かの森鴎外は饅頭茶漬けなるものを好んで食していたそうな。
ならば私もそれを食べてみようと思い、材料を用意した。
茶碗に盛られた熱々の炊きたてご飯。
急須に入った淹れたて熱々のお茶。
そしてにんっしんっ! したゆっくりれいむの腹をかっさばいて取り出した新鮮ほやほやの赤ちゃんれいむだ。
胎生型だったためか、子供といえどみかん程の大きさはある。
赤れいむは最初寝ていたが、準備が全て完了すると目を覚ました。
「ゆぅ? ここどょこ~? おかぁしゃんは~?」
まずは辺りをキョロキョロと見回し始めた赤れいむを熱々のご飯の上に乗せる。
「ゆっ? わぁ~、おしょらをちょんでるみた────ゆっぐぢぃぃぃぃ!? あじゅい゛よ゛ぉぉぉぉぉ!?」
熱々のご飯の熱にすぐに上から逃げようとするので、すかさず熱々のお茶を上からかける。
「ゆ゛ぴぃぃぃぃぃぃ!? な゛んに゛ゃにょぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!?」
上から滝のごとく降りかかるお茶で動きを封じられ、泣きながら白飯の上で絶叫する赤れいむ。
お茶を適量注いだら、邪魔なリボンをとって箸を手に取り、赤れいむの脳天に二本とも挿し立てる。
「ゆ゛ゆ゛ぅ!? れいみゅのお゛りぼんがえぢ────ゆぶびっ!?」
脳天から箸を刺されたことによる白目を向き悶絶する赤れいむ。そのまま箸を開いて左右に割る。
赤れいむ体の右半分と左半分が別たれた。
「ゆひゅう……ゆひゅう……」
そして最後に箸をもう一度突き立て、赤れいむの体を前後に別つようにして箸で裂けば終了。
四分割された饅頭が乗った饅頭茶漬けの完成だ。
2、さんぽ
「さぁれいむ! 外に遊びにに行くぞ!」
「ゆゆっ! ほんとう? おにいさん!」
俺はペットとしてゆっくりれいむを飼っている。
だがゆっくりという生き物は飼うのがとても難しい。
犬猫と同じ程度の大きさなのだが、このゆっくりというのは弱すぎる。家の外に出そうものなら高確率で死ぬ。
そのうえ我侭放題でお外で遊びたいなどと言うので、どうしたものかと悩んでいると隣の家の幼なじみが犬の散歩に出るのを見て、そうだ犬の散歩のように俺もついていけばいいんだと至極簡単なことにさっき気付いた。
「あぁ、だけどこれを付けてな!」
れいむに見せ付けるように、お隣から借りてきたリードを取り出す。
リードはどこに巻こうかと思った。さすがに体に巻きつけたら動きづらいだろうし、猿轡みたいになるのでリボンにつけることにした。
リードをれいむのリボンに付けたら準備完了。れいむのお散歩デビューだ。
「よぉし、出発だ!」
「ゆっくりしようね、おにいさん♪」
扉を開けて外に出る。俺が持っているリードの先ではれいむがぴょこぴょこと本当に楽しそうに跳ねていた。
生まれて初めて見る家の外の世界が物珍しいのか(このれいむは妊娠していた親ゆっくりが家の外でのたれ死んでいた所を拾った)、キョロキョロとあちこち視線を飛ばしている。
そこで俺は、ふと思い出した。
確か犬の散歩では、飼い主とペットの上下関係をちゃんと理解させるため、散歩では飼い主が前を歩いた方がいいという話を聞いたことがある。
上下関係云々はゆっくりでも同じことだろう。いや、こんな我侭なナマモノならばそれは犬よりちゃんと分からせねばならない。
そう判断した俺はれいむより前に出た。
「ゆゆっ? おにいさん、どうしたの? ゆっくりしていってね!!!」
後ろかられいむが何か言ってるが、これもお前のためだ。ちゃんと身の程を弁えていないと後で痛い目にあうのはお前なんだ。
特に父さんはお前のことあまり良く思ってないようだし。
「ゆっ、ゆっ! おにいさん、ゆっくりしていってね!! れいむこれいじょうはやくあるけないよ!」
後ろから聞こえるれいむの声が次第に苦しくなっていっている。大方ずっと家の中にいたので運動不足なのだろう。
