ゆ虐の隙間9 人格を持った喋るユギャックソード、アネイキイとタオマーの夫婦剣を持つ鬼意山とゆっくりるーみあの冒険(前編)

名無しなんださんからのお題
「人格を持った喋るユギャックソード、アネイキイとタオマーの夫婦剣を持つ鬼意山とゆっくりるーみあの冒険」

※カオスです
※クソ長いです。長さに見合った質になっているかは補償できません。
※他の作者さんのSSから一部設定とキャラをお借りしています
※ネタをネタとして受け止められない方は速攻で戻るを押すか窓を閉じた方が良いかもしれません
※使ってるネタが地雷ってレベルじゃねーぞ!
※俺設定あり
※注意書きにないことが出てきても勘弁してください
※流れ自体はシリアスですが書いている人間の頭の中は春爛漫です
※そろそろ注意書きに書くことがなくなってきたのでこの辺でやめておきますね
※一度無駄に多い注意書きをかいてみたいものです
※でも中々思いつかないんだよなぁ










「ZZZzzz……」

日本。公園の桜の木の根元で、頭からすっぽりとマントを被り、
口元も同じ素材であろう布で隠した人物が木にもたれかかるようにして寝転がっていた。
マントを押し上げる体のシルエットから見て、恐らくは男性だろう。
頭の上では1匹のゆっくりが同じように寝ている。短めの金髪にリボンを巻いた、ゆっくりるーみあと言う種だ。

「あ、いたいた……」

そこに、1人の少女が歩み寄ってくる。雪のように真っ白な長髪の、小柄な少女だ。
足音に気付いたのか、男が薄く目を開ける。

「……よう。何か食いもん持ってねぇか」

「開口一番それは大人としてどうかと思うんですが……」

苦笑しながら鞄から弁当を取り出し、渡す少女。
ある日この公園で昼寝をしていた時にその異様な風体に驚いた少女がコンタクトを取って以来、
通りがかった時に少女が何かしら差し入れをするという奇妙な関係が続いている。
弁当を受け取って遠慮ナシに食べ始めながら、少女をじろじろと見て男は呟いた。

「その体格でダイエットなんぞすると引っ込まなくていい所が引っ込むぞ」

「ちーんっ・・・!? よ、余計なお世話ですっ。今日は昼で終わりだったのを忘れて作っちゃっただけですよ」

「そーかい。ま、小骨が多かったが中々だったな。ごちそうさん」

少女が返された弁当箱を見ると、綺麗に空になっていた。
おかずを小分けにするために入れていた紙製の器も何もかも。

「……お腹壊しませんか?」

「幸か不幸か今まで腹壊した事はねぇなぁ」

「……そうですか」

何とも微妙な表情をする少女そよそに、男は何事かを考え込む。
それに気付いた少女が怪訝な顔をすると、男は口を開いた。

「いや、お前に言っておくべきかと思ってな。
 明日辺りから暫く南米の方に旅行行くから、ここに来なくてもいいと思うぞ」

「南米、ですか? サッカーでも見に行くんですか?」

「いや、そっちのほうじゃなくてアマゾンの方な。ジャングルとかテーブルマウンテンとかその辺り」

「探検にでも?」

「いや、復讐。お袋殺した奴を殺しに行くんだよ」

さらりと言ってのけた言葉に、少女が硬直する。
たっぷり10秒ほど硬直しているのを観察していると、
頭の上のるーみあが目覚めたのか「そーなのかー!」と声を上げた。
その声で、少女の硬直も解ける。

「ま、冗談だけどな。知り合いに会いに行くのさ。ここ10年ばっかし会ってなかったしな」

「な、なるほど……さて、それじゃあ私はこれで。良い旅を」

「おう。ま、桜が咲く頃にゃあ戻ってくるさ」

一礼して、少女はその場を去る。少女が視界から消えるまで見送ってから、男はポツリと呟いた。

「実は嘘じゃあ、ねぇんだけどな」








そして場面は移り、前人未到の密林の中、木々を掻き分け、時に枝をナタで切り落とし進む影が一つ。
背には大量の荷物を背負い、頭からすっぽりとマントを被り、
口には同じ素材であろう布を巻いている。あの男だ。
そのすぐ後ろにはるーみあがふわふわと飛んでおり、時折枝にぶつかりながらも、懸命にマントの男についていく。

「なんでそんなにいそぐのかー!? もっとゆっくりするのだー!」

るーみあの声にも耳を貸さず、一心不乱に森を進む。その足取りには些かの鈍りも無い。
そうして暫く進むと、開けた場所に着いた。すり鉢状の窪地を見下ろす小高い崖の上。
男はその崖から窪地を見下ろし、搾り出すように呟いた。

