幻想郷にその名を轟かせる魔城・・・紅魔館。
頂点に君臨するのは幼き紅い月・・・レミリア・スカーレット。
人々の恐怖と畏敬の象徴たる彼女には、しかし悩みがあった。
今日も悩みの張本人(人?)が館の荘厳さにそぐわぬ間抜け声をあげる。
「う”~さ”く”や”ぁ~さ”く”や”にい”い”つ”け”て”やどぅ~」
ゆっくりれみりゃである。
そのバランスの悪い肉まん頭を揺らし、愚鈍そのものの歩みで泣き叫んでいる。
どうやら蝶を追いかけていた最中に派手に転んだらしい。醜い顔が泥で更に醜くなっている。
今もゆっくりゃの追跡を受けている蝶は逃れようとひときわ高く飛び・・・・
直後上からの銀光に粉々にされた。
地面に刺さったナイフを抜くのは、メイド長・十六夜咲夜。
「お呼びですか、お嬢様。」
「う”~さ”く”や”~~さ”く”や”~」
ゆっくりゃは咲夜に抱きつき、汚らしい顔面をスカートにこすりつける。
咲夜は嫌な顔一つせずかがみこみ、
「もう大丈夫ですよー、プリンがありますから帰りましょうね~。」
れみりゃを抱え上げ館に向かう。
「う~♪ぷでぃんがたべたいどぉ~うっう~♪」
プリンという単語にだけ反応したゆっくりゃは笑顔になり、咲夜の腕の中で珍妙な踊りを始めた。
本物の「お嬢様」は、窓からその光景を憎々しげに見下ろしていた。
「ねえパチュリー・・・・私は服装と髪型を変えるべきかしら?」
「馬鹿馬鹿しいわ。それこそアレにに迎合してるのと一緒よ。」
「わかっているけど・・・そう言いたくもなるわ・・・・。」
パチュリー・ノーレッジは、紅茶片手に当主をなだめる。
今は恒例の茶会だ。咲夜も二人の横に控えていたのだが、先ほどの奇声を聞いた瞬間窓の外だった。
能力の無駄使いだと思うレミリア。
「・・・これで紅茶がぬるかったりしたら、何か言いようがあるんだけどね。」
座って紅茶を口にしながらレミリアは言う。
「なまじパーフェクトなだけやりにくいわね・・・おかわり」
パチュリーの声と同時に、カップに紅茶を注ぐ咲夜の姿があった。神業だ。
無駄使いすぎる。
「ほらね。」
「・・・・・。」
無言の主人を前に、昨夜は瀟酒なたたずまいを崩さない。
紅魔館に多く生息するゆっくりゃは他のゆっくりと同様、いやそれ以上に忌み嫌われる存在だ。
しかし咲夜はそのゆっくりゃを溺愛している。
従者の頂点たる彼女がそうなのだから、他の妖精メイドや門番が邪険に扱うことは出来ない。
流石に市場などでゆっくりゃが野菜や陶器を荒らして回った時はかなり厳しく叱ったようだが・・・・。市場の人間は完全に萎縮してしまっていた。
そこに生まれるのは畏怖とは違う感情、忌避だ。このままでは自分、ひいては紅魔館の品位が疑われるというものだ。
れみりゃがあの容姿、自分に似た姿でなければ何も問題は無いのに、とレミリアは思った。
もしそうならいくら幻想郷中で忌み嫌われていようが殺されようが知ったことではないし、咲夜も熱を上げることはないだろう。
むしろ自分が命令せずとも殺人ドールで紅魔館から一掃してしまうはずだ。
「・・・・・。」
レミリアはベッド(天蓋付き豪華仕様)に寝そべり、夜の帳から顔をのぞかせる月を眺めていた。
ゆっくりゃ達―全部で7匹ほどいるらしい―は咲夜の部屋の隣の納屋で寝ているはずだ。
雲が月光を遮る。
「・・・・・・・・・。」
ゆっくりゃが現れるまで、あの鉄面皮で超然とした咲夜の楽しそうな顔を、レミリアは見たことがなかった。
その気になれば明日にでもみずから奴らを八つ裂きにしてもいい。咲夜に命令してやらせてもいい。
しかし、それは咲夜の、最も信頼する従者のささやかな楽しみを奪うこと。
「・・・・・・・・・ふぅ。」