ちゃんと運動しないとな。
「ゆぐっ、おにいざんどまっでぇぇぇぇぇ!! ゆっぐぢぢでぇぇぇぇ!! ごずれる゛ぅぅぅぅぅ!!」
気付いたら早足になっていたようだ。後ろからズリズリと何かがアスファルトと擦れる音がする。
「どぼぢではじる゛の゛ぉぉぉぉ!?」
れいむの泣き声でテンションが上がっていたようだ。気付いたら走っている。
れいむはリードのつながれたリボンに引っ張られていることだろう。それはつまり髪が引っ張られているということで、頭皮がミチミチ音を立てているかもしれない。
「いだい゛よ゛ぉぉぉ!! ゆっぐりじでよ゛ぉぉぉ!!」
アスファルトと擦れたり小石が体にぶつかったり頭皮が引っ張られる痛みでれいむが喚いている。きっと顔は涙でグシャグシャだろう。
テンション上がってきた。
おっと、ガムだ。避けないと。
「ゆっぐぢぅ!? なにごれ゛ぇぇぇぇ! べだべだずる゛ぅぅぅぅぅ!! おにいざんごれとっでぇぇぇぇぇ!!」
あ、犬のフンまで。ダメだなぁ、ちゃんと持ち帰らないと。
「ゆぶゅ!? ぐぢゃい゛ぃぃぃぃぃ!! なにごれ゛ぇぇぇぇぇ!!」
……ふぅ。俺も久しぶりに散歩なんてしたもんだからついつい張り切っちゃったな。
「さて、散歩楽しかったな、れいむ」
一通り適当な散歩コースを周り終え、家に到着する。
後ろを振り返ると、れいむは体中ボロボロで、体にガムや犬の糞をつけているという、とても小汚い格好をしていた。
しかもグズグズ泣いているせいでただでさえ汚い顔が更に汚くなっている。
「ダメだなぁ、れいむ。そんな汚いとお家にあげられないなぁ」
と、ここで雨が降ってきた。夕立だ。
「おっ、ちょうどいい。その汚れを雨で落しとけ」
それだけ言うとリードを門柱に繋いで家に入る。
少し遅れて
「ゆぐぅぅぅぅ!? あめしゃんだよ! ゆっくりでぎないよ! おうちかえ──ゆびぃ!? どぼじでうごげないの゛ぉぉぉ!!
おにいさぁぁん! おにいざぁん! れいむも゛おうぢにいれでよ゛ぉぉぉぉ!!」
家の中にいた時とは比べ物にならない程元気なれいむの声が聞こえたきた。
やっぱ散歩に連れてって良かったな。
3、ゆっくりの泣く頃に
「はい、今日風邪で休んだでしょ? お見舞いの子ゆっくり」
「やべでぇぇぇぇ!! でいぶのあがぢゃんがえじでぇぇぇぇ!!」
風邪で学校を休んだ日、友人がお見舞いに来てくれた。家の中は散らかっていたので家にあげられなかったのでこうして玄関先で話している。
どうやらお見舞いとして子ゆっくりを持ってきてくれたようだ。元はクッキーが入っていた円缶の中からは「ゆー、ゆー」とゆっくりの泣き声がする。
そして友人の足元で泣きながらポスポス体当たりしてるのは、友達の飼いゆっくりのれいむのようだ。
「あぁ、どうもありがとうな。大した風邪じゃないから明日には学校に行けるよ」
「本当? 約束だよ、だよ?」
「あぁ、約束だ」
「あ、あとその子ゆっくりね。実は一匹だけみーちゃんちのゆっくりの子供も混ざってるんだよ! どの子か当ててみてね! 答えは明日聞くから」
「うわっ、そりゃ難易度高いな」
「じゃあね。ちゃんと食べてくれるよね、よね?」
「食べるよ」
そう答えると笑顔で手を振りながら帰っていった。
だが友人の飼いれいむが足元で「おねがいじまずぅぅ!! でいぶのあがぢゃんがえぢでぐだざいぃぃぃ!!」とまだ残っていたので飼い主のとこまで蹴って送り届けてやった。
「さて、と」
ゆっくり入りの円缶を持ってリビングに入ると、さっそくお茶を淹れた。
コポコポと湯飲みにお茶を淹れると、早速円缶を開けてみる。
そこには子ゆっくりが全部で六匹。全部れいむ種だった。
「「「「「「ゆっくちちていってね!!!」」」」」」
涙で顔を濡らしていたものの、蓋が開けられたことでその顔は希望に満ち溢れていた。
