雫×咲夜
名無しさん
>>7さん、いつも設定を使わせてくれてありがとうございます。
イメージ違ってたら更にごめんなさい。
お願いします投下させて下さい。
しー×さくで、エロなしですが続きです。このスレに音楽を真剣にやっていた、またはやっている人がいたらごめんなさい。
では、どうぞ。
ある土曜日の午前中、雫は玄関の前で立ち尽くしていた。
今は夏休みでもなく、冬休みでもない。
ただの週末である。
両親が出稼ぎで不在なのに突然の来客に驚き玄関の引き戸を開けると彼女はいた。
小さな体に似つかわしい高そうなファーの付いたバイオリンケースと共に。
「何であんたが、ここにいるの?」
目の前の少女は真冬だというのに汗だくで息を切らしている。
「きょ、今日は、奏先輩と雪乃先輩のデートを張り込む、予定だったんですよ、で、でも……」
先日、土曜日は奏と久しぶりにデートをするという情報を雪乃のブログからゲットした咲夜は金曜日、学校が終わってから次の日のために寮に張り込んでいたのだが、運悪く雪乃に見つかってしまった。
雪乃は普段はおっとりとしているが、何においても一枚上手な事を知っている咲夜は、見つかった途端、らしくないと思いながらも慌ててしまった。
そんな咲夜に、くすりと微笑み、こそっと耳打ちをする雪乃。
それを聞いた途端、咲夜の顔色は変わり、いつの間にか咲夜は雪乃の前からいなくなっていた。
「……あなたのメールにも、そんなそぶりはなかったし、でも雪乃先輩が言うんなら、本当かなって思って、心配になって、つい……」
咲夜と雫は、雪乃のブログで遠距離喧嘩の末、ゲームの勝負をしつつ、時々喧嘩もしながら、いつの間にかメル友となっていた。
その内容のほとんどは数字の羅列なのだが、たまに咲夜の方から今日あった出来事などの文章を添えて送っている。
そして返って来た雫からのメールには金曜日に雪乃が言った雫の様子とは違うと思った咲夜は、大好きな奏先輩の事よりも雫の事で頭がいっぱいになって、気付いたら飛行機に乗っていて、二度と行きたくないと思っていた、ど田舎の駅から全速力でここまできた。
バイオリンも郵送すればいいのだが、住所も知らないし、直接渡したかったし郵送だと心配だったから咲夜はここまで持って来たのである。
まだ息を切らしている咲夜を冷めた目で雫は、
「あのさあ、雪姉ちゃん、あんたに何言ったの?」
雪乃の発言とは違う、いつものような強気な雫の発言に、きょとんとし、雫を見上げる咲夜。
「な、何って、あなたがまた一人で泣いてるって雪乃先輩が……」
咲夜の発言に、はあ?と思いながらも少しムッとした雫。
「別に泣いてなんかないし、姉ちゃん達も週一で電話くれるし、あんたにこんなこと言われる筋合いはないんだけど」
分かったら早く帰って、とぴしゃりと言う雫と金曜日の雪乃の発言と噛み合わない事に気付いた咲夜は、わなわなという擬音が聞こえるかのように奮えだした。
自分が好きなのは奏先輩のはずなのに、今日の自分は雫を思って 北海道まで来た。
これまでの自分の行動を思い出して急に恥ずかしくなった。
そこで始めて気がついた。
はめられた---!!