「ようやく……ようやくだぜ……皆……」






それから暫く後、男はそこにテントを張っていた。風で飛ばされないように深々と杭を刺し、テントを固定する。
竈やその他キャンプを張るのに必要な機材などを設置し終えると、倒木を椅子代わりにして座る。
少しすると、その辺で遊んでいたるーみあが飛んできて男の膝に乗っかった。

「よーやくおわったのかー? おつかれさまなのだー」

「まあな。寝床をしっかり作らんと今後に支障をきたす。その為には事前の準備を怠るわけには行かねーだろ」

るーみあの頭を軽く撫でてぽんと後ろに放り出すと、張ったばかりのテントの中に潜り込み、寝転がる。
寝転がった音にるーみあが近づくより早く、テントからは寝息が聞こえてくる。

「……おやすみなのだー」

るーみあは男を起こさないよう静かに声をかけると、テントの入り口を閉めてキャンプの周りでゆっくりとし始めた。






男は夢を見ていた。今から十年以上も前、男がるーみあと出会うよりずっと前の夢を。
男は、母親と、そして家族同然の仲間達と共に暮らしていた。
男に父親はおらず、母とその仲間達に囲まれ、質素ながらも穏やかな日常を過ごしていた。

ずっと、そんな生活が続くと思っていた。
自分がいつか、母と仲間達を守り養っていかねばならないのだと幼ながらに決意し、
母の腹心の部下に戦いの仕方を教わってもいた。

だが、そんな穏やかな生活は唐突に打ち切られた。自分達の所に突如襲撃者が押し寄せたのだ。
当時幼い子供であった男に出来る事はなく、腹心の部下と共に辛くもその場を脱した。
が、追っ手に追いつかれ、部下はその場に残り追っ手を迎え撃った。

男は数日後母親の知り合いである探検家に保護され、母親と仲間達が、
そして自分を逃がしてくれた部下も死んだ事を知った。
それから、男の生き方は決まった。母を、仲間達を、自分の全てを奪ったもの達への復讐。
得るものなど何一つないライフワークへ身を投じる事を決意したのだ。

それから、男は一度たりとも忘れた事がなかった。
大柄で、とても優しかった母親の事を。自分の師でもある腹心の部下の事を。寝食を共にした仲間達の事を。
そして、襲撃してきた奴らのリーダーの、特徴的な帽子と金髪の事を。






「…………」

「おきたのかー」

男が目を覚ますと、るーみあの能天気な顔が視界一杯に広がっていた。

「…………」

払いのけ、起き上がる。ごろごろ転がったるーみあが抗議の声を上げるが、無視してテントを出た。
眠っていたのは思いのほか長い時間だったらしい。外はもう薄暗くなっている。
ふと周囲に視線をめぐらせると、竈の辺りにボールのようなものが数個何かが転がっているのが見えた。
いや、ボールではない。ゆっくりだ。ちぇん種やまりさ種が多い。

「つかまえておいたのだー」

いつの間にかふよふよと横に浮いているるーみあが誇らしげに反っている。
このるーみあとの付き合いも大概長い。あの後養父となった探検家に付いて世界を回っていた頃、
崖崩れで両親を失ったところを保護されたのだ。それ以来、男の相棒として共に行動している。

「まりさにちぇんか……丁度いい、こいつらを食ったらあの窪地に行くぞ」

「そーなのかー」

どうやらまだ生きていたらしく、声に反応してびくり、と震え始めた。
るーみあによって底部を食い破られているようで、動きたくても動けないようだ。

「ま、まりさたちはなにもしてないんだぜ……たすけてほしいんだぜ……」

「そうだよー……はやくむれにかえらないとみんながおなかをすかせてるんだよー」

力なく命乞いをするゆっくり達。男はすたすたと近づくと、1匹のまりさを抱え上げ、話しかける。
その視線と声は先ほどとは違い、感情と言うものを削ぎ落としたかのように無機質で冷たい。

「おい、いくつか聞きたいことがある。答えによっては怪我を治して返してやっても良い」

「ほ、ほんとなのぜ!?」

「俺は嘘をつくのは嫌いだ。まあいい、替えは沢山いる。
 答えたくなかったら答えなくてもいいぞ? 命の保証はせんがな。
 まず一つ。お前達は崖下の窪地に住んでいるのか?」

「そ、そうなんだぜ! まりさたちはみんなあそこにすんでいるゆっくりなんだぜ!
 にんげんさんにはなにもしてないし、ひつよういじょうにごはんもたべないし、
 すっきりだってせいげんしてるからめいわくはかけないんだぜ!」

男は、まりさの言う情報をゆっくりと吟味する。
どうやら、まりさ達は自分が害ゆっくりを駆除する為の人間だと思っているらしい。
誤解もいい所なのだが、情報を引き出すのに丁度いいので誤解させたままにしておく。

