■幻肢痛
幻肢痛(げんしつう、英Phantom Pain)は、怪我や病気によって体の一部を切断した後、あるはずもない肉体が痛む症状。
例えば足を切断したにも関わらず、つま先に痛みを感じるといった状態を指す。
あるはずのない手の先端があるように感じる、すなわち幻肢の派生症状である。
詳しい原因は判っていない。脳内にある体の各部位に対応するマップが、
その部位を失ったにも関わらず更新されないことが影響しているのではないか、という説がある。
電流を流した万力で潰されるような痛みがあるという。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
具体的な例を挙げると・・・交通事故にあい左腕が麻痺、その後切断した患者が存在しないはずの腕が熱湯につけられているような激痛を訴えた例がある。
このような症例は以前からあり、切断面の神経を取り除く治療法が取られていた。
この場合、脳が左腕を失ったことをきちんと飲み込めておらず、
事故にあった瞬間の左腕の情報を再生し続けているのである(CDプレイヤーが、CD傷に至る寸前の音をいつまでも伸ばしているようなものだ)。
この患者の場合、鏡に右腕を映して「左腕がまだある」と錯覚させることで治療に成功している。
* * *
てゐに呼ばれて見に行ってみると、確かにその二匹の
ゆっくりまりさはふてぶてしく畑に居座り口をもぐもぐ動かしていた。
二羽の姿を見ると、
「ゆっふりしへいっへね!」
「いっひょにたべようね!」
人参のかけらを口から吐き散らかしながら声をかけた。
「ひどいね、こりゃあ」
てゐが言うのも無理はない、畑の人参はほとんどが掘り起こされ、まき散らされている。
掘り出された人参の中には一口だけかじられ放り出されたものもあり、一層神経を逆なでしていた。
「ありがとう、てゐ。この二匹を捕まえて使うことにするわ」
イナバから畑の惨状を聞かされたてゐは、永琳が二匹セットのゆっくりを探していることを聞いていたので、
まずは鈴仙にこのことを伝えたのだった。
「中に入らない?もっとあったかいところでゆっくりできるよ」
「ここでにんじんたべるからいいよ!」
「ここでゆっくりするよ!」
鈴仙の甘言をあっさり退けるゆっくり。てゐがにやりと笑う。
「中にはもっとほかほかで、甘いにんじんがあるよ」
「ほんと!」
「じゃあなかでゆっくりする!」
一瞬目くばせしあい、一匹ずつゆっくりを抱え永遠亭の中へ運んでいく鈴仙とてゐ。
「ゆっくりしようね!」
「ゆっ!ゆっ!」
とゆっくりがしゃべるたびに人参のかけらがぽろぽろと衣服へと落ちるのが不快だった。
* * *
数時間後、無菌室。
「これで下ごしらえは済んだわね、素材の鮮度が重要よ。すぐとりかかるわよ」
「はい」
永琳は眠っているゆっくりまりさの帽子を外し、頭頂部にメスを入れた。
ゆっくりとメスが引かれ、頭皮だけをきれいに切り裂く。
「カボチャゆっくりで練習しておいてよかったわ」
慣れた手つきでゆっくりの脳みそにあたる餡子をかきだしていく永琳。
鈴仙が次々差し出す小皿の上に、部位ごとに分類した餡子を置いていく。
「呼吸は?」
「少し遅い程度です、生命活動に異常はないようです」
永琳は満足そうに頷く。
「よろしい、ゆっくり脳移植実験、クライマックスに入るわ」
それはどこかリラックスしていて、どこか楽しげな口調であった。
先ほど餡子を置いた皿とは違う色の皿を、鈴仙が次々と永琳に渡す。
この皿にも餡子は盛られている。
・・・そう、この餡子は畑で捕まえられたもう片方のゆっくりまりさからかきだされた餡子だ。
てきぱきと餡子を饅頭の中に詰めていく永琳。何も知らなければ菓子職人にしか見えないだろう。
「できた」
永琳はそうつぶやくと、ゆっくりまりさの瞼をこじ開けながら呼吸を確認する。
「縫合する間に、書くもの持ってきて」
「はい」
永琳がすらすらと饅頭の皮を元通りにしている間に、鈴仙はノートと鉛筆を用意した。
* * *
