#現代設定
先日、夏の間から延々と引きずっていた仕事が終わったため、男はやっと取りそびれていた夏休みを取ることができた。
夏休みと言っても名ばかりで、山は既に紅葉で赤く色付き朝晩は冷え込んでかなり寒い。
しかし、せっかく取れた休みなので、男は久し振りに趣味のバイクでツーリングに行くことにした。
男はまだ日の昇る前に寝床から這い出して、昨日の内に用意しておいた装備を身に着けると、ヘルメットと荷物を抱えて玄関へと向かった。
サイドジップの革ブーツを履いてジッパーを上げ、靴棚の上に置かれた時計を確認する。
時計の時刻はまだ六時前だったので、今から出発すれば通勤渋滞を避けることができるはずだ。
「それじゃ、いってきます」
見送りなどいないが、一声かけてから玄関の鍵を閉めて駐車場へと向かった。
駐車場は自動車二台ほどのスペースがあり、乗用車と自転車が二台ほど停めてある。
男は駐車場の隅のブルーシートで覆われた一角へと向かった。
男の家の駐車場は屋根が無いため、バイクはバイクカバーをかけた上にブルーシートを被せて保管してある。
バイク用のシェルターなども売ってはいるが、少々値が張るため行楽時の敷物から建築現場の養生と、万能振りを発揮するブルーシートを使用することにしたのだ。
「あれ、ほどけてるな。結び忘れたか?」
ブルーシートは風で飛ばされないように紐で結んで杭に固定していたのだが、一箇所紐が緩んでシートに隙間ができていた。
昨日バッテリーとエンジンの調子を確認したときに結び忘れたらしい。
男が結んである紐をほどいてブルーシートを外すと、その下からなにやらバレーボール大の物体が姿を現した。
「……ゆっくりかよ」
ゆっくりは二匹いて、片方が帽子をかぶったゆっくりまりさ、もう片方がリボンのついたゆっくりれいむだった。
男は以前に、ブルーシートの中で猫にマーキングされて酷い目に会ったことがあるため、バイクの周りに猫避けシートを敷き詰めていた。
その猫避けシートの上に、まりさが見事に鎮座していた。
れいむは猫避けシートには乗らなかったらしく、まりさの後ろに寄り添っていた
動けないまりさを見捨てなかったということは、この二匹はもしかしたらつがいかもしれない。
どちらのゆっくりにも飼いゆっくりの証であるバッジが無いことを確認し、とりあえず現状を把握することにした。
「あー、こりゃみごとに刺さってるな」
猫よけシートは、網目状のプラスチックの上に棘のような突起が生えているシートである。
男はその一辺三十センチ程の正方形のシートを連結して、バイクの周りに敷き詰めていた。
猫は足の裏の肉球が敏感なため、猫避けシートの棘の上は痛くて歩くことができない。
ゆっくりは体の底面の”あんよ”が傷つくことを極端に恐れるため、この猫避けシートはゆっくり避けとしても効果があった。
そのシートの上にまりさが乗っかっており、底面に長さが3センチはある棘が根元まで突き刺さっていた。
二匹はどちらも眠っているようで、まりさが苦しそうに「ゆ゛っ、ゆ゛っ」と呻いているのに対して、れいむは「ゆー、ゆー」と気持ちよさそうな寝息を立てている。
風を通さないブルーシートの中が快適だったのだろう。
とりあえずシートを引きずり、バイクの方を向いていたまりさの向きを変えて顔が見えるようにする。
「ゆ゛っ、ゆ゛っ」と呻いているが起きる気配がまったくない。
れいむの方もまりさの隣に移動してやるが、こちらも熟睡しているようだ。
この二匹をどうにかしないといけないのだが、眺めていても仕方がないので二匹を起こすことにした。
「ゆっくりしていってね!!」
二匹の真上で声をかけてやると、
「「ゆっくりしていってね!!」」
と声を上げて二匹とも目を覚ました。
ゆっくりは、”ゆっくりしていってね”と声をかけてやれば余程のことが無い限り返事をする習性をもっている。
「ゆっ、おやねがなくなっちゃたよ!?」
「ゆっ? どうしたんだぜ、なんかあんよがいたいんだぜ?」
どうやられいむは、ブルーシートが無くなったことに困惑しているようだ。
まりさは足の違和感に首を――首は無いが――かしげている。
