6・205

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6・205」を以下のとおり復元します。
 ―――その社さんは、あの日と変わらずそこに存在していた。
 神樹様を祀ったものなのか、それともそれ以外の神様を祀ったものなのかは解らない。
 ただ相変わらず誰かの手入れを受けている様子は無く、荒れるに任されている。
 あの日、秘密基地が出来たと喜ぶ銀と興味津々のそのっち、そして仲裁役気取りの私。
 3人は放置されていたこの社さんを掃除して―――そして彼女と出会ったのだった。

「そのお社がそうなの?」

 あの日と違うのは、一緒に訪れた相手が後に出会った相手と同じであること。
 恋人になった友奈ちゃんと共に、私は想い出の社さんにやって来ていた。
 夏休みを利用して、自分の欠片を再確認する旅…大切な人と共に“鷲尾須美”を巡る旅路に。 

「ええ、少しも変わっていないわ。私たちは…主に私だけど、この放置ぶりに憤って。
 懸命に清掃をして、お供え物を探す為に一旦離れた時に…友奈ちゃんに会ったの」

 それも、今の友奈ちゃん―――讃州中学勇者部の部員の友奈ちゃんにだ。
 当時の私たちからすると、彼女は年上のお姉さんで、随分とその天真爛漫ぶりに翻弄された。
 それと同じくらいに…自分から“あのお姉さんともう一度話がしたい”、そう言い出すくらいに。
 彼女の放つ雰囲気と陽性の魅力に心を奪われてしまっていたのだけど。

「確かに、私もネコちゃんを捜してる途中に3人に会ったこと覚えてるよ。
 戻ってから“東郷さんって妹いたっけ?”って確認したよね」
「そのやり取りも覚えてるわ。あの時もう少し突っ込めば“鷲尾須美”の名前が出たかも知れないわね」
「不思議な話だねえ…」

 友奈ちゃんは社さんの周りをぐるりと回ると、何も言わずに草引きを始めた。
 あの日は、私が銀に草を引くように言って、そのっちに水を汲みに行かせて。
 友奈ちゃんの方が2人よりどうこうという話じゃない。私はもう東郷美森なんだと改めて思う。

「本当に、この社さんに時を超える不思議な力があるのなら―――」

 ……いいや、それは考えても仕方のないことだ。
 見返りを期待して掃除をしても、あの日と同じことが起こるとは限らない。
 それに仮に起きたとしても、私たちはもう勇者の力を失っている。
 過去を変える力は、もう無い。変えてしまった結果を受け止めていく力もだ。
 私も黙々とお社さんの掃除を始める。

「ねえ友奈ちゃん、友奈ちゃんは私のことを好きになったのは何時だって言ってたかしら?」
「えへへ、何度言っても照れちゃうけど、お隣さんに挨拶に行った時だよ!一目惚れだね」
「けどね、私はもしかしたらその前には友奈ちゃんに初恋をしていたかも知れないのよね」
「おー…そ、それは嬉しいけど何だか面映ゆい様な…」

 足が動くようになり、耳が聞こえるようになった頃。喜びながらも私はある恐怖に囚われていた。
 失った記憶を取り戻した時、大切な人たちと過ごした血みどろの青春を思い出した時。
 私は東郷美森ではなく、鷲尾須美に戻ってしまうんじゃないか。
 そのっちへの友情や銀への哀悼の代わりに、勇者部との絆や…友奈ちゃんへの恋慕を失うのではないか。
 それは正に、私が幻視した満開しながら戦い続ける最悪の未来の縮図でもあって。

「(でも、違った)」

 私の記憶が蘇った時、大切な友人たちとの掛け替えのない時間とそれを喪失した激烈な痛みと共に。

 『だから―――須美ちゃんたちも勇者だね!』

 彼女の言葉が再生されて、私と“私”は…東郷美森と鷲尾須美は友奈ちゃんを核にして溶け合ったのだ。

「(私は、最後の最期まで友奈ちゃんに守られていたのね)」

 草引きを終えて息を吐く友奈ちゃんの隣に座り、その泥だらけの手を丁寧に拭く。
 そして、持って来たぼた餅と水をお供えすると、2人で並んで拝礼した。
 少しだけ緊張して鳥居を潜る―――けれど、周囲は変わらぬ夏の景色が広がっていた。

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