ゆっくりいじめ系209 無駄骨

 どこかの街でゆっくりブリーダーがおはぎを作っていた頃。
 ここでも、一つのゆっくり一家が無事ブリーダーの元から卒業する事ができた。
「ゆ!! おじさんいままでありがとー♪ これからもれいむたちはゆっくりするね!!」
「おじしゃんありがとーー!!!」
 一匹の親霊夢とその子供達の霊夢と魔理沙。
 去年の冬からブリーダーの元で育てられ、今ではキチンとした行いが出来るまでに成長していた。
「うん。おじさんも君たちを育成できて良かったよ。それじゃあこれでお別れだけど、また何時でも遊びにおいで」
 そして、その成果をしみじみと実感するブリーダー。
「ううん! おじさんはほかのゆっくりたちをきちんとするんでしょ? れーむたちがくるとおじさんのおしごとのじゃまになるから」
「そんなことないよ。だからたまには遊びにおいでね」
 遠慮という、ゆっくりからすれば一番の対極にある言葉が出てくるまでに成長したこの一家にブリーダーは諭すような口調で提案する。
「ゆ~。わかったよ!! こんどあそびにくるね!! それじゃあおわかれだね!!!」
「おじさんいままでありがとーーー」
「「「「「さよーならーーー!!!」」」」」
「さよなら。元気でな!!」
 こうして、人々が仕事に取り掛かり始めた頃、一家は男の家を後にした。
「ゆ~♪ これからどうしようか?」
「ほかのにんげんのおうちにいっておてつだいする?」
「でも、ゆっくりたちはにんずうがおおいから、めいわくがかかるよ!!」
 キチンと育成されただけあって、こうすればどうなるという事を考えられるようになっているこの一家は、これからの自分達の進退を必死になって考え始めた。
「ゆゆ!!! おかーさんにいいかんがえがあるよ!!!」
 閃いた!! と言わんばかりの声をあげお母さん霊夢が子供達に説明を始める。
「ゆゆ!! おかーさんあたまいい!!」
「それにゃらゆっくりできるね!!!」
 どうやら、どうやって食べていくか、決まったらしい。
 いそいそと、近くのゴミ捨て場から大きな缶詰の空き缶を拾ってくるお母さん霊夢。
 ご丁寧に小豆の缶詰を拾ってきたらしい。
「それじゃあ、おかーさんとあかちゃんたちはここでするから、おねーちゃんたちはむこうでしてきてね!!!」
「うん!! ゆっくりがんばってね!!!」
 お母さん霊夢と赤ちゃん、お姉さん達に分かれて行動する事にした一家。
 しばしの別れの挨拶をした後、それぞれ人の多い場所に消えていった。
「ゆ~~♪ ゆ~~♪ ……ゆ!! ここにしようね!!!」
「ゆくりしゅるよ!!!」
「ゆっくりちようね!!!」
「ゆ!!」
 人通りの多い一角で足を止めたゆっくり達は、お母さん霊夢の指示で立ち位置に立った。
 そして、お母さん霊夢が、息をスウッと吸って歌を歌いだした。
「ゆ~~~っくり♪ ゆっくり~していってね~~~♪」
「ゆっくり~~~♪ ゆゆゆ~~~~♪」
「ゆゆゆ~~~~~~~~♪」
 それに負けじと、子供達も必死でバックコーラスに徹する。
 そして、目の前には先ほどの空き缶。
 どうやら、芸をしてお金を集める方法を選んだようだ。
「ゆっくり~~~♪ ゆ・ゆ・ゆっくり・ゆうっくりぃ~♪」
「お! なんだなんだ?」
 次第に、疎らだが人が集まり出した。
 普通のゆっくりならここでペースト出荷されるが、ブリーダの所から出されたゆっくりはリボンか帽子に縫い付けられたワッペンのおかげで、完全ではないが安全は保障されているのだ。
「ゆゆ!! れーむのおうたをきにいったら、すこしでいいからおかねいれてね♪」
「おかーしゃんはおうたじょーずだよ!!」
「いっしょうけんめーうたうよ!!!」
 確かに、そのゆっくりの歌声は唯の騒音ではなく、音痴なメロディ~であった。
 その馬鹿さ加減が受けたのか、チャリンチャリンと小銭が空き缶に吸い込まれてゆく。
「!!!! ゆっくり~~~ゆっゆっ!!!!」
 それで気分をよくしたゆっくり達は、更に気持ちを込めてご自慢の歌を熱唱していく。
 一時間程たっただろうか?
