季節は始まりの春。
進学や就職などで多くの人々が新たな人生の一歩を踏み出す。
それと同時に、今までよりもずっと厳しい世界の洗礼を受ける季節でもある。
「先輩、今開発しているこの薬は・・・?」
「ゆっくりカンパニーから依頼されたゆっくりだけに効果のある薬」
先輩と呼ばれた白衣の男は彼女の後ろを付いてくるメガネをかけた若い女性の問いにぶっきらぼうに答えた。
女性はその答えに対して不満があるらしく「そうじゃなくて・・・」と更に彼を問いつめる。
「ゆっくりにどう言う効果をもたらす薬ですか、って訊いてるんです」
「ひとつは死ぬ、もうひとつは植物型のにんっしんっが出来なくなる」
「そ、そんなぁ・・・かわいそうですよ、それ」
露骨に顔をしかめた女性を一瞥した先輩はふぅ、とため息をつく。
そのため息には彼女の言葉に対する同意とゆっくりへの同情と、仕方ないんだよ、という諦めが混じっていた。
しかし、後輩の女性はそれに気づくことなく彼に食ってかかった。
「先輩、私達はゆっくりんピース職員ですよ?なのに・・・」
「NPO法人だって所詮資本主義の内側の存在なんだよ」
「それって、お金のためってことですか!?」
後輩に睨み付けられた男性はまたため息をついてから、再び口を開いた。
「今のゆっくり関係の社会問題をいくつか挙げてみろ?」
「はい?・・・ええっと、捨てゆっくりに野良ゆっくり、農村での作物被害に・・・」
「ゆっくりの死体が原因の事故、他の動物を圧迫、あとあまり一般的じゃないが虐待だな」
男性が虐待、という言葉を口にしたと彼は顔を背け、女性は眉をひそめた。
どちらもゆっくりんピースに所属していることから判るように基本的にはゆっくり好きである。
その2人にとって
ゆっくり虐待は想像するだけで背筋の凍りつくような蛮行に他ならない。
「ちなみにこの虐待って言うのには手術や殺処分、動物実験の類も含まれるからな」
「ちょっと待ってください!だったら・・・」
女性は思わず叫んでしまった。
鬱陶しそうな周囲の視線に気づいて声を潜めて話を続ける。
が、そこから先の言葉を口にすることが出来ない。
「そうだ、動物実験だよ。ゆっくり関係の新薬開発には不可欠のな」
女性が言えなかったその言葉を、男性はこともなげに告げた。
絶句する女性を一瞥すると、まるで何事もなかったかのように仕事場へと戻って行く。
実験と称した虐待を行うための部屋に。
「薬の効果はどうだ?」
「萌芽抑制剤の効果を今から確認するところです」
「どのぐらい投与した?」
「ごく微量です」
微量の意図するところは主任もご存知でしょう、と受け答えしていた若い男性は付け加える。
彼はゆっくり愛好家ではないらしく、先ほどの女性のようにこの団体の建前と実態の矛盾に疑問を抱く様子はない。
本当にただ淡々と、ゆっくりを実験動物として冷めた目で見ていた。
「れいむ、す~りす~りするよ!」
「ゆゆっ!れいむ、ゆっくりしたあかちゃんがほしいよ!」
彼らの視線の先では2匹のゆっくりが最高に幸せそうな笑みを浮かべて頬ずりをしている。
一般にすっきりと呼ばれるゆっくり同士の交尾であり、これによって彼女達は子どもを増やす。
複数の人間に見守られながら交尾を続ける2匹は、やがて「すっきりー!」という言葉を発し、交尾を終えた。
「れいむ、とってもゆっくりしてたよ!」
「まりさのほっぺもとってもゆっくりしてたよ!」
「ゆぅ~ん、てれるよ!・・・・・・ゆぅ?」
お互いがお互いを褒め合いながら絆を深める2匹だったが、程なくしてある違和感に気づいた。
本来ならすぐに生えてくるはずの赤ゆっくりが生る茎が生えてこないのだ。
新薬が効果を発揮したことで研究者達はほっと安堵するその中心で2匹はおろおろとしている。
「ゆぅ・・・どうしてぇぇ?」
「ゆっくりわからないよ・・・」
「ゆゆっ!そうだよ、もういちどすりすりしようね!」
こうして2匹は再び頬を重ねたが、結局にんっしんっすることは叶わなかった。
彼女達が行おうとした妊娠は俗に「植物型」と呼ばれるもので、本来なら交尾後すぐに生えてくる茎に子どもを宿す。