「さぁて、どれかがあいつんちのゆっくりなんだよなぁ、食べて分かるかな……? まぁいいや取り敢えず食べてみるか」
「ゆっ! おにいしゃん、たちゅけてくれてありがちょうね! れいみゅたちはゆっくちちゅるよ!」
取り敢えず今喋った子れいむに手を伸ばした。
手の中に収まった子れいむは「ゆ?」と不思議そうな顔をしていたが、その頬を齧ると一転して泣き叫んだ。
「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁ!!! い゛ぢゃい゛よ゛ぉぉぉぉ!!」
「ゆっ! れいみゅぅぅぅぅ!」
「なにちゅるのぉぉぉ!!」
「おにいしゃん、ゆっくちやめてね!」
「れいみゅいたがっちぇるよ!」
円缶の中からも抗議の声があがる。とりあえず五月蝿すぎるので今持っている子れいむをさっさと口の中に入れた。
しばらく口の中で生暖かい涙とともにゆーゆー叫んでいたが、歯で思いっきり噛むとそれも静かになった。
しかし、
「────うっ!?」
何かが、異物が口の中にある感覚を覚えてとっさに吐き出す。
「ゆびぃ!?」と口の中のものを吐きつけられた円缶の中の子れいむが叫ぶ。何かが今、異物として口の中に入った。
そうだ、一体何が──!
と、円缶の中にあるモノを見つけた。
「は、針……?」
どういうことだ。いや、簡単だ。子れいむの中に針が入っていたんだ。
でも、なんで。なんで、こんな……。下手したら死ぬとこだったぞ。
なんで、なんで、なんで……。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
怖くなって円缶を掴むと、そのまま中身だけを壁に向かって投げつけた。
生死問わず缶の中に入っていた子ゆっくりが宙を舞い、壁に叩きつけられた。
「「「「「ゆびぃ!?」」」」」
残らず顔面から壁にぶち当たり、壁に餡子の花を咲かせずるずると落ちる。
だがそんなものを気にしている余裕は無かった。なぜ子れいむの中に針が入っていたのか。
誰かが子れいむの中に針を入れた? まさか。
友達の中には、誰もこんな悪質なことをするやつはいない。
…………ならば、犯人は決まっている。
そう確信すると、誰かがドンドン玄関のドアを叩く音がした。
その音にビクッ、と跳ね上がった。
「…………誰だ」
恐る恐る、静かに玄関に向かっていく。
とっさに下駄箱に立てかけた金属バットを手に取る。
「……誰だよ」
玄関に辿り着き、問いかけても返ってくるのは扉をドンドン叩く音のみ。
仕方なく、そっと扉を開けた。
「ゆっ!! おにいさん、れいむのこどもたち、ゆっくりかえしてね!」
顔を真っ赤に腫らした、ゆっくりれいむがそこにいた。
…………あぁ、そうだ。こいつが、こいつが!
気付いたら許可もなく玄関の中に入ってきたそいつを、金属バットで上から殴りつけた。
「ゆびぃ!? なにずるのぉぉぉ!!」
「うっ、うわっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
振るう。振るう。振るう。
叩く。叩く。叩く。
一心不乱にゆっくりれいむに金属バットを叩きつける。
あぁ、そうだ! こいつが子れいむに針を入れた!
友達の中に誰も犯人がいない以上、あいつを産んだこいつが犯人に決まっている!
「ゆがぼ……っ、ゆぐっ、いだいよ……やべで……」
「ふんっ! ふんっ! ぬんっ!」
グチャ。ベチャ。
れいむを叩く度に皮が変形し、餡子が飛び散り、涙が飛ぶ。
そうしてバットを振るい続けた結果、気付いたられいむは原型も留めず死に絶えていた。
そして玄関は、見るも無惨な餡子まみれになっていた。
「どうして、こんなことに…………」
誰が掃除すると思ってる。
子れいむの中に針が入ってる気がしたが、別にそんなことは無かったぜ!
