ゆっくりいじめ系2940 ラヂオアワー

 *警告*

  • 現代物です。
  • ゆっくりは何も悪いことをしていませんが、ゆっくりできません。


↓ 以下本文

 ゴミ捨て場で、れいむはおりぼんをいっぱいに広げて空を見上げた。
 路地裏のまりさは、おぼうしの先をぴんと立たせ、空に向けた。
 ゆっくりはうすの籠の中、ぱちゅりーはかざりの三日月を窓に向けた。
 公園のベンチの下、ちぇんは二本のしっぽを空へ立てた。
 感度は良好、電波は上々。ゆっくりラジオは秘密のラジオ。ゆっくりならば誰でも受信
できる。野良ゆっくりも、飼いゆっくりも。

「ゆっくりらぢおでみんなゆっくりしていってね!」

 ぱちゅりーは籠に敷かれた布巾の上で、静かに目を閉じた。最初のコーナーはゆっくり
できるお歌。ゴールドバッヂのゆっくりでも、こんなお歌は歌えないだろう。ぱちゅりー
はむっきゅりと目を閉じた。

「つぎのこーなーはゆっくりできないにんげんさんじょうほうだよ!」

 ラジオを聞いていたれいむは、その日はご飯を取りに行くのをやめ、一日中ねぐらで
ゆっくりしていた。お外に出たら、人間さんに捕まってしまうから。
 れいむは暗がりで目を瞑り、ぐるぐる鳴るおなかを抱えて次のゆっくりらじおの時間を
待っていた。ごはんがないのは辛いけど、人間さんはゆっくりできない。お友達もみんな
ゆっくりラジオを聞いて、ゆっくり隠れているだろうか。

「わ゙がら゙な゙い゙よ゙お゙お゙!」

 薄汚れたちぇんがぽむぽむと公園を跳ねていく。公園のゴミ箱にごはんを取りに行った
だけなのに。今日は加工場の一斉駆除。揃いの作業着の職員たちが、逃げまどう野良ゆっ
くりを慣れた様子で刺又で押さえつけ、袋に放り込んでいく。

「わ゙、わ゙がっ、ら゙にゃ゙あ゙あ゙あ!」
「いまのうちにゆっくりにげるのぜ! そろーり! そろーり!」

 茂みに逃げ込もうとしたちぇんが捕らえられている間に、逃げだそうとしたまりさは後
ろから刺又で地面に押さえつけられた。刺又の先端はぶにっと下膨れのゆっくりにめり込
み、押さえつけたらもう一人が掴んで袋に詰め込んでいく。柄の長い刺又は捕獲には最適
であり、小動物用捕獲具よりも扱いやすい。何より相手は野良ゆっくりである。多少乱暴
に扱ったところで、潰して混ぜてゆっくりフードの材料にするのだから大したことはない。

「ゆ゙ぶっ! なんでなのぜえ゙……」
「あぶないあぶない、逃げられるところだった」

 ビルの隙間でバレーボール大のれいむがぷくぅ、と膨れていた。作業靴の分厚い底がめ
りこんで歪に膨れていても、れいむは威嚇をやめることはできなかった。

「ここにはだれもいないよ! れいむはひとりだよ! にんげんさんゆっくりしてね!」
「奥にまだいるみたいですよ」
「なあに、吹き込めば出てくるさ」
「だれもいないっていってるでしょおおお!」

 わめき散らすれいむに構わず、携帯していたスプレーをぶしゅっと一吹き。曲がるノズ
ルで奥まで届きます。ゆっくりできないガスを吸い込んで、奥でゴルフボール大の子ゆっ
くりが苦しそうに咳き込み始めた。

「げっほ! げっほ! ゆっくりできないよ!」
「ここはゆっくりできないよ!」
「おちびぢゃん! だめだよ! おそとはゆっくりできないよ!」
「ぐるぢいよ! おめめがいたいよ!」
「ゆ゙あ゙あ゙あ゙……」

 自分が囮になって、子ゆっくりは全員助かるはずだったのに。まだ小さい子ゆっくりに
は、そのままガスを吸い続けたら永遠にゆっくりしてしまうかもしれない。れいむにはど
うすればいいのかわからなかった。耐えきれずに咳き込みながら、ぴょこぴょこ飛びだし
てきた子ゆっくりは、順番に手づかみで袋に放り込まれていった。そして最後にれいむが
放り込まれ、一家は袋の中で感動の再会を果たした。



「ゆっくりらぢおでみんなゆっくりしていってね!」

 薄暗いねぐらで、れいむは目を瞑っていた。おともだちはゆっくりできない人間さんに
捕まって、半分になってしまった。これではラジオのお歌を聞いても、ゆっくりできない。

「つぎのこーなーは、あしたえいえんにゆっくりするこのおくやみだよ!」

 れいむは飛び起きた。いつものラジオにこんなゆっくりできないコーナーはなかったの
に。名前を呼ばれ、ありすは跳ね起きた。ぱちゅりーは呼ばれても、籠でゆっくり夢の中。
加工ラインで今からゆっくりフードになるまりさは聞くどころではなかった。日付が変
わった瞬間、ミキサーであんこの塊になっていたから。