他にも「胎生型」と呼ばれる妊娠も存在するが、こちらはかなり成熟した個体でないと出来ないらしく2匹にはまだ早かった。
「・・・やっぱり、可哀想ですよ」
「今のゆっくりの去勢や不妊手術のやり方って知ってるか?」
「知ってます。だからこれ以上何も言いません」
いつの間にか仕事場に戻って来ていた後輩の女性とそんなやり取りをしながら男性は2匹を回収した。
彼に抱かれた2匹は「どうぢでぇ・・・」などとぐずっていたが、女性からお菓子をもらって少しだけ元気になった。
ちなみに現在の不妊や去勢の手術はゆっくりの胴体に大きな穴を開ける上に、修復に子ゆっくりを1匹使い捨てにする必要がある。
「ところで、先輩。あの2匹はこの実験が終わったらどうなるんですか?」
「あの2匹は継続的な効果を見るための個体だから、胎生型への影響の有無、副作用の有無、薬の成分の残存なんかを調べて・・・」
「それが全部終わったら?」
「多分、無事なら持ち帰ってもいいと思うぞ」
その言葉に女性は少し安堵したらしく、ほっと胸をなでおろしす。
そんな彼女を眺めながら、男性は何となく今日の実験がゆっくり殺処分用の薬品の実験のほうじゃなくてよかった、と思った。
ついでに胎生で生まれた子どもが当然研究対象になるかも知れないことや両親から隔離されるかもしれない事は黙っておいた。
季節は灼熱の太陽が照りつける季節、夏。
冗談のような話ではあるが、エアコン代の影響で捨てゆっくりが増加する季節でもある。
「あ、バッジ付きだ」
作業服を着たゆっくりんピースの職員の男性は野良の中にただ1匹バッジを付けたゆっくりがいることに気づいた。
そのゆっくりはゆっくりありすで、彼女の周りには野良と思しき数匹のゆっくりが集まっている。
「ちょっとごめんよ・・・っと」
彼はその数匹のゆっくりを押しのけつつありすのそばまで行くと、懐から妙な機械を取り出す。
その機械をありすのバッジに当てると、そこから何らかの情報を読み取り、機械の画面に様々なデータが表示された。
更に携帯電話にその機械をつないで「更新」のボタンを押すと、画面に転居済みという文字が大きく表示された。
「捜索願いの届け出はなし。この辺にゆっくりと遊べる場所はないし、前の住所からの距離も遠い・・・」
「ゆゆっ、おにーさんなあに?」
「いや、何でもないよ。ただ、君が飼い主のお姉さんと会えるようにしてあげようと思ってね」
瞬間、ありすの顔に笑顔が浮かんだ。
人間には到底まねできないであろう余計な感情の一存在しない純粋な喜び。
それを見せられてしまった男性の心中には飼い主の無責任に対する深い憤りが生じた。
「ああ、お姉さんもきっと心配しているよ」
「ゆーっ!おにーさん、ゆっくりありがとう!」
しかし、彼はそんな内心を隠して柔和な笑みを浮かべると、薄汚れてしまったありすを抱きかかえた。
直後、足に何かがぶつかる感触を覚え、下を向くとありすの周りにいたゆっくりが膨れて威嚇をしている。
「「「ゆゆっ!ありすはみんなのおともだちだよ!つれてかないでね!」」」
どうやら、ありすを帰したくないらしい。
彼女達を見てため息をついた男性だが、特に何をするわでもなくポケットからゆっくりフードを取り出し、ばら撒いた。
すると薄情というかなんと言うか、ゆっくり達はありすをそっちのけでフードに夢中になる。
「さあ、ありす行こうか?」
「ゆっくりりかいしたわ!みんな、いままでゆっくりありがとう!」
微笑むありすを抱えて、男性は保健所へと向かった。
「さあ、ありす。ここでちょっとの間待っていればお姉さんが迎えに来るよ」
「ゆっくりりかいしたわ!おにーさん、ゆっくりしていってね!」
「あ、ああ・・・ゆっくりしていってね。と言いたいところだけど、仕事があるからまたな」
そう言うと男性は足早に保健所を後にし、先ほどゆっくり達がいた場所に戻って行った。
目的はもちろん先ほどのゆっくり達。
もっとも、いまさら戻って彼女達が見つかるはずもなく、集団はすでに解散していた。
「仕方ないか・・・」