当主の小さな溜息を聞くものはなし。
寝ていたゆっくりゃ達は咲夜の声で起こされた。
まだ夜が明ける時間でもなく、ゆっくりゃ達は眠い目で抗議しようとするが、咲夜の、
「別の部屋でゆっくりしましょうね。」
という一言で笑顔になり、たちまち「うー♪うー♪」の大合唱が始まる。
咲夜に連れられて階段を下りていった先にゆっくりゃ達が見たのは、全面が石造りで部屋の中央に排水溝がある殺風景な部屋だった。
ゆっくりゃのぷでぃん脳では思い至らないが・・・・まるで牢獄だ。
部屋の光景、咲夜が鉄製の扉を重々しく閉める音に戸惑い、「うー・・・」と不安そうな声をあげる肉まん達。
しかし、咲夜の次の一言で笑顔になる。
「みんなー、今からお遊戯をしましょう。」
「うー♪おゆーぎー♪」
「しゃくやーなにするのしゃくやー♪」
機嫌を良くしたゆっくりゃ達は咲夜の指示で円になって手をつなぎ、真ん中の一匹を囲むという配置になった。
丁度人間の遊戯で言うところの「かごめかごめ」のような形だ。
手をつないだゆっくりゃ達はニコニコ顔で騒ぎ、真ん中に至っては自分が主役だと考えたのか例のヒゲダンスを始めた。
「うっうー♪うあうあ♪」
「はーい、じゃあ始めましょうねー♪」
「「「うー♪」」」
銀光が閃く。
肉まん動体視力では期待すべくもないが、それは咲夜の手によるものだ。
ゆっくりゃ達は笑顔のまま。
真ん中のゆっくりゃが、ぐらり、とよろめく。
ぽたり、と音というがする。
真ん中のゆっくりゃの足下、排水溝に、
血でなく水でなく、肉汁が流れ落ちる。
漂う、肉まんの香り。
「あ・・・・・が・・・・さ”く”や”」
「「「や”あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”っ”」」」
真ん中のゆっくりゃは苦悶の表情で、しかしその表情は奇妙に歪んでいる。
それもそのはず、その顔は三本の横線が入り、そこから肉汁を垂れ流しているのだから。
顔だけではない。胸、腰、足・・・腕以外の全てに横線が入っている。
咲夜は瞬時にゆっくりゃを輪切りにしたのだ。それも、すぐさま崩れないように神速で。
いまや肉まんでありながらハンバーガーのように各部位が重なっただけとなった真ん中ゆっくりゃ。
と、ぐらりと倒れ込みそうになる。
「ほら♪みんなで支えないと崩れちゃいますよ。」
「た”す”け”・・・・」
「「「う”うううぅぅぅぅっ”」」」
崩れ落ちそうになるゆっくりゃを、周りのゆっくりゃが慌てて真ん中の体を手で抑え、支える。
「どーじて!?どーじでごんな”ひどいごどす”るのおおおおおっ”!!」
「れみりゃのぷりちーながらだがあああああ”ー!!」
「みでないでだずげでよおおおぉぉっ”!」
涙と肉汁で顔をぐしゃぐしゃにした二匹が抗議する。
真ん中はもう声を出す余裕も無い。
「これはゲームです。しばらくみんなががんばれば傷が塞がって元通り。そしたらぷでぃん、素敵なぷでぃんの時間よ♪」
「いら”な”い”!ぷでぃんいらないがらだじけであげでええええ!!!さ”く”や”ー!!!!」
「そう?まあとにかく、ゆっくり支えていってね!!!」
咲夜はは満面の笑みをゆっくりゃ達に送る。それだけ。
ゆっくりゃ達の絶叫。
もう10分は立っただろうか。
最初は泣き叫んでいたゆっくりゃ達も、真ん中を支えることに専念している。
ゆっくりゃはゆっくりの中でも屈指の再生能力を持つ。
しかし、このように大規模な傷、しかも何カ所にも渡るものは最低でも20分はかかる。
さらに悪いことに・・・・咲夜が使ったナイフには少量の廃油が塗ってあり、それが再生を阻害していた。
従って、ゆっくりゃ達は更に長い苦行を強いられることになった。