れいむが目の前に立った男に気が付き声をかけてきた。
「ゆっ、おにいさんはゆっくりできるひと?」
それに続けてまりさが言った。
「ここはまりさのおうちだぜ!! おじさんはまりさにたべものをもってくるんだぜ!!」
れいむの挨拶はゆっくりとしては一般的なのだが、まりさはなんとなくゲスっぽい感じがした。
おうち宣言をしたということは、昨夜の内にブルーシートの隙間から入り込んで住み着こうとしたのだろう。
そこで、最初に入ったまりさが猫避けシートの上に飛び乗って身動きできなくなり、れいむは動けないまりさに寄り添っていたが、二匹とも疲れて眠ってしまったというところだろうか。
男は無駄だとは思ったが、一応ゆっくりたちと話をすることにした。
「ちがうよ、ここはお兄さんのおうちだよ。ゆっくり理解してね!」
と男は二匹に言った。
「なにいってるの? ここはれいむとまりさのおうちだよ!!」
「ゆ゛っ!! ここはまりさのおうちだっていってるんだぜ!! おじさんはゆっくりでていってね!!」
この二匹は住宅街の野良なのに、人間の怖さをまだ学習して無いらしい。
男は二匹の周りを見回して言ってやった。
「おうち? どこにおうちがあるのかな、どこにも無いんだけど?」
「ゆっ?」
れいむが自分の周りを見ると、寝る前までは青くて暖かいおうちの中にいたはずなのに、いつのまにか外に出てしまっていた。
「どぼじでおうちがないのぉおおおおおおおお!!」
「ゆっ、どういうことなんだぜ!?」
とまりさも周りを見ようとして、
「ゆぎぃいい!! あ゛んよがいだいんだぜ!!!!」
と悲鳴を上げた。
「ゆゆっ!? まりさ、どうしたの!?」
痛がるまりさをみてれいむがおろおろとしている。
「ゆ゛っ!! おかしいんだぜ、まりさのあんよがうごかないんだぜ!!」
「ゆっ! どうしてなのぉおおお!!」
まりさはやっと自分が動けないことに気が付いたようだ。
「で、おうちは無いみたいだね?」
と男が言うと。
「ゆぎぃいい!! きっとこのじじいがまりさのおうちをとったんだぜ!!」
と、まりさがあんよの痛みをこらえながら言ってきた。
ブルーシートを外したのは男なので、ある意味間違ってはいない。
「ゆっ、そうなの!? まりさ、おうちをとりかえしてね!!!!」
「あんしんするんだぜれいむ、このまりさがあんなじじいすぐにころしてやるんだぜ!!」
概ね予想通りの展開に男はため息を吐いた。
「まりさはどうやってお兄さんを殺すのかな?」
「ゆふ~ん、おじけづいたのかだぜ? まりさのたいあたりはゆっくりでいちばんなんだぜ! れみりゃにもかてるんだぜ!!」
とまりさが自慢げに踏ん反り返る。
どうやらあんよが動かないことは忘れたらしい。
「そりゃすごい、早くやってみろよ。ほら、お兄さんは避けないからさ」
「ゆぐっ! まりさをばかにしてるのかだぜ? あとであやまってもゆるざないぜ!!」
と言うと、まりさは男に飛び掛かるために踏ん張ろうして、
「ゆぎぎぃいいいいい!! あ゛んよがいだぃいいいいいいいい!!!!」
と叫び声を上げた。
痛いはずである。底面一面に棘が刺さって固定されているのだから。
先ほど自分であんよが動かないと言っていたはずなのだが、さすが餡子脳といったところだろうか。
まりさはあまりの痛さにのた打ち回ろうとするが、底面を猫避けシートがガッチリと固定しているためにその場から動けずにいる。
「ゆゆっ!? まりさ、どうしたのぉおおおお!?」
その横で、痛がるまりさにれいむがあわててすりすりしている。
「どぼじであ゛んよがうごがないの゛ぉおおおおお!!」
「まったく、まりさは馬鹿なの? アホなの? 死ぬの?」
「ゆがぁああああ!! ばでぃざはばがじゃないぃいいいいい!!! ゆぎぃいいいい!!」
まりさは男の挑発に飛び掛ろうとして、再度痛みに悲鳴を上げた。
「お前なぁ、あんよにそんなものが刺さっているのに動けるつもりなのか?」
「ゆ゛っ!! おぼいだしだぁああ!! ぎのういきなりこのとげとげがざざっだんだぜえええ!!」
「ゆっ、そうだったよ! おうちをみつけたとおもったらまりさがうごけなくなっちゃったんだよ!!」