呟くと先ほどの機械を取り出し、別の機能を起動させる。
画面の中心が自分の現在地で、周囲にいくつか赤いポイントが存在していた。
この赤いポイントは先ほど撒いたフードを食べたゆっくりの現在位置を示している。
「全員この辺の野良だったか・・・」
これなら早く済みそうだ、と呟きながら機械の画面の情報を頼りにゆっくりの居場所を特定する。
最初に見つけたれいむは家族連れだったらしく、先ほどのフードを家族に分け与えていた。
久しぶりの美味しい食事を底部を怪我したまりさと4匹の子ども達と一緒に涙を零しながら味わっていた。
「っと、のんびり観察してる場合じゃない」
青年はポケットからゆっくり捕獲用の袋を取り出すとせめてもの情け、と彼女達が食事を終えるのを待つ。
「ゆっくりごちそうさま!」
やがて、彼女達が食事を終えると即座に子ゆっくり2匹を捕まえて袋の中に放り込む。
それと同時にこちらの存在に気づき、何か訴えようとする親ゆっくりと残りの子ども達。
しかし、彼はまともに喋る暇さえも与えずに彼女達を捕獲した。
「・・・・・・ごめんな」
袋の中で何かを叫び続ける彼女達には聞こえない声でそう呟くと、他のゆっくり達の回収へ向かった。
回収されたゆっくりの向かう先も保健所だが、彼女達には飼い主が迎えに来るまでの猶予など存在しない。
季節は実りと収穫の秋。
ゆっくり達が冬に備えて一生懸命野山を駆け回る季節でもある。
「ゆっくり被害にあった作物はこれで全部ですか?」
「はい」
「ゆー害以外の理由で売れない作物も安価になりますが、買い取りましょうか?」
ある山間の農村に赴いた一人の青年が壮年の農家の男性と商談をしていた。
青年はゆっくりんピース職員で、農村部でのゆー害への対策を専門にする人物であった。
主な職務は農家の人たちの相談相手になること。
「本当によろしいんで?」
「ええ、こうやって安価で購入したものをピース運営のゆっくり保護施設に回しますから」
「ああ、なるほど・・・」
男性はその言葉で彼の提案がただの親切心ではないことを理解し、契約のために必要な印鑑を取りに行った。
農夫の彼は気づいていないが、これにはゆっくりとゆっくりんピースに対するイメージの悪化を緩和する意図もある。
ゆっくりの地位向上を目指す以上、それは真っ先に気をつけなければならないことだ。
「それではお代は・・・こんなものでいかがでしょう?」
「もともと売り物にもならんものですから、それで結構です」
「では、商談成立ですね」
そう言って必要な契約や手続きを済ませ、作物を青年は農家の男性の家を後にした。
止めておいた車に乗り込み、ゆー害に遭った農家の場所とゆっくりが目撃された場所の記された地図を眺める。
「・・・・・・ここか」
地図上の情報から短時間でゆっくりが集団で生息しているであろう場所を割り出した青年は車を走らせた。
ゆっくりが人間の生活圏に降りてくる理由はいくつかある。
単純にゆっくりと人間の生活圏が近すぎるから。
人間の食べ物の味を覚えてしまったから。
ゆっくりの生活圏で食料不足が起きたから。
「今回は食料不足だな・・・」
それもゆっくりの集落で人口爆発が起きたことに端を発するタイプの、と心の中で付け加え青年はため息をついた。
彼がそう判断した理由は3つ。
まず、例年よりゆー害の発生件数が目に見えて増えている点。
害をもたらすのが味を覚えたゆっくりだけならばそこまで被害が急増するとは考えられない。
次にある農家が始末したゆっくりの皮の質が悪く、餡子が不必要に甘かった点。
ゆっくりは苦しむことで中身の甘みが増す性質を持つが、農家の男性は一撃で絶命させていたのでそこまで甘くなることはない。
最後に山中でのゆっくりやゆっくりの死体の目撃証言が非常に多い点。
こちらは農家のゆー害よりも更に激増しており、人間の通る道に足を踏み入れてでも食料を探さねばならない状況だと考えられる。
「車を止めるとしたら・・・ここら辺だな」
青年は適当な場所に車から降りると、ゆっくりの集落があるであろう方向をじっと凝視した。
