「はぁ~疲れた疲れた。さっさとビリー・ヘリントン兄貴のケツドラでも聴きながら一杯やりてえわ」
会社から帰ってきて独り言を言う俺。一人暮らしが長いと誰だってこーなる。俺だってこーなった。
部屋の明かりを点けて着替えようとした途端、いきなり大きな声が聞こえてきた。
「ゆっ!!おじさんだれ!?ここはれいむのおうちだよ!!かってにはいらないでね!!!」
「……ゆっ、くり?」
声を発したのはネット上で最近流行っている
ゆっくりだった。この髪型はゆっくりれいむか。
しかし何でまたこんなのが。よく見ると小さいゆっくりまでいる。この大きい奴が母親なのだろう、ぴったりと寄り添っている。
小さいのを数えると、何と30匹は居た。アンビリーバブルや。
「あー、お前、何。ゆっくりなの?」
「そうだよ!!れいむだよ!!ここはれいむのおうちなんだからさっさとでていってね!!!」
「はぁ?何言ってんだここは俺の……」
言いかけて気付く。そうだ。このやり取りは今までネット上で散々見てきたやり取りじゃないか。
こいつらに何を言っても、例え死ぬまで痛めつけても絶対にここが俺の家だと認識する事はありえない。
妙に嬉しそうな課長に説教され部長に熱い視線を投げつけられ専務にさり気なく尻を撫で回されるという、
ノンケ的に地獄のような職場からやっと開放されたんだ。そんな無意味なやり取りはしたくない。
非常に悔しいがここは大人しくこいつの言う事を聞くか。
「ああ、そうなのか。そいつは済まなかったな。だが俺もここ以外に行く所が無いんだ。泊めてもらえないか?」
「だめだよ!!ここはれいむたちのおうちなんだから!!ここにいたいなら『だいか』をはらってよね!!!」
代価ときた。どこでそんないらん知恵を付けてきたんだこの饅頭。
「それは無理だなぁ。俺は貧乏で、お前達にあげられるような物は無い。勿論食べ物だって無い」
「じゃあさっさとでていってね!!ゆっくりできないひとはいらないひとなんだよ!!!」
「まあそう言うなよ。そうだ、明日は日曜だし一緒にゆっくりしてやろう。それでどうだ?」
「ゆゆゆゆゆ!ゆっくりしてくれるの!?じゃあしょうがないからとめてあげるね!!ゆっくりかんしゃしてね!!!」
ああ、最初からゆっくりと言えば良かったのか。しかしネットで見た通り間抜けな奴らだなこいつらは。
「そうかいそれはありがとう。じゃあこの部屋を使わせてもらうよ」
「ゆっくりしていってね!!!あしたちゃんとゆっくりしてくれないとおこるからね!!!」
「はいはい。じゃおやすみ」
「ゆっくりねていってね!!!」
居間の明かりを消して、寝室に入る。電灯に驚かない辺り、どこか別の家に居た事があるのかもな。それで追い出されたか。
それはそうとこいつら、面白い事を言ってたな。ネットでこいつらを虐めてた奴らを見て俺は散々変態だ狂ってると考えていたが、
どうも俺にもその変態の素質があったらしい。明日は体を使うからよく体を休ませないとな。
「ゆっくり!ゆっくり!さっさとゆっくり!!しばくぞ!!!」
物凄い勢いで扉を叩かれて目が覚める。何だまだ6時じゃないか。煩い奴らだな。そんなに遊んで欲しいのか。
ゆっくり共の台詞を反芻してブツブツ突っ込みを入れながら着替えて居間に行く。
「やっとおきた!!おじさんゆっくりしすぎだよ!!れいむたちがゆっくりできないからゆっくりしないでね!!!」
「はいはい悪かった悪かった。今顔を洗ってくるから待ってろ」
と言いつつこっそり食料を持って洗面所へ。だって見られたらまた五月蝿そうなんだもん。
人生で初めて一歩も歩かずに洗面食事歯磨きを済ませる。その間ずっと扉を叩く音が聞こえてきた。うるせえなあゆっくりしろよ。
「あーうるせえぞ糞ゆっくり共が。一体俺を誰だと思ってやがるんだ」
「おじさんはおじさんだよ!!れいむたちのこぶんだよ!!さっさとゆっくりしてくれないとおこるよ!!!」
「あー?何の事だ。さっぱり分からんなぁ。ゆっくりってのは何の事だ?」
「とぼけないでね!!きのうれいむたちとゆっくりしてくれるっていったよ!!!」
