ゆ虐の隙間10 人格を持った喋るユギャックソード、アネイキイとタオマーの夫婦剣を持つ鬼意山とゆっくりるーみあの冒険(後編)

前編より




男が気がついた時、男は和室に寝かされていた。
おかしい、今まで自分は南米の奥の奥の野生ゆっくりの群れにいたはずだ。
そしてかつて自分がいた群れを滅ぼしたドスまりさ相手に戦いを挑み、ドスの体当たりを受けて気絶して、
目が覚めたらここにいた。

「ここはどこだ……? 見たところ屋敷みたいだが……タオマー、アネイキイ、何か分かるか」

そう言って、今自分が丸腰だという事に気づく。ドスの熱線で焼けたはずの腕も傷一つ無く、
髪と剣を隠すために纏っていたマントもマスクもなくなっている。
布団から這い出て周囲を見回すも、一級品であろう調度品の他は何も無い。
日が差し込む障子を開け放つと、そこには見事な日本庭園が広がっている。
暖かな日差しに柔らかい風、どう見ても南米の気候ではない。
男の知り合いにもこのような屋敷を持っている者はいないはずだ。

「……どういうことだ?」

明らかに不可解な状況に頭を捻っていると、足元で「ちーんぽ!」と声がした。
見てみれば、1匹のみょん。なんだか人魂が横に浮いている。みょん種に稀に付属している「はんれい」とも違うようだ。

「でぃーっく! でかまらっ!」

本来みょんの言葉は人間には理解不能だが、ゆっくりと人間のハーフであり、
生まれたときからゆっくりと共に過ごしみょん種を師に持つ男はその言わんとするところを理解した。

「『ようやく気がついたんだね』、か。なあみょん、何で俺はここにいるんだ? 俺は南米…って言ってもわからんか。
 ここじゃないところにいたはずなんだが……」

「ほうけい……ちーんぽ、いんけい」

どうやらみょんは知らないらしい。この屋敷の主人から「友達からの預かり物だから丁重にね?」と
男の世話を仰せ付かったそうな。

「そうか……その主人の友達ってのが俺をここに放り込んだ張本人、って訳か」

その人物に会わないとな……と考えていると、みょんが不思議そうに自分を見上げている。
男の姿が気になるらしい。みょん種はゆゆこ種と繋がりの深いゆっくりでもあり、
ゆゆこのハーフである男にも心惹かれるものが有るようだ。

「ああ……この髪、気になるか? ゆゆこみたいだろ」

「ちーんぽ!」

「実は半分当たりなんだよ。俺はゆゆこと人間の間に産まれた子供だからな」

男はそう語りながらも、内心で密かに驚いていた。何故自分は見ず知らずのゆっくりに自分の最大の秘密を教えているのだろうか?
男自身、自然に口を突いてしまったので詳しい理由は良く分からない。が、
目の前のみょんからは今は亡き母親のゆゆこと同じような空気を感じたような気がした。
ふとみょんを見ると、みょんはとても驚いた顔をしていた。

「信じられないだろ? ゆっくりと人間の子供だなんてよ。驚くのも無理はねえ」

「ひにんっ! ちーんぽ、まら、でかちんっ」

「……マジか」

みょんが言うには、自分もかつて人間と愛し合い、子を設けたゆっくりなのだそうだ。
もっとも自分は生まれたのを見届けた直後死んでしまったのでその子が無事育っているのかは分からず、
それだけが気がかりだとみょんは語る。

「お前に死んだお袋と同じ空気を感じたのも、そのせいなのかもな。
 ……しかし、お前が死んだゆっくりだとするならここはあの世なのか……
 まあ、悔いはねぇわな。ドスに復讐はほぼ果たしたし」

その言葉が聞こえたのか、みょんが何やら激しく反応した。
男の話に聞き覚えがあるらしい。加えて言うなら、男の事、正確に言うなら、
男と同じゆゆこと人間の間に生まれた子供の事も。

