「逃がすなー!追えー!」
「どうせ死なんのだから多少傷つけても構わん、必ず捕まえろ!」
「ゆ、
ゆっくりにげるよ!」
真夜中の竹林を走る三人の男が追う先で必死に跳ねているのは白い髪に赤いリボンをつけたゆっくりだ。
ゆっくりの名はゆっくりもこたん、竹林でのみ稀に姿を見かけるといわれる幻のゆっくりだ。
非常に死にづらく食べると寿命が3年延びるといわれているがその存在が確認されたことは未だなかった。
「希少な新種を捕まえれば俺たちもうだつのあがらないゆっくり捕獲班からもおさらばだぜ!」
「気を散らすな!囲みこむぞ!」
「了解です班長」
班長と呼ばれた男が一気に飛び出してゆっくりもこたんを抜かすと同時に残った二人が左右に分かれ
足の遅いゆっくりは一瞬にして逃げ場をふさがれた。
「ゆ!?ゆっくりどいてね!」
「今だ確保――」
三方向から男がゆっくりに掴み掛かっろうとしたその時
竹と竹の合間から飛んできた数十枚の御札がゆっくりを囲むように地面に突き刺さり火を噴いた。
「ゲェー!?なんだこれはー!?」
「熱っ!熱ぅ!?」
「くっ!?」
「あついよー!ゆっくりできないよー!」
炎に驚き、男達は慌てて後ろに飛びのいた。
「かわいい小動物を二人掛かりとかタッグとか二人組で襲い掛かるのは感心しないね」
背景に月を背負って竹林の間から白髪の少女が姿を現した。
「いや、俺達三人…」
「くっ、この御札を投げたのはお前か!?一体何のつもりで…」
「ちょっとそこの丸っこいのに用があってね」
「ゆ、ゆっくりあついよ!ゆっくりあついよ!」
そういって少女は炎に囲まれてあたふたしているゆっくりもこたんを指差した。
「て、てめぇ横取りする気か!」
「ま、そんなとこさ」
その一言で男達の顔が強張る。
「…どうしてもそいつを渡さない気なら少し荒っぽい手段でそいつをいただくとしようか」
「男三人相手にちょっと術が仕えるくらいで女子供が勝てると」
「試してみる?」
少女がパチン、と指を鳴らすとその背中から炎が、まるで不死鳥の羽のように噴出した。
「ゲェー!炎の羽だとー!?」
「まさかこいつ…最近人里で噂になっている妖怪退治をしてるっていう…」
『かわいいかわいいもこたん!?(寺小屋の先生談)』
「もこたん言うな!」
少女が声を張り上げるのに呼応して背中の炎も一気に燃え上がり周りの竹に飛び火して引火し辺りは真昼のように明るくなった。
「くっ、撤収だ」
「糞っ、覚えてやがれ!」
「あーわかったわかった、何か困ったことがあったら連絡するよ」
少女に背を向けて男達は口惜しそうにその場を後にした。
「さてと、それじゃこっちの用を済ませようか」
また少女がパチンと指を鳴らすと御札が崩れ落ち、そこから出ていた炎はろうそくの火を吹き消すかのように消えた。
炎に照らされていた竹林は再び月明かりにうっすらと照らされると
慌しかった竹林に再び静寂が戻った。
「たすけてくれてありがとうおねえさん!いっしょにゆっくりしようね!」
ゆっくりもこたんの甲高い声がその静寂を台無しにした。
「言われなくても蓬莱人ってのはゆっくりしているもんだよ
先は長いんだから焦ったって仕方ないからね」
「ほーらい?おねえさんゆっくりできるひとなんだね!
いっぱいゆっくりしようね!」
「あ゛づい゛い゛い゛!だずげでよ゛お゛お゛お゛お!!」
「おー効いてる効いてる、そーれりざれくしょーん」
火をつけられて体中を爛れさせながらもがいているゆっくりに少女は里で仕入れた甘酒をかけた。
「ぱぴぃーぱぴぃーぱぴぃー…ど、どうしてこんなことずるのおおおおおおおおおお!!!」
甘酒をかけられると瞬く間にゆっくりの傷は治っていき、すぐに喋れる様になった。
「いやー、最近輝夜に負けっぱなしでさ
だから死なない奴にはどういうのが一番効くのか調べようと思って
それで、油の中泳がされてから火を付けられるのと竹槍敷き詰めたところ歩かされてるところに上から踏みつけられるのどっちがキツかった?」
「どっぢも゛い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
「もー、それじゃあ色々やった意味がないだろ
じゃあこれから火をつけるか竹槍で刺されるのとどっちが嫌かだけ教えてよ」
「!?…あ、あづい゛のは゛い゛や゛あ゛あ゛ああ゛ああ゛あ!ゆ゛っぐりでぎな゛い゛い゛いいい゛!!!」
熱いのが嫌というゆっくりの言葉を聞いて少女はニヤリとした。
「やっぱりなー死ななくたって熱いのは嫌だよなー
『最近輝夜が火とか蓬莱人に効く訳無いわよ、もっと別の戦い方覚えたら?』
とか言うからさ、ちょっと自信なくしてたんだよね
でも全然効いてるじゃない、やっぱりあいつヤセ我慢してたのね
この前フェニックス無しで戦ってみたのが馬鹿みたいだよ
これからは前にもまして炎使いまくって骨も残らないぐらい火責めにしてやる!」
「ゆ、ゆっくりよかったね!それじゃあもこたんはひとりでゆっくりしてくるね!」
よくわからないながらも物騒な話を聞かされながらも少女がある程度の成果を得たらしいことを察してそのままその場を立ち去ろうとした。
「あー駄目駄目、これから目玉に指突っ込んでそのまま眼底突き抜けて脳みそ抉られるのと頭のてっぺん砕いて脳みそかじられるのどっちがキツいか試してみるんだから」
そういって少女はゆっくりの頭をむんずと掴んだ。
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!ゆ゛っぐりざぜで!!ゆ゛っぐりざぜでよ゛お゛お゛お゛!!!」
それから半日ほど経って、日が完全に昇りきったころ。
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ…」
「あーあー、完全に何も喋れなくなっちゃった」
地獄のような拷問はあれから半日の間ずっと続いた。
ゆっくりもこたんが完全な不死ではないことをなんとなく悟った少女は、絶妙の手加減でゆっくりもこたんが完全に死ぬギリギリ手前で痛めつけ続けたのだ。
その結果、ゆっくりもこたんは完全に精神を崩壊させてしまっていた。
「そうだ、この前の三人組に聞いたらこれの直し方がわかるかも
増やし方とかもわかるかな、そしたらもっと色々試せるんだけど
今度あの三人のこと慧音に聞いてみるかな」
あんな仕打ちをしておいてケロッとして手を借りようとするこの手のひらの返しっぷり。
しかし彼女は決してちょっと前に武力行使で彼らを追い払ったことを忘れてしまったわけでは無い。
蓬莱人というのは元来過去のことは気にしない、膨大すぎて気にしていられないものなのだ。
少女はゆっくりもこたんを抱えると人里の方へと歩みを進めていった。
最終更新:2008年09月14日 11:10