道から見える木々の隙間を縫って、確かに多くのゆっくりが食べ物を探し回っている。
過去の調査でここに集落があったという報告はないが、新しい集落でもできたのだろう。
「ごはんさん、ゆっくりでてきてね!」
「むしさん、ゆっくりおへんじしてよー」
「おなかすいてゆっくりできないよ」
ゆっくりらしからぬ忙しなさで餌を探し求めるゆっくり達。
しかし、成果を上げる前に日が暮れてしまい、遊楽へ引き返さざるを得なくなってしまう。
重い足取りで家路を急ぐ彼女達を、男性は見失わないように、しかし見つからないように追いかけていった。
「やあ、ゆっくりしていってね!」
「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」
「ゆゆっ!にんげんさん、ありすのとかいはなむれになんのよう?」
群れの長と思しきひときわ大きなゆっくりありすのその一言で男性は全てを理解した。
一般にゆっくりありすはすっきりーを好むといわれており、彼女らが長になると集落のすっきり制限が緩くなり、時にはそれが推奨されてしまう。
また、愛するパートナーとのすっきりーを嫌うものなどいるはずもないので、子どもが際限なく増えてしまうのだ。
「そうか、君が長か。君に相談があるんだが良いかな?」
「ゆふん!とかいはなありすがおにーさんのおはなしをきいてあげるわ!」
「率直に言うよ。今度、人間の作物に手をつけたらこの群れ潰すから」
驚愕するゆっくり達はしばし呆然としていたが、やがて男性に向かって抗議し始めた。
どうしてそんなこと言うの、れいむ達何も悪いことしてないよ・・・などなど、ゆっくりから見れば至極真っ当な主張を繰り返す。
が、こちらは人間であり人間に害をなすものはたとえゆっくりであっても黙って放置するわけには行かないのだ。
「ゆっくりしないでかえってね!このいなかもの!」
「そうか、交渉決裂だな」
「「「ゆっくりでてってね!ぷくううううううう!」」」
男性に向かって威嚇するゆっくり達。
どうやらこの中には人間の恐ろしさを正確に把握しているものはいないようだ。
男性はもう何度目になるか分からないため息をつくと、目にも止まらぬ速さでありすを叩き潰した。
「「ゆっ・・・?」」
「お、おさ?」
「「「ゆ、っくりぃ・・・?」」」
ゆっくり達は何が起きたのかさえも理解できず、ただ間抜けな声を上げる。
10秒、20秒と時間が過ぎてゆくが群れで一番大きく、優秀なゆっくりのはずの彼女がたったの一撃で粉砕されたことが信じられないようだ。
1分たってなおも状況を飲み込めないゆっくり達を尻目に、男性は衣服の汚れを払った上で淡々と話し始める。
「俺は君達よりもずっと強い。だから潰されたくなかったら俺の言うことを聞いてくれ?」
「「ゆ、ゆっくりー・・・」」「ま、まりさはありすをゆっくりできな・・・」
「抵抗しても構わないが、他のゆっくりも酷い目に遭うだけだぞ?」
あくまで冷淡に、ただの事務的な事実確認をしているだけと言わんばかりの口調で抵抗の意思を削ぐ。
そうして、全員が恭順の意を示したところで、本題再び口を開いた。
「多分、君達は赤ちゃんが増えすぎてご飯が足りなくて困っているんだろう」
「ゆゆっ!どうしてわかったの!?」
「それは長のありすが“すっきりーはとてもとかいはでゆっくりできるのよ”とか言っていたのが原因だ」
またしても見事に彼が見たこともないはずの群れの内情を指摘され、ゆっくり達は驚く。
「このままだと、君達の赤ちゃんがずっとゆっくりしてしまうし、君達だって非常に危ない」
「ゆゆっ!れいむのおちびちゃん、ずっとゆっくりしちゃうの!?」
「だから明日の朝またここに来るから、その時に俺に子どもを預けてくれないか?」
彼の提案を聞いたゆっくり達は再び驚愕し、しばし悩んだ。
結局、人間の元で茎も含む赤ちゃんがゆっくり出来ることや、交換条件として野菜を提供することを約束するとその提案を快諾した。
勿論、交換した赤ゆっくりが無条件に保護を受けることなどあるはずもなく、良い飼い主に引き取ってもらえるものなどごくわずかに過ぎない。
