ゆっくりいじめ系1320 黒ゆっくり3




 真っ暗な闇の中。幾つかの美しい光が点滅している。私も隣の男も一言も言葉を交わすことは無い。
 薄暗い研究室の中では新型のゆっくりの研究が行われていた。現在はその成果と成る試験体の稼動実験をモニターしている最中だ。
 暫くして観察が終了し、室内に明かりが灯ると共に一息つく。伸びをする者や溜め息をつく者、張り詰めていた空気が和らいでいくのを感じて私も体をほぐす。
「うぐぐ・・・体が硬い。こっちがゆっくりに成っちまいそうだぜ」
 世の中には協定を結んで人間と上手く共存しているゆっくりもいる。
 必要なのは「優秀なリーダー」なのだ。
 大抵の場合はドスが無能であるか、ドゲスの群である為に協定は瓦解してしまう。
 そこで考え出されたのが、新しい強化種を開発する事であった。優秀なドスに変わる存在を人工的に作り出し、それを野生に撒くのである。
「思い通りには行かんもんだな」
 既存の成体ゆっくりを教育していたのでは時間も手間も掛かる。しかも、群のリーダーにするには相応の戦闘力が無ければ不可能だ。
 人間に従順・頭が良い・人間のルールを理解できて・群を統率可能……しかも低コストで量産可能である必要がある。
 生まれた時点で本能として生体餡子脳に「群を統率し人間に迷惑を掛けない」事を刻まれた、既存の種よりも強力な戦闘力を有する新型ゆっくり。
 自然繁殖出来ない様に生殖機能を持たず、生まれた時から成体並みの体と知能を与え、人間が一切関わる事の無い状態で自立稼動可能な固体。
「お~い、コッチ来い。反省会はじめっぞー」
 反省会と言われたのは、今さっきの実験結果の分析と今後の対応策についての協議の事で、各部門の責任者が集まっている。残りは昼飯に出かけた。羨ましい。

<<CASE-2894:人間の畑を荒らしたゆっくりに対する対処>>

「放置した挙句にニンゲンを攻撃するとは驚きましたね」
「まさかココまで無能だとは………」
 実験結果が思わしくない為か、皆の顔にも疲労の色が濃く滲んでいる。まるで朝飯以降なにも口にして居ないかの様な空腹感溢れる顔である。中には耐え切れずに腹を鳴らす者まで居て、事態の深刻さを物語っている。
「えー前回の報告どおり、生まれた直後の状態で森に放置しても、自身の生存に問題ないだけのサバイバリティーの獲得には成功しております」
「野生のレミリア種やフラン種との交戦記録でも勝率98%を記録しており、戦闘力・生存能力に関してはほぼ完成と言って差し支えないかと思われます」
 報告をする男の視線は中を彷徨い焦点を結んでいない様に思われる。はやくなにかたべないとしんでしまうぞ。
「群の形成に関しても申し分有りません。移植したドス餡が十分に生かされているものかと」
 ただ強いゆっくりと言うだけでは意味が無い。森に暮らすゆっくりを統率し、管理し、人間に危害を加えない様に教育する必要がある。
「一応群では人間に近づくな的なおきては有ったみたいですが……」
「残念ながら掟を破る質の低いゆっくりを教育する所までには至らなかった……か」
 言う事を聞く優良な固体のみを群に残し、人間の畑を荒らす掟を守れないゲスゆっくりはふるいに掛けて放置する。
 通常のドスの群ではソレでよい。しかし我々が開発している新種は、人間へ危害を加えない様に森のゆっくりを集めて管理する目的で作られている。
 ゆっくりがゆっくりする為であれば、バカな固体が自滅するのは構わないだろうが、バカな固体が自滅する事自体が人間には迷惑なのだ。
 ダメなゆっくりはしっかり教育するか、畑にお出掛けして自滅する前に群で駆除して貰う必要がある。
「今回のメインであった畑荒らし役のレイムに対する対応ですが、成功とは言いがたい内容です」
「だが畑荒らしの悪事は認識していた。失敗と言うほど悲観する内容でも無かったのではないか?」
「人間が先に見つけて虐待した為に、制裁を任せたと言う見方も出来る」
「だがその後の行動は、これは如何説明する?人間に襲い掛かっている様にも見えるが」
「しかし、擬体とは言えニンゲンが負けるとは予想外でしたね。もう少しニンゲンの知能、上げられませんか?幾らなんでも対応がお粗末だったと思うんですがね」
「無理言うな、幾ら記憶を上書きしているとは言ってもベースはレミリア種だぞ。そう簡単に知能が上がったら開発だって苦労しないっつーの」
 戦闘力に関しては申し分ない。ゆっくりゃやゆふらんを上回り、尚且つ群を統率する所までは来ている。後は論理思考のパターンの調整なのだが……
「破壊されたニンゲンは破棄ですよね!食っていいですか!?」
「落ち着け…ゆっくりの食い残しなんか食う気か。もうこれで終わるから昼食にしよう」
「とにかく、この行動の理由について早急に分析を行い、本能プログラムの改修案を検討する必要があるな。残りは午後だ、解散!」