「Y5……? なんですかそれは」
「ゆっくり症候群……。見るゆっくり全てを虐めたくなる、または悪いことをするゆっくりに見えてしまうという、ゆなみざわ村の風土病です」
「な、治す手段はあるのですか!?」
「え? 治す必要あるんですか?」
「………………」
4、ニュークレラップ
冷蔵庫からゆっくりを取り出す。
皿の上に乗せてラップして冷やしていたものだ。
机の上に乗せてラップを外すと、ガチガチと歯をならすゆっくりれいむの顔が見えた。
「ゆびびびびびびっ、おにいざぁん、ざむいよ゛ぉぉぉぉ…………」
餡子さえ無事ならば死なないことが多いゆっくり。冷蔵庫に入れたぐらいでは流石に死なないようだ。
「はいはい、今から暖かいお風呂に入れてあげるからねぇ」
「ゆ゛っ! おふりょ!?」
ガチガチと寒さで歯をならしながらも期待に目を輝かせるれいむに、あるものを巻きつけていく。
そう、ニュークレラップだ。
「ゆゆっ!? おにいさんなにするの!!」
「にゅー くれらっぷ~♪ さらんらっぷじゃない~♪ にゅー くれらっぷは~ なんでも覆える優れもの~♪」
まず顔面。そしてグルッと横に周って後頭部にもぴっちりつける。
「ゆむぶっ! ふぁひするのぉぉぉ!!(ゆぶぶっ! なにするのぉぉぉぉ!!)」
「くるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくる」
横に一周。斜めに一周。逆斜めに一周。もう一度縦に一周。横に一周。ついでにもう一周。
ニュークレラップでれいむを包みに包む。一寸の漏れもなく、れいむはピッチリとラップで全身覆われる形になった。
「さぁて、待望のお風呂だぞぉ」
そうれいむに言いながら、台所に立つ。
そこではあらかじめ火をつけておいた深底の鍋の水が沸騰していた。
「はい、投入~」
そのボコボコと沸騰しているお湯にれいむを入れる。
「!?!?!?」
声にならない叫びをあげるれいむ。いや、口もぴっちりラップで覆われているから、声も出せないのか。
グツグツグツグツ。
百度という熱湯の中で茹でられるれいむ。ラップをしていたのは溶けないようにするためだ。
お湯とラップ越しとはいえ、熱湯で茹でられるれいむの顔は苦悶に満ちていた。
目と口をガッ! と見開いている。とても面白い顔だ。
「さて、この状態で十分、と」
タイマーを設定して準備完了。
後は十分間、地獄の中でゆっくりするれいむを眺めていよう。でも悲鳴が聞こえないのは残念だ。
餡子が漏れることはないから、死にはしないだろう。
もっとも、取り出した後で食べるから結局死ぬことになるのだが。
5、学生の食事事情
私立結締(ゆいじめ)学院。
将来ゆっくりに携わる職業を目指す少年少女達が、ゆっくりに関する知識やゆっくりの取り扱い方などを学ぶ学び舎である。
この学院ではゆっくりを〝教材〟として扱い他に、食材としても使用している。
そう、購買や食堂等だ。もちろん、普通の食事も食べれるが、生徒にはゆっくり料理が大人気だ。
結締学院食堂。昼休みになると多くの生徒でごった返すここでは、ゆっくり料理を頼む生徒が多くいる。
この少年もその一人だった。
「えぇと、確か先に席をとってくれてるハズだけど……」
料理を載せたトレイを持って何かを、いや誰かを探している少年。トレイの上からは「ゆ゛っ……う゛っ……」とうめき声がするが、食堂の喧騒で掻き消されている。
「おぉい、こっちこっち!」
少年を呼ぶ声がした。少年はそちらに顔を向けると、視線の先には二人分の席を確保している少女の姿があった。
少年は自分を呼んだ少女のもとまで早足で向かい、確保してもらっていた席の一つに腰掛け、テーブルにトレイを載せた。
「今日は何にしたの?」
「見てのとおり『子れみりゃ定食』だよ」
少女に問われ少年は〝百聞は一見にしかず〟とばかりに指で料理を指し示す。
そこにあるのは服を剥かれた胴付き子れみりゃの腹部を抉り、そのへこんだ部分にキャベツやスパゲティなどの取り合わせを盛ったメインのオカズと味噌汁と白飯のついた、この食堂でも人気の『子れみりゃ定食』だった。