「そうか。なら次の質問だ。お前は今すっきり制限をしているといったな?
 ということは、お前らには優秀な指導者がいるようだな。そいつは誰だ? ぱちゅりーか?」

「ち、ちがうんだぜ! まりさたちのむれのおさはどすなんだぜ!
 とってもやさしくて、ゆゆこだってたおしたぐらいつよいどすなんだぜ!」

その瞬間、まりさは自分が何かされたと感じる間もなく潰れて弾けた。
男が思い切り握り締めたのだ。助かると思っていたのか、他のゆっくり達が絶叫を上げる。

「わからないよー!? しつもんにこたえたのにどうしてまりさがころされるのー!?」

1匹のちぇんのその叫びに、男はそちらの方を向いた。
その瞬間、ちぇんは生まれてから1度も感じた事のない程のとてつもない恐怖を感じた。
男の瞳には、先ほどとは違い、視線だけで殺されそうなほどのすさまじい殺意が篭っていたからだ。

「勘違いするなよ、俺は「答えによっては助ける」と言ったんだ。
 「質問に答えたら助ける」とは言っていない。それにな、ちぇん。
 俺は、お前達が崖下の群れでなかったら本当に治療してやって助けるつもりだったんだぞ?
 恨むなら……お前達を群れにおいていたドスと、るーみあ如きに捕まった自分の不運を恨むんだな」

男は口元を覆うマスクに手をかける。ゆっくり達はもう恐慌状態だ。じたばたともがき逃げ出そうとするが、
当然逃げ出す事など叶わない。そんな中、先ほど男に問いかけたちぇんは活路を掴もうと必死に男に話しかける。

「ちぇんたちはにんげんさんになにもしてないよー!? わかってねー!?」

「そうだな、お前達の言う事は本当だろう。こんなジャングルの奥のドスの治める群れだ、
 きっと人間には害はないし、むしろ益があるだろうな」

「そ、それじゃあ、どうし………」

言いかけたちぇんの言葉をさえぎるように、男はマスクを引き降ろし、口元を晒してこう言った。

「お前のところのドスが、俺のお袋と仲間達を皆殺しにしたからさ」

その瞬間、轟、と強く風の吹くような音と共に、ちぇん達が跡形もなく消えうせた。
先ほど潰されたまりさの残骸もである。
男はマスクを元に戻すと、しまった、とでも言うように頭に手を当てた。

「お前の分まで食っちまったな」

「ゆっくりよりかろりーめいとのほうがおいしいのだー」

「そーかい。まあ良いさ。食ったら行くぞ。今日のところは偵察だがな」



それから暫く後、男とるーみあは窪地の外縁にある茂みに隠れていた。
男が調べた情報とさっきのゆっくり達の証言が確かならばこの群れの長であるドスまりさこそ
男の母親と仲間達を殺した憎い敵に違いないのだ。
窪地をナイトビジョンと双眼鏡を併用して覗き込む。丁度男がキャンプを張った場所の真下、
崖に面した斜面に幾つもの穴が掘られており、そこに草木などで簡単なカモフラージュが施されている。
穴の中に1つだけ、10メートル以上はあろうかと言う巨大な穴があった。
恐らくあれがドスまりさの巣穴だろう。

「巣自体は一般的な群れか……あの穴の数を見ると規模は20から30って所か」

「たくさんいるのかー」

「数が居ても大した事はねぇよ。問題はドスだ。あの規模の巣穴ってことは
 大きさは7・8メートルはあるな。手強そうだが……やってやるさ。
 よし、地形は把握した。今日のところは帰るぞ」

あっさりと踵を返す男に、るーみあは首をかしげて問いかける。

「やしゅうしたほうがらくじゃないのかー?」

「馬鹿言え、いくらナイトビジョンあるからって夜中に襲撃かけられるか。
 それに俺がやるのは夜襲じゃなくて復讐だ。
 ドスには良く見える状況で自分のしたことを認識してもらわなきゃ、俺の気がすまねぇんだよ」

「……そーなのかー」

それきり2人は黙り込み、元来た道を引き返しキャンプに戻っていった。





その日の夜、男は焚き火をじっと見つめていた。
その瞳にはまりさに向けたような無感情さはなく、ちぇんに向けたような激しい憎悪もなかった。
ただ、様々な感情がないまぜになった複雑な輝きだけが浮かんでいる。

「どーしたのかー?」

昼のようにるーみあがふよふよ飛んできて膝の上に乗った。いつもはこの流れで後ろに放り出されるのだが、
何時まで経っても投げられる気配がないので不思議に思って上を向く。
男は先ほどと同じように、焚き火の炎をじっと見つめている。
るーみあがじっと見つめていると、男は視線を外さぬままぽつりぽつりと呟き始めた。