 回収した黒ゆっくりは専用の台座に固定されて何本ものメンテナンスケーブルが繋がれている。
 餡子脳を記憶再生機に繋いで行動や思考を分析し、問題点を調査して次回への改良とするのだ。
 何故そんな事をしたのか?どうして適切な行動を取らなかったのかを問いただして行く。目も口も動かさずに独白めいた音声が蓄音機へ記録され、再生用の箱から流れてくる。正直キモイ。
「それにしてもこいつ……自伝でも出版するつもりなんですかね?」
 黒ゆっくりの独特の語り口調に失笑を堪えながら若い研究員が言ったが、私は少しも面白くは無かった。
 これだけお膳立てしてやってるのに、目標の数値には程遠い統率力と稼働時間。今回も早々に問題を起こして実験終了だ。
 アレが現実なら破壊されるか、よしんば人間を倒せてもその後に村人総出で山狩りになって壊滅するのは眼に見えている。
 そもそも、畑に被害を出した時点で我々の要求仕様としては失格なのだ。少なくとも、発見した時点で即座にレイムを殺すべきだった。
「てっきりレイムに味方して人間と戦うのかと思ったんですがね」
 今までのケースでは畑荒らしを目論んだゆっくりが人間に発見された場合、目の前の人間とゆっくりを比較して本能が勝ってしまい、ゆっくりを助けようと人間に襲い掛かった例もある。
 今回の黒ゆっくりは虐待前に発見したにも関わらず行動を観察していた。畑荒らしを抑えるでもなく、レイムを助けるでもなく、虐待を止めるでもなく。
「うむ、おそらくだが、本能としてインプットした論理思考に影響を受けているのだろう」
 本能でゆっくりを助けたり、人間に襲い掛かったりする事を防ぐ為に、今回のバージョンでは調整を加えていた。
 種としての本能的な行動よりも、論理的に正しい事を優先して行動するように、行動原理と成る部分を強化したのだ。
「あぁ、それで正義の味方みたいな事をやりたがるんですかね?」
 群を作って統率したりするのはドス種の本能部分を移植したので、ゆっくり的な思考が強く出てしまう傾向がある。
 それを抑える為に、論理思考回路を組み込んで自身が正しいと判断した行為を優先する様にし、常に正しい存在であり続ける事を最優先とするのだ。
「自分からは先に手を出さなかったり、口上を述べたのも自分が悪の存在になる事を本能的に回避しての行動だと思われるな」
 元々、人間のルールを破ったりしないようにする為に、自身の損得より優先的に守るように組み込まれた物なのだが。
 手段と目的とが入れ替わって完全に偽善の言い訳に成ってしまっている。
「コイツの中では悪いのはレイムなのだろう。せかっく教えたルールを理解しない無能なヤツが悪いのだ」
 無能なヤツを管理出来なかった時点で人間から見れば同罪なのだが、コイツにはそこら辺がまだ理解できてないらしい。自分さえ正しければ良いと言う自己中心的な思想が抜けきっていない。

