雛祭り
3月3日は女の子のお祭り。
うちの雛様達もおそらくは女の子、折角なんで祝ってやろう。
あられ、菱餅、白酒・・・と。赤い布を掛けたダンボールにセッティングしていく。
そして段上の中央にひなとれいむを並べてやる。
イマイチ地味だが野郎の一人暮らしではこんなもんか。気持ちが大事って言うしね。
「「ゆゆ~♪」」
気に入ってくれたようで何よりだ。しかし華がない。
華・・・はな・・・あぁ、桃の花がないんだ。
雪洞やら牛車は流石に値が張るが、せめて花くらいは飾ってやりたい。
そもそも桃の節句に桃抜きってのも締まらない。
何処へ行っても桃の花が無いのだ。
当日は何処も直ぐ売り切れ。皆が皆、同じようなことを考えるらしい。
造花で手を打つか、そう考えた矢先足元から声が響いた。
「ももあるよ!!」
「「おきゃーりなしゃい!!」」
ただいまと返し扉を閉める。
そして袋から桃を取り出し雛壇に飾ってやる。
「「ゆ!?」」
「ももです」
「「みょみょ?」」
「ももです」
「「「・・・」」」
花瓶の変わりに白い皿に盛り付けられたのは てんこ。
桃の花の飾り位置に鎮座し、2匹に笑顔を向けている。
そんなこんなで唄も歌ったし、もうやる事はない。祭り終了。
実際、世の女の子は雛祭りって何してるんだろうね。
それじゃあと3匹に餅とあられを差し出す。今日のご飯代わりだ。
「「いたりゃきまーじゅ!!?」」
れいむとひなが口を開いたまま硬直している。
「おきゅち!? おきゅち!?」
「やぎゅい!! やぎゅい!!」
餅が硬すぎたらしい。人間でもそのまま食えないしな、あれ。
ジタバタと転げまわる2匹を宥めすかし、あられの器に放り込んでおく。
しばらくグズっていたが、やがてぼーりぼーりと食べ始めた。
そんな2匹をやはりニコニコと眺めているてんこ。眺めているだけである。
食べないのかと聞いても
「てんこ、ももですから」
の一言である。
ふーんと応えながら目の前であられをボリボリと食べる。
たまーに食うと中々旨い。ほう、最近のはマヨネーズ味なんてのもあるのか。
わざとらしく呟きながら白い粒を口元に運ぶ。
「あー・・・」
涎垂れてる。
「うゆ!?」
食べたいんじゃないの?
「てんこ、ももですから・・・」
遠慮してるんじゃないの?
「でんご、ももでずがらっ・・・!!
涙を流しながら必死に歯を食いしばっている。
遠慮というか、もはや意地なのかもしれない。
ただこれ以上やると てんこの寿命がストレスでマッハなので、余ったら勿体無いという名目で食べさせた。
「ぽーり、ぽーり・・・しあわせ・・・!!」
一粒一粒を噛み締めるように味わっている。
行儀よく涙を流しながらあられを食うとは、流石天人は格が違った。
「あの・・・9つぶでいいですから」
あられ9粒でお腹一杯とか、どんだけ謙虚なんだこいつは。
取り合えずもう一袋空けて皿に注いでやる。
ザラザラというあられの滝に目を丸くしていたが、命令だと告げるともう何も言わなかった。
そんな時である。
「「ゆみゃあああああ!?」」
突如として2匹が悲鳴を上げる。
何事かと見ると、ぺっぺっと何か吐き出そうとしている。
茶色い欠片・・・柿ピーみたいな味のするアレだ。
2匹には少し刺激が強かったか、唇は赤く腫れタラコのようになっている。
「おみじゅ!!おみじゅ!!」
「ごーきゅ、ごーきゅ!?」
ガブガブと盃を空にしていく。そんなに一気に飲むと・・・
「ひ~にゃにゃにゃにゃ~♪ く~りゅくりゅり~♪」
雛壇をステージの如く、歌って回って忙しいことになってしまった。
一方のれいむは真っ赤な顔で でろんと伸びている。
「にゃにゃにゃー・・・ ひにゃー・・・んにゅ」
一頻り回って満足したのか、その回転は段々と緩やかなものになり
「ひにゃにゃにゃ・・・ぉぅぇー」
ナチュラルに吐いた・・・
眩しいばかりの笑顔、夢見後心地の声音、予告なしのリバース。
「んにゅにゅにゅ~♪ ひゃいちゃっちゃわ~♪」
むにゅむにゅとゲロまみれの顔で可愛らしい寝言を言っている。
彼女自身はさぞかし良い夢見ていることだろう・・・畜生。
汚物を拭き拭きあることに気付く。れいむがエライ静かなのである。
大人しいのは良い事だが流石に変である。
れいむさーん
「・・・・・」
つんつん
「・・・・・」
うつ伏せのれいむをコロリと返す。その顔は土気色に染まりガクガクと小刻みに震えている。
大声で てんこを呼び寄せ、慌てて電話に走る。
救急車・・・じゃない!! うー急車って何番だ!!?
ボタンの上で指がバタつく。連れて行くほうが速いか!!?
「おにいさん!! れいむちゃんが!!」
れいむは静かになっていた。
先程までの苦悶の表情も嘘のよう、とても安らいだ顔をしていた。
だだ、息をしていなかった。
頭が真っ白になった。
気付いたら涙が溢れていた。
ピク
れいむの体が震える。
思わず目を見張る。
ピクピク
再度苦悶の表情を浮かべゆーゆーと痙攣が起こる
慌てて手を伸ばし抱きしめる。
そして震える手の中でれいむはカッと目を見開き
「ぺりっちょにゃー!!」
「にゃはは!! しゅいきゃだよ!!」
一皮向けた。
俺はそのまま
「くすぐっちゃいよー!!」
すいかとひなを雛壇に載せ
「んゆ~? おにいしゃんにゃにを」
布で風呂敷のように包み
「モゴモゴ!!!??」
ピシャリと襖を閉じた。
「おにいさん・・・」
雛人形は早く仕舞わないと行き遅れるって言うしね。
祭りが終わったら仕舞っちゃおうね~。
翌日
「おじゃましました、もものせっく たのしかったです」
玄関で振り返るてんこ。よければうちに居ろと言うのに頑なにそれを拒む。
「ごめいわく かけますから・・・」
どうしたもんかと悩んでいるとフラフラと二日酔いの2匹がやってくる。
「てんちょー、いきゃにゃいで!!」
「いっしょに なきゃよくしよーじぇい!!」
「!!」
ぶわっと涙が溢れるてんこ。改めて訪ねる。
「ふつつかものでずが・・・おぜわになりまず!!」
「「ゆっきゅりー!!」」
こうして家族が増えました。
「へぶんじょうたい!!」
終わり
最終更新:2009年03月12日 11:04