「おじざぁあああん!! ばりざをだずげでほじいんだぜぇええええええ!!」
このまりさは、先ほどまで自分が何を言っていたか覚えていないらしい。
媚びているつもりなのか、じじい呼ばわりしていた呼称がおじさんに戻っていた。
「あー、はいはい。で、ここはだれのおうちなの?」
「ゆっ? ここはれいむとまりさのおうちだよ!!」
「なにいっでるんだぜ!! ごこはばでぃざのおうぢだっていっでるんだぜ!! ばかなのかだぜ!!」
予想はしていたが、れいむとまりさは考えるぞぶりも見せずに言い切ってくれた。
「おうちなんかないよ?」
「ゆーーっ!! おにいさんがとったんでしょぉおおお!!!」
「おじざん、はやぐばりざをだずけるんだぜぇえええ!!」
「まぁ、助けてもいいけどさ、君たちが二度とここに来ないって約束したら助けてあげるよ」
「なに゛いっでるんだぜぇええええ!! ここはばりざのおうぢだっていっでるんだぜぇええええ!!」
「ゆーっ! はやくまりさをたすけてね!! おうちもかえしてね!! れいむおこるよ!!」
ぷくーっ! とれいむが膨らんで威嚇する。
「おお、きもいきもい」
久しぶりのツーリングなのに出発する前から可愛くも無いゆっくりの相手をさせられて、男はかなり苛付いてきた。
つんつんと、軽く足でシートの端を突付いてやる。
「ゆがぁあああああ!! なにずるんだぜぇええええ!!」
「ゆっ!? どぼじでそういうごとするのぉおおおおおお!!」
「おまえらさ、いい加減邪魔なんだわ」
と男は動けないまりさから帽子を奪い取った。
「ゆ゛っ!! ばりざのすできなおぼうしがえすんだぜぇえええ!!」
「で、ここはだれのおうちなんだ?」
「ばでぃざのおうぢだって――ゆぎゃっ!!」
またシートを突付いてやる。
「やめてね、まりさをいじめないでね!! まりさをたすけたらゆっくりしんでね!!」
と、まりさの横でれいむが飛び跳ねている。
「それじゃ、おまえがこの帽子を取ることができたら助けてやるよ」
れいむにそう言うと、男は手にした帽子を50センチほどの高さにぶら下げてやった。
ただしその場所は猫避けシートの真上だったが……
「でいぶぅううう!! ばりざのおぼうしをとりかえしてほしいんだぜぇええ!!」
「ゆーっ、ゆっくりがんばるよ!! おじさんはれいむがとれないとでもおもったの? ばかなの?」
れいむは「ゆーーっ!」と力むと、「ぴょーん!!」 と擬音を口にして跳ね上がった。
跳ね上がったれいむは、帽子の鍔を咥えて見事に男の手から帽子を奪い取った。
しかし、跳ね上がったら次は下に落ちるのが世の定めである。
れいむはそのまま見事に着地した――猫避けシートの真上に。
「ゆびゃぁああああああ!!! でいぶのきれいなあんよがぁああああああ!!!」
叫び声を上げたれいむの口から、まりさの帽子がこぼれ落ちる。
「ゆ゛ぅうううううう!! はやぐばりざのおぼうしをよこすんだぜ!!」
まりさはれいむよりも自分の帽子の方が心配らしい。
「まぁ、やくそくしたからコレは返してやろう」
男は帽子を拾い上げると、まりさの頭に被せてやった。
「ゆっ、まりさのおぼうしもうどこにもいかないでね!!」
まりさは帽子が戻ったことに安心したらしく、ゆ~ゆ~言い出した。
どうやら足の事やいまの状況は忘れてしまったらしい。
とりあえず二匹とも動けなくなったので、男は猫避けシートを脇に避けるとバイクからバイクカバーを剥がしてブルーシートと一緒に杭に縛り付けた。
まりさとれいむがなにやら叫んでいたが、とりあえず無視する。
ゆっくりの相手はいい加減にして、さっさと出発しないと通勤車の渋滞に巻き込まれてしまう。
男はバイクにトップケースとタンクバッグをつけると、ウエストにつけたポーチから取り出したキーをバイクに差し込んで捻った。
続けて、チョークを引いてセルスイッチを押し込み、セルの回る音を聞きながら軽くアクセルをあおってやると、排気音を響かせてエンジンが掛かった。
「ゆ゛ーーっ、ゆっぐりでぎないおどがする!!!!」」
「おじさんやめるんだぜぇええ!! ばりざのあんよにひびぐんだぜええええ!!