容器代わりにもなっている子れみりゃは肉まんのため食べることもでき、ボリュームもあって安価なため学生に大人気なのだ。
頭部はエビフライの尻尾のように残す人もいるが、残った量によってはそこから胴体を再生させて再利用することも可能なのだという。
しかも、ここの食堂の人は腕が良いのか、この子れみりゃまだ生きている。食べながら悲鳴や呻き声も楽しめるというお得な一品だ。
「そういうそっちは?」
「ん? 『焼きそばれいむ』」
少年に訊ねられた少女は、テーブルの上に置いてあった紙袋からパンの入った袋を取り出す。
それは購買の中でも人気の『焼きそばれいむ』。
子れいむの中身と目、頭部の生えている皮を髪ごととと中身の餡子を取り除き、空いた空洞に焼きそばを詰め込んだ一品だ。
目や口からは焼きそばがはみ出ており、また頭からもまるで髪のごとく焼きそばが飛び出ているのだ。
「…………前から思ってたけど、それゆっくりでやる必要殆どないよね?」
「味的にはね。これはビジュアルで売ってるのよ」
そう言いつつはもはもと焼きそばれいむを食む少女の紙袋の中には、『エンゼルありす』や『まりサンドイッチ』があったりする。
私立結締学院。
就職率は九十二パーセントである。
6、暗殺
「ゆっゆ~♪ あかちゃんゆっくりしてね~♪」
「ゆっくり大きくなってね~♪」
ある所に植物型にんっしんっ! をしたゆっくりれいむが居た。傍らには番のゆっくりまりさもいた。
私はちょっとした遊びをしてみるため、取り敢えず二匹が巣の中で寝静まる夜まで待った。
「ゆぴ~……ゆぴ~……」
寝息を立てて二匹が眠り始めた。番であるまりさは見張りに立ちもしないで眠りこけている。
とりあえずまりさは邪魔なので借りてきた玄翁で叩き潰した。断末魔の声を上げられても困るので一撃必殺で。
そして照準をゆっくりれいむに向ける。頭からは八匹分の赤ゆっくりの実を宿らせた茎が生えている。
私はれいむがゆっくりと眠っているのを確認すると、懐から針を取り出す。
そして間髪入れずにその針で茎の赤ゆっくりを一突き!
「……ゆぴっ」
微かな断末魔を残して息絶えた。だが念のためもう三十回は突き刺しておく。
これを他の七匹にも同様に行なっておく。
こうして赤ゆっくりは茎に実ったまま、生まれることなく死んだ。
私は全部死んだことを確認すると、一日分のゆっくりのエサとなるお菓子を巣の入り口に置いて一度帰った。
翌朝、
「ゆ゛っぐぅぅぅぅ!? ばりざぁぁぁぁ、どうぢだのばりざぁぁぁぁ!!!」
目覚めたれいむが最初に見たのはグチャグチャに潰れて原型など欠片も残っていないパートナーの亡骸だった。私は明け方から監視ポジションにスタンバっていた。
一刻ほどゆんゆん号泣していたが、泣き止むとまりさの死骸を食べ始めた。
ゆっくりの中には死んだ家族を食べることで弔いとする個体もいるそうだから、このれいむもそういった手合いなのだろう。
その後まりさが居なくなったことでエサ集めをどうしようかと悩み始めた。子を宿したゆっくりは巣の中でゆっくりするのがセオリーだからだ。
だが巣の入り口に大量のお菓子があるのを見つけると喜んで食べ始めた。
「ゆっゆ~♪ あまあま~♪ これだけたっくさんあればゆっくりできるよ~♪」
鼻歌なんぞ歌いながら嬉しそうに食べ始めた。嬉しいことがあると直前の悲しいことすら忘れる餡子脳っぷりが見事に発揮されている。
「ゆゆ~♪ れいむのあかちゃんゆっくりおおきくなってね~♪」
お菓子を五回程に分けて食べつつ一日を終えたれいむ。
そして食事の度に頭上の赤ちゃん達に話しかけている。
だが赤ゆっくりは既に死んでいる。しかしれいむが気付かないのは何故か。
植物型のにんっしんっ! の場合、茎が前に倒れている場合と、上にピンと登っている場合とがある。れいむは後者だった。
前者の場合は視線を上に上げれば自分の子供の様子が見れるが、後者の場合は死角に入って自分の子供の様子が分からないのだ。
だからこのれいむは自分の子供がまだ生きているものと思っている。
私はその次の日からも、夜の間に一日分のお菓子を置き続けた。
二日目
「ゆゆ~♪ あかちゃんそろそろうまれるかな~♪」
四日目