「でぃっく! ぺにーす! ごりっぱさま!」

「『そういう話をここにいるゆゆこから聞いた』……? 本当なのかそれ!?」

「びっぐまらぺにす! かわかむりー!」

案内するから着いて来い、と言ってみょんが駆け出した。男もそれを追って走り出す。
移動し始めてはじめて気づくが、この屋敷はとても広い。
休憩を挟みつつ30分ほど走り通して、ようやく目的地らしい屋敷の一角に到着した。
そこでは1匹のゆゆこを中心に、ちるの、れてぃ、ありす、ちぇん、るなさ、めるらん、りりか、そしてみょんがいた。
男はその構成に見覚えがある。10数年前に失われた、男の育った群れと全く同じ構成だったのだ。
唯一違うといえば、全員の傍らに足元のみょんと同様の人魂が浮いている事か。
自らを襲う既視感に男が思わず足を止めていると、自分を案内したみょんではないみょんがこちらに気付き、驚きの声を上げた。
こちらのみょんは人魂の他に半透明な謎の塊「はんれい」を引き連れている。

「みょん!? あのかみがたとめのいろはまさかぼっちゃんみょん!?」

みょんの言葉に他のゆっくり達もざわざわと騒ぎ出す。なお、今みょんは普通に喋っているが、
みょんの中でも「はんれい」が付属しているものは「ようむ種」とも呼ばれ、通常のみょん種とは区別されている。

「坊ちゃん、って……お前、まさか師匠なのか!? ってことは、こいにるゆっくりは……」

改めて男は周囲を見回す。ちるのも、れてぃも、るなさも、間違いなく幼い頃共に遊んだ3匹だ。
ようむの頬に走る傷にも見覚えがある。稽古をしていた時、初めて一発入れられたときの傷だ。
そして何より……

「ずいぶんおおきくなったわねぇ……でも、なかみのほうはあんまりかわってなさそうね?」

ゆっくりたちの中心にいるゆゆこは見間違えようがない。
10数年前ドスの襲撃から自分を逃がし、そして死んだ母親のゆゆこだ。

「お袋……なのか?」

「ええ、あなたのおかあさんよ。げんきしてた?」

ゆゆこは暢気に笑っている。男が何を言っていいものかと硬直していると、
とりあえず座るようにと促され縁側に座り込む。ゆゆこはその隣まで跳ねていき、ポツリと呟いた。

「……ぶじでよかったわ。ようむは、しっかりあなたをまもってくれたのね」

「……ああ。命を懸けて守ってくれたよ。でもさ、ここってあの世なんだろ?
 せっかく守ってくれたのに、無駄にしちまったな」

自嘲気味に苦笑する男。だが、ゆゆこは男にすりすりと身体をこすり付けると、いいのよ、と言って男を見上げる。

「いいのよ、そんなことは。それより、きかせてくれない?
 あれから、あなたがなにをしていたのか」

ああ、と頷いて男は答えようとするが、母親に誇れるような事は何一つしていない事に気づいた。
養父に引き取られてからは最低限学校に通ってはいたが、寝ても覚めても復讐の事ばかりを考えていた。
高校卒業の際の進路も、対ゆっくり、特にドスに対する戦い方を学びたいという理由でゆっくりハンターを選び、
自分の能力とアネイキイ・タオマーのみを使い今まで戦い抜いてきた。
そしてあのドスに戦いを挑み、今ここにいる。

「何も、お袋に誇れるような事はしてねぇよ。ずっとずっと、復讐の事ばっかり考えてた。
 そんで、お袋たちを殺したドスに復讐しに行って……このザマだ。
 まったく、何やってたんだかなぁ……」

男の話を聞いたゆゆこは少し考えてから、そう、と一言呟き、語り始めた。

「わたしはね、あなたがふくしゅうにいきたことについておこったりはしないわ。
 だって、それだけわたしたちのことがすきだったんでしょう?
 たしかにほうほうはほめられたことではないけど、そこまでおもわれるというのもけっこういいきぶんよね?」

「けど……」

「でも、いまのあなたはもうここにいる。ここはいいところよ、いろんなひとやゆっくりがいるし、
 ひろいし、ごはんもおいしいし。じょうぶつするひつようはないから、のぞむならずっとゆっくりできるわ、きっとね。
 ……ゆっくり、していってね?」