体がぴったり入る透明なケースに入れられたゆっくりまりさを一人と一羽が見守っている。
「もうすぐ鎮痛剤が切れるわね」
永琳がそう言い終わるやいなや、
「ゆ゙っ!!」
ゆっくりまりさはかっと目を見開いた。
「ゆ゙ぅあ゙ああああああああああ!ぐり゙ああああああ!!」
自分に何が起きているのか理解できないまま、ただ全身に熱した火箸を差しこまれたような激痛に泣き叫ぶゆっくりまりさ。
涙がだくだくとあふれ、ケースに空けられた排水溝から流れ出していく。
「涙」
「はい」
永琳が冷静につぶやき、鈴仙がその涙を布でふき取る。ふき取ってもふき取っても滝のように流れてくる涙と鼻水、そして汗で
布はすぐずぶ濡れになった。たまらず鈴仙は雑巾を用意する。
「ゆ゙ゔぁぁぁぁぁ!ゆ゙ぎぃぃぃぃ!!」
画面上部に達したブロック崩しのボールのように、ケースの中でのたうちまわるゆっくりまりさ。
全身をよじり変形させながら獣のような咆哮を上げ続ける。
「いいわ、この様子だと実験は成功ね」
嬉しそうに話しながら永琳はすらすらとノートにメモを書きとっていく。
「恐らく激痛のあまりろくに何も見えていないでしょうね、五感は完全に痛みで支配されてるはずだわ」
このゆっくりまりさに移植された餡子、それは壮絶な死を遂げたばかりのゆっくりまりさから取り出された餡子だった。
中の餡子を傷つけず激痛を与えながらゆっくりを処分する方法は永琳をわずかばかり悩ませたが、
結局妥協して両眼部に電極を突っ込んで電流を徐々に上げていく方法を取ることにした。
電極の間、つまり大福中心部の餡子は大ダメージを負うが、感覚をつかさどる周辺部の餡子には被害はないと判断したのだ。
激痛の海で溺れながら絶命したばかりのゆっくりまりさ、その餡子は眠らされたゆっくりまりさに移植される。
この餡子は、絶命する瞬間の激痛を覚えている。そしてそれを再生し続ける。
「ゆ゙っ!!!ぐり゙いいいいぎゃああああああ!!!」
死に至る損傷を負うほどの痛み、しかしこのゆっくりまりさは実際には全くダメージを負っていない。
そのため死ぬことも許されず、激痛の極大点でとどまり続けるのだ。
五分が過ぎた。ゆっくりまりさにとっては五時間にも五日間にも思えた五分間だったろう。
体中の水分を吐きだしたからかゆっくりは最初より一回り小さくなっている。
ゆっくりまりさの動きがぴたりと止まり、無菌室を満たしていた叫び声がしん、と壁に吸い込まれる。
「う」
永琳が真剣な目つきで見守る中、
「うふふ、うふふふ、うふふふふふふふふ」
ゆっくりまりさは虚ろな目でまるで別人のような笑い声を立てはじめた。
「うふふふふふふふふ」
「発狂したわね」
「そのようですね」
その能力によって何人もの人を狂わせてきた鈴仙でも目をそむけたくなるような光景だった。
いや、鈴仙だからこそ、かもしれないが。
「受け答えはできるのかしら」
永琳はケースを開け、
「ねえ、ねえ」
ぱんぱんと発狂したゆっくりまりさの頬を叩く。
「おっけー!まりさにまかせて!」
「インプットはできるようね。思考はもはや成り立っていないようだけど」
誰に聞かせるとでもなくつぶやくと、永琳はノートに何か走り書きする。
「・・・さて、少し味見してみましょうか」
* * *
甘い。
野生のゆっくりからとれる深みのある甘みとは全く違う、果てしなく地平線まで続くような底抜けの甘み。
それはまさに狂気の甘みだった。
「凄い・・・凄く甘いわ」
「凄く・・・甘いです・・・」
「脳はひどい痛みを感じると、それを中和するために快感物質を分泌するの。
この大福は激痛に襲われ続け、その物質を垂れ流しにしたのね。
そして激痛から解放されたとき、全身が凄まじい甘みで満たされた・・・なるほど」
永琳が嬉しそうに微笑む。
「これは思わぬ副産物だわ。この情報は・・・高く売れる」
もう何匹かのゆっくりで実験しても結果は一緒だった。
『発狂するまで激痛を与え続けると、ゆっくりは桁違いに甘くなる』
この情報はゆっくり加工場に高値で売り飛ばされたのだ。
最終更新:2011年07月28日 00:47