ゆっくりいじめ系1930 怖いお顔 7



「あ〜あ……面倒くせぇなぁ……兄貴もひでぇぜ、まったく」
 かざしている松明が、パチパチと煩い。時折、火の粉が飛んできてイライラする。
 面白くもない。どうして自分が、こんなことをしなくてはならないのか。
 夜中の間、ずっと田んぼや畑を眺めていても、面白いことなどありはしないのだ。
ゆっくりがいれば話は別だが、いつでもいるわけじゃない。こんな見回りは、村の能
なし連中にでもやらせておけばいいのだ。そして、ゆっくり共を叩き潰すときにこそ、
この自分が颯爽と登場する。
 だが、いつからだったか……その村の能なし連中が、妙な態度を取るようになって
いた。自分のことを、妙な目で見やがるのだ。
 そのことが気にくわないと兄貴に相談すると、しばらく大人しくしていろとだけ言
われた。なんで俺が大人しくだのなんだのと、しなくちゃならないのか。改めるべき
は村の能なし連中の方だろう。そう言っても兄貴は、家に籠もってろ、大人しくして
ろと言うばかりだ。
「だいたい、兄貴はわかってねぇんだ。この俺様の価値をよぉ」
 何もかも面白くない。
 家に籠もっていても暇なだけだ。親父や実の兄まで出歩くなと言ったが、そんなの
は糞食らえだ。毎日、兄貴の家へ行って酒を飲んだ。兄貴の家は酒を作っているから
飲む酒には困らない。兄貴の弟分である俺が、兄貴の家の酒を飲むことに文句を言え
るヤツもいやしない。
 そうして十日もした頃に、兄貴が酒を飲むなら夜回りを手伝えと言ってきた。面倒
だから勘弁してくれと言うと、何度もぶん殴られた。口と鼻から血が止まらなくなり、
歯が何本も折れるほど殴られた。顔色一つ変えずに殴り続けてくる兄貴を怖いと、久
しぶりに兄貴は怖いんだと、思い知らされた。

「あ〜あ……弟分ってのも面倒くせぇや」

 いい加減、縁を切ってやろうか。自分がいるから、兄貴は兄貴として偉様ぶれるん
だ。あんなに殴られて、その見返りがちびっと酒を飲める程度じゃ、割に合わない。
おまけに、面白くもねぇ役割を押しつけられている。
 夜回りは、自分一人でやっているわけじゃない。村の能なし共の中から、何人かが
出て今も歩き回っている。そいつらに任せて、自分は寝てしまおうかとも思うが……
寝ていたことを知られて、また兄貴にうんざりするほど殴られるのも嫌だ。
 仕方がない。
 今日だけは、見回ってやる。朝までうろうろ歩き回ってやる。だが、朝になったら
あんな使えない兄貴とは縁切りだ。縁を切ると言われて、取り乱せば良いんだ。お前
がいなくちゃ駄目だと泣いて土下座をする兄貴の姿を見て、笑ってやる。
 なにをいまさら、遅ぇ遅ぇ、と。

「ひっ……! ひひひっ! 悪かねぇな……ひひっ!」

 そろそろ日が昇るというころ。空が白み始め、手にしていた松明もいらなくなって
きたとき。
「ああんっ?」
 がさがさと、稲が騒いでいる。田んぼの一角、取り入れも間近で、どこもかしこも
枯れたような色の稲が、がさがさと鳴り、次々に倒れていく。それにしても、この稲
ってのを黄金に喩えたヤツは、小判も見たことがないのだろうか? 一度見たことが
あるが、あれはピカピカと光って魂が吸い込まれそうなほど美しかった。
「そうだ……縁切りついでに、手切れ金をいただいちまうか……!」
 兄貴の家には、きっとあの小判が唸るほどあるに違いない。そいつを頂いて、こん
な村とはおさらばしよう。それがいい。
「……っと。今はそれよりも……」
 次から次へと稲が倒れて言っている一角へ、そろそろと近づいていく。
 微かにだが「ゆっ、ゆっ」という声が聞こえてきた。
 ゆっくりだ! ゆっくりが出やがった! なんて験の良いんだ! たまらねぇ!
 いや、まだだ。まだ笑うな。声も抑えろ。今解き放っちまえば、ゆっくり共に逃げ
られるかもしれない。のろまなゆっくりごときに追いつくだけなら屁でもないが、い
きなり捕まれて驚き騒ぐゆっくり共の様子を見られないんじゃあ、楽しいことが一つ
減る。