男は視線を逸らし、顔を背ける。しかしその肩が震えているのを見てゆゆこは全てを察し、にっこりと微笑んで頬を擦りつけた。
板の上を人が歩く音が聞こえたのは、そんな時だ。
男がそちらを向くと、桜色の髪をした女性……ゆゆこを人間にしたような人物がいた。
例に漏れずこの女性の周囲にも人魂が浮かんでいるので、この女性もまた死者なのだろう。
もっとも、ゆゆこを人間にしたのではなく、ゆゆこがこの女性に似ていると言うのが正解なのだが、
男には分かろうはずもない。

「ゆゆこ、親子のお話は終わったかしら?」

「あら、おじょうさま。つもるはなしはたくさんあるけど、とりあえずおじょうさまのおはなしからさきにするといいわ」

「そう。じゃあ、そこの男の子。あなた、死んでないわよ?」

「へ?」

「お嬢様」の発言に、場の空気が固まる。ゆゆこが息子をよく見ると、確かに死者ならばあるであろう人魂がない。
理由は分からないが、確かに生身の人間のようだ。

「じゃあ……なんで俺はここに? ここはあの世なんだろ?」

「ここは冥界、本来死者以外は立ち入れない場所なんだけど……まあ、少し前に私の知り合いが
 顕界……生者の世界のことね。そこと冥界の境を薄くしちゃったもんだから、今は生きてる人でも
 こっちに来れちゃうの。あなたの事といい、まったく紫にも困ったもんだわ」

あっけにとられる男達を尻目に、「お嬢様」はなおも言葉を続ける。

「土産もなしに来たと思ったら『この子に手当てしてゆっくりゆゆこに会わせてあげて』だなんて……
 不躾にも程があると思わない?」

「あー……ちょっと待った。少し状況を整理したい。質問しても良いか」

このままでは延々愚痴を聞かされかねないと思ったのか、男はお嬢様に声をかける。

「まず1つ。何で俺がここに居るのか。次に、なんで俺達が親子だと知っているのか。
 最後に、あんたは一体何者だ」

「その質問に、は私が答えましょう」

その声とともに、お嬢様の横の空間が裂け、ナイトキャップのような帽子に対極図をあしらった衣装を身に纏った女性が現れる。
女性はそのまま裂け目に腰掛け、怪しげな笑みを浮かべてこちらを見つめている。

「……誰だ、あんたは」

「さっきの話に出てきた八雲紫、と申しますわ。そしてこっちが西行寺幽々子。この白玉楼の主で、私の友人よ。
 それで、貴方の質問だけど。本当に聞きたい? 多分、凄い怒ると思うわ」

女性……紫は笑みを崩さずに男をじっと見つめる。
その目はあのドスとは違う底知れない輝きに満ちており、思わず気圧されそうになる。
が、男はあえてにらみ返し、肯定した。

「結構。3番目の質問はもう答えたからあと2つね。まず1つ目、貴方がここに居る理由だけれど……
 私が連れてきたのよ。あなたにはまだ死なれてもらっては困るもの。
 方法は今私が出てきた様にこれを使って貴方のいたところとここを繋いだの」

ここまでいいかしら? と紫は呼びかけ、話を続ける。

「そして2つ目、何故貴方達が親子かと知っているのか。これは私が幽々子に教えたのよ。
 何で知ってるかと言うと……私があなたが生まれるきっかけを作ったからなのよね」

「何だと……!?」

思わず立ち上がりかける男を紫は制し、表情を変える。
先程までの怪しい笑みではない、感情と言うものを排除した、冷たい顔に。

「まず最初に言っておくと、私は人間じゃないわ。幻想郷と呼ばれる世界に住んでいる、妖怪と言う生き物。
 ……それで、本題に戻りましょうか。私はかねてから「ゆっくり」と言う存在が気になっていたのよ。
 恐らく妖怪の一種なのでしょうね。 その外見は力ある存在の顔を模し、個体によってはすさまじい力を持っているわ。
 そう、あなたの母親であるゆゆこのように」