 それまで違う場所でお金を集めていたゆっくり達が帰ってきた。
「ゆゆ!! むこーでもらってきたよ!!!」
 一番はやく母親の元へきたゆっくり魔理沙が自慢げに千円札を見せた。 
 ブリーダーに飼われていた一家には、その金額の価値がはっきりと分かる。
「ゆゆ!!! すごいね!!!」
「おねーちゃんたちすごいね!!!」
「ゆ!!」
 母親や妹達からも褒められて、このゆっくり魔理沙は上機嫌だ。
「それじゃあ、たべものをかいにいこうか!!」
 自分達の缶の中にも硬貨が沢山入っている事を確認したお母さん霊夢が子供達に尋ねる。
「「ゆっくり~~~♪」」
 二つ返事で賛成されたので、一家仲良く近くのお店に足を運んだ。
「こどもたちはここでまっててね!! みんなではいるとめいわくだからね!!!」
「「はーい!! ゆっくりまってるよ!!!」」
 子供達に念を押して、一人で中へ入ってゆくお母さん霊夢。
 以前、ブリーダーのおじさんと来た事があるので、大体の内装は把握していた。
 奥にある大きな台に飛び乗って一言。
「このおかねで、ゆっくりできるおいしいたべものちょうだいね!!!」
 店員の女性は、一瞬呆気に取られたが、ここはよくブリーダーの人がお使いさせるために利用する店なので速やかに値段分の食べ物を出してくれた。
「はい。これはお釣りだよ。大事に取っておいてね」
 残ったお金を一緒に袋に入れて、地面に降りた母親の口元に運ぶ。
「ありがとう!! はむ……」
 お礼を言い、袋の箸を紐で咥えて店を後にしたお母さんゆっくり。
 外にでると、キチンと言いつけを守り待機していた子供達が一斉に駆け寄ってきた。
「うわぁーー!! いっぱいあるね!!!」
「ゆくりたべれるね!!!」
「ゆくりできりゅね!!!」
 袋の中を見た子供達は大興奮。
 そして、ゆっくり食べるべく、新しい家を探して街の中を再度彷徨う。
 お釣りは、一番年長のお姉さん魔理沙が、重ねた空き缶の中へ入れて運んでいる。
「ゆっくり~♪」
 それは、先ほど千円札を持ってきた魔理沙だった。
 役に立っている自分が余程嬉しいらしい。
 魔理沙の鼻歌が引き金となり、瞬く間に一家全員に広がっていく。
 気が付くと、一家は街の外れの方まで足を運んでいた。
「ゆ~、なかなかみつからないね!!!」
「もうちょっとさがそうね!!!」

 CASE:01

「ゆっくりさがそうね!!!」
 母親が活を入れ家探しを続行する。
 まだ、日は高く上っているのでさほど心配する事でもないだろう。
 一家も、それが分かっているようでのんびりと探し回っている。
「ゆゆ!!! おかーさん!! ここはどう!!!」
 先ほどの魔理沙が、母親を呼び止めた。
「ゆ~~?」
 そこは十メートル四方ほどの大きなくぼみだった。
 人工的に作られたようで、天井は透明な板に覆われ中から見上げれば、透き通るような景色を見れるだろう。
 また、上部には所々穴が開いており、更に階段が下まで伸びている。
 作りもしっかりしており、何よりも開閉式の蓋もあるそこは、十分家として機能するものであった。
「ゆゆ!! ここはだいじょうぶそうだね!! でも、にんげんがでていけっていったらすぐでていくよ!!!」
「うん!! わかってるりょ!!!」
「ゆっくりしようね!!!」
「「「「ゆっくりしようね!!!!」」」」
 新たな住処の確保に成功した一家は、先ほど買った袋から食べ物を引っ張り出し、ささやかな宴を始めた。
「ゆ!! おいしーね!!!」
「うん!! おしたもいっぱいうたっていっぱいたべよーね!!!」
「「「「ゆっくりがんばろーーね!!!!」」」」
 日が落ち始めても、一家の楽しい宴は終わりを見せない。
「ゆっくり~♪ ゆっくり~していってね~♪」
「おかーしゃんじょ~ず~♪」
「ゆゆ!! あめがふってきちゃよ!!!」
「だいじょうぶだよ!! ふたはきちんととしめたから!!!」
 そう言って上を見上げるお母さん霊夢。
 透明な天井には沢山の雨が弾け飛ぶ様子が断続的に映される。
「ゆっゆ♪ すごいね!!」
「たのしいね!!!」
 本来ならば見ることが出来ないその光景を、一家は食い入るように見つめている。
 きっと晴れた日には満天の星空が見えることだろう。