思い込んだら突っ走る、そんな咲夜の性格の先を読んだ雪乃は最近ホームでも雫とのメールに夢中になっている咲夜を見て雪乃は咲夜にこう告げたのだろう。
この前しーちゃんに電話したらね、声、かすれてて涙声だったよ。
また一人で泣いてるのかな---。
と。
やっぱり雪乃先輩の方が一枚上手なんだあ~~。
なんだか急に力が抜けてがっくりと肩を落とす咲夜。
「相変わらず後の事考えないで突っ走たんでしょ?少しはその無い頭を使って考えて行動したら?」
雫の言葉にムッとした咲夜は顔を上げた。
「あなたこそ、相変わらず口の減らない生意気なお子様ですね~~!心配した私が馬鹿みたいじゃないですか!」
「あんただってお子様じゃん」
雫は、そういっていつかのように雪玉を作り咲夜の顔面に投げ付けた。
雪玉が、べしゃりとぶつけられ、咲夜の顔面から崩れ落ちた。
崩れ落ちた雪玉から現れた咲夜の表情は眉を吊り上げ、怒りの四つ角を額に作っていた。
「そうやっていつも、やられてばかりじゃないんですよ!」
咲夜はバイオリンケースを地面に置き、雪玉を作る。
雫の顔面を狙って投げ付けるが、あっさりと避けられてしまう。
更にムキになった咲夜は両手で雫に投げ付ける。
それでも右手でガードされ、顔には当たらない。
「何故です!?何故当たらないんですか~~!?」
「だってあんたワンパターンなんだもん」
がむしゃらに投げる咲夜に雫は右手だけで投げる。
またも咲夜は避けられず顔面に当たる。
「そんな……、また、また負けてしまいました~。雪合戦では勝てると思ったのに~~…」
がっくりと膝を付き落ち込む咲夜。
地面に置いてあるバイオリンケースを手にして、ゆっくりと立ち上がり雫に背を向けた。
「はあ、何だか力抜けちゃいました……。お騒がせしてすいませんでした…。奏先輩が待ってますから帰りますぅ~~」
またメールしますね、と言った咲夜は、とぼとぼと来た道を歩き出した。
突然の来客に驚いたものの、雫は内心嬉しかった。
『心配した私が馬鹿みたいじゃないですか!』
咲夜は自分に、こう言った。
実際、最近の自分は泣いてはいないものの、咲夜は、わざわざ 東京から 北海道まで来てくれた。
東京から 北海道、長期休みでもない日に行くなんて無謀だ。
どれだけの距離があるのかも考えずに突っ走った咲夜に苦笑しながらも自分のために、ここまで来てくれたのが嬉しかった。
いつの間にか雫も咲夜とのメールが楽しくなって、ついこの間まで毎晩泣いていたのに、その泣く回数も減っていることに気付いた。
今、咲夜が帰ろうとしている。
素直に『待って』と言えればいいのだが、変なプライドが邪魔して、つい屁理屈のような言い回しになってしまう。
「……あのさあ、そろそろ決着つけない?」
咲夜が立ち止まり振り向いた。
「…?勝負ならメールでしてるじゃないですか。もう今日は帰りますよ……」
「……逃げるの?」
雫の物言いに、ムッとする咲夜。
「またあたしに負けるのが怖くて逃げちゃうんだ」
「……」
ここで雫の挑発に乗っては相手の思う壷だと思いながらも、その場を動くことができない。
一方、雫は後もう一押しすれば乗るだろうなあ、と思いつつ……。
「あたしが今着てる体操服、かな姉ちゃんのお古なんだけど、勝負に勝ったら……」
雫の言葉を言い終える前に、どびゅん!という音が聞こえそうなくらいのスピードで咲夜は雫に爛々とした瞳で近付き、
「やりましょう!!」
と、強引に櫻井家に押し込んだ。
そして外に放置されたバイオリンは、櫻井家にお邪魔し、咲夜が靴を脱いでから思い出され、それからまた靴を履き、バイオリンを取りに行ったのである。
目指すは奏先輩の体操服。
様々なゲームで雫に勝負を挑む。
携帯での数列当てゲームから始まり、トランプ、UNO、オセロ、最後には、ドンジャラまで一対一の勝負は繰り広げられた。
「こ、降参ですぅ~……」
なんと一度も咲夜は雫に勝てなかったのである。
今度こそ勝って雫をぎゃふんと言わせてやろうかと思い勝負を挑んだものの、ちっとも勝てない。
勝負ともなれば、勝てなければ面白くないはずなのだが、珍しく雫が顔を明るくさせ、楽しそうにしているのを見ると咲夜は途中でやめようとは言えなかった。
正月に見た雫の表情は、どこか暗く、寂しそうな顔しか見たことがなかったから、自分は勝負に負けても、笑っている雫を見てると自然と咲夜も嬉しくなった。