ゆゆこを指差しながら紫は地面に降り立ち、男達の方へ歩み寄っていく。

「ゆっくりがいつ現れだしたのは誰も知らない。幻想郷にも、外の世界にも、
 境界など全く関係なく存在している彼女達を調べようと思うのも自然な流れよね。
  そんな事をしている内に、人とゆっくりの間には面白い存在が現れだしたわ」

「ゆっくりと人間のハーフ、か。俺のような」

「ええ。広義の意味では貴方達も私達妖怪に近い存在ね。ともかく、その存在にはいたく興味を引かれたわ。
 貴方達は両者の弱点を概ね克服できている。でも、異端と蔑まれ死を迎えるものがほとんどだった。
 だから私は知りたかった。彼等が生き抜いた先に、人とゆっくりの間に生まれた彼らはどういった選択をするのか。
 貴方に死んでもらっては困るというのも、そういうこと」

男はそれを黙って聞いていた。ゆゆこやみょん、ようむは紫の実力を知っているだけに、
男が切れて殴りかかりはしないかと気が気ではなかった。
が、男は一つ溜息をつくと、ゆゆこを抱き上げて膝の上に置いた。

「大体分かった。つまり、あんたはずっと俺や、俺のような奴を観察してたんだな?
 それこそ、人間が野生のゆっくりを観察するように」

紫はええ、と一つ頷く。

「まあ癪に障らないでもないが、どうでもいいさ。そのあんたのお陰で俺は命を拾って、
 今こうしてお袋とも会えた。感謝しなきゃならんくらいだ」

ゆゆこの髪を梳きながら、男は俯いて独り言のように語る。

「正直、復讐なんてしても仕方ない、ってのはとっくに分かってたんだよ。
 叔父貴……俺を拾ったオッサンだけどよ、叔父貴にも命を大事にしろ、っても言われた。
 でも、俺は怖かった。あのドスを憎む事をやめて、人間としての生活に溶け込んじまったら、
 お袋達と俺を繋ぐもんは何もなくなっちまう。そう思うと、やめられなかった。
 でもさ、さっきお袋と話して実感したよ。復讐なんてくだらねぇ、ってさ。
 俺、お袋が死んで今まで十数年生きてきて、1つもお袋に誇れる事、してねぇんだよ……」

男の俯いた顔から、ぽたりぽたりと水滴がゆゆこに落ちる。
しかし、紫はその言葉を否定する。

「いいえ、少なくとも私が見ていた中で、あなたは復讐以外のことを2つしているわね。
 まず1つは、ゆっくりるーみあを1匹救い、今もパートナーとして連れている事。
 もう1つは、ある少女と交流をしている事。この2つは、復讐のための行動ではないでしょう?」

言われて見るとそうだ。復讐に生きてきたこの十数年の中で、
あの少女と出会い交流したこと、るーみあを助けた事だけは復讐する為の行動ではなかった。

「その2つがあるというだけで、貴方が復讐のみに生きてきたということは否定されるわ。
 これから貴方がすべきことは、復讐ではない。貴方の母に誇れるような経験を積み重ねる事ではないかしら?」

「……そうかもな」

「それなら長居は無用ね。これから貴方を元いた世界に送り返すけれど……
 その前に、少しだけお別れの時間をあげるわ。一度戻ったら死ぬまでは来れないだろうし」

そう言われ、男はゆゆこを抱えたまま群れの皆や案内役のみょんの方に向き直る。

「……皆、色々心配かけたとは思うけど……多分、もう大丈夫だ。
 戻ったら、お袋達に誇れるような事を沢山してくる。
 だから、もし俺が死んでここに戻ってきたら……一緒に、ゆっくりしてくれよ」

「もちろんみょん! ゆゆこさまやみんなといっしょに、ぼっちゃんのおかえりをおまちしているみょん!」

ようむが飛び跳ねながら言う。他のみんなも同じ気持ちなのか、うんうんと頷いていた。
すると、横からみょんが男のほうに跳ねて来る。

「まらまら、ちんぽ、ほうけーい。みしゃぐじ、いんけいっ」

みょんが言うには、もし向こうで娘に会う事があったら仲良くしてあげて欲しい、のだそうだ。
深く頷いてみょんを撫でると、男はゆゆこを降ろし、紫の方に向き直りながら片手を上げた。