 ここでの生活はきっとすばらしいものになる。
 一家の誰もがそう思っていた時、悲劇は突然起こった。
「ゆ!! おみずだよ!! おみずがながれてくるよ!!!!」
「どうして!!! どうしてこんなにおみずがでてくるの!!!」
「!!! 、そういえばさいごにおじさんがいってたよ!!!」
 この街には雨が降ったとき、川がゆっくり流れるように一時的に雨を貯めておく所がある、そこに入ってはいけないよ。
 危ないから。
「ゆゆ!!! たいへんだよ!! はやくでようね!!!!」
「みんないそいでね!!!」
 しかし、思い出したとしても時既に遅し。
 上部に開いた穴から大量の水が流れ出し、階段を上ろうとする一家をことごとく下に押し返していく。
「ゆぎゃ!!」
 一匹の赤ちゃん霊夢が地面に押し付けられた衝撃で、餡子を飛び散らせ絶命した。
「ゆゆゆ……」
 上がっても、ここに居ても自分達が死ぬ事は避けられない。
 残った方法は助けを呼ぶ事くらいだ。
「ゆっくりできないよーーーー!!!!! だれかーーーーたすげてくださいーーーー!!!!!」
「ゆっくりーーーー!!! だれかーーーーー!!!!!」
「しんじゃうよーーーーーー!!!!!!」
 しかし、非常に激しい雨の中、出歩いている人も無く、一家の声を聞くものも居ない。
「ゆぶぶぶ!!!」
 とうとう、容量いっぱいに水が溜まったようだ。
「あぶぶ!!! うぐぐ!!!」
 水の進入は止まったが、全面水で満たされたこの状態では蓋を開けることも、ましてや息をする事さえも叶わない。
「ゆ……」
「ぐり……」
 一匹、また一匹と餡子を流しながらゆっくり達が死んでゆく。
 初めの方に死んだゆっくりは、既に完全に水に溶けてしまっていた。
「おがーしゃん……ぎょめん……」
 最年長のゆっくり魔理沙が、母親に何かを訴えかけるような目をしたまま命を落とした。
「あばばばばば!! りぇーみゅのこどもだじーーーー!!!!」
 そして、最後まで残っていたのは、やはりお母さん霊夢だった。
 窒息の苦しみと、溶け出す体。
 そして、混ざってゆく子供達の惨状を見ながら、ゆっくりと息を引き取った。
 全ての水が流された後、そこに残っていたのは数十円のピカピカの硬貨だけであった。

 CASE:2

 その後、へとへとになるまで探したが、森の中とは違い一向に巣に適した場所を見つけることは出来なかった。
「ゆ~、みつからないね!!!」
 川辺で、先ほど買った食事を取りながらこの後の計画を話し合っていく。
 既に、近くで遊んでいた子供達は居なくなり、どうしようもない焦燥感が一家に襲い掛かっていた。
「どこか、にんげんのおうちにいそうろうさせてもらおうか?」
「そうだね。ゆっくりさがそうね」
 これ以上探しても意味が無い。
 そう感じた一家は、取り敢えずの間、人間の家に居候させてもらう事にした。
 しかし、ここでただ家にお邪魔するほどブリーダ卒のゆっくりは馬鹿ではない。
「そうだ! おじゃまするんだから、れいむたちがおうちをきれいにしよう!!!」
「うん!! おじさんのところでもがんばっておそうじしたもんね!!!」
「かってに住んでいるだけじゃわるいもんね!!」
 食べ物を食べている間、自分たちが出来る事を考える。
 ただで家に居るのはいけない事。
 それもブリーダに教わった事だった。
 食事を食べ終え、幾分元気を取り戻した一家は、家を求めて街へと戻っていった。
 しかし、誰某の家を探していたわけではない。
 適当な家の前に到着した一家は、大声で門に向かって喋る。
「こんにちは!! ゆっくりさせてください!!!」
 これが、礼儀というものだ、そう教えられた。
 程なくして、人間が一家を出迎えに現れた。
「ああ、ゆっくりか。丁度良いところにきたな。まあ、中に入れ」
「おじゃまします!! おねーさんゆっくりさせてね!!!」
「れーむたちは、きょうぶりーだーのおうちからでてきたの!!」
「あたらしいおうちをみつけるあいだ、ここでゆっくりさせてもらっていいですか?」
「もちろん、きちんとおてつだいもするよ!!!」
「れーむたちはおそうじもとくいなんだよ!!」
「そうか。それなら、ちょうど手伝ってほしい事があるんだ」
 こっちに来てくれないか?