「ゆっくり静かに取るのよ! お米さんは、お家に帰ってからゆっくりむ〜しゃむ〜
しゃ、しあわせ〜すれば良いんだからね!」
「ゆゆ! ゆっくり理解してるよ、ありす!」
「そ〜ろそ〜ろ」
「ゆんせ、ゆんせ」
 いるいる。
 仕切ってるのは、ありすか。まりさが2匹に、れいむが4匹。全部で7匹か。
 悪くねぇ。
 それにしても、なにが「ゆっくり静かに」だ。だったら声を出すな。目立つ動きを
するな。まったく、ゆっくり共は底抜けの馬鹿だからたまらねぇったらねぇぜ。
 自分の方は本当にそろそろと、仕切っているありすの後ろから近づいていく。
 ここまで来れば、もう大丈夫だ。もう十分だ。もう我慢する必要はない。
「ひぃぃいいいやっっっはぁああああああ!」
「ゆぁあああああああっ!!!!?」
 後ろからありすを鷲掴みにして、高々と持ち上げる。成体のゆっくりも、この俺様
にかかれば片手で十分なほどだ。まるで初めから、俺様のオモチャになるために存在
するような連中じゃないか。
「調子はどうだぁ、糞ゆっくり共! これからお前達に素敵な地獄をくれてやるぜ!」
「なんでにんげんざんがい゛る゛の゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!?」
「どがいばなありずにな゛に゛す゛ん゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!?」
 もう片手に持ったままだった松明に気が付き、顔がビクビクと笑みに引きつる。
「まずは火炙りだぁ!!!」
「ゆぎゃぁあああああああああっ!!!!? どがいばのあでぃずのがでいだあんよ
がぁあああああああっ!!!」
「ゆびぃいいいいいっ!? だずけでぇえええええ!」
 ありすの裏を松明で炙っていると、他のゆっくり共が一斉に逃げ始めた。
「ゆっくりの分際で、このおれさまからにげられるとでもおもっているのかなぁん!?
あぁあ〜んっ!?」
 片っ端から追いつき、蹴り飛ばし、踏みつけ、掴み上げて叩き付ける。
 ゆっくりどもが、稲を食いちぎったりへし折ったりした田んぼの一角へと蹴り転が
しながら集め直すと、良い考えが閃いた。自分の頭の回転に、自分で恐ろしくなるほ
どだ。
「ひっ……ひひひっ、お前らが駄目にしたんだもんなぁ。もう駄目なんだから、せめ
てお前らを駆除するのに使うとするかぁ」
 痛みにのたうち、恐怖に引きつり、悲鳴と罵声が繰り返し上がる。たまらねぇ。こ
れだから、ゆっくりはやめられねぇ。
「ありすはじわじわ焼かれて大変だったろうなぁ。俺もイライラしたぜぇ……一気に
焼きたくってさぁ……!」

 火種は手にある。燃えるものもある。お誂え向きだ。

「火炙り地獄は、幕を開けたばっかりだぜぇ?」
「ゆぁああああっ!!!? あづいのはい゛や゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

  ***  ***  ***  ***  

 稲田の、あちこちから火が上がっている。勢いのついた炎が風を呼んだのか、次々
に燃え広がっていく。
 その炎の真っ直中で、炎に照らされて、鞠を使った奇妙な舞でも踊っているような
影が揺れているあの小僧が、ゆっくりを責め嬲ることに夢中となって、すっかり我を
忘れてはしゃぎ狂っているのだ。
 燃えていく稲穂を見て、がっくりと膝をつく村の者がいる。それだけならいい。訳
のわからないことを叫んで、棒や鋤鍬を手に駆け出す者もいる。それらをなんとか押
しとどめ、火を消すように指示を出していった。
──あんなんでも、村の真ん中で死なれちゃぁ厄介だからな。
 火にまかれて死ぬなら、勝手にしろと言うところだ。自業自得だと村のみんなも思
うだろう。だが、誰かがうっかり打ち殺しでもしたら、ずっとしこりが残りかねない。
厄介事との種は、ない方が良いのだ。
 それでも、この有様を最初に見てやったことは、村から逃げて良くゆっくりを見つ
けて、巣を突き止めるようにと数人に指示を出したことだ。もちろん、うちで働いて
いる連中に。今回は、村の連中を関わらせる必要はないだろう。

