どこかの街で
ゆっくりブリーダーがおはぎを作っていた頃。
ここでも、一つのゆっくり一家が無事ブリーダーの元から卒業する事ができた。
「ゆ!! おじさんいままでありがとー♪ これからもれいむたちはゆっくりするね!!」
「おじしゃんありがとーー!!!」
一匹の親霊夢とその子供達の霊夢と魔理沙。
去年の冬からブリーダーの元で育てられ、今ではキチンとした行いが出来るまでに成長していた。
「うん。おじさんも君たちを育成できて良かったよ。それじゃあこれでお別れだけど、また何時でも遊びにおいで」
そして、その成果をしみじみと実感するブリーダー。
「ううん! おじさんはほかのゆっくりたちをきちんとするんでしょ? れーむたちがくるとおじさんのおしごとのじゃまになるから」
「そんなことないよ。だからたまには遊びにおいでね」
遠慮という、ゆっくりからすれば一番の対極にある言葉が出てくるまでに成長したこの一家にブリーダーは諭すような口調で提案する。
「ゆ~。わかったよ!! こんどあそびにくるね!! それじゃあおわかれだね!!!」
「おじさんいままでありがとーーー」
「「「「「さよーならーーー!!!」」」」」
「さよなら。元気でな!!」
こうして、人々が仕事に取り掛かり始めた頃、一家は男の家を後にした。
「ゆ~♪ これからどうしようか?」
「ほかのにんげんのおうちにいっておてつだいする?」
「でも、ゆっくりたちはにんずうがおおいから、めいわくがかかるよ!!」
キチンと育成されただけあって、こうすればどうなるという事を考えられるようになっているこの一家は、これからの自分達の進退を必死になって考え始めた。
「ゆゆ!!! おかーさんにいいかんがえがあるよ!!!」
閃いた!! と言わんばかりの声をあげお母さん霊夢が子供達に説明を始める。
「ゆゆ!! おかーさんあたまいい!!」
「それにゃらゆっくりできるね!!!」
どうやら、どうやって食べていくか、決まったらしい。
いそいそと、近くのゴミ捨て場から大きな缶詰の空き缶を拾ってくるお母さん霊夢。
ご丁寧に小豆の缶詰を拾ってきたらしい。
「それじゃあ、おかーさんとあかちゃんたちはここでするから、おねーちゃんたちはむこうでしてきてね!!!」
「うん!! ゆっくりがんばってね!!!」
お母さん霊夢と赤ちゃん、お姉さん達に分かれて行動する事にした一家。
しばしの別れの挨拶をした後、それぞれ人の多い場所に消えていった。
「ゆ~~♪ ゆ~~♪ ……ゆ!! ここにしようね!!!」
「ゆくりしゅるよ!!!」
「ゆっくりちようね!!!」
「ゆ!!」
人通りの多い一角で足を止めたゆっくり達は、お母さん霊夢の指示で立ち位置に立った。
そして、お母さん霊夢が、息をスウッと吸って歌を歌いだした。
「ゆ~~~っくり♪ ゆっくり~していってね~~~♪」
「ゆっくり~~~♪ ゆゆゆ~~~~♪」
「ゆゆゆ~~~~~~~~♪」
それに負けじと、子供達も必死でバックコーラスに徹する。
そして、目の前には先ほどの空き缶。
どうやら、芸をしてお金を集める方法を選んだようだ。
「ゆっくり~~~♪ ゆ・ゆ・ゆっくり・ゆうっくりぃ~♪」
「お! なんだなんだ?」
次第に、疎らだが人が集まり出した。
普通のゆっくりならここでペースト出荷されるが、ブリーダの所から出されたゆっくりはリボンか帽子に縫い付けられたワッペンのおかげで、完全ではないが安全は保障されているのだ。
「ゆゆ!! れーむのおうたをきにいったら、すこしでいいからおかねいれてね♪」
「おかーしゃんはおうたじょーずだよ!!」
「いっしょうけんめーうたうよ!!!」
確かに、そのゆっくりの歌声は唯の騒音ではなく、音痴なメロディ~であった。
その馬鹿さ加減が受けたのか、チャリンチャリンと小銭が空き缶に吸い込まれてゆく。
「!!!! ゆっくり~~~ゆっゆっ!!!!」
それで気分をよくしたゆっくり達は、更に気持ちを込めてご自慢の歌を熱唱していく。
一時間程たっただろうか?
それまで違う場所でお金を集めていたゆっくり達が帰ってきた。
「ゆゆ!! むこーでもらってきたよ!!!」
一番はやく母親の元へきたゆっくり魔理沙が自慢げに千円札を見せた。
ブリーダーに飼われていた一家には、その金額の価値がはっきりと分かる。
「ゆゆ!!! すごいね!!!」
「おねーちゃんたちすごいね!!!」
「ゆ!!」
母親や妹達からも褒められて、このゆっくり魔理沙は上機嫌だ。
「それじゃあ、たべものをかいにいこうか!!」
自分達の缶の中にも硬貨が沢山入っている事を確認したお母さん霊夢が子供達に尋ねる。
「「ゆっくり~~~♪」」
二つ返事で賛成されたので、一家仲良く近くのお店に足を運んだ。
「こどもたちはここでまっててね!! みんなではいるとめいわくだからね!!!」
「「はーい!! ゆっくりまってるよ!!!」」
子供達に念を押して、一人で中へ入ってゆくお母さん霊夢。
以前、ブリーダーのおじさんと来た事があるので、大体の内装は把握していた。
奥にある大きな台に飛び乗って一言。
「このおかねで、ゆっくりできるおいしいたべものちょうだいね!!!」
店員の女性は、一瞬呆気に取られたが、ここはよくブリーダーの人がお使いさせるために利用する店なので速やかに値段分の食べ物を出してくれた。
「はい。これはお釣りだよ。大事に取っておいてね」
残ったお金を一緒に袋に入れて、地面に降りた母親の口元に運ぶ。
「ありがとう!! はむ……」
お礼を言い、袋の箸を紐で咥えて店を後にしたお母さんゆっくり。
外にでると、キチンと言いつけを守り待機していた子供達が一斉に駆け寄ってきた。
「うわぁーー!! いっぱいあるね!!!」
「ゆくりたべれるね!!!」
「ゆくりできりゅね!!!」
袋の中を見た子供達は大興奮。
そして、ゆっくり食べるべく、新しい家を探して街の中を再度彷徨う。
お釣りは、一番年長のお姉さん魔理沙が、重ねた空き缶の中へ入れて運んでいる。
「ゆっくり~♪」
それは、先ほど千円札を持ってきた魔理沙だった。
役に立っている自分が余程嬉しいらしい。
魔理沙の鼻歌が引き金となり、瞬く間に一家全員に広がっていく。
気が付くと、一家は街の外れの方まで足を運んでいた。
「ゆ~、なかなかみつからないね!!!」
「もうちょっとさがそうね!!!」