 女性に言われて着いた所は竹林の中。
 既に日も沈み、おぼろげな灯がより一層竹林を栄えさせている。
「ゆ? きれーだね!!」
「すごいね!!」
「おーい。こっちだこっち!!」
 竹に見とれている間に女性は奥のほうへと進んでしまったらしい。
 慌てて追いかけるゆっくり達は、そこに更に二人の女性が居る事に気が付いた。
「あら、それはゆっくり?」
「なんでここに連れて来るんだ?」
「こんばんは!! ゆっくりさせてください!!!」
「こんびゃんは!!」
「おばんです!!」
 一家は、少し怪訝そうな表情をする女性二人に臆することなく挨拶をする。
「まぁ、そう言うな。……お前達は親子か?」
「うん!! そうだよ!!」
「おかあしゃんはおうたがうまいんだよ!!!」
「それにものしりだよ!!」
「ああ。それはよかったな!」
「「「「ゆっくりーーー!!!!」」」」
 ブチ。
 ブチブチブチ。
「あぎゃあ!!」
 ブチブチブチ。
 ブチブチブチ。
 ブチブチブチ。
「「「おがーしゃーーん!!!」」」
 ブチブチブチ。
 ブチブチブチ。
「ゆっゆ~♪」
 ブッチ!!!!
「ゆ~♪ !! ゆゆ!!!」
 連れて来てくれた女性が、一気に子供達を踏み潰した。
 ブリーダーに育てられて、少し油断もあったお母さん霊夢は、全ての子供が潰されるまで暢気に構えていた。
「ああああああ!!!!! れーむのあがじゃんが、こどもたちがーーーーーー!!!!」
「ああ。私が全部潰した」
 淡々と、真実のみを告げる女性。
 月が隠れてしまって表情をうかがい知る事は出来ない。
「どーーじで!!! どーじでれいむのこどもたじにごんなごとするのーーー!!!!!」
「さぁ、な」
 女性は動機を答えない。
 否、この霊夢には関係のない事なのだろう。
「ゆーーー!!! ごめんねーーーー!!! もっどゆっぐりじたがったよねーーー!!!!」
「私が憎いか?」
「ゆ!!! ゆっくりしんでね!!! おじさんは、むやみやたらにゆっくりをころすひとはわるいひとだっていってたよ!!! だからゆっくりしね!!! こどもたちをこんなめにあわせたおねーさんはゆっくりしね!!!! しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね!!!!!!!」
 大量の涙を流し、目の前の女性に向かって機械のように言葉を発するお母さん霊夢。
「……もういいだろ」
「ゆっくりしね!!! しn……ぶぎゃら?!! ……い、いだいよ!! ゆー、ゆっぐりじだがったよ!!」
 暫くそれを眺めていた女性は、一言だけ呟いて踏み潰した。
 残ったのは大量の餡子、竹林の香りと融合し、お世辞にも良い香りとは良い辛い。
 そして、後ろで呆然と眺めていた二人に向き直り、強い口調で言い放った。
「ほら、見ての通り憎しみは憎しみしか生まん。お前達もそろそろお互いいがみ合うのはやめないか? 勿論、暇つぶしに殺し合いをするくらいなら良いだろう。ただし周りには気をつけろよ。今回は饅頭だったが、これが人間がだったら大変な事になるからな」
「ふーん? まぁいいわ。飽きてきたし、まぁいい運動にはなるんだけど」
 かたや興味はなさそうに呟く黒髪の女性。
「まー、輝夜と合わせると癪だけど、いつの間にか唯の暇つぶしになってたしな」
 かたや面倒くさそうに呟く銀髪の女性。
「それよりもお腹が減ったわ。こんなに甘い匂いが立ち込めてるんですもの」
 しかし、どちらも腹の内は同じらしく、少々ぎこちないがいたって普通の会話が形成されていく。
「そうだな。私達も夕飯にするか? 慧音」
「ああ。折角だから輝夜の家で頂くとしよう」
 最後に、水色の髪の女性が返事をし、連れ立ってこの場所から去っていった。

 上白沢慧音。
 最近は、ブリーダ上がりのゆっくり家族を使い、命の授業を行うという。
 生徒の親からの評判は上々である。

 CASE:3

「あら? 貴方達そんな所でどうしたの?」
 声のした方向へ振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。
「れいむたちは、ぶりーだのおうちからでてきたんだけど、あたらしいおうちがみつからないの」
「このたべものはじぶんたちでおかねをかせいでかったんだよ!!」