「それじゃ、行ってくる」

「「「「「ゆっくりがんばってね!」」」」」

多くのゆっくりの声援を背に受けながら、男は紫が空けた空間の裂け目に飛び込んだ。
そして、意識が暗転する。






意識が戻る。男の視界に移ったのは、テントの天井。
ドスの群れを襲撃する際に設置したキャンプで男は目を覚ました。テントの外に出てみると、
消えかかった焚き火の前にはアネイキイとタオマーが刺さっており、その前でるーみあがうつらうつらと舟をこいでいた。
軽く蹴転がすと目を覚まし、男の姿を確認すると共に飛びついてきた。

「かえってきたのだー! おかえりなのだー!」

『三日も何をしていたんだお前は。全くいつもの事ながら勝手な奴だな』

『そーだそーだー! あ、るーみあはしっかり私が慰めておいたから安心してね!』

男はるーみあをテントに投げ込み、アネイキイを燻る炭火の中に放り込むと、タオマーを抜いて座り込む。
『あついあついあつい!』と叫ぶアネイキイをスルーし、ふう、と一つ溜息をついた。

「ちょっとあの世に行ってきた。三日も経ってたとは驚いたが……お前達こそよく無事だったな」

『ドスがここまで届けてくれたのだ。他のゆっくりにも手出しをしないように言いつけていた。お陰で助かったがな』

「……そうか」

男は瞑目し、思案に耽る。経緯はどうあれ、ドスの群れにとって男は仲間を殺した悪魔だ。
正直るーみあたちが無事で居られた理由が分からない。
そして男にとってもドスの群れにどう相対するかは重要な問題だ。
暫く考え込んだ後、男は立ち上がってタオマーを再び地面に突き刺した。

『……行くのか』

「ああ。何するにしろ、一応けじめはつけに行かなきゃならんしな。
 るーみあは頼むわ、ついてこられると話がややこしくなる」

『動けない俺に期待はするなよ、一応待つようには言っておくが』

男はそれには何も言わず、ただ片手を軽く振って答えるとその場を後にした。






そして、ドスの群れ。三日前にドスと男が死闘を繰り広げた場所で、ドスと男は対峙していた。
男は何も言わず、ドスの目の前まで歩いていくと座り込み、ドスの小山のような巨体を見上げる。

「……さて、ドス。あんたは俺をどうしたい? あんたの群れに甚大な被害を与えた俺を、
 あんたはどうしたい?」

その言葉に、ドスは身体を左右に軽く揺らす。

「どうもしないよ。どすはまえにいったよ、ふくしゅうはなにもうまないって。
 だから、どすはおにいさんをどうにかするきはないよ。むれのみんなも、わかってくれたよ」

「何故だ? あんたは怒るべきだ。俺に落とし前を付けさせるべきだ。なのに、なぜ何もしない?」

「だって、そうしたってしんだみんなはもどってこないよ。うしろをむいていては、まえにはすすめない。
 そういうことだよ、おにいさん」

そして、ドスは語り始める。自分はかつて紫の住んでいた『幻想郷』にいたゆっくりで、
かつては男のように群れをれみりゃの群れに滅ぼされ、復讐に燃え生きてきたゆっくりである事。
そして群れを滅ぼした後に何も残らず死を選ぼうとしたところに紫と出会い、諭され、
復讐ではなく、ゆっくりするために、ゆっくりさせるために生きることを決めたのだと言う。