「知らんなあそんな約束。訳の分からん事を言ってないでさっさと出て行け。ここは俺の家だ」
「ゆっ!!どうしてそんなうそつくの!!ここはれいむたちのおうちだよ!!おじさんがでてけ!!」
「はいはい寝言は良いから出て行ってね」
「れいむの!れいむのおうちだよ!!どうしてそんなこというの!!おじさんはどろぼうだね!!」
「泥棒はお前らだよ不細工饅頭」
「!!!!???ぶぶ、ぶさいく!!れいむはぶさいくじゃないよ!!れいむはぶさいくじゃないよ!!」
「おお、怒った怒った。こいつは酷い。泥棒で嘘吐きで不細工な饅頭だ。ふはっ」
「おこったよ!れいむもうおこったよ!!ゆっくりできないおじさんなんてゆっくりしね!!」
顔を真っ赤にしてその場で跳ねる。周りの赤ん坊達も母親の真似をしている。目も吊り上がって、あれはキチ○ガイの顔ですわ。
「んんん?怒った?怒った?お前ら怒ったの?怒ったから何なの?俺をやっつけでもするつもりなの?」
うわあ、我ながらうぜえ。さっきから小学生か俺は。でも楽しいな。童心に返るって良いですね。こういう意味じゃないとも思うが。
「そうだよ!!やっつけちゃうよ!!みんなでかかればおじさんなんていちころなんだよ!!」
「そうかいそうかい。じゃあ勝負だ。お前らが勝ったら黙って出て行ってやる」
「ゆゆ!ほんとう!?ほんとうだね!!またうそつかないよね!!」
「ああ本当だとも。その代わり俺が勝ったらお前ら全員殺してやるからな」
「まけないもん!れいむたちはなかよしなんだからおじさんみたいなわるものなんかにまけないもん!!ゆっくりしね!!!」
そう言って一斉に飛び掛ってくる。子供達はまだ小さいから何匹いても問題ないが、母親はちょっと大きい。
尻餅位はつくかも分からん。ので、中段蹴りをお見舞いする。オ、ナイスキック。
「ゆ゛びゅぶっ!!」
「おかあさーん!」「よくもおかあさんを!!」「ゆっくりしんじゃえ!!」
すげえ悲鳴ですっ飛んでいく母親。子供達は元々赤かった顔を更に赤くして飛び込んでくる。おお、中々いいマッサージだ。
「うわーいたいよーたーすーけーてー」
「もうすこしだよ!!みんながんばって!!」
棒読みなのに全然気付きやしない。まあ、そうでないと戦意喪失されてもつまらんからな。
「ってんな訳ねーだろ。ホレホレどんどん来ないと殺して食っちまうぞ」
「ゆゆゆううううううああああああ!!!ゆっくりしね!!ゆっくりしねえ!!」
叫びながら臍辺りの高さまでジャンプした奴にニーキックを浴びせる。
更にさっきから尻に頭突きをしてくる奴に後ろ回し蹴り。そのまま回った勢いで戻ってきて顔面に飛び込んできた母親に足刀。
ふははは、通信空手1級という戦闘のプロフェッショナルである俺にお前らごとき食料が勝てるはずなかろう。
「い゛だい゛よ゛お゛!あ゛ん゛ごが!あ゛ん゛ごがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「ちっかいちて!きじゅはあしゃいよ!!」
「れいむのあかちゃんになにするのおおおおお!!」
「ヘイバッチコーイ」
そんな感じで乱痴気騒ぎを続ける事20分。いい加減疲れてきたが、奴らはもっと消耗してる。
死んだ奴は全部で8匹。適当な演技が効いてるらしく、奴らまだ勝てると思ってかかってくる。
「ゆっくりしんじゃっtびょぼぷがあ!!」
鳩尾に飛んできた奴を肘撃ちで叩き落す。これで9匹目。流石に怖くなってきたようだ。動きが鈍っている。
「どうした饅頭?かかって来ないならお前ら全員殺してこの家も俺が貰うぞ。それでもいいんだな」
「ゆゆゆうううううううううううう!!!」「もっとちからをあわせるんだよ!!」「何故だぁ~~~~~何故死なねぇ~~~~~」
不死身妖怪が混ざってる気もするがそんな事は関係無い。試合続行。
1時間ほど経っただろうか。動きが単調過ぎる為大して動かなくても相手出来るとは言え流石にそろそろ疲れてきたぞ。
見れば既に殆どのゆっくりが潰れて死んでいる。完全に原型を留めているのに死んでるっぽいのは、衰弱死か何かか?