「ああ……ああ……なんて……なんて真似を……!」
 イカレ小僧の、父親がフラフラとこちらへ歩いてきた。そして、こちらと目が合う
なり、その場で膝をついて、額を地に擦り付けた。
「申し訳ない……! 申し訳ない……!」
「俺に謝られても、困るぜ。燃えてるのは、うちの稲だけじゃねぇんだから」
「し、しかし……」
「諦めるしかねぇなぁ」
「え……?」
「今年は、米の上がりはガタガタだな。首を括る家も出るかもしれねぇ」
「ひぃ……!」
「だから、諦めるしかねぇだろ」
「な、なにを……?」
「おめぇさんが諦めるのは、二つだ」
「は、はい……」
 年下の若造の言うことを、地べたにきちんと膝を揃えて座ってまで、拝聴しようと
している。なんとも滑稽なことだ。
 可笑しくて仕方ない。
 この親父の姿もだが、これから何もかも良い塩梅に行くかもしれないと思うと、笑
いたくて仕方がない。
 だが、何もかも腹の内でのことだ。
 綺麗に表情を消して、まだ踊り狂っているイカレ小僧を顎で差し示す。
「アレは……諦めるしかねぇよ」
「そ、そんな……」
「心配するな、旅に出すんだよ。つまり、手元に置くのは諦めるってわけだ。この村
から出しちまわねぇと、一家全員で恨みを被りかねねぇぜ?」
「そ、そうですね……仕方ありません……」
 側にいたうちの者へ、金蔵の中身を確認して、吐き出せる分は吐き出すように親父
へ伝えるように指示する。
「も……もしや、若旦那のところが……」
「うちがこの有様のケツを持つわけじゃねぇぜ? おめぇさんが持つんだ」
「で、ですが、うちの田畑も燃えていて……」
「形の話だ、いいかい? おめぇさんが諦めるのは、あの次男坊と持ってる田畑だ」
「え……ええっ!?」
「おめぇさんは、形としては元凶の次男坊を放逐、田畑も売って、みんなにその金ば
ら撒いて、ケジメをつける」
「そ、そんな……それじゃ、それじゃ私の家は……」
「だったら、別のものを諦めな」
「別の……?」
「昔っから、火付けは火炙りと相場が決まってるぜ?」
「………………!」

 田畑と息子を捨てて、細々と人として生きていくか。
 恨みを丸ごと被って、人扱いされずに生きていくか。
 罪人にきっちり落ちて、そこから生きる道を探すか。

──選べるようで、一個しか選べねぇわなぁ。
 うまく運んでくれりゃ、これで長いこと続いた我慢ってやつが実を結ぶわけだ。
 うちが抱える田畑が倍ほどに増えてくれる。
 形はどうあれ、本当に金を撒くのはどこの家か、言われなくても村中が知るだろう。

 それに、うまく饅頭共の巣も見つかれば、新しいことを試すことも出来るし……

──良いこと尽くめ、と……運んでくれりゃいいねぇ。

  ***  ***  ***  ***  

「ゆゆ? 変な子がいるよ?」
「むきゅ、とっても痩せているわ。病気かもしれないわよ」
「ゆああっ! この子、飾りがないよ! ゆっくり出来ないよ!」
「ゆっくり出来ないゆっくりはしね!!」

 なんだ、これは?
 べちべちと、糞ゆっくり共が俺様の顔にぶつかってきやがる。しかも、ゆっくりだ
と? この俺様に向かって?
 人間様に……しかもこの俺様に向かって舐めた口をきいたゆっくりがどうなるか、
たっぷり後悔させてやる。

「ゆ? なに言ってるの? 人間さんのお顔は、まりさよりずっと高いところにある
んだよ? そんなことも知らないなんて、ばかなの? しぬの?」
「れいむより小さいくせに、人間さんの真似をするなんて、ばかなの? しぬの?」
「物を知らないいなかものは、これだから困るのよ。とかいはなありすが、身の程っ
てものを教えてあげるわ!」

 べちべちべちべちと、おしくら饅頭のやり損ないみたいなお前らの攻撃が、この俺
様に通用すると本気で思っているのか?
 くそっ! それにしても何で動けねぇんだ、おい!?

「ゆゆゆ〜〜ん♪ れいむに聞いても、そんなこと知らないよ〜〜♪」
「ゆゆ! ゆっくり理解したよ! きっと、まりさの強さに足がすくんで動けないん
だね! 降参するなら今のうちなんだぜ!」
「むきゅ。だいたい、あなたのどこが人間さんなの? 人間さんはお手々とあんよが
にょっきり飛び出しているのよ。ほら、お手々とあんよを見せてみなさい」

 なんだ、これは? どういうこどだ、これは? こんなことがあるわけがないだろ
う? そんなはずがないだろう?