「ぶ・・・ぶびゅるるる・・・・。」
支えているうち一匹のゆっくりゃが奇妙な呻き声をあげる。
ゆっくりは基本的に脆弱な存在だ。
補食種とはいえ、ゆっくりゃもその例外ではない。
更に日頃から甘やかされてるゆっくりゃ達には、例え10分でも同じ姿勢でものを支えるというのは地獄の責め苦であった。
と、先ほどから呻いているゆっくりゃの体が痙攣しだす。
「う”・・・う”・・・」
「う”ー!!ゆ”っくり”がんばっで!!さ”く”や”ーも”うだずげでえー!!」
他のゆっくりゃが激励する。
咲夜はただ笑顔で見ているだけ。
更に10分が経過した。
「う”・・・う”ーう”ー!!」
「!!!だいじょぶぅ!?」
今まで意識すらなかった真ん中がかすかに声を上げた。
傷が塞がりかけているのだ。
「う”う”ー!!なおっでね!ゆ”っぐりなおってね!!」
ゆっくりゃ達に光明が差す。
だが。
先ほどから呻いていたゆっくりゃが、ふと、力を抜いてしまった。
ぐらり。
「!!!!う”ー!!!」
周りのゆっくりゃは慌ててフォローに回る。
力を抜いていたゆっくりゃも踏ん張り直そうとした。
と、足下の、真ん中ゆっくりゃが流した肉汁に、足を滑らせた。
前のめりに倒れる。
ぐらり・・・・。
立て直せなかった。
周りのゆっくりゃ達を巻き込みながら、二匹のゆっくりゃは一匹が押し倒す形で床に叩き付けられた。
ぐじゃっ!!
「う”ごぶえ”・・・・」
ぶちまけられる真ん中ゆっくりゃ。
破片を破片を肉汁を肉汁をまき散らしながら。
「「「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!!!」」」
白目を剥き、口を限界まで開いて絶叫するれみりゃ達。
友人の凄惨な死に様に、身を折って中身を吐き出すものもいる。
「ぷっ・・・・くくくくっ・・・。」
咲夜はあろう事か、耐えられないという風に顔をそらし、笑っている。
輪切りにされた顔の上半分が、恨めしそうに宙を見ている。
崩壊の張本人であるゆっくりゃは友人の臓腑に塗れて泣いていた。
「ぶえ”え”え”え”え”え”え”・・・う”っ!!」
と、周りのゆっくりゃ達に蹴飛ばされ、中身を吐き出す。
「お”ま”え”の”せ”い”だあ”あ”あああっ”」
「ゆ”っぐり”!ゆ”っぐり”し”ね”えぇぇ”ー!!」
「や”!!や”め”!でえぶぴぃっ!!」
エスカレートするリンチ。
「はいはいはい、ケンカは無しよー。」
ここでやっと咲夜が止めに入る。
リンチされ息も絶え絶えのゆっくりゃを助け起こし、肉片まみれの服を整えてやる。
制裁すべき相手が助けられたのは不満だが、ゆっくりゃ達は今度こそ咲夜が悪夢を終わらせてくれると思った。
ここまでのことを強いられながら、まだ咲夜に縋っている。
そうするしかない。
そうする以外に方法を知らないのだ。
咲夜は助けたゆっくりゃの背後から肩に手を置き、ゆっくりゃ達に話しかける。
「さて・・・みんなお疲れ様です。」
「う”ー!!さ”く”や”ー!!ゆ”っぐりざぜでえぇぇぇ・・・」
「はいはい。」
咲夜の言葉に、ゆっくりゃ達はわずかに安堵の表情を浮かべ・・・。
再び銀光。
ぐらり。
咲夜に助けられたゆっくりゃが、傾く。
「今度はこの子の番ね。」
7匹が6匹に、6匹が5匹に、5匹が4匹に・・・・。
部屋にはゆっくりゃたちの残骸が散らばり、排水溝に肉汁が流れ落ちる音が響いている。
遂に残ったのは3匹だけとなり、そのうち一匹もハンバーガー状態になっていた。
左右から支える2匹。
ここまでずっとゆっくりゃ達を支えてきたのだから、非力なゆっくりゃの中では体力があるらしい。
だが、彼らにとってそれは何の気休めにもならない。