「そして、やくもさまのちからでげんそうきょうからこっちのせかいにつれてこられて、
 どすにまでなることができた。だからわかるんだよ。ふくしゅうなんて、ゆっくりできないことだって。
 でも、ひにくだよね。みんなをゆっくりさせたいとおもってるのに、
 そのせいでおにいさんみたいなひとをふやしてしまった。あのころはどすもわかかったから、
 ゆっくりできない、だからたおさなければいけない、そんなきもちばっかりがさきばしっちゃったんだ。
 そのせいでこのあいだみたいなかたちでつけをはらわなくちゃなくなったわけだけど。
 なんのなぐさめにもならないけど、いまはもうそういうことはするきはないよ。
 ふくしゅうはなにもうまないし、にくんだりすることもまた、なにもうみだせないんだから」

「……そうか、そうだよなぁ……」

男は軽く溜息をつき、冥界で母親や紫たちと話したことを思い出す。
紫が自分を冥界へと運んだ理由は本人からは聞けなかった。
だが、今のドスとのやり取りでなんとなくだが理解した。
紫は自分に死なれては困ると言った。ドスは復讐の後何も残らなかったと言った。
確かに、自分もかつてのドスと同じ道を行っていたのだろう。
ならば、その先には何も残せるものは無いと考えるのは容易な事だ。
紫は恐らく自分に生きる気力を与えようとしたのだろう。
それが善意から出たことなのかは分からない。恐らくは観察対象に死なれては困る、そんなレベルの話だろう。
男が思案にふけっていると、今度はドスの方から語りかけてきた。

「……あ、おにいさん。さいごにひとつだけきかせてほしいよ。
 さいごのあのとき、おにいさんはみょんごとどすをきることができたよ。
 どうしてあのとき、いっしゅんてをとめたの?」

ドスのその問いに、男は少し考え込み、口を開いた。

「なんとなくさ。師匠だったみょんのことを思い出した。そのせいであんたに止めを刺し損ねた。
 ったく、俺もまだまだ甘かった、ってことかね」

「そっか。じゃあ、おにいさんのそのあまさにどすもみょんもたすけられたんだね。ごめんね、ひきとめて。
 おにいさんも、しんだどすのむれのみんなやおにいさんのむれのみんなのぶんまで、ゆっくりいきていってね」

「そいつはまた、ハードな事だな」

苦笑すると男は立ち上がり、そのまま群れを後にする。
ドスは男の姿が見えなくなるまでその後姿を見送ると、一つ大きなあくびをして眠りについた。







男がキャンプに戻ってくると、焚き火の前に1人の女性が佇んでいた。
ナイトキャップのような帽子に、太極図をあしらった衣装を身に纏った女性、八雲紫だ。
すうすうと寝息を立てるるーみあを膝に乗せ、こちらに向けて怪しげな笑みを浮かべている。

「あら、ごきげんよう。お話は終わったかしら?」

「まあな。で、今度は何の用だ」

「つれないのね。貴方をスカウトしようと思ってたのに」

「スカウト?」

「こっちの世界での顔としてゆっくり関連の事業をやっているのだけどね、ウチ専属のハンターとして働かない?
 こっちとしては行動が把握しやすくなるし、あなたにとっても企業のサポートを受けられるというメリットもある。
 どうせ普通の医師にはかかれないでしょ? そういう面でもいい提案だと思うのだけど」

確かに、ゆっくりと人間のハーフという身では普通の医師にはかかりづらい。
幸い小麦粉とオレンジジュースで大体の負傷が治るが、生兵法にも限界はあるだろう。
悪い提案ではないと判断した。

「良かった、そういうと思って実はもう手続き済ませちゃってたのよ♪」

「この野郎」





そして、日本。あれから少し時間が経ち、男が寝転がっていた公園の桜も満開で、
落ちた花びら、まだ木に残っている花びらで公園は桜色一色に染まっている。
男とるーみあはそんな中で相変わらず昼寝をしていた。某かの心境の変化があったのか、マントやマスクはつけておらず、
男の桜色の髪がそこに桜の枝があるように見えている。
そこに近づいてくる人影が一つ。白い長髪にセーラー服を着た、あの少女だ。
男は少女の気配に気付くと薄目を開け、欠伸をしながら体を起こす。

「……よう、久しぶりだな」

「お早うございます。お知り合いには会えたんですか?」

「まあな。それよりお前、今腹は減ってるか」

突然の質問に少女の頭にハテナマークが浮かぶ。男は大儀そうに立ち上がると、首を鳴らして少女の横を通り過ぎる。
少し行ったところで振り返り、少女にも着いて来るように促した。

