「あら、ぱちぇ。どこに行っていたの? もう夕ごはんの時間よ」
散歩を終えた私はドス待つ大きな洞穴へと帰ってきた。
「さあ、いただきましょう。今日のごはんなどんなのかしら」
下位ゆっくりたちが洞穴の中へ食べ物を次々に運んでくる。
ドスは巨体だけあってかなりの大喰らいだ。
「さあぱちぇ、食べて食べて!」
「むきゅ、ゆっくりいただきます……」
ドスの食事に付き合うのは私だけだ。
側近である希少種たちも普段はそれぞれ勝手に食事を取る。
ドスは希少種を重用していたが、プライベートではあまり好んでいなかった。
今ドスであっても元は下位種であるまりさ、希少種たちはドスを一種の成り上がりと見なしていた。
もちろんその武威に敬服はしていたが、それでも言葉の端々、ときおり垣間見せる表情からわかるのだ。
ドスを見下していることが。
なので、食事時などのゆっくりタイムには同席させないことにしていた。
「あら、この緑色の実美味しそうね! むーしゃーむーしゃー……」
私ぱちゅりーはドスの言うことにほとんど賛成し、そうでないときもドスが言ってほしいことだけを言う。
愚鈍で脆弱な下位種、『森の賢者』ぱちゅりーになら見下される心配もない。いつでも上から見下ろし続けることができる。
ドスにとって私は気のおけない存在に思えたのだろう。
実際そうだろう。私はドスに対してなんの悪意も抱いていない。
だが、善意も抱いていない。
そして、私は無能だった。
「むーしゃーむー……しゃー? ゆ? ゆゆ? ゆゆゆゆゆゆゆ!? ゆぎゃああああああああああああああああ!」
いかに気に入らなくてもえーりんぐらいは同席させるべきだったのだろう。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛だじゅげぢぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!」
「ドス大丈夫ですか! ドス!」
ドスは巨体に似合った大声で喚き散らす。洞穴中に乱反射して耳が痛い。
ドスの体は一面真っ赤に染まっていた。目からは赤い涙をだらだら垂れ流し、しきりに嘔吐している。
「ばぢぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛! なんどがじでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!」
「今すぐゆっくりえーりんを呼んできます! それまでご辛抱のほどをドス!」
私は瀕死のドスを残して洞穴から駆け出した。
「みんなー大変よー! ドスが大変よー! みんな手を貸してー!」
洞穴にでると私は、脆弱な体が許す限りの大声で叫んだ。
それがこの場において自然な行為だと思ったからだ。
別にドスのためを思ったわけではなかった。
反逆者の手助けをしてやるわけでもなかった。
私と入れ違いに一団のゆっくりたちが洞穴の中へと入っていった。
私は引き返してその後から少し離れてついていく。
「死ね! 死ね! ゆっくり死ね!」
「そうだ死ね! ゲスなドスは死ね!」
「れいむたちをゆっくりさせてくれないドスなんか死んじゃえ!」
「どぼぢでごんなごどずるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! ドズはドズなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「おまえなんかドスじゃない! おまえなんかただのゲスだ!」
謎の症状で瀕死のドスに、ゆっくりたちは容赦なく体当たりを浴びせていた。
「おまえだぢげずどもはぜいざいだぁぁぁぁぁぁ! まずだーずばーぐ!」
だが、ゲスの口から出てきたのは閃光ではなく大量の餡子だった。それはドスがもう助からないことを意味していた。
「たいしたスパークだぜ! こいつは恐れ入ったぜ!」
「あはははは! スパークは強くて正しいドスにしか使えないんだよ? そんなことも知らないの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
「群れのみんなのだめにづぐじでぎだのに……ゆ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」
ドスの巨体は崩れ落ちた。
そう、私は無能だった。
だからドスの食事に混ぜられた毒の実にも気がつかなかった。
おそらくあの緑色の実──あれはからからの実の一種なのだろう。
からからの実は恐ろしく辛く、私たちゆっくりにとっては致命的な代物だ。
だが、この群れで知られているからからの実はいかにも辛そうな赤色のはずだった。形も違う。
えーりんなら知っていたかもしれないが、ドスは知らなかったようだ。
私もこんな種類のからからの実があることを始めて知った。
そう、食事を運んできたゆっくりにそっと耳打ちされたときに知ったのだ。
「緑色の丸い実は食べるな」と。
「ドスの死体は食べちゃダメだよ! すごく強い毒だからね!」
「ゆっくり理解したよ!」
「毒がなくたってこんなゲスの死体食べたらゲスすぎて死んじゃうんだぜ!」
「そもそもゲス臭くて食えたもんじゃないぜ!」
もし、私がドスに忠告したとして、ドスはそれを聞き入れただろうか?
