ゆっくりいじめ系1639 ゆっくりと勇気あるゆっくり

ゆっくりと勇気あるゆっくり

 森の奥には、ゆっくりと言えど近づくことはない。
 人間が入ってこれなくとも、更なる脅威が待ち受けていることを、ゆっくり達
は理解しているのだ――。

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「みんな、ゆっくり理解したかな!」
「「「ゆー!」」」
 ここは、森の中にあるゆっくり教室。
 大人のゆっくりが、周辺の子ゆっくりを集めて、生きる術を教えるプレイスだ。
その間親ゆっくりは狩りにいそしむことが出来るため、この一帯に生きるゆっく
り達は、他よりも比較的にゆっくり出来ていたのだ。ゆっくり教室を立ち上げた
のは、一人のゆっくりれいむであった。回復の早いゆっくりであるに関わらず、
頬や頭に穿たれた古傷は癒えることはなく、子ゆっくり達に威圧感と、それに勝
る信頼感を与えていた。
 数年前に行われた、ゆっくりプレイス調査。森の中で、さらにゆっくり出来る
プレイスを探し出す、主に子ゆっくり達が大人に隠れて行った大探検だ。探索は
複数回に渡り行われ、その都度新しいゆっくりプレイスを見つけることが出来た。
その歩みを森の奥へと進めるまでは。
 彼女はその「生き残り」であった。子供たちが尋ねても、森で何があったのか
を詳しくは語らない。だが、森の奥にだけは行かないように、周りのゆっくり達
に話して聞かせるのであった。

「いいかい、草と草がこう絡まっていたら――」
「少し地面の色が違う場所、一部だけ草に覆われたがあったら――」
「敵を攻撃するには必ず集団で、連携をして攻撃――」
「複数の敵に襲われた時に姉妹が怪我をしたら、すぐ逃げるんだよ、それはおび
き寄せるために殺していないのだから――」
 などと、講義の内容は自然を生き抜くだけでなく、罠の見分け方、殺戮下にお
ける生存方法などが主眼となされていた。そのため、大人達は彼女のことを、
「きっと狡賢い人間に酷い目に遭わされたのだろう」と考えていた。また、この
教育を受けた子供たちは、人間の罠に掛かることも、逃げ帰ることも多かったため、
教室が潰されることはなかった。
「あう゛っ! い、いだいよー!」
 殺傷能力の少ない罠に掛かった子れいむが、涙ながらに彼女の元へ寄ってくる。
「どれどれ……ああ、これならすぐゆっくり治るよ」
「ほんとう?」
「ゆっくりしていなさいね」
 子れいむの傷口に口をあて、モゴモゴと舐める仕草をする教師れいむ。彼女に
は不思議な力があり、簡単な怪我であれば治すことが出来た。特殊能力と言うわ
けではない。口内の傷口から餡子を出せるようになってしまっただけだ。重傷の
ゆっくりを直すには自分の餡子に限りがあるが、軽傷であれば負担にもならない。
多少重い傷のゆっくりに、自分の頬を食べさせたこともあった。
「う゛ー、う゛ー、……う? 痛くない! ゆっくり治ったー!」
「「「せんせいすごおおおおおい!」」」
 彼女は騒ぎ立てる子ゆっくり達をまとめながら、新たな罠について説明をする
のであった。

「ゆっくり帰ってきたよ!」
 一日も終わり、住処へと帰る教師れいむ。
「ゆっくりお疲れさま!」
「「ゆっくりしていってね!」」
 つがいのゆっくりまりさが優しく出迎える。教師れいむはこのつがいのことを、
誰よりも深く愛していた。共に野原を駆け回った幼馴染。そして自分のせいで怖
い思いをさせた「生き残り」の一人。彼女はゆっくりまりさの愛らしい顔に刻ま
れた、幾筋かの古傷を見るたびに、あの出来事を、考えの至らなかった自分の態
度を、深く憎むのであった。
「学校はゆっくり出来るの、れいむ?」
 そんな自分の思いを見透かしたかのように、まっすぐ自分を見つめて話を振る
つがいに、照れたように視線をそらすゆっくりれいむ。
「もうすぐみんな、卒業だね。これで皆ゆっくりできるよ!」
 自分が教えることはもうあまり残っていない。後は自分達で考え、生き残る努
力をするだけだった。それに秋も深まっており、そろそろ餌集めの手伝いをしな
ければいけない時期に差し掛かっていた。そこまで考えた彼女は、自分を見つめ
る熱を帯びた視線に気が付いた。
「ま、まりさ……っ」
「れいむっ! わ、私の子をゆっくり生んでねっ! みんなを守れるくらい、勇
気に満ちた、可愛らしいまりさ達の赤ちゃん産んでねっ!!」
 当たり前だよ、と、れいむは微笑んだ。だって、自分とまりさの子供なのだから。
優しく口付けをするつがいに、そう心で呟いた。

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 ・

 襲撃があった。
 これから生まれる赤ゆっくりに思いを馳せて、次第に育つ枝ぶりを愛おしく眺
めていた、そんな時に限ってだ。
襲撃者は群れはぐれゆっくりだそうだ。飾りを失い、生き延びて、なお生き残る
ために群れ、ゆっくりを襲うはぐれゆっくりだ。襲ったゆっくりから飾りを得る
のではなく、命を奪い去るのであるから性質が悪い。飾りを奪い取ったとたん、
他のはぐれから裏切りの烙印を押されるのであるから、彼女らにすればそれは当
然なのだろうが。
 きゅ、と唇をかみ締める。「生き残り」であるからには、例えゆっくりだとし
ても忘れることの出来ない思い出があるのだ。教師れいむは、つがいのまりさと
共に住処を飛び出した。