とりあえず勝負も一息付き、落ち着いた所で咲夜はバイオリンケースを取りだした。
「そうだ。今日は、あなたに見せたいものがあったんです」
雫は目の前に出されて、きょとんとする。
「これは私のなんですけど。---宅配じゃさすがに心配だったから、ここまで持ってきました」
「ふうん」
「私がお父さんに言われてバイオリンを習った時に買った楽器です。たった三年でお倉入り、その後四年間も誰も使ってあげられなかった気の毒な楽器なんです」
「どうしてやめたのよ?」
「音楽だけは、どうも私の性に合わないんです。
私を担当した先生は、バイオリンの他にもピアノや聴音、調律なども教えてくれましたが、
私はどちらかというと、体を動かすのが好きだったので、楽器はどれも三年で辞めちゃいましたけど---雫さん、ちょっと弾いてみてください」
咲夜はケースを開けて、中の楽器を雫によこした。
「………なんであたしが弾かなくちゃいけないの?」
「以前、雪乃先輩のブログを見て、あなたがバイオリンをやっていたということが書かれていましたから、いつかあなたの演奏を聞いてみたいな~と思ったんです」
雪姉ちゃん、また余計な事をブログに書いて……。
かな姉ちゃんが怒るのも分かる気がする。
雫は俯いて、
「雪姉ちゃんから聞いたのなら、あたしがバイオリンを辞めたのは知ってるでしょ?」
「---はい、……でも、あなたは、本当はバイオリンを弾きたいんでしょう?」
「そんなこと………」
「雪乃先輩、あなたのバイオリンの事を話す時、何だか寂しそうでしたから……」
雫は言葉に困ってしまう。
「バイオリンを嫌いでやめたわけじゃないんですよね?だってあなた、さっきの雪合戦で左手を庇ってたじゃないですか」
雫はギクリと咲夜を見た。
とんでもないことを覚えてる。
案外咲夜は鋭いのかもしれない。
「お願いします、少しだけでいいですから弾いてみてください」
そこまで言われたら弾く、弾かないも言えなくなった雫は、少し膨れっ面で楽器を手にした。
その瞬間、雫の周りをサァーッと風が包んだ。
乾いた、異国の風。
- それは多分、気のせいなのだろうけれど、乾いた楽器の木の肌が日本の湿気とは趣を異にしていた。
「これ、国産の楽器じゃないでしょ?」
「いいから弾いてみてください」
「…………」
雫は楽器と弓を受け取り弓を張ると弦の音程を合わせた。
試しにクライスラーの小曲を弾いてみる。
澄んだ、よく通る音。
豊かな響き、豊かな表現力。
咲夜は満足そうに頷いて、
「気に入ったのならプレゼントしますよ」
「駄目だよ!」
雫は即座に断った。
こんな自分でさえが、ほんの少し触っただけでも、この楽器が並のバイオリンでないことくらい、わかる。
「これ名のある楽器でしょ?そんなに高いもの、あたしの腕と釣り合わないよ……」
珍しく弱気な雫の発言に咲夜は、くすりと笑って、
「あなたにはバイオリンの才能がありますよ」
「ちゃんと聞いてもないのに、よく言うよ」
雫はムッとすると咲夜は笑って、
「……雪乃先輩が水泳、奏先輩が美術。あの先輩方の妹さんなら、もしかしたら何か才能があると私は思ったんです」
バイオリンを持ったまま雫は、
「あんたお世辞うますぎ」
「私はお世辞は言いませんよ。本当に素敵だと思いましたから。さっき弾いたあなたの演奏は、私がバイオリンをやっていた頃よりも、誰よりも、とても素敵でしたよ」
雫は思わず嬉しくなってしまう。
「………ぁりがとう」
と、顔を真っ赤にして消え入りそうな声で言った。
「では、改めてリクエストしますね。サン・サーンスの組曲・動物の謝肉祭から騾馬(らば)をお願いします」
咲夜はニヤリと笑った。
リクエストの曲名を聞いた雫は少し、ぎょっとした後、咲夜を睨み付けた。
有名な白鳥をリクエストせずに、あえてピアノ用の、しかも全てが16分音符で休符なし、ロバが駆け巡る様をえがくように、始めから一気に駆け登り、終わりは一気に駆け降りる、30秒弱という短い演奏時間だが、かなり力がいる曲だ。
雫の睨みなど、お構いなしに咲夜は雫を見上げ、ニヤニヤしている。
雪合戦の後の挑発のお返しと言わんばかりにあえて雫に難題を出す。
咲夜は先ほど聞いた演奏で、あれだけ弾けるのなら、このくらい序の口だろうと思って騾馬を選んだ。
象や亀、白鳥ではなく、騾馬を選ぶあたり、かなり意地悪なリクエストだと思い、雫はムッとした。