動いているのは子供が5匹だけだ。ちなみに母親も動いてないが、ぐーすかいびきをかいている。信じられん。
「お前らの母親は随分冷たいなぁ。お前らが頑張ってるのに寝てるだけだぞ。いい親子だなあっはっは」
「お゛、お゛があ゛ざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!い゛っじょに゛、だだがっでよ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」
「うるさくてゆっくりできないよ!!ゆっくりさせてね!!!」
すげえ。うるさいとまで言いやがった。これはひどい。あまりに酷い母親なのでいい事を思いついてしまった。
「なあお前ら。ある事をすれば助けてやってもいいぞ」
「ゆゆゆ!!たすけてくれるの!?ゆっくりさせてくれるの!!?」
「ああ勿論。それをすればここはお前らの家だ。俺は出て行ってやるよ」
「やったね!!」「かったよ!!」「ゆっくりできるよ!!」「おじさんでていくってよ!!」「おじさんありがとう!!」
「よし。お前ら、そこで寝てるでかいゆっくりを食え」
瞬間固まるゆっくり達。ビシッ!と音が聞こえたような気までする。
「どうした。お前らを見捨てた薄情な親を食うだけでお前らは助かるんだぞ。ほれ早く食え。でないと俺がお前らを食うぞ」
「「「「「ゆ゛、ゆ゛っぐり゛しんでい゛っでね゛!!!」」」」」
「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!?な゛、な゛に゛する゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」
おおこれが噂の共食い。一度決めたら容赦しないと言うより単に複数の事を考えられないだけだなこりゃ。
葛藤しなくて済む頭とは羨ましい限りだ。
「ガツガツ……」「おいしい!おいしい!」「むーしゃ!むーしゃ!!」「っぷは…おかあさんおいしい!」「うっめ!めっちゃうっめ!!」
「ゆ゛ぐぐぐぐぐ!!い゛だい゛い゛だい゛!どお゛じでごん゛な゛ごどずる゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」
「はははは。いい眺めだなぁゆっくり。どうだい自分の子供に食われる気分は?」
「や゛め゛で!れ゛い゛む゛はお゛があ゛ざん゛な゛の゛に゛どう゛じでだべる゛の゛!!?」
お前はお母さんなのにどうして子供を放置して寝てたんだよ。そっちの方がよっぽど不思議だよ。
「なあなあどんな気持ち?今どんな気持ち?ゆっくりできてるぅ?(田中理恵のモノマネで)」
「お゛、お゛じざん゛だじゅげっ…だじゅげでぐだざい゛い゛い゛い゛い゛ぎひい゛い゛い゛!!!」
「助けてって、一体何をすればいいのさ?そんな事はお前の可愛い可愛い子供達に言えよ」
「ごいづら!ごいづら゛を゛や゛っづげでよ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!お゛ね゛がい゛じまず!!!」
「ん~、分かった助けてやるよ。ホレ感謝の言葉は?」
「あ゛り゛がどう゛ござい゛ま゛ず!!あ゛り゛がどう゛ござい゛ま゛ず!!」
「はいよくできました」
もう三分の一を食い終わった子ゆっくり達を引っぺがして踏み潰していく。…一匹だけは残しておくか。面白そうだし。
「ゆ゛ゆ゛うっ!!どうしてじゃまするの!!ゆっくりたべさせてね!!!」
「お前の母親に助けてくれと言われたからさ」
「おかあさん!おかあさんにいわれたの!!……おかあさんはどこなの!?どこにやったのおじさん!!!」
「ごごだよ゛お゛!れ゛い゛む゛お゛があ゛ざん゛はごごに゛い゛る゛よ゛!!!ゆ゛っぐり゛じでい゛っでね゛!!!」
「うそだよ!!おばさんなんかおかあさんじゃないもん!!おかあさんはもっときれえだったもん!!おばさんうそつきだ!!!」
おやおや。子供を見捨てて、子供に見捨てられるとは何ともいい話だ。感動的な親子秘話だなぁ。
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛う゛う゛う゛う゛!!!どうじでぞんなごどい゛うのっ!!れい゛むはれい゛むのあ゛がちゃんだよ゛!!!」
「ちがうもんちがうもん!!おかあさんはもっときれえなゆっくりなんだもん!!おばさんゆっくりしてないもん!!!」
「フフッ親子水入らずの会話に俺はお邪魔だろうね。じゃ、ゆっくりしていってな」
そう言って部屋を出る。とりあえずファブリーズを買ってこないとな。
帰ってきた時一体あいつらどうなってるんだろうな。楽しみだ。
YUKKURI-MUSOU DRAW
作:明るく健康的な虐待ライフを追求する妖精ことミコスリ=ハン
最終更新:2008年09月14日 05:07