「……昔の事をな、思い出してたんだよ」

「むかしのこと、なのかー?」

「……ああ。お袋と、みんなと、楽しくやってた頃をな。
 お袋はチビで暢気だったけど、優しくてさ。ガキの頃はいつもお袋にべったりだった。
 それだけじゃ駄目だろうと思って、お袋の腹心にケンカの仕方教わってたりもしてたんだ。
 裕福じゃあなかったし、親父もいなかったけど、楽しかったよ。俺はそれだけでよかった。
 お袋と、皆と、楽しくゆっくりと過ごせればさ」

「…………」

るーみあは黙ってそれを聞いている。男は、るーみあの髪を梳きながら言葉を続けた。

「それを、あのドスはぶち壊したんだ。あいつにはあいつなりの正義があって、その為にお袋たちを狙ったんだろう。
 でも、そのせいで俺は全てを失ったんだ。お袋の笑顔も、皆との日々も、何もかも」

ぎり、と思い切り歯を噛み締め、男は搾り出すように語る。
その目には先ほどと同じ激しい憎悪が燃えていたが、るーみあが感じたのは恐れではなく、悲しみだった。
自分も両親を失ったが、相手が自然現象であったため諦めも早くついた。
しかし、男の家族を殺したのはドスまりさという個人なのだ。だからこそ諦めきれないのだろう。

「……ふくしゅうは、なにもうまないのだー」

こんな言葉で男は止まりはしないだろう。しかし、るーみあは言わずにはおれなかった。
言ってから殴られるかも、と警戒して身をすくませたが、返ってきたのは拳ではなく呟きだった。

「わかってんだよ……んなことは。でも、止まれねぇんだよ。今更な」

男の声は、どこか疲れたような響きがあった。
そして、その声に応じるように何処からともなく響く声が2つ。

『その通り。今更止まってもらっても困る。その為に自分達を使うと決めたのだろう?』

『私達を手に取った時に見せたゆっくりへの殺意、そして家族を想う純粋な愛情。
 それが気に入ったから力を貸しているんだよ、それを今示さないでいつ示すの?』

男性の声と女性の声。交互に響くその声に、男は渋面を作って頭を振る。

「言われずとも分かってんだよ、ンなことは。お前達こそ大丈夫なのかよ?
 いざ事至ってから効きませんでしたじゃ済まねぇんだぞ?」

『それはお前次第だ。俺達はその為に存在する。しかし俺達単体は只の道具でしかない。
 効くか効かないかはお前の技量にかかっているのさ』

男の声が言う。

『まあ、るーみあを触らせてくれたら私も凄い張り切るよ? それはもう物凄く』

「だが断る」

『どうしてそんなこというのおぉぉぉ!?』

「アネイキイだからな」『アネイキイならしょうがないよな』「ああしょうがないな」

女の声の要求を即座に断り、男は立ち上がる。女の声はなおもぎゃあぎゃあと騒いでいたが、
るーみあが「それいじょううるさくするときらいになるのだー」と言うと途端に静かになった。

「ったく、折角シリアスな気分だったのにぶち壊しだ。今日は寝る」

「おやすみなのだー」

男がテントに入っていって少しすると、昼のようにすぐに寝息が聞こえてきた。
自分も寝ようとテントに入る直前、るーみあは呟く。

「……あねいきい、たおまー、ありがとなのだー」

『何、怒りに雲っては碌に力を発揮できんだろうしな』『そういうことだね』

苦笑するような男女の声にくすりと笑うと、るーみあもまたテントの入り口を閉めて眠りに付いた。






翌日。るーみあを引き連れて男はドスの群れまで来ていた。
男が窪地に差し掛かると、つがいらしいれいむとまりさが寄ってきて「ゆっくりしていってね!」と声を上げる。

「ゆ? おにいさんはにんげんさん? ゆっくりできるひと?」

「それはお前ら次第だな。それより、ドスは今群れに居るのか? 俺はドスに会う為に凄い遠くからやってきたんだよ」

「どすはいまみんなとひなたぼっこしてるんだぜ! おにいさんも、そこのるーみあも
 いっしょにひなたぼっこしよう! とってもゆっくりできるのぜ!」

「分かった。案内してくれないか? 2匹とも俺が持っててやるよ」

「おにいさんありがとう!」

男は2匹を抱え窪地の奥、崖に面した部分までやってきた。
巣穴の前は広場のようになっており、子ゆっくり達が鬼ごっこをしていたり、
帽子を含めて7メートルはある巨大なまりさを中心にゆっくりたちが固まって昼寝をしている。