また、道化師がなにかジョークを言っている程度に聞き流したのではないだろうか。
単に私が空気扱いされているというだけでなく、ドスには固定概念があった。
下位種どもにドスである自分が倒されることなどあるはずがないと、と。
それも無理も無い。
ドスは人間の強さを知っている。人間がドスをある程度恐れていることも知っている。
なので、普通のゆっくりたちを侮るのも仕方がないことだった。
一切の悪意なく、自分は群れの尽くし、ゆっくりたちのために働いていた。
だからゆっくりたちは自分を慕い、感謝しているはずだ、と本気で思っていたのも死因のひとつだろう。
立派な群れ長であるドスに誰が楯突こうとするものかと。そんなものがいてもせいぜい最低最悪のゲスぐらいだ。
そんなやつは計画性もなにもなく無謀に突進してくるだけだろう、と。
油断大敵だ。
そんな教訓は絵本にだって描いてある。
とても強い妖怪や人間が、実にくだらない失策で敗れた物語がいくらでもある。
妖怪や人間が滅びているのに、ゆっくりが滅びないでいられるわけがない。
絵本は馬鹿にしたものではない。チラシだって人間の情勢を伺う材料になりうる。
聞いた話ではお野菜の絵に書いてある数字の上がり下がりで人間のゆっくりへの敵意の程度がわかるらしい。
チラシは預言書のようなものなのだという。
私はそれを読み取るほど賢くはないけれど。
ドスは人間のためにゆっくりの群れを作った。
だが、ゆっくりの群れは他ならぬゆっくりのものなのだ。
そして、ゆっくりには本来無能も有能も無い。通常も稀少も無い。すべて人間目線での評価だ。
ゆっくりすることがゆっくりの本懐。ゆっくりしていられるならそのゆっくりは充分有能だ。
なにか文明やら秩序やらの人間的なものをゆっくりによって築きたかったのかもしれないが、
そんなものは不自然なものだ。波打ち際の砂の城のようなもの。遠からず崩れる定めにあった。
そもそも、人間とは最低最悪の取引相手だ。
人間と協定を結ぶぐらいなられみりゃ相手に命乞いしたほうがまだ助かる見込みがある。
人間は完全に自分たちのことしか考えず、恐ろしく愚かなくせにものすごい力を持っている。
その力を暴虐極まりないやり方で振り回す。
たとえ、ゆっくりが多少とも人間に益をなしたとしても、情勢が変わればなんの躊躇いも無く大虐殺を始めることぐらいわけないのだ。
ドスが本当に群れのことを考えるなら人間と厳密な協定を結ぶ必要などない。馬鹿にされるようなごっこ遊びでいい。稚拙なほうが逆にいい。
ドスが人間からゆっくりを守れるとしたなら、それは人間を恐れさせ、躊躇させたときだけだ。
人間は賢いドスなど恐れない。むしろゲスで愚かなドスを恐れる。
ドスが後先考えずに怒りに任せて突撃してくることを恐れる。
だからご機嫌を取る。協定ごっこに付き合ってやる。そして、畑の害があまりに甚大にならない限りは我慢する。
人間はドスの狂気を恐れているからだ。(計算された狂気であることが望ましいのだけれども)
正気なドスならいくらでも篭絡できる。いざとなったら卑怯極まりない不意打ちができる。
正気で賢いドスほど協定を遵守するからだ。人間側から一方的に破ることなど考えようもない。
まあ、どのみち人間様が本気になったら何をしようが私たちゆっくりなんて滅ぼされるしかないんだけどね。
ドスは二つの間違いを犯した。
憎まれることと侮られることだ。
恐怖させることは群れを維持するためにある程度必要なことだ。
だが、ドスはそれを過度に憎まれるような形でやってしまった。
希少種たちを優遇しすぎたのだ。希少種の横暴を看過しすぎた。
単なるゲスと本当に困っているゆっくりの違いも見分けられなかった。だからその裁きは理不尽なものにしか見えなかった。
これは、下位ゆっくりは基本的にすべてゲスという固定概念を過去に植えつけられていたせいだろう。
シングルマザーの戯言と切り捨てずに、ちゃんと話を聞いてやれば違った対応が取れたはずだ。
広報係にきめぇ丸を起用したこともよくなかった。
きめぇ丸にはゆっくりをゆっくりできなくするという能力があり、これはきっちり情報を伝えるという点で効果はある。
だが、ドスの言葉=きめぇ丸の言葉、すなわちドスの言うことはすべてゆっくりできないという雰囲気を作ってしまった。
良い報せのときには他種の広報係を使うべきだった。
また、人間にこびへつらうことでゆっくりから侮られることとなってしまった。
ゆっくりがドスに期待しているのは人間などから守ってくれることだ。
その人間に媚びているようでは誰もがドスに失望するだろう。
希少種に見下されて、だが強い態度に出れない様もドスの威厳を著しく殺いだはずだ。
そして、ドスはことあるごとに粛清を臭わせた。
ドスは粛清を計画していることを隠しもしなかった。希少種たちもことあるごとに言及したことだろう。
