の間隔が徐々に速まる。
「っ‥‥ダメ‥‥ゆきちゃっ‥‥。」
「うん‥‥私も。」
にっこりと微笑む雪乃の塗れた唇は奏のそこをしっかりと塞ぎ,頂点に向かって二人は登りつめた。
◇◆◇
目が覚めるともう外は明るかった。
鉛色の空が多いはずの故郷の空でそれはとても清々しく感じた。
「奏先輩~。おはよーございま~‥‥ぐぇ!」
起き抜けの咲夜の声に身構えたが,奏のもとに届いたのは苦しそうな呻き声だった。
「うぬぬぬぬ~。このお子ちゃまは私と奏先輩のおはようのキスを邪魔する気ですか!?」
「‥‥働かざる者食うべからず。今時小学生でも知ってるよ。」
咲夜の首根っこを掴んで侵入を防いだのは雫だった。
「ふみゅ~ん。仕方ありません。奏先輩のために美味しい朝ご飯お作りしますぅ。」
雫の言葉に渋々従い,咲夜は去っていった。
「凄いね,しーちゃん。あの咲ちゃんを‥‥。」
「別に,雪姉ちゃんが心配してたから様子見に来ただけだよ。」
「はは‥‥さいですか。」
「それに‥‥かな姉ちゃんは節操無しは嫌いって言っておいたから。」
「む‥‥難しい言葉知ってるんだね。」
入り口に立っていた雫は足早に奏の元に近付いた。
「‥‥雪姉ちゃんがこんな節操無しとは思わなかったけど。」
布団の影に隠れた奏の乱れたパジャマを確認するように雫は奏に言った。
「し‥‥しーちゃん?」
言われて自分の姿を確認し,奏は慌ててはだけた胸元を隠す。
「今日はわがまま言わないから,いつもみたいに二人で寝ればいいよ。」
ほどほどにしといてねと付け加えて雫は部屋を出ようとした。
「しーちゃん!!」
振り返る雫に奏は優しく微笑みかけていった。
「今日は姉妹仲良く三人で寝ようよ。ね?」
雫はそのままくるっと振り返りながら言った。
「寝起きから寝ること考えてるなんて,かな姉ちゃん頭大丈夫?早く来ないと朝ご飯無いからね。」
とげとげしい言葉を残して雫は部屋を後にした。
しかし言葉とは裏腹に雫の口許には笑みが浮かんでいたことに奏は気がつくことはなかった。
雫の足音が遠ざかっていく中で,奏でふと雪乃とのことを思う。
「確かめ合う愛‥‥か。」
奏は複雑な心境でその言葉を口にするのだった。
最終更新:2010年11月11日 17:21