「どす! おきゃくさんだよ!」

「にんげんさんなんだぜ!」

その声にドスの小山のような巨体が震え、目を覚ます。
顔には長い年月を潜り抜けた勲章とも言うべき大小の傷が走り、その瞳には理知的な輝きがある。
まとう雰囲気は非常にゆっくりとしており、並のゆっくりなど及びも付かないほどの貫禄が感じられる。
このドスは一般的に見る群れのリーダー的な存在のドスとは次元の違う存在だ、男はそう直感した。

「はじめまして、にんげんさん。どすのむれにようこそ」

「お初にお目にかかるな、ドス。ちと訳があってね、顔を隠したままで失礼する」

「にんげんさんにはいろいろじじょうがあるものね。ゆっくりだってぼうしやりぼんをつけてるし、
 どすはかおがみえないくらいでとやかくはいわないよ。 それで、なんのごよう?
 にんげんさんがこんなもりのおくまでくるなんてそうそうないことだからね」

「察しがよくて助かるな。端的に言おう、ドス」

男は抱えていたれいむとまりさを放り投げると、マントの中に手を突っ込み、こう言った。

「あんたに、殺された家族の復讐に来た」

「ゆがっ!?」「どぼじっ……」

その瞬間、ドスの目には2つの光が弧を描いたのが見えた。そして目の前の男の両手に握られた剣に
まりさとれいむが突き刺さっているのを。体の中心を綺麗に貫かれている。あれでは助かるまい。
2匹が激痛に悲鳴をあげ、周りで寝ていたゆっくり達も目覚め始める。
寝起きと言うこともあり状況を飲み込めては居ないようだったが、
ドスが「みんなはおうちにはいってね!」と声を張り上げたので蜘蛛の子を散らすように避難が始まった。

「よくわからないよ。どすはどすになってからにんげんさんのところにいったことはないし、
 どすになるまえもにんげんさんをころしたことはないよ」

目の前で仲間が殺されたというのに、ドスの声は冷静だった。
しかし、その視線は非常に冷たいものになった事を男は感じていた。

「ああ、そうだろうな。だが、事実として俺の家族はあんたに殺されている。
 あんたが覚えていようが居まいが、これは動かしがたい事実だ」

男の目には、静かな殺意が燃え始めている。ドスは説得は無駄だと判断した。
長い時を生きた経験が、この男は言って聞く相手ではないということを告げていたからだ。

「これいじょうはいってもむだみたいだね」

「ああ、俺を止めたけりゃ俺を殺す事だな。気が向いたら詳しい事を話してやるよ。
 丁度邪魔なゆっくりも粗方逃げたようだしな」

男は剣に突き刺さったままのれいむとまりさを振り落とし、剣を逆手に構えてドスを睨む。
るーみあは2人の間に流れる空気を感じたのか、離れたところへと飛んでいった。

「さて、始めるか、ドス」

「そうだね、そこのるーみあにはわるいけど、おにいさんにはゆっくりできなくなってもらうよ。
 ころしはしない。けど、にどとたたかえないようにはなってもらう」

それきり2人は黙り込み、睨み合う。双方相手の出方を伺っているのか、睨みあいつつも微動だにしない。
緊迫した時間が流れ……最初に動いたのは男だった。
踏み込み、2歩で間を詰めて斬り付けるが、ドスはその巨体に似合わぬ俊敏さで刃を避け、
アフリカ象に匹敵する巨体で猛然と突進する。男は突進に合わせて僅かに体をずらし、
直撃を避けながらもドスの身体に沿うように周り、突進の威力を軽減する。
そして男とドスの距離は開いたが、ドスは自分の身体に違和感を覚えた。
ほんの少しではあったが、まるで餡子が自分から抜け出ていくかのような脱力感を覚えたのだ。
違和感の元を探ると、自分の頬の部分に男の持っていた剣の片方が突き刺さっている。
違和感の正体はソレだ。実際に餡子を吸われているわけではないようだが、この剣は危ない。
ドスはそう直感し、舌で抜き去ると放り捨てる。

『ぁいたっ!?』

この場にいる誰のものでもない、女性の声が響いた。ドスは周囲を見回すが、誰も潜んでいる様子はない。
そもそも、声が聞こえたのはすぐ近くだ。自分の周囲には草しかなく、普通のゆっくりの背丈ほどもないため
人間か隠れる事など不可能なはずだ。
どんなドスの考えをあざ笑うかのように、声はなおも聞こえてくる。

『しまった、見つかった! ヘイミスター回収回収!』

耳を澄ますと、その声はどうやら先程投げ捨てた剣から聞こえてくるようだ。
剣が喋る? いや、自分も喋って動く饅頭なのだ、剣が喋っても不思議はあるまい。
ドスはそう結論付けた。すると、今度は男の方からまた別の男性の声が響く。