「なんでこんなところで、埋められてんだよ俺様はぁああああああああっ!?」

 いつの間に生き埋めなんかになったんだ? いや、首から上は出ているから、生き
埋めってわけでもないのか? いやいや、そんなのはどうだっていい。この俺様を誰
だと思ってやがるんだ?
 村の田んぼを台無しにした糞ゆっくり共を、退治してやったんだぞ? 夜の間ずっ
と眠らずに見回りをして、稲を食い荒らしていたゆっくりを潰して、被害を食い止め
たんだぞ? 村の連中は総出でこの俺様に感謝すべきじゃないのか?
 それに……そうだ! 兄貴はどうしたんだ!? 俺様に夜回りを命じたのは兄貴だ!
兄貴が村の連中にきちんと説明してなかったのか?
 違う。違う違う。あいつの家の酒は俺様のものなんだ。あいつの家にある小判も、
全部俺様のものなんだ。あいつが持っている全ては俺様のもので、今はちょっと預け
てあるだけのことだ。だいたい、あんな役に立たない男に兄貴が勤まるか。兄貴分は、
俺様のほうだ。あいつは弟分……いいや、子分だ。あの野郎、子分のくせして親分を
ほったらかしか。どこで何をしてやがる。どうせ酒でもかっくらって寝てやがるんだ
ろう。

「ゆぎゃぁああああああああっ!?」
「ゆっくり落ち着いてね、まりさ! 騒ぐとお怪我が治らないよ!」
「人間さんだよ! みんなを熱いのでしなせた人間さんがいるよ!」
「ゆゆ? 違うよ。これは変な子だよ。ゆっくり出来ないゆっくりだよ」

 何度も言わせるな。俺様がゆっくりのわけがないだろうが。そうさ、そこのボロと
一緒に村へ来たゆっくり共を火炙りにしてやったのは俺様だよ。暖かかっただろう?
しあわせ〜って泣いて喜んでいたよなぁ?

「本当に、人間さん?」
「れいむ達やまりさ達や、ありすをしなせた、人間さん?」
「勇敢なゆっくり達をしなせた、人間さん?」

 そうさ、人間さ。人間様さ。わかったら俺様をさっさとここから出せ。お前らだっ
て穴掘りくらいは出来るだろうが。

「しね! しね! しね!」
「ゆっくり出来ない人間はしね!」
「ゆっくり殺しの人間は苦しんでしね!」
「しね! しね! しね!」

 べちべちべちべちと、効きもしない体当たりでも繰り返されるとイラつくんだよ。
あれ? くそが。なんか鼻が詰まる。口が鉄臭ぇ。ゆっくりの体当たりなんかで、ま
さか鼻血吹いたなんてことはねぇよな?

 ああ、そういや前に兄貴が……兄貴じゃねぇ、あの出来損ないの子分が、ゆっくり
を嬲ってたときに、本当に軽いビンタをぺちぺちぺちぺち延々と続けてたことがあっ
たっけ。平気な顔をして笑ってたゆっくりの頬が、長く叩いているうちに腫れてきて、
皮が裂けて、餡子のピチャピチャした音になって。

 それでも兄貴は、顔色一つ変えずに、あのおっかない無表情のまま、延々とぺちぺ
ちぺちぺちやって。兄貴ぃ。人間も、そうなっちまうんですか? なるわけがないで
すよね? 饅頭の皮と人間の皮じゃ、比べ物にならないですよね?

 そういや、珍しく兄貴が酒飲ませてくれましたっけ。いつでしたっけ? なんか、
別れがどうとか言ってましたっけ? 旅がどうとか……俺は旅になんか出る気はない
から、兄貴が旅にでも行くんですか? お土産、期待してますぜ。

 ああ、あの時、なんつってたっけ? よく思い出せねぇけど……そうだ、確か……

「なぁ、おい。本当に、人に飼ったことのある饅頭は、どれだけ自惚れると思うよ?」
「思いっきり自惚れてくれると、叩き落とすのも面白ぇだろうなぁ」

 ははは、馬鹿だなぁ、兄貴は。ゆっくりが人間に勝てるわけないじゃないですか。
ゆっくりに殺される人間なんて、いやしませんよ。

 ほ〜んと、馬鹿なことを考えるなぁ、兄貴は。


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最終更新:2009年01月11日 13:48
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