これがゆっくりたちに過度の恐怖と絶望を与え、それに憎悪と軽蔑が重なり、ついには一か八かの反逆にまで追い込んでしまったのだ。
もし本当に粛清をするつもりだったなら、一切口外無用として、しかも迅速に行わなければならなかったのだ。
「汚い無能どもが触るなッ!」
「制裁よ! あななたち全員制裁よ!」
「ドス! 何をしているんですかドス! 早く反逆者たちを制裁してください!」
群れの広場には希少種たち、すなわちえーりん、ゆうか、えーき、かなこ、きめぇ丸が多くのゆっくりたちに囲まれていた。
いずれもボロボロの姿で、飾りが引き裂かれ、髪が抜かれ、羽がもがれている。
反逆者たちの強襲にあったのだ。
たしかに希少種たちは知力体力共に優れているが、多くのゆっくり相手に立ち回れるほどではない。
彼女らの権勢はドスあってこそのものだった。
ドスが死んだ今、煮えたぎる憎悪から身を守るものはなにもない。
「だじゅげぢぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「どずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
「いじゃああああああああああああいいいいい!」
「おおくるしいくるしい」
希少種たちは皮を剥がされ始めた。
「やめぢぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「ゆるじでぐざいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「がみざまだずげぢぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「おお許して許して」
もはやどれも見分けがつかない、希少種であったことすらわからない、むき出しの餡の塊に変えられてしまった。
これだけでも相当な苦痛、風が吹くだけでも身が引き裂かれるほどのものだが、群れのゆっくりたちの憎悪は底が知れない。
むしろ希少種に復讐することこそが主目的で、ドスはそのために邪魔だから殺されたのかもしれない。哀れなドス。
ゆっくりたちはなにかを口に含むと、皮はがれの希少種たちに噴出した。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
それはどうやら植物の汁のようだった。
ゆっくりが触れると被れと恐ろしく痒い汁だった。
皮があってもそうとうな痒みだ、それをむき出しの餡にかけられたなら……。
吐き気がしてきた。えれえれとやってしまいたい気分だ。
たしかに彼女らはゆっくりたちに酷い仕打ちをしたが、これほど酷い目に合わされていいものなのだろうか。
なにより、私もあの中に居て皮をはがれていても不思議ではなかったのだ。
亡きドスの側近であった私がなぜ助かったのかといえば、それはささやかな善行のおかげだった。
本当にささやかなものだ。前述のシングルマザーれいむのようなゆっくりにときおり施しをしただけだ。
食糧はかなり余っているし、与える量だってそんなに多くは無かった。
だが、定期的に行った。忘れそうな頃には必ず施した。
定期的に施しを行えば、以前与えた恩恵もいっしょに思い出す。
私は悪魔のような側近連の中での唯一の良心(ほんのささやかな)と見なされていたのだ。
情けはゆっくりのためならず。これがこの言葉の正しい意味よ、ドス。
一方、ドスや希少種たちは私のそんな行為を危険視することはなかった。
反逆者を養うには量が少なすぎたからだ。その場その場の情に動かされた、実体の伴わないきまぐれな善行に思われたのだ(実際それは正しい)。
そして、私は失笑を禁じえないほどの『森の賢者』だったので体制側から警戒されない一方、反逆者に組み込まれることもなかった。
私にからからの実のことを教えてくれたのは、以前困っているときに食料を分け与えたゆっくりだった。私が助かったのはただそれだけのこと。
念のために言っておくけど、ドスを売るような真似はしていない。
ドスの身辺状況を教えたりはしていない。そんなことするまでもなく、ドスは無防備そのものだったのだが。
私は無能なだけだ。
私は無為なだけだ。
「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「やじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
希少種たちの悲鳴が絶え間なく響く。彼女らは容易には殺してもらえないだろう。
自殺すればいいのに、と私は思う。
これほどの目にあったなら、いや、あう前に死ねばいいのに。
ゆっくり地獄とやらを本気で信じているのだろうか?