『そんな暇なんざ無い。ヘシ折られなんだだけでも幸運に思え、アネイキイ』

「もう少し踏ん張れなかったのかお前は。錆びて折れろ」

『どうしてそんなこというのぉぉぉぉぉぉ!?』

ドスはその様子に戸惑った。男の持っているもう1本の剣、そこからもう一つの男の声がしているからだ。
その様子に気付いたのか、男はドスに語りかける。

「自分が喋る饅頭でも、やはり剣が2本も一片に喋ると戸惑うか?」

「……さっきのかんかくといい、このけんはふつうのけんじゃないね?
 とても、ゆっくりできないきがするよ」

「ご名答。こいつらはユギャックソードって言うらしい。そっちのがアネイキイ、こっちのがタオマーって名前だ。
 なんでこんなもんを作ったのか、それは知らん。聞けば分かるだろうが、聞いても意味が無い事だから聞いてない。
 俺が知ってるのは3つ、こいつはゆっくりの体力を吸って切れ味を増す。アンタの分厚い皮を貫通したのもそのお陰さ。
 あのれいむとまりさにはその為に役立ってもらった」

男はタオマーをぶらぶらと揺らしつつ、ドスに言う。

「2つ目は、こいつらには大昔にいた虐待趣味の人間の意識が宿っている。
 オカルトには明るくないから詳しい事はこれまた知らんが、そのお陰でさっき言った能力を持ってるらしい
 そして3つ目は……こいつはゆっくりしか扱えないって事だ。理由は知らん。分かる事と言えば、人間が使っても
 ペーパーナイフ以下の棍棒で全く切れやしねぇ。人間だったら、な」

その言葉に、ドスの脳裏に疑念がよぎる。あの剣はゆっくりしか使えない。ならば、何故自分の頬はやすやすと貫通できたのか?
少なくとも、目の前にいる男は人間に見える。胴付きのゆっくりではない。

「不思議そうなツラだな。答えてやっても良いが、その前に一つだけ質問だ。
 アンタは随分昔、ゆっくりの群れを一つ滅ぼしたろう? ゆゆこが治める群れだ。あんたなら覚えてるだろう。
 答えてくれ。それまで、攻撃はしねぇ、アネイキイも拾わない」

男は構えを解く。ドスは少し考えた後、頷いた。なぜかは自分でも分からない。
ただ、男の眼差しに悲しみの色を感じたのは、その理由の一つにはなるだろうか。

「……そうだよ。どすはむかし、ゆゆこのむれをほろぼしたよ。
 ゆゆこはゆっくりできない。ほうっておいたらもりがなくなって、ゆっくりもにんげんもたいへんなことになってたよ。
 ゆゆこにはわるいことをしたとおもう。けど、ゆゆこのためにもりをほろぼすわけにはいかなかったんだよ」

ドスの言葉を、男は俯き、黙って聞いていた。そして少し後男が顔を上げると、
その目には相変わらず悲しみの色が合った。が、それ以上に強い、怒りの色があった。

「そうか。あんたは正しい事をしたんだな。だがよドス、やっぱりあんたを許せない。
 話を聞いてみたら気が変わるかと思ったが、やっぱり、変わるもんじゃねえよな。
 10年以上、ずっと溜め込んできた憎しみってのはよ」

「わからないよ。どうしてにんげんさんはそんなにどすをにくむの?
 どすはうそはつかないよ。にんげんさんをおそったことなんかしたことないよ」

「だろうよ。まあ、これ以上は不親切って奴だ、教えてやるよ。俺があんたを憎む理由ってのをな」

男は今まで自分を覆い隠していたマスクとフードを取り去る。
そこからこぼれ出たのは、ゆるくウェーブのかかった桜色の髪と、血のように赤い瞳。
普通の人間であればただ染めているだけだ、目の色素が薄いだけだ、そう思っただろう。
だが、ドスは人間ではなかった。ゆっくりであったからこそ、ある言葉が口をついた。

――――ゆゆこだ。

「やっぱりゆっくりからするとそう見えるか。まあ、半分当たりだよ。
 俺はゆっくりと人間のハーフなのさ。そして、俺はアンタが昔滅ぼしたゆゆこの子供で、
 群れの唯一の生き残りだ。この剣も元々すげえ昔に人間がこれを守れと置いてったらしい。
 ま、俺にとっちゃこいつらの出自なんざどうでもいいことだが」

「にんげんとゆっくりのはーふ……? そんな、ありえないよ!」

剣が喋ることはまだ許容できたが、流石のドスもこれは理解の外であった。
ゆっくりがゆっくりとすっきりをすることによってゆっくりは子供を作る。
人間が人間とすっきりをすることによって人間は子供を作る。
いくらドスが人里はなれた場所に住むゆっくりでもそれくらいは知っている。
だが、ゆっくりが人間とすっきりをすれば子供が作れるのか? それは分からない。
ドス自身それを見たことは無かったし、自分達ゆっくりがどれだけの非常識の上に存在しているのかを理解している為に
安易に否定する事も出来なかったのだ。