「ゆっゆ~♪ とってもれいむににて、とってもゆっくりしたあかちゃんだね~♪」
六日目
「とってものんびりしたこだねぇ♪ とってもゆっくりしているこだね!」
十日目
「ゆゆ? あかちゃんどうしたの? ゆっくりしすぎだよ?」
十三日目
「どうしたのあかちゃん? ゆっくりしすぎだよ、ぷんぷん! はやくかわいいおかおをみせてね!」
二十日目
「どぼぢでぇぇぇぇ!? なんであがぢゃんうま゛れ゛ないの゛ぉぉぉ!!!」
三十日目
「ゆぐっ、ゆぐっ……あがじゃん、はやぐうまれでよ゛ぉぉ……」
四十日目
「ゆぎぃぃぃぃ!!! あがじゃんざっざどうまれでねぇぇぇぇ!!!」
四十一日目でれみりゃが巣に襲撃して観察は終了。
最後の最後まで子供が死んでいることに気付かなかった。
今度は死ぬ前に気付かせてみよう。
ある山中で私は、とても変なゆっくりを見つけた。
そのゆっくりれいむは、跳ねることなく進んでいる。だが速度が異常なのだ。
速い。あくまでゆっくりとしては、というレベルではあるが跳ねることなく速く移動しているのだ。這っているわけでもないようだ。
私は好奇心にかられそのゆっくりを手にとって調べてみることにした。
「ゆゆっ! おにいさん、なにするの、ゆっくりしていってね!!」
ひっくり返したり振ったり叩きつけたり引きずったり色々と試していると、ゆっくりの速度の謎が分かった。
ゆっくりの底部、ゆっくり達が『あし』と呼称するその部分が、蠕動しているのだ。
うねうねと左右に、そうまさしく蛇のように動いているのだ。どうやらこれで進んでいるらしい。
思い出してみれば進んでいるゆっくりは確かに横にぶれて歩いていた。
「なんていうことだ。体の形を変えることなく速く進む術を手に入れるとはな…………」
「ゆふふふっ、ゆっへん!」
「でもまぁ、焼いてしまえば歩けない点は同じか」
「どぼぢでごんなごどずるの゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」
8、導火線
一匹のゆっくりれいむの前に導火線付きの爆弾を置いてやる。
最初れいむは「ゆゆっ? おにいさん、なにこれ?」と不思議がった様子で観察していた。
私は危ないよ、とれいむを下がらせると導火線に火をつけた。
バチバチと火が導火線を辿っていく様をれいむは楽しそうに目で追っていたが、
BOMB!
導火線が爆弾に辿り着いた瞬間爆発し、爆弾の側に眠ったまま放置しておいた番のゆっくりまりさが吹き飛んだ様子を目の当たりにすると、驚愕し、悲しみ、泣き叫んだ。
そんなれいむを押さえつけて頭に同型の爆弾を取り付ける。
その後かなり長い導火線を一度れいむに見せ付けた後、可能な限り伸びるように引っ張る。
そして、導火線に火をつけた。
「ゆっぐり゛ぃぃぃぃ!? おにいざんなにずるの゛ぉぉぉぉ!!」
それが何を意味するのかれいむは瞬時に理解した。理解し、導火線の火から逃れたいかのように走り始めた。
だが爆弾は頭についている。距離は広まらないどころか時が経つにつれて短くなる。
「ゆっ、ゆっ! ひさん、ゆっくりしていってね!」
バチバチと後ろから追ってくる導火線に懇願するゆっくりれいむ。微笑ましい台詞につい笑ってしまう。
あと二十メートル。
「ゆぐっ、ゆぐっ! どぼぢでおっでぐるの゛ぉぉぉぉ!!」
全く広がらない導火線の火との差に泣き始めるゆっくりれいむ。導火線はそんなれいむを無視してドンドン火が爆弾に近づいていく。
あと十二メートル。
「ゆっくりこっぢごないでね! やべでっ、やべでぇぇぇ!!」
立ち止まって振り返り、土下座するかのように頭を地面にこすり付けて再び懇願するれいむ。だが意味がない。
導火線が全く止まらないことを知ると再びれいむは走り始めた。
残り五メートル。
「どぼぢでどまっでぐれない゛のぉぉぉ!! おにいざん、だづげでぇぇぇぇ!!」
限界まで他人を頼らない精神は立派だが、もう遅い。
残り一メートル。
「いやっ、やべでっ、ごないでっ、でいぶにごないでぇぇぇぇ!! ゆがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
BOMB!