最悪の場合は、ゆっくり食品の原材料やゆっくり関係の医薬品の実験動物として苦痛に満ちたゆん生を送ることになる。
しかし、ゆっくりんピースの職員達がその事実を漏らさない限り、親達は我が子の幸せを信じてゆっくり出来る。
季節は寒さが全ての生き物を等しく攻め立てる冬。
冬篭りの出来ない都市部のゆっくり達にとっては死の季節でもある。
勿論、飼いゆっくりにとっては何の関係もない話だが・・・。
この季節のゆっくりんピースの主な活動はゆっくりの死体の回収である。
が、それと並行して今年度の活動の総決算や来春に向けての様々な計画の立案が同時に行われていた。
「先輩、家庭に仕事を持ち込むと女の子に嫌われますよ?」
「いつの間にか我が家に上がりこんでる奴が何を言うか」
「ゆゆっ!おにーさん、おしごとしないでゆっくりしようね!」
「そうだよ!まりさたちといっしょにゆっくりしようね!」
「「ゆっくちー!」」
普段は白衣を着ている男性だったが、自宅でパソコンとにらめっこしている今はジャージ姿。
そんな彼の背中越しにメガネをかけた女性がパソコンの画面を覗き込む。
足元では成体のゆっくりれいむとゆっくりまりさ、そして彼女達の子どもと思しき2匹の子ゆっくりがせわしなく跳ね回っている。
「この資料なんですか?」
「えーっと・・・・・・」
女性にそう問われた男性はそれぞれの資料を弄りながら彼女に説明する。
これは回収した野良や野生のゆっくりの処分方法をまとめたリスト、これは保健所に提供したゆっくり安楽死用の薬品に関する資料。
これは有力な資金提供企業のゆっくりカンパニーから受け取ったゆっくり関係の医薬品に関するデータ・・・
「・・・どうすればこんな発想が出てくるんでしょうかね?」
「ここから流される医薬品のデータはいつもこうなんだよ。人外じみた天才がいるとしか考えようが無い」
「これなんかノーベル賞ものですよ」
そのデータがなければあと30年は開発されないであろう医薬品の情報を眺めながら2人は唸る。
ちなみにゆっくりカンパニーというのはゆっくり関連のビジネスにおいて圧倒的なシェアを占める会社で、ゆっくりんピースにとっても重要な存在である。
ゆっくりの地位向上のために、あるいはゆっくりを売るために・・・目的は違えど同じくゆっくりのイメージアップを重要視する両者の利害は一致する。
それ故、ゆっくりんピースはゆっくりカンパニー内でのゆっくりの非道な扱いは摘発できずにいるのだが、大義のための小さな犠牲だとして目を瞑っているのが現状である。
「ま、凡人の俺達があれこれ考えても仕方ない。それより、こいつらを逃がちまった分の始末書かかないと」
「ゆぅ、しまつしょってなあに?ゆっくりできるの?」
「全然ゆっくりできねぇよ、チクショウ」
れいむの言葉に顔をしかめつつ、男性はだらだらとキーボードを打つ。
その傍らでは女性が床に腰を下ろしてゆっくり達と戯れる。
彼女達の手によって実験施設から解放された4匹は2人を信頼し、現在は男性の家でゆっくりした生活を満喫していた。
「おねーさん、れいむたちのおうたでゆっくりしてね!」
「ゆ~♪ゆ、ゆ~ゆ~♪」「ゆん、ゆんゆ~♪」
「「ゆっくり~ゆっくり~♪」」
もっとも、彼女達の解放が可能だったのは代替の利く実験が並行して行われていたことと、他の職員達の黙認によるものなのだが。
今も彼女達の知らないところでは別のゆっくりが、彼女達が受けるはずだった実験の犠牲になっているかもしれない。
ゆっくりんピースはこのような矛盾を個人単位でも、組織単位でも数多く抱えている。
「れいむ、まりさ。ゆっくりしてる?」
「「とってもゆっくりしてるよ!」」
「「ゆっくちー!」」
それでも何もしないよりはずっと良いだろう。
4匹のゆっくりした笑顔を眺めながら、彼女はそう思った。
---あとがき---
たまにはあくまで人間本意のゆっくりんピースがあっても良いんじゃないかと思って書き殴った
しかし、さすがにこれは法人としてのミッションと実態に乖離が酷すぎるかも知れん
最終更新:2009年06月04日 02:26