「ありえないなんてことはありえないんだよ。実際、ゆっくりなんていい加減なもんさ。
 糖分を含んだ水と小麦粉があれば大体の傷は治る。ほっぺたをこすりつけるなりすればガキができる。
 ソレと同じさ。お袋から聞いた話だとな、死にかけで群れに保護された人間を世話してるうちに仲良くなって、
 ある日ほっぺたを擦りつけあったらガキができたんだと。俺が生まれた頃にはもうその人間は死んでたから、
 俺にも詳しい事はわからん。知ってどうなることでもねぇしな」

まあ、それはそれとしてだ、と男は一度言葉を切り、ドスを睨む。

「あんたの言う事も、やった事も、俺は正しいと思うよ。
 ゆゆこ種の底無しの食欲はアンタにとって害にしかならねえ。
 お袋はゆゆこ種にしちゃあ抑えが利くほうだったけど、まあ万が一が無いとはいえんし、
 禍根を断つ意味でも群れごと滅ぼすってのは理解できるしな。俺だってやるんなら徹底的にやる」

不意に、ドスは背後から風が吹いてくるのを感じた。強い嵐の前触れを感じさせる、そんな風だ。

「だがよ、ドス。ならどうして俺だけ生かしたんだ。
 確かに俺は必死で逃げたよ。死にたくなかったし、お袋に生きろと言われた。
 師匠のみょんも命を懸けて逃がしてくれた。それを無駄にしたくも無かったしな。
 けど、あそこで死んでればこうして俺があんたに復讐に来る事もなかった。
 あのまりさとれいむ、そして昨日死んだゆっくり達も、死ぬ事はなかったんだ」

風が強くなる、ドスの巨体はびくともしないが、髪がなびき、周囲の草もざわざわとざわめき始める。

「……ふくしゅうはなにもうまないよ。ここでどすがおにいさんにころされたとするよ。
 じゃあ、そのあとおにいさんはどうするの?
 おにいさんのだいじなものをうばったどすがいえたことじゃない。それはわかってるよ。
 でも、きっとどすをころしてもおにいさんはけっしてまんぞくできないよ」

さらに風が強くなる。ここで、ドスは風が後ろから吹いてくるのではないことに気づいた。
男の方、性格に言えば男の口に、空気が吸い寄せられているのだ。
バキュームカー等比較にもならないほどの凄まじい吸い込み。ゆゆこ種の特性の1つであるそれを、男は確かに受け継いでいた。
ドスの言葉を受けたのか、風は一時収まり、男が口を開く。

「だったら、返してくれよ、ドス」

その声は、怒りによってか悲しみによってか、とても震えていた。

「お袋を! みょんを! 仲間達を! あんたが奪って言った全てを! 今すぐ返してくれ!」

そして、また風が巻き起こる。いや、最早風ではない、嵐だ。
草がちぎれ、木の葉が舞い、石が巻き上げられて吸い込まれていく。
そして吸い込みが終わったのか唐突に風が止む。
その瞬間、ドスは冷水を浴びたような感覚を覚え、とっさに横に跳んだ。
直後、ドスのすぐ横を突風が駆け抜け、地面が爆発し、大量の土砂を巻き上げた。

「これは……くうきをはきだしたんだね!」

「当たりだ。俺はゆゆこ種と人間のハーフ。人間としての骨格や内部構造と、ゆっくりとしての特性双方を備えている。
 当然、ゆゆこ種としての力もな。吸い込んで吐き出す。空気の場合至近距離でもないと威力が保てないが……
 今巻き上げた大量の土砂なら、ここからでもあんたらの巣穴に届く。あんたも俺と同じにしてやるよ。
 あんたが守り抜いてきたものを、俺が奪い取ってやる」

男は再び吸い込みを開始する。巻き上げられた土砂、埋もれていた大き目の石などが男の口の中に吸い込まれていく。
ドスは男のやらんとしていることを察する。吸い込んだものを吐き出させてはならない。
ドスは突進しようとするが、突然がくんと脱力してしまう。見れば、先程男の手を離れた剣、
アネイキイがドスの身体に触れていた。恐らくさっき空気弾を撃った時に男が一緒に弾き飛ばしていたのだろう。
この剣の力は切られなくとも、剣に触れただけでも効果を及ぼすらしい。
先程から男が話していたのはこうして自分の意識を剣からそらすためなのだろうと気付き、ドスは歯噛みする。