相変わらずその様子を眺めている咲夜。
その手に持つナイフから肉汁を滴らせながら。
本人は心なしか頬を上気させ、うっとりと目を細めている。
支える2匹の姿は酷いの一言。
輪切り部分から滴る肉汁で手はふやけ、ところどころ皮が破けて中身が見え隠れしている。
1匹ぶちまけられる度に飛沫を浴びているため、桃色だった服はもう何色かわからない。
更に、咲夜から見て左のゆっくりゃは、涙と涎とその他諸々で表情がわからないような有様。
対して右のゆっくりゃは、下膨れの顔に今まで見たことも無いような不気味な薄ら笑いを貼付けていた。
何度目かの崩壊がやってきた。
左のゆっくりゃがぷるぷると震えだす。
「・・・や”・・・・」
その震えが他の二匹にも伝わる。
「う”ー!う”ー!!れみりゃじにだぐないー!!!」
喋れる状態にまで回復していた輪切りれみりゃが叫びだす。
しかし、もう遅い。
震えていたゆっくりゃは他の2匹を薙ぎ倒した。
「う”が・・・・」
濁った断末魔とともに肉まんスライスが残骸の山を新たに高くする。
立ち上がった右のゆっくりゃは無言。
左ゆっくりゃは更に床に寝転がると、最大級の駄々をこね始めた。
「う”ーもうやだざぐや”ー!!ざぐや”ー!!!じね!!み”んなぽい!ぽい!ぽいするのう”わ”ら”ばっ!!」
左ゆっくりゃは喋れなくなった。
右ゆっくりゃが仲間の残骸をその口に突っ込んでいた。
「むご!・・・う”!・・・う”ぢゅ!!」
更に残骸を掴んでは押し込む。
「が・・・・・が・・・・・」
限界まで開かれた口の中からは死んだ同胞達の目、耳、口だったものが覗いている。既に左ゆっくりゃの頭は1、5倍位まで膨らんでいた。
右ゆっくりゃは帽子・・・さっき死んだゆっくりゃの帽子を高々と振り上げると、
「ゆっくりしね!!!!!」
叩き込んだ。
左ゆっくりゃの頭は肉色の花を咲かせて破裂した。
ぱちぱちぱちぱち・・・・
今や1匹となったゆっくりゃが目をやると、咲夜が感無量といった顔で拍手していた。
「すごいわ!!」
対するゆっくりゃは黙って肉片を掴んで口にいれ、汚らしく咀嚼し始める。
能天気さとはほど遠い、手負いの獣のような表情。
咲夜がかがみ込み、ゆっくりゃと目線を合わせる。
「あなたはこのゲームに勝ったの。これからはぷでぃんもあなただけのものよ。」
「・・・・。」
「これで一歩、あなたは近づいたのよ・・・紅魔館の主に。お・嬢・様♪」
窓から庭を見下ろしながら、レミリアは不可解だった。
あんなに醜く騒いでいたゆっくりゃ達の声がしなくなり、見かけるのも眼前で歩いているもの1匹だけになった。
更に、そいつの仕草もわからない。しっかりとした歩み。自分のお下がりの日傘の持ち方。
ゆっくりゃがこっちを見上げる。
阿呆丸出しの笑みでなく、口元を上げただけの笑み。
不本意ながらこいつは自分に似てきている、とレミリアは悟った。
しかしこれは好都合だ。このゆっくりゃなら市場でおやさいぽい♪とかぷでぃん!!!とか言わなさそうだ。
里の人間も紅魔館はあの馬鹿ゆっくりゃまで一味違う!と言ってくれそうだ。
- 一時はどうなることかと悩んだが、さすが咲夜、最高の従者だ。
これも彼女の教育の賜物なのだろう。
レミリアはこの上もない笑顔で控えているメイド長に振り返った。
〈fin〉
あとがき
はじめまして。ゆっくりゃがこの上も無くうざいので書いてみました。
でも皆さんのようにあまり上手い虐めが出来なくて反省。
ラストもなんだかぐだぐだに・・・。
修行が足りません。
また気が向いたらお目汚しするかと思いますがよろしくお願いします。
最終更新:2008年09月14日 11:06