自分には二年のブランクがある。
しかし、ここで『弾けない』と言うのは、なんだか自分じゃないみたいだ。
咲夜は自分の性格を知っているのだろう。
こんなことで弱音を吐くはずはないだろうと。
『やってやろうじゃん』
「弦が切れても知らないから……」
「どうぞ」
咲夜は相変わらずニヤニヤしたまま。
雫は改めて調弦する。
そして両足を開いて少し重心を落とすと、大きく息を吸って、弓を弦に滑らせ、本気で弾き出した。
パチパチパチ……。
客間に聴衆の拍手が響く。さっきの含み笑いはどこにいったのか、目は虚ろで焦点が合っておらず、ぽかーんとしたまま咲夜は手を叩く。
雫は深々と頭を下げて少し照れ笑い。
「たくさんまちがえちゃった。やっぱり二年も弾いてないと、思うように指が動いてくれないよ」
「そうですか?気付かなかったですよ。驚きました。まさかここまで弾けるなんて……。とっても素敵でしたよ」
雫は思わず嬉しくなってしまう。
自分の演奏を誰かに聞いてもらうのも二年ぶりで、こうして喜んでくれているのも久しぶりだ。
それを素直に口に出せれればいいのだが、つい……。
「……あんたお世辞がうまい」
「私はお世辞は言いませんよ。雫さんにはバイオリンが似合いますよ。だからそれ、貰って下さい」
「そうはいかないよ!駄目だよ!」
「私が持っているんじゃ、未来永劫そのバイオリンは弾いてもらえないんですよ。楽器がかわいそうだとは思わないんですか」
「そりゃ、そうだけど」
「これがホントの宝の持ち腐れですよ。弾かれないまま、だんだん壊れていくんですよ」
「あんた、あたしを脅迫してるでしょ」
「貰うのが嫌なら私が返して欲しくなるまで預かっててくれませんか?」
雫は手の中のバイオリンと咲夜を見比べた。
「どうですか、それでもNOですか?」
「……それなら、いいよ」
「やったっ!」
咲夜は指を鳴らして、雫の方へやってくる。
「頼みましたよ」
「わかったよ、大切にするね」
雫は、そうっとバイオリンを抱きしめた。
もう一度バイオリンを習ってみようかと、雫はひそかに思っていた。
「あ、それで、ですね」
急に咲夜が言い淀む。
「何?」
「その楽器の名前」
「---え?」
咲夜は雫の耳に口を寄せて言った。
雫はその名を聞いて顔面蒼白。
声も出ない。震える手でバイオリンを咲夜の方へと差し出す。
「か、返す……」
「返さないで下さい。私のお父さん、親バカで見えっ張りで、しょうがないんですよ。この楽器をオークションで手に入れた時も、ライバル門下生のアマティに単に対抗しようとしただけなんですよ。---娘の私にはいい迷惑ですよね、全く」
「で、でも、あたし……壊れた事を想像すると……弁償できない」
この家を売ってもきっと足りない。
この事をかな姉ちゃんが聞いたら卒倒するだろうなあとか、雪姉ちゃんは、きっと『これだけあったら、まるまるバナナいくつ買えるかな~?』なんてのんきなことを言うだろうな、と雫は思った。
億単位のバイオリン。
「私が持ってたら今日にでも壊れますよ」
「またそうやって脅かす」
「同じストラディバリウスでも、それは安い方ですから」
「安いったって!あたし、嫌だよ」
「じゃあいいですよ。貸して下さい。どうせいつかは壊れるんですから、今ここで私が壊しますよ。私は昔から落ち着きがありませんから~♪」
雫はギョッとして楽器を胸に抱きしめた。
「馬鹿言わないでよ!そんなこと、あたしが許さないんだから!」
「はい、決まりですね」
咲夜はニヤニヤ笑って、ケースを雫に押しやった。
「あなたの名前、書いておいて下さい」
咲夜のペースに乗せられてしまった。
何だか悔しい。
「ぐずぐずしてると壊しますよ」
雫は急いで楽器をケースにしまった。
バイオリンケースに楽器を閉まった後、もう一度そうっと抱きしめる。
奏なら見逃しそうな、その口許に浮かぶ、柔らかな微笑みを咲夜は見逃さず、雫に微笑みかけた。
視線を上げた雫は、そんな咲夜と目が合って思わず、ぷいっと背を向けてしまう。
背を向けた雫は、きっと顔を真っ赤にしているだろうと思い、咲夜はもう一度、雫に微笑みかけるのだった。
END
おまけ
奏「しーちゃんと咲ちゃん、うまくやってるかな?」
雪乃「さあ~?また喧嘩でもしてるんじゃない?」
最終更新:2010年11月11日 18:03