「他者に対する正義の徹底、群のゆっくりの行動に関しての連帯責任の意識の欠如ですか」
「元々リーダーとしての責任感が薄い感はあるな」
 移植したドスの本能で群を作っているが、本来ドスは沢山のゆっくりをゆっくりさせたい為に群を作るのだ。
 しかし、群を管理して人間への危害を与えなくする為に、様々な本能を多数上書きして混ぜ加えた結果、ゆっくりさせるの部分を弱める事には成功したが、群のリーダーとしての責任感が薄まった可能性もある。
 今の状態では群を作るのは殆ど自己満足のために近い。
 だが、元々ドスに責任感があるかは疑問であるし、群を形成する習性だけ残れば良いのだ。教育や管理は論理的な思考を上書きする事で実現するしかない。

「まぁ今回のレイムは我々が実験の為に仕向けたのだからソレは良しとしよう」
「群の長として責任感全然感じてない所は良く無いっすけどね」
「むしろ重要なのは、レイム回収時に人間に危害を加えようとした所だ」
 人間の里へ降りて来て、住居不法侵入しておいて正当防衛が主張できる理屈はない。仮に正当な理由があっても、人間を攻撃する様では困るのだが。
 正当な理由を正常に判断出来ないのでは、幾ら道徳と倫理感の強化を施しても改善の見込みが無い。
「あくまで自分が悪者には成りたくないと言う心理は働いてるみたいですね」
「だがその為に理屈は殆ど詭弁のレベルだ。知能が低いのではなく自己正当化して満足してしまっている」
 自分が正しい事、これから行う事が既に決まっており、その為に都合の良い正義設定を組み立てている。普通逆だ。

 同属に対する復讐と言いながら、助ける事無く虐待を見ていた。
 捕食についても、虐待を観察してた理由には成らないし、親のニンゲンに話しかけた事とも矛盾する。
「コイツ本当に自分はニンゲンよりマシだと思ってるんですかね?」
 復讐・虐待の傍観・捕食の何れをとっても明らかに劣る。
「自分で説明してるだろ“自分の卑小さを紛らす為”だと」
「ソコまで自虐されると作った俺らに失礼ってもんですよ」
 確かに、そうだ。コイツを素直に蔑む事が出来ないのは、本能レベルで組み込まれた思考プログラムの開発を我々が担当している事が関係している。
 実験でコイツがアホな行動や、理解不能な臭い台詞を吐く度に、研究チームの痛い視線を感じる気がする。実際はそんな事も無いのだろうが、耐えられずに胃が痛くなる。
 行動パターンは何も我々が担当したコア部分の論理回路のみだけではなく、予備知識として引き継ぐ餡子知能や、思考に使用される新型餡子の配合などの様々な要素の影響を受ける。
 故に、我々のチームのみがココまで責任を感じる必要は無いのだろうが、正直もう耐えられそうにない。
「今回のポエム聞きました?もう爆笑でしたよ」
 この男の能天気さが羨ましい。

「それより、好戦的な性格も問題だと思うが……どう見る?」
 最終的にニンゲンに攻撃を行った直接的原因は、ニンゲンからの攻撃であったのだが。ソコに至る過程は明らかに誘導が見えた。
「レイムを取り戻すなら傍観していた理由は無いですよね?」
 やはり、最初から攻撃が目的で接触したとしか思えない。
「ニンゲンにレイムの虐待を任せようとした線は?」
「いや、一思いに殺せとも言ってるし、その後の発言からもそれは考えられない」
 助ける為でも殺すためでもない。レイムのことは如何でも良かったとしか思えない。
「やはり捕食?しかし人肉を求めるような設計では無い筈ですが」
「一応野犬対策とか、どんな環境でも生きられる様に雑食性にはしているがな」
 群のゆっくりには人里へ降りるなと伝えてあるし、普段は餌を求めて組織的に里を襲う傾向も無い。
 そもそも捕食目的であれば、もっと頻繁に人を襲う必要が有る。
 普段は他の野生動物を狩っている可能性もあるが、その様な場面は報告されていない。見付からないだけなのか?
 それでも人間と敵対するリスクを犯して、あえて捕食対象とする理由も分から無い。
 仮にニンゲンを餌として襲うとしても、もっと上手い手段は幾らでもあった。
 自分から声を掛けたり、虐待を黙って見ていた行動の理由も、会話の目的も一切不明である。
 そう考えると今回のケースが特殊で、正当防衛や捕食と言うのは単なる思い付きで口にしたに過ぎないと言う事なのか。
 とりあえず人間が如何行動するか観察した後に、人間を排除し、レイムを回収する寸法だったのだろう。
 群のゆっくりへの見せしめとして持ち帰るつもりだったと考えれば、虐待後に回収に動いた行動も考えられなくは無い。