もしかすると、まだ自分たちは助かると思っているのかもしれない。
偉大な希少種が下賎な下位種どもに殺されるはずが無い。
苦しむのは下位種の役割のはず。希少種は常に優遇されるはず。
これは何かの間違いのはず。あってはならないことのはず。悪い夢だ。
きっと誰かが助けに来てくれる。ドスか、人間さんか、それとも神様?
「だじゅげぢぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇがみざまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「れいむが新しい群れの長だよ! ゆっくりよろしくね!」
「むきゅ、ゆっくりよろしく」
次の日、反逆者たちのリーダーだというれいむが、私のおうちを訪ねてきた。
「単刀直入に言うけど、ぱちゅにはれいむの側近さんになってほしいよ!」
「むきゅ、折角だけどお断りさせてもらうわ」
「どぼじでー! この群れにはぱちゅの力が必要だよー! ゆっくり理解してよね!
悪いようにはしないから! 食べ物もたくさんあげるよ!」
「ぱちゅはずっとゲスなドスと一緒にいたわ。だからぱちゅもゲスなゆっくりなのよ。
ゲスなゆっくりと付き合っていたらあなたの評判まで落ちてしまうわ」
「大丈夫だよ! ぱちゅは悪くないってみんな知ってるよ!
みんなにごはんをわけてくれたことを知ってるよ! なんなられいむたちが宣伝して回ってもいいよ!」
「むきゅ、やっぱりよくないわ。あのゆっくりしていなかったドスの影を引きずることになるわ。
餡を全部入れ替えて綺麗な群れにするべきよ」
「ゆぅぅぅぅ……ぱちゅの賢さをみんなのために役立ててほしいんだけどなぁ……」
「でも、こんなぱちゅでもあなたたちの役に立てることがあるわ。
昔みんなにごはんをあげたことを、れいむのお願いでやったってみんなに言って回るわ」
「えぇー! それは嘘だよー! れいむそんなことお願いしてないよー!」
「嘘じゃなくて方便よ。きっとみんなれいむに一層感謝してくれるわ。
ぱちゅはゲスなドスと一緒にいたことを償いたいのよ。みんなにごめんなさいしたいの」
「それじゃあゆっくりわかったよ。もう無理強いはしないよ。でも、困ったことがあったらいつでもれいむにゆっくり言ってね!」
「むきゅ、ゆっくりありがとう」
このれいむは反逆者のリーダーをやるだけあって、なかなかキレるようだった。
未知のからからの実を使うことを思いついたのもこのれいむだろう。
このれいむの目的は言うまでも無く、私の人気(ささやかなものだが)を自陣営のものにすることだった。
だから私はその願いをかなえてやることにした。
これで後はこの群れから立ち去れば、わざわざ追っ手をよこすこともないだろう。
この群れは離散するのだろうか? 案外長く繁栄するかもしれない。
とはいえ、何物も最後には滅びる。
個人に寿命があるように、共同体にも、種族にも寿命がある。
本来ゆっくりは群れなど作る必要はないのだ。
自然のままにそれぞれ勝手気ままにゆっくりしていればいい。
畑を荒らして人間に憎まれたって気にすることはない。彼らだって誰に断りなく自然を勝手に弄り回しているのだから。
滅びるときは滅びるものだ。
それはゆっくりだけでなく、人間だって誰だって同じことなのだから。
さて、次はどこへ行こうかな。
以前ドスは私に秘密の食糧貯蔵庫のことを話したっけ。
隠された谷に、いざというときの備蓄をしているんだって。
私にだけ教えたのは脆弱なぱちゅりー種では持ち逃げなんてできないからだったんだろうけど。
それじゃあ余生はドスの遺産を守って暮らすとしますか。
愚鈍で無能、ドスの言うことになんでもはいはい頷くだけの『森の賢者』に相応しい末路じゃないかしら?
最終更新:2011年07月29日 18:20