爆発。
爆弾の威力はさっきより弱めで、れいむは体の半分を損失した程度で済んだ。
「ゆがっ、ゆがべ……」
白目を向き、口の端から泡を吐き出すれいむを見ると途端に元気が湧いてくる。それに先ほどまでの慌てふためくれいむも可愛かった。
録画しておけば良かったと後悔した。
9、なんだいこのボムは!
「大変だ! ゆっくりんピースがとうとうアレを完成させてもう実行しやがった!」
「「「な、なんだってー!!!」」」
ある
ゆっくり虐待仲間のもとに一報が届いた。
それはかのゆっくり愛護団体『ゆっくりんピース』が、ゆっくり虐待を防ぐためゆっくりの体に爆弾を仕込んだというものだ。
それはゆっくりの体内に仕込まれており、激しい衝撃を感知したり餡子が漏れ出ると爆発する仕組みだそうだ。
「畜生! なんてこった! これじゃあ迂闊にゆっくりに手が出せない!」
「なんて恐ろしいことをしやがる、あいつら!」
「ちくしょう……だが、俺はヤツラを虐めて死ねるなら本望!」
「よせ、命を粗末にするな!」
ゆっくりんピースの所業に悲しみ、怒り、憤る虐待を趣味とするものたち。
さて、ゆっくりはというと────
「うっう~♪ た~べちゃうぞ~♪」
「ゆぎゃぁぁぁぁ!! れみりゃだぁぁぁぁ!!」
一体のゆっくりまりさが一体の胴無しれみりゃに襲われていた。
まりさは必死に逃げたが捕食種から逃げられるわけもなく、容赦なくその体に牙を付きたてられた。
「う~♪ いっただきま────」
まりさの頬から餡子が流出した瞬間、まりさの体に仕込まれた爆弾が爆発した。
「う゛ぅぅぅぅぅ!?」
その後まりさの爆弾の衝撃でれみりゃに仕込まれた爆弾も爆発した。
後に残ったのは黒こげでピクピクしているゆっくりまりさとゆっくりゃだけだった。
「ゆ~♪ まちぇ~」
「ゆっくりにげるよ!」
ある所に平和なゆっくりの一家がいた。
親れいむと姉妹同士で遊ぶ子れいむ、子まりさ達。
鬼ごっこしながら遊ぶゆっくり一家はまさしく、ゆっくりしているゆっくり一家だった。
だが、
「ゆびっ!」
一匹の子まりさが小石につまづいて転んでしまった。
慌てて家族達が子まりさのもとに集まる。
「だいじょうぶ!? おちびちゃん!」
「いぢゃい゛よぉぉぉぉ!!」
頬を擦ったようだが大したケガはない。あまりケガをしたことがないため過剰に騒いでいるだけだと親れいむが安心した時、トロリと子まりさの頬から餡子が漏れでた。
爆発。
子まりさに仕込まれた爆弾が爆発し、周りにいた子ゆっくりは軒並み消し飛び、親れいむは爆風で吹っ飛ばされた。
「ゆぐぅぅぅぅぅ!?」
爆風で吹っ飛ばされる先、そこには近所のありすとまりさのカップルがいた。
「ゆゆっ? れいむなにしてるんだぜ?」
突然のことに餡子脳の理解が追いつかず首を傾げるカップル。そんなありすとまりさに親れいむがぶつかった。
爆発。
爆発から爆発の連鎖もあいまって、三匹はピクピクと痙攣した後息絶えた。
ゆっくりんピースが計画を実行して一週間で野生のゆっくりは数を四割まで減った。
計画は中止され、爆弾も全て回収された。
10、呪いのゆっくり人形
「なんでこんな物作ったのかしら……」
幻想郷の魔法の森。その中にあるこぢんまりとした洋館に、人形遣いの魔法使い、アリス・マーガトロイドが住んでいる。
彼女は今現在、先ほど作り上げた人形を前に自分の行動を少し後悔していた。
彼女の目の前、机の上にはある人形があった。
「いや、これは人の形をしていないからそもそも人形でもないわね……」
それはゆっくりまりさを模った人形(?)。
何故こんな物を作ったのかと聞かれたら、魔が差したとしか言いようがないアリスだった。