「たまには飯でもおごってやろうってことだ。来ないなら置いてくぞ」

「あ、ちょっと待ってくださいよ!」

「ごはんなのかー!」

少女は慌てて後を追いかけ、いつの間にか転がり落ちていたるーみあがそれを追う。
男は後に紫にハメられてまた南米へと足を運ぶ事になるのだが、それはまた別のお話。












――――――――――
  • あとがき
そんなわけで大分前に貰ったお題をようやくこなしました。
最初は北斗の拳みたいな世界で両親を殺したドゲスをあべしするSSだったのですが、
何がどうなったのかハーフSSに。
ハーフ登場・東方キャラ登場・超設定・お兄さん無双・他作者のオリキャラと絡む、などなど。
ほんと地雷原ってレベルじゃねーぞ!なシロモノになってしまいました。
続くかどうかは気分次第ですが、まあ書きたいなとは思っていたり。

これを書くに当たり、ゆっくりボールマン氏のSS、
「とあるHumyonの憂鬱」「巨大ゆっくりの饗宴」よりキャラや設定をお借りしてます。


by sakuya





以下キャラ解説・裏話とか。読みたくないなら窓を閉じる事を推奨







ゆゆこと人間のハーフ。
能力は凄い吸い込みと吐き出し、及びそれに付随する爆発的な肺活量。
空気を吸い込んだ状態だとふわふわ浮かんだりも出来ます。テラカービィ。
マントとマスクをつけているのは北斗風な世界だったときの名残。
加工所産のシロモノでゆっくりの能力を封印・無効化する力があるとか無いとか言う設定だったけど、
紆余曲折の末ただのマントに。
別に剣にこだわらせる必要はなかったんですが御題が御題なのでやむなくこんな感じに。
一応理由とかも考えてはあるんですが。

  • アネイキイ&タオマー
モトネタは言わずと知れたあの2人。ほんとアツアツだよね。
これの設定も地味に紆余曲折してました。最初はメカメカしい剣だったりもした。
書いてるうちにエンザさんのゆんギャックソードとネタが被って凄い焦った。
アネイキイの扱いが悪い? そりゃああねきィだもん。

  • るーみあ
主要キャラは大体設定紆余曲折したけどこれもその1匹。
一時はキバットみたいに男を噛んで変身させる能力がついてた。でも今は単なるマスコット。
そーなのかー。

  • ドスまりさ
あとがきでもいってますが、当初は単なるドゲスだった。
でもその後砂越氏のブログでオリジナルドスを見て「これ出そう!」と思い方向修正。
オーラがなかったりスパークに名前が無かったりするのはその影響です。

  • 母ゆゆこ
これはあんまり変わらなかった。最初は突然変異で無限の食欲がなくなってる、と言う設定だったけど
説明に行を割く必要性を感じずただのゆゆこに。大きさは普通の成体ゆっくりよりちょっと大きいくらい。

  • 母みょん
「とあるHumyonの憂鬱」、のみょんハーフのお母さん。
冥界に行くという場面でふと思いつき急遽登場。
娘と仲良くしてくれと言ったものの既に娘と交流していることは男も母みょんもしりません。
知るはゆかりんばかりなり。

  • 少女
「とあるHumyonの憂鬱」の主人公。男がゆゆこハーフとなった時点で「出したい!」と思い
ボールマン氏に話したところGOサインが出たので出演。
この子ついては語れる事は無いです。俺のキャラじゃないし。

  • ゆかりん&ゆゆ様
言わずと知れた東方原作キャラ。ゆゆ様は冥界だから~という理由で出演。そんだけ。妖夢でもよかったかも。
ゆかりんは「巨大ゆっくりの饗宴」仕様。ゆゆこハーフをお抱えハンターにさせてみたりとか
色々やりたい放題。ファンの人とボールマン氏に五体倒置で謝罪の意を表したい。

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最終更新:2009年04月16日 05:38
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