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 「生き残り」の教育とその場の指示が的確であったためか、騒ぎは次第に沈静
化していった。死傷者は少なからずいたが、被害はそれほど多くは無かったのだ。
 生存者を探し、残党を狩りつつ、ゆっくり教室を開いている広場にたどり着い
た彼女達が見たものは、複数のはぐれゆっくりと、襲われ嬲られている教師れい
むの教え子達であった。
「いっくぞー、ほーれ♪」
「ぎゃはははは! ゆっくりしね~♪」
「ゆ゛っぐぢいいいい」
「きゃっちぼーるはゆっくりできるなあ~♪」
 ただ投げあうのではなく、皮を毟るように子ゆっくりをほおり投げるキャッチ
ボールなど、存在していいはずがない。
「ほーら、まりさの体はゆっくりしてて美味しいだろ~?」
「あがががが! あがっががが!」
 小さい口に無理やり大人の体をねじ込んで、顎を引き裂く真似など許せるはず
がない!
「ほーれ、ぷっすぷっす♪」
「いだあああ! ゆっぐぢおうじがえどううううう!」
 体を貫く細い枝は迫害された時に埋め込まれたのだろうか、悪意を憎悪として
他者に向けるなど、してはならないのだ!!
 教師れいむはその鬼畜どもに体当たりを食らわせた。
「ゆっくりとしんでね!! ゆっくりとしんでいってね!!」
 憎い憎い飾り付きをいたぶっていたお楽しみを邪魔されたはぐれゆっくり達は、
いきりたちその牙を彼女へと向けた。注意をこちらに引き付けたところで、死角
に回り込んだつがいまりさが攻撃を仕掛ける。一撃必殺とまでは行かないが、目
の部分に体当たりをすることで大幅に戦闘力を削ぐことは出来る。
 一撃ごとに姿をくらまし、教師れいむが挑発し、また一撃を加えるという作戦
は、極めて効果的であった。問題は、駆逐に時間を要したことだ。
「ぜんでぇ……たずげ……」
「ひぃ……ゆっぐりじだ……」
「おがあじゃ……」
 最後の一匹を屠るまで、生命力の乏しい子ゆっくりたちは着実に命を散らし始
めていたのだ。教師れいむが子ゆっくり達を助けるために番いの傍を離れた、そ
の刹那。息を潜め、死んだふりをしていたはぐれゆっくりが、猛然とつがいまり
さに襲い掛かった。
 不意を付かれたつがいまりさに為す術はなく、教師れいむが助けに入るその数
瞬きの間に皮膚を割かれ、餡子をすすられてしまった。
 ――致命傷。だが、自分の餡子を全て吹き込めば、つがいまりさは息を吹き返
すだろう。だがそれを押し止めたのは、他ならぬつがいまりさであった。

「どーじで! までぃさ死んじゃうよ!?」
「まりざより……あのご達を……お願いじばず」
「でも、でも……!」
「まりざをだすけだら、あのご達は……」
 つがいのまりさは助けられるだろう。だが、つがいまりさを助けてしまったら、
今助けを求めている子ゆっくり達は、一体誰がその命を助けると言うのであろう
か。教師れいむには、番いの言いたいことは痛いほどよくわかった。
「でもっ!」
「まりざばっ!!」
 引きつったように笑みを浮かべて、送り出すように告げるつがいまりさ。
「か弱いゆっぐりを助ける、そんな優しいでいぶが、だいずきでず……っ!!」
「……!! ――ごめん! ごめんでばでぃざ! だずげらでなぐで、ごべんで
えええ!」
 一生をかけて愛した番いの最後に背を向けて、己の勤めを果たそうとする彼女
に向けられた一言は、彼女の勇気を奮い立たせるに足りるものであった。

 ――ありがとう、ゆっくりと愛してくれて――

「産むからで! でいぶだじのがばいいあがじゃんを、とてもいざまじいあがじ
ゃんを! か弱いゆっぐでぃをだずげる、ゆっぐりなあがじゃんを産むがだで!
 だから、――ゆっぐりじでいっでで!!!!」
 返事は聞こえなかったが、彼女の胸の中では、最愛のまりさがゆっくりと微笑み
を浮かべていた。

 ・
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 生き残ったゆっくり達を迎えたのは、惨状であった。教室のあった場所に累々と
積もるはぐれゆっくり達の屍骸。痛ましく寄り添う教師れいむとその番いの屍骸。
そして教師れいむから猛々しく伸びる新たな命と、怪我も癒えた子ゆっくり達の姿
であった。
「「「ゆっくりしていってね!!」」」
 敵が居ないこと、自分達の子ゆっくりが無事なことを喜び、集落の勇者達が命を
落としたことに絶望し、その勇者達が新しい希望を紡いでいたことを、複雑な心境
ではあるが、喜んだ。

 頬の傷を癒してもらおうと教師ゆっくりを探していたゆっくり達は、彼女がも
う居ないことを嘆いた。
「先生の顔を食べると、傷が治って、とてもゆっくり出来たんだよ!」
「ゆっ、本当だよ! 他にも直してもらったれいむもたくさんいるよ! 昨日も!」
「先生は食べた時もぜんぜんゆっくりだったよ! だから直してもらいたかったの
に……」
 なるほどと大人のゆっくり達は思いを馳せる。確かに、幾度か怪我を直してもら
った覚えもあった。ある者が呟く。
 この赤ちゃん、先生の子供だよね! じゃあきっと、……。

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 煌き始める地平線に、輝く未来に向かって伸ばされた枝は、ゆっくりを守り抜き、
ゆっくりと生きるはずの、勇ましく生きるはずのその命は、ただの一度も朝日を拝
むことはなかった。

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最終更新:2008年12月07日 14:57
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