出来も悪いし、破棄しようかと思っているとアリスはふとある事を思いついた。
「これでも呪いに使えるかしら……」
アリスはそう呟くと机の上にゆっくりまりさ人形(?)を持って外に出た。
「まずは基本五寸釘よね」
と、何時だったか藁人形に五寸釘を打ち付けた時とは打って変わって静かに、淡々とゆまりさ人形に五寸釘を打ち付けるアリス。
数本程刺したところで木に磔のように打ち付けられたまりさ人形の帽子に火をつけた。
メラメラと帽子が燃えるところをしばらく見守っていたアリスだったが、途中でひょいと帽子をとると地面に落として足で火を踏み消した。
「何か違うわねぇ……まぁ、いいわ」
最初から真面目に呪うつもりなどなく、単なる気まぐれで始めたようだったらしく、アリスはそのまま家の中に入っていった。
あるところに一人でゆっくりしているゆっくりまりさが居た。
「ゆゆ~♪ ゆっゆゆ~♪」
と歌を歌いながら楽しげにぴょんぴょん跳ねていたが、
「ゆぐっ!? ゆぎいぃぃぃぃぃ!!」
突如体に走った激痛に絶叫する。
口の下、腹部あたりに何かが体にめり込む感覚があった。いや、それは今も体に入っている感覚がする。
しかし、まりさの体には何の異常もない。
「ゆぐっ……なに゛ぃ……? なにがあっだの?」
痛みをこらえつつキョロキョロと周りに体を向けるも、原因はまったく見つからない。
気のせいなのかもと餡子脳で考えた次の瞬間
「ゆごぉぉぉぉぉ!?」
今度は右目を失明しかねない激痛が襲った。
まるで五寸釘でも打ち込まれたかのような激痛に、まりさは滝よのうな涙を流しながら痛みに転がりまわった。
ゴロゴロと転がりまわるまりさに、再び激痛が襲い掛かる。
「ゆっぐり゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!」
体の中心を貫く激痛。
自分の体の中心に何かがある違和感。全身に走る原因不明の痛み。
その気味悪さと苦痛から逃れるように、まりさはそこらを走り回る。
どこかを目指しているわけではない。ただこの苦しみから逃れたいがために走りまわる。
「ゆぐぎぃぃぃぃ!! どぼぢでぇぇぇぇ!!」
涙を風で飛ばしながら走るまりさ。
そんなまりさの帽子が、突然燃え上がった。
「ゆぼぉぉぉぉ!!! なんでばりざのおぼうじがぁぁぁぁ!!」
自分の帽子を見上げて絶叫するまりさ。だがその間も足は止めていない。
前を見ずに走った結果、
ボチャン
「!?」
妖怪の山から流れる川に落ちた。
帽子は川に落ちる前に、まるで何者かが奪ったかのように宙に浮き、川岸に落ちた。
「がぼぼ!? ばぶばぼぼぶぶばぁぁぁぁ!!(ゆゆっ!? まりざのぼうじがぁぁぁ!!)」
自分が今まさに溺れ、溶けかかっているのに帽子のことを心配するまりさ。
だがそれもすぐに終わる。あの五分もしないうちにこのまりさは、苦しみ以外のことが考えられなくなる。
おわり
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これまでに書いたもの
ゆっくり合戦
ゆッカー
ゆっくり求聞史紀
ゆっくり腹話術(前)
ゆっくり腹話術(後)
ゆっくりの飼い方 私の場合
虐待お兄さんVSゆっくりんピース
普通に虐待
普通に虐待2~以下無限ループ~
二つの計画
ある復讐の結末(前)
ある復讐の結末(中)
ある復讐の結末(後-1)
ある復讐の結末(後-2)
ある復讐の結末(後-3)
ゆっくりに育てられた子
ゆっくりに心囚われた男
晒し首
チャリンコ
コシアンルーレット前編
コシアンルーレット後編
byキノコ馬
最終更新:2008年10月15日 22:27