心地よい重低音が響いているのだが、この二匹にとっては不快らしい。
男はアイドリングが安定したことを確認すると、エンジンの暖気をしている間にゆっくりを捨ててくることにした。
猫避けシートからまりさとれいむの乗っかった部分を取り外し、二匹の頭を掴んで持ち上げる。
バレーボール程度とはいえ餡子の詰まったゆっくりは結構重い。
「ゆっ、おそらをとんでるみたい~♪」
「ゆっ、おそらをとんでるみたいだぜ~♪」
男は二匹をぶら下げたまま、駐車場から出ると、近所の公園へと向った。
別にこのまま叩き潰してゴミ収集所のダストボックスに放り込んでもいいのだが、ツーリング前に殺生を犯して――饅頭相手に殺生になるかは分からないが――けちを付けたくなかった。
男はゆっくり愛護派でも虐待派でも無いので、よほどの実害が無い限りゆっくりにも寛大だった。
「ゆ~、れいむをどこにつれていくの!?」
「おじさん、まりさをはなすんだぜ!!」
近所の公園に着くと、男は芝生に覆われた広場の中心へと向った。
「まぁ、ここら辺でいいだろう」
れいむを足元に落とす。
「ゆぎゃぁあああああ!! あんよがいだぃいいい!!」
次に男はまりさを裏返すと、底面から猫よけシートを一気に剥ぎ取った。
「そぉい!!」
「ゆぎぃいいいいい!! あんよがぁあああああ!!」
ぐにぐにと動くまりさを押さえつけて底面を見ると、棘の刺さった痕が規則的に並んでいた。
そこから餡子汁が滲み出しているが餡子は漏れておらず、傷口は皮の圧力で締まっているのでしばらく安静にしていれば治るだろう。
「ほれ」
「ゆぎゃぁあああああああ!!! あんよがぁああ!! ――ぐぶぇえ!!」
男がまりさを地面に落とすと、まりさは絶叫を上げてあまりの激痛のためか餡子を少し吐き出した。
「じじぃ……ゆ゛っぐりじねぇ……」
「おまえなぁ、親切で助けてやったのにそういう態度かよ」
そのまりさの様子を見て、れいむが目を見開いている。
「ゆっ、ゆっぐりやめでね! れいむはおうちにかえるよ!!」
男はれいむを持ち上げると同様にシートを剥ぎ取ってやった。
「ゆびぇえええええ!! でいぶのあんよがぁああああああ!!」
れいむは落とさずに、ゆっくりと芝生の上に降ろしてやった。
「ゆ゛う゛ぅう!! あんよがじくじくするよ!! はっぱさんでいぶのあんよをじくじくしないでぇえええ!!」
どうやら、芝生が傷口に刺さって痛いらしい。
「それじゃ、おまえらそこでゆっくりしてろ。動かなければそのうち治るだろ」
男は足元でもだえているまりさとれいむに告げると公園から立ち去った。
背後からなにやら恨み言が聞こえてきたが気にしなかった。
駐車場に戻った男がバイクの油温計に付いた時計を確認すると、すでに時刻は6時半を過ぎていた。三十分以上ゆっくりの相手をしていたことになる。
早朝のこの時間に、ゆっくりの罵声はかなり近所迷惑だったのではないだろうかと不安になる。
せっかくのツーリングなのに、出発前のアクシデントでいきなりテンションが下がってしまった。
男はヘルメットをかぶってあご紐を止めるとバイクに跨った。
近所迷惑にならないように、ゆっくりとアクセルを開けて道路へと出て行く。
男はふと、ゆっくりを置いてきた公園が猫の集会所になっていたことを思い出した。
「猫ってゆっくり食べるのか?」
とりあえず、帰ってきたら公園に確認しに行こうと思いながら、男は久しぶりのツーリングへと出発した。