「やめて……やめてよ……やめろおぉぉぉぉっ!」

ドスの声をあざ笑うかのように、明らかに男の口の直径より大きい1mほどの土砂の塊が発射され、ドスの巣穴に着弾した。
爆音と地響きがあたりを揺るがし、他のゆっくりの巣穴からは悲鳴と土煙が溢れてくる。

「あ、あぁ……」

呆然とするドスの側により、男はドスに触れていたアネイキイを拾い上げる。
その顔は笑みに歪んでいた。口の端を吊り上げた、悪魔のような笑みに。

「調べたよ。あんたの群れは脱出用にあんたの巣穴と他のやつの巣穴が奥のほうで繋がってるんだろ?
 そこであんたの巣穴に大砲でもぶち込んだら、爆風は当然アンタのところからだけじゃない、
 他の奴の所まで届く。今ので何匹死んだ? 10か、20か。
 こうしたのは俺のせいだが、こうなったのはあんたのせいだぜ。
 あんたが俺の群れを襲わなかったら、俺のことを逃がさなかったら。今あいつらが死ぬ事もなかった。
 あんたの詰めの甘さのツケを、今あいつらは払ったんだ」

最もまだまだ払い切れちゃいないがな、と呟き、男はドスから離れていく。

「どこにいくつもり……?」

「生き残りを殺す。言ったろ? 俺と同じにしてやるって。あんたを独りぼっちにして、
 絶望させてから殺してやる。アネイキイは離したからそろそろ動けるだろ? 早くしないと死ぬ奴が増えるぞ」

その瞬間、ドスは突進していた。奪われた体力はまだ戻りきってはいない、が、
自分が守り抜いてきたもの、それを無残に潰されたことによる感情の爆発がドスの身体を突き動かしていた。
男はドスの突進をかわすと、剣を構え哄笑を上げる。

「ははははは! それでいい! 感情のまま向かって来い! 憎しみをぶつけに来い!
 俺と同じになったあんたを殺して、俺は自分自身にケリをつけるんだよ!」




そこからの戦いは壮絶の一言に尽きた。
男が斬りかかればドスはそれを歯で受け止め投げ飛ばし、
ドスが幻覚キノコを散布すれば男は空気弾の風圧で周囲ごと吹き飛ばす。
互いに斬り付け、噛み付き、吹き飛ばし、打ち据え、地面は彼らの餡子と血で染まった。
そして日が天頂に差し掛かった頃、男とドスの動きが止まった。
理由は単純、疲労の蓄積と失血(失餡)が限界に達したのだ。

「流石、齢数十年のドスだけあってタフだな……」

「ごたくはいいよ……もう、おにいさんもどすもうごけないでしょ?
 ……これできめるよ」

ドスはくちをもごもごと動かし、口の中に溜めていたあるキノコを噛み砕く。
するとキノコに含有されている成分とドスの唾液が反応し、まばゆいばかりの光が発生する。
それを見ると男も吸い込みを開始し、周囲の吹き飛んだ土や岩を吸引する。

(これで……終わりだ!)
(これでおわりだよ……!)

男が土塊を吐き出そうとするのと、ドスが熱線を発射しようとした瞬間。ドスの影から小さな影が飛び出した。
土埃にまみれた白い髪に、黒いカチューシャとソレに結びついたリボン。ゆっくりみょんだ。
どうやら巣穴の崩壊から運良く生き残っていたらしい。
口には鋭く尖った木の欠片を咥えており、狙い過たず男へと飛び掛って行った。
ここで一瞬、ドスの思考に迷いが生じる。仲間を撃つ事は出来ない。だが、この男は躊躇なく撃つだろう。
なら、いっそ……

閃光が、そして砲弾が発射される。ドスの熱線は男を逸れ、マントと腕を軽く焦がすに留まった。
結局、土壇場でドスも非情にはなりきれなかったのだ。
自分の死を覚悟した瞬間、自分のこめかみを掠めて男の発射した土塊もドスには命中せず地面にクレーターを穿った。
男がみょんを払いのける。その顔が歪んでいるのは攻撃を外した自分への怒りか。
もっとも、ドスにはそれを判断している暇はなかった。
みょんが作ってくれたこの一瞬の隙を逃すまいと、ドスはボロボロの身体に鞭打って突進する。
男は剣で反撃しようとするが、一瞬遅かった。ドスの巨体が男にめり込み、撥ね飛ばす。
そのまま男はダンプに撥ねられたように吹っ飛び、地面に身体を打ち据えて動かなくなった。

「やった……の……?」

決着を見て、生き残ったゆっくり達がドスの元へと集まってくる。
それに気付き、ドスはみんなに向けて優しく笑いかけた。


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最終更新:2009年04月16日 05:36
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