 人間が必要としている事を簡潔に説明する。
 これも、ブリーダーから教わった事である。
「そうだったの。 だったら家に来ない? 貴方達みたいに躾ができているゆっくりなら大歓迎よ?」
「ゆゆ!! ほんとう?」
「もちろん!! 嫌だったなら無理にとは言わないけど……」
「ううん!! おねーさんのおうちにいかせて!!」
「きちんとするよ!! おねーさんありがとう!!」
「おてつだいしてほしいことがあったらなんでもするよ!!!」
「そう。ありがとう。私の家はこっちよ」
「「「「ゆっくり~~~~♪」」」」
 このゆっくり達は幸運だった。
 新しい家、それも人間の家が約束されたからだ。
 そして、以前住んでいた見慣れた森の中、その奥に女性の家はあった。
「ここが私の家よ。さぁ、中に入って」
「「「「おじゃまします!! ゆっくりさせてね!!!」」」」
 家の中に通された一家。
 出迎えたのは沢山の人形。
 その愛くるしい人形達は、ゆっくりを簡単に魅了した。
「わー!!」
「にんぎょうさんがいっぱーい!!」
「これおねーさんがつくったの?」
「ゆゆ!! うごくよ!!!」
「すごーーい!!」
「ふふふ。そうだ、お腹減ったでしょ? 今食べ物を持ってくるわ」
 自分達で買ったお菓子があると言う一家に、それじゃ足りないでしょ、と言い残してキッチンの奥へと消えていった女性。
 時間にして数刻だろうか? 思いの他早く大きな皿を携えて戻ってきた。
「はい。どうぞ、好きなだけ食べていいわよ!」
「ありがとうおねえさん!! ゆっくりいただきます」
「「「いただきまーす!!」」」
「ぱく!! おいしいよ!! とってもおいしいよ!!」
「ほんと!! おいしい!! おねえさんありがとう!!!」
 皿いっぱいに盛られた甘くて美味しい食べ物を、口に付かないように注意しながら食べていく。
 そんな食べ方でも、大量にあった食べ物は直ぐに綺麗サッパリ無くなった。
「けふ! おねいさんありがとう、おいしかったよ!!!」
「「「「ありがとーーーおねーさん!!!!」」」」
 目をトロンとさせて、頬を赤くした顔で女性にお礼を述べる。
 その表情は、野生のそれと一緒だが、本当に幸せな証拠なのだろう。
「ふふ。どういたしまして。そんなに美味しかった?」
「「「「うん!!!」」」」
「ゆっくり達の餡子だったのに?」
「ゆ?」
「ゆゆ!!」
 そういえば、自分達の中身は餡子だとブリーダーから教えられていた。
 そして、この一家は食べたことが無かった。
 それゆえ、先ほどまで美味しく食べていたそれが、自分達の中身だと分かった時のショックは大きかった。
「ゆゆ!! おえっ!! おえーーーー!!!!」
「あらあら。戻しちゃダメよ?」
「むぐ!! むぐぐ!!!」
 人形を操作して、今まさに吐き出そうとするゆっくり達の口を塞ぐ。
 それでも懸命に吐き出そうとするが、ゆっくりの力は人形の力にも及ばないようだ。
 抵抗に諦めたゆっくり達は、吐き気がおさまるまでじっと耐えるしか選択肢は残されていなかった。
「ゆーーー。 おねーさん!! ひどいよ!!」
「うそをついちゃだめだよ!!!」
「ともぐいはいけないことなんだよ!!!」
 漸く、吐き気が収まったゆっくり達は、口々に非難の言葉を浴びせかける。
「そんな事無いわ。貴方達だって美味しいって食べてたじゃない?」
「「ゆ!!」」
 痛いところを疲れた一家は、反論できずに押し黙る。
「おねーさんありがとーー!!! って必死になって食べてたじゃない?」
「「ゆゆゆ!!!」」
 そのまま、女性はどんどんと一家を攻め立てる。
「幸せそうに食べてたじゃない?」
「ゆ……」
「何であんた達はそんなに幸せそうなのよ!!!」
「ゆぐ!!!!」
 突如罵声とも取れるほどの声をあげ一家を驚愕させる。
 怒りに任せ、一匹の子供霊夢を踏みつけた。
 悲鳴を上げるゆっくり霊夢。
「ゆーー!! ゆっぐりでぎるよ……」
 しかし、周りに餡子が飛び散ったが幸いにして命に別状は無いようだ。
「ど、どうしたのおねーさん!! ゆっくりs「うるさいわね!!!!」」
「!!!!!!」
 またしても、一家は黙るしかなかった。
「私は上手くいかないのに、……なんであんた達はそんなに