男が立ち去った後、公園にはれいむとまりさが取り残された。
二匹は何度も跳ねることができないか試してみたが、あんよに力を入れるたびに激痛がするため、まったく跳ねることができなかった。
それならば、そろ~りそろ~りと這ってみようとしたが、少しでも動こうとすると傷口に芝生が突き刺さり再び激痛に泣き叫ぶことになった。
「ゆぅうう、あんよがじくじくするよぉ」
「はっぱさんがいだいんだぜ……」
二匹は移動することは諦めたらしく、、なんとかして芝生からあんよを離そうともがいている。
「ゆ゛っ、ゆ゛っ――ゆびゃぁああ!!」
れいむが体を後ろに傾けてあんよを芝生から浮かそうとするが、力んだために傷口が圧迫されて体内から餡子汁が滲み出してしまう。
やがて、無理な体勢に限界が来て力を抜いてしまうと、芝生が激しく傷口に突き刺さるのだった。
そのような無駄な足掻きを繰り返しているために、二匹の傷口は治るどころか悪化してしまっていた。
安静にしていればゆっくりの理不尽な再生力により、数時間で這うことができるぐらいまでは回復可能なはずだったのだが。
「ゆ゛っ!! まりさはよいことおもいついたぜ!!」
まりさは舌を延ばし、自分のかぶっている帽子を目の前に逆さに落とすと、
「ゆ゛ぐぅうう! ぞろ~り゛、ぞろ~りぃいい!!」
と、痛むあんよを無理やり動かして帽子の上に移動した。
「ゆふぅ~、これであんよがいたくないんだぜ!! ゆっくりー!!」
芝生があんよに触れなくなり痛く無くなったまりさは、「ゆふん!」とふんぞり返った。
「ゆゆっ、すごいよまりさ! れいむもゆっくりおぼうしにのらせてね!!」
そう言ってれいむがまりさの帽子に乗せてもらおうとするが、
「ゆっ? まりさのおぼうしはひとりようだぜ!! れいむはゆっくりがまんしてね!!」
とまりさはそれを拒否した。
「どぼじでそういうごどいうのぉおおおおおおお!! れいむはまりさのはにーでしょぉおおおお!!」
「そんなこといっても、おぼうしにはひとりしかのれないんだぜ!!」
などと言い合いをしているうちに、日の出の時間になり公園に朝日が射してきた。
「ゆ? おひさまがでてきたよ!!」
「ゆふぅ、おひさまがあたるとぽかぽかだぜ!! ゆっくり~♪」
「ゆぅうう……、あんよがゆっくりできないけど、おひさまはゆっくりだよぉ~」
朝日に当って暖かくなってきたためか、先ほどまでの言い争いも忘れて二匹はゆっくりし始めた。
れいむはあんよが痛いようだが、日射しに当って暖かくなってきたためか幾分か痛みが和らいでいるようだ。
やがて日が完全に昇ると、公園の広場にどこからともなく近所の猫たちが集まり始めた。
一匹、二匹とやって来ては芝生の上に寝そべって日向ぼっこを始める。
猫たちは、自分たちの集会所にゆっくりがいるとこをいぶかしんでいたが、とくに気にせずに思い思いの場所にねころんでいた。
「ゆふぅ~、ねこさんたちもゆっくりだよ」
「ゆ~、ここはまりさのゆっくりぷれいすだぜ」
れいむとまりさも最初は猫たちを警戒していたが、ゆっくりした猫たちをみて安心してゆっくりしはじめた。
だが、しばらくすると好奇心の強い若い猫たちが二匹に興味を持ち始めた。
いつも耳障りな雑音を発して跳ね回っているこいつらが、なぜ自分たちの集会所に居座っているのだろうか? と一匹の黒猫がれいむとまりさの前に歩み出た。
「ゆ? ねこさんゆっくりしていってね!!」