「あしたもみんなゆっくりしていってね!」

 そんなことを言われても、ゆっくりできようはずもない。名前を呼ばれたゆっくりは怯
えた顔をして、そうでないゆっくりは不安な顔をして、心細そうに頬ずりをしたり、もぞ
もぞして朝を迎えていた。ゆっくりフードに加工されるライン上で、一斉駆除を逃れた物
はそれぞれの巣で、飼いゆっくりは与えられたゆっくりぷれいすで、あるいは透明な箱の
中で。

「ゆっくりあさだよ! ゆっくりらぢおでみんなゆっくりしんでね!」

 ぱちゅりーは薄く目をあけた。またラジオを聞きながら眠ってしまったのだ。そして、
目を覚ました途端、飛び込んできたゆっくりできない言葉に耳を疑った。これはぱちゅ
りーだけでは解決できない異変に違いない。むきゅっとぱちゅりーは籠から飛び降りる。
おにいさんを呼びにいかなくては。
 ありすはびくっと身を震わせた。ゆうべ名前を呼ばれていたのだから。しかしそこは透
明な箱の中。どれほど叫ぼうとも誰にも届かない。ましてや虐待おにいさんを呼んだとこ
ろで助けてくれる筈もない。

「ゆっ! ゆっ! たいへんだよ! みんなゆっくりできなくなっちゃうよ!」

 れいむはねぐらの暗がりから飛びだした。とにかく何かをしなければ。でも、どうすれ
ばいいのかわからなかった。野良のれいむには、ゆっくりラジオを止めようだなんて考え
たこともなかった。しかし、今止めなければみんな永遠にゆっくりしてしまう。れいむが
みんなを守るのだ! 焦燥感と使命感に駆られ、れいむはひたすら跳ね続けた。

「どっ、どがいぶあ゙……!?」

 ありすは目を見開き、中身のカスタードが煮えたぎるような感覚に痙攣し始めた。ぱ
ちゅりーはぶるぶる震えながら、中身をけぽっと床に吐いた。床を汚してはおにいさんに
叱られてしまう。それでもぱちゅりーは主の寝室へと跳ねていく。ちぇんはしっぽをビリ
ビリ震わせ、チョコクリームの脈動に必死に口をつぐんで耐えていた。

「わ゙がぶぼぉ゙?!」

 限界に達したちぇんの寒天の目玉が弾け飛び、お口から、見開いた眼窩から、灼けつく
ほど熱せられたチョコクリームが噴き出した。
 ボムッと鈍い音がして、ありすを収めた透明な箱がカスタード色に塗りつぶされた。
 加工場のライン上で。路地裏で。ゆっくりぷれいすで。ゆっくりたちは痙攣し、中身を
吐き出し、次々に弾け飛んでいく。

「む゙きゅ……お゙に゙い゙ざばっ」

 部屋の戸に、べっとりと熱いブルーベリージャムをぶちまけ、ぱちゅりーは平らになっ
て動かなくなった。

「っくりらぢゆ゙っくりら゙ぢゆ゙ゆ゙っくゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙」
「らぢおさんゆっくりとまってね! ゆっくりしていってね! みんなゆっくりしてね!」

 ゆっくりラジオは止まらない。おりぼんを傾けてもあんこに響く声をかき消そうと、れ
いむは叫びながら歩道を跳ねていく。

「ゆ゙っ」

 ぶつりと声が止まった。
 とても爽やかな夏の明け方、気持ちの良い風が吹く街の通りに立ちつくし、れいむは呆
然と見ていた。飾りを振り落とし、のたうち回り、次々に爆発していく野良ゆっくりのお
友達を。

 その朝だけで、日本中のゆっくりが大分減った。中身が悪くなるとゆっくりは爆発する
のだとか、ゆっくりは特定周波数の電磁波を受信すると爆発するのだとか、様々な噂が流
れ、巻き添えでゆっくりが潰され、捨てられた。そして、すぐに忘れられた。減ったゆっ
くりはまた増やせばいい。まったく簡単な話である。



「さむくてゆっくりできないよ……」

 おまんじゅうの皮が凍えそうな冬の朝、捨てられた菓子パンをくわえ、れいむはもぞも
ぞとねぐらに潜り込んだ。あの日から、ゆっくりラジオが聞こえることは一度もなかった。
ゆっくりできるお歌のコーナーもなければ、ゆっくりできない人間さんの情報もない。
ゆっくりお天気予報もわからない。それでも、れいむは運良くゆっくりできていた。

「ゆっくりらぢおでゆっくりしていってね!」

 不意に、あんこが懐かしい声を受信した。

「さいしょのこーなーは、あしたえいえんにゆっくりするこの……」




お題:電波

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年07月28日 12:42
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。