「頭が痛いな……」
 人間に歯向かうなど論外だ。が問題はソコではない。
「もういっその事戦闘力下げます?」
 安全性を考えるならソレが一番だろう。
「いや、その必要は無いだろう」
 今の時点でニンゲンには勝てても、本物の人間を殺傷できるスペックは無い。
 子供や、大人でも油断して不意打ちを受ければ危険かも知れないが、それは通常のドスや巨大ゆっくりでも変わらない。
 ソコまで安全性を優先して戦闘力を削っては、群を統率する力さえ無くなってしまう。それでは意味が無い。
「それに、問題の本質はソコじゃないだろ」
 畑荒らしのゆっくりを止めなかった事。強さよりもコッチの方が深刻なのだ。
 規則を破ったゆっくりへの裁きよりも、同種である群のゆっくりの救出よりも、詭弁を並べてニンゲンに攻撃する事を優先した思考回路が問題だ。
 人間に迷惑を掛けずに群のゆっくりを管理すると言う目的の為に与えた、人間の価値観と道徳心。
 規則を遵守し、善悪を正しく判断する為に与えた知識と知能が、何故正常に働かないのかを調査して修正しなければ成らない。
「これは根気の要る作業になりそうだな……」
 今回の実験の分析で分かる範囲の調整は行うが、もうしばらくは実験と調整の繰り返しに成るだろう。

「しかしなんで子供から優先的に殺したんでしょうかね?」
 親の方には色々理屈を並べて時間を掛けた割に不自然だった。レイムを助ける為にニンゲンの親と接触した事は一応理解できるが、子供を攻撃した理由は何だろうか。
 行動に関して、特にニンゲンへの攻撃の際や自身の正当性・正義に拘っていたと言うのに、子供を殺す時点の行動は動機的にも不可解な点が多かった。
 子ゆっくりは助けようともしなかったし、これは見せしめは親レイム一匹で十分と考えた為かもしれないが。子供への攻撃理由には謎が多かった。
 今までの実験ケースでも、子供への予期しない攻撃が行われた事も少なくなく、今回もやはり懸念されていた習性が現れてしまった形となった。
「自分の生い立ちに対するコンプレックス的なモノを抱えているのかも知れないな……」
 実験に使ったレイム家族は片親だった。実験をやり易くする為に我々が選んだのだが、片親が何らかのキーワードとして働いているのかも知れない。
 いや……偶然の一致か?
 親と子の繋がり。今回用意したニンゲンも片親だった。通常とは異なる環境下でも親が子を見捨てる事無く育てている様を見る事で、自身の親の不在を拠り強く意識する可能性もある。
 自分が孤独で生まれた事が、愛される子供への憎しみ、親と言う存在の行動に対して格別の興味を抱かせるのかもしれない。
 この点に関しては次回以降も入念に観察する必要が有りそうだ。自身の出生に対する疑問や、不自然に高い知能と生まれ持って与えられた知識が、己のルーツへのより強い執着を生んでいるのだろう。
 その辺に関する予備知識を加えてやれば、少しは行動に落ち着きが出るかもしれないと考えて、コンソールを叩き潜在意識へのインプリントを行う。

「おーい、何時までも無駄話してるんじゃない。次のセッティング終わったぞ。非献体を入れろ」
「まってくれ!ここまでやってから実働データを取りたいんだ…………よしっ回してくれ」
「黒ゆっくり、餡子脳セットアップ。メモリー初期化完了。起動準備出来ました。各部モニター正常!オールグリーンです。何時でもいけます!」
 <<CASE-3225:虐待する人間が森に来た場合の対応>>
「黒ゆっくり………起動!!」


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最終更新:2008年11月05日 23:31
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