「ゆふ~、ねこさんもゆっくりするんだぜ!」
普段ならば自分が近寄るとはねて逃げるか飛び掛ってくるこいつらが、なぜかその場から動こうとしないのだろう? と黒猫は疑問に思った。
「ゆっ、なにかようなの? れいむはゆっくりしてるからあっちいってね!!」
「ゆふぅ、まりさのゆっくりぷれいすからでていくんだぜ!!」
なにやら言っているようだが、この人間の顔のような物体をみていると無性に腹立たしくなる。
黒猫は、おもわず前足をれいむに向けて繰り出していた。
「ゆぐっ!! あんよがいたいぃいいい!!」
それほど力をいれなかったのだが、目の前の物体が悲鳴を上げる。
黒猫はそれが面白くなってもう一度、こんどは力を込めて猫パンチを繰り出した。
「ゆ゛ーーっ!! どぼじでそういうごどずるのぉおおお!!」
「ゆっ、ねこさんやめるんだぜ!! ゆっくりしてないぜ!!」
黒猫が攻撃しても、目の前の物体は叫び声を上げるだけで動こうとしなかった。どうやら動けないらしい。
楽しくなってきたので、もう一度と黒猫は身構えたが、もう片方の黒い奴の背後から顔見知りの茶トラの猫が近づいているのに気が付いた。
まりさに後ろから忍び寄った茶トラが右前足を振り上げる。
「ゆべっ!!」
と茶トラの振り下ろした前足に後頭部を強打されたまりさが、叫び声を上げる。
「ゆぐぁあああ!! あんよにひびぐぅううう!!」
「ゆ゛ーーっ!! やめてね、ねこさんあっちいってね!!」
それを見たれいむががふるふると震えている。
黒猫は今度は爪を出し、れいむの頬目掛けて前足を振り抜いた。
「ゆあ゛ぁ!! でいぶのかわぃいぽっべがぁあああ!!」
黒猫の爪はれいむの頬に、三本の傷跡を刻んだ。
「ゆうぅううう、やべるんだぜ!! これいじょうしたらおこるんだぜ!! ぶひゅ~~!!」
まりさが膨らんで威嚇するが、後ろから叩かれて息を吐き出してしまう。
二匹の猫を見ていた他の猫たちが、なにやら面白そうなことをしていると集まりだした。
先ほどから眺めていて、れいむとまりさが動けないことがわかったので、まだ他の猫たちより一回り小さい子猫まで寄ってきていた。
「ゆ゛っ、ゆ゛っ、やめてね! やめてね!」
「ゆ゛ーーっ、やめるんだぜ!! いまならゆるしてやるんだぜ!!」
数匹の子猫たちがペシペシとれいむに攻撃を加える。
一匹の子猫が、れいむの頭上でヒラヒラと揺れるリボンに気が付き、れいむの頭の上に飛び乗った。
そのままカリカリとリボンに爪を立てる。
「でいぶのすできなおりぼんにさわらないでぇえええええ!!」
一方、まりさのほうは成体の猫たちに袋叩きにあっていた。
「ゆびぇ!! ――ゆぎゅ!! ――やべでぇえええ!!」
と、猫たちが交互にまりさを突き飛ばしている。
まりさがひときわ大きな猫に体当たりされて帽子の上から転がり落ちると、別の一匹が帽子を加えて振り回しはじめた。
「ゆ゛ぅううう!! ばりざのおぼうじかえすんだぜぇえええええ!!」
ヒラヒラと振られる帽子に、狩猟本能を刺激された猫たちが踊りかる。
やがて数匹の猫に爪を立てられ、噛み付かれて、まりさの帽子はずたぼろになってしまった。
「ゆぎぁああああ!!! ばりざのぼうじがぁあああああ!!!」
「ゆぐぅううううう!!!! ぺしぺししないでぇえええええ!!」
早朝の公園に、猫たちの楽しそうな鳴き声と二匹のゆっくりの悲鳴が鳴り響いていた。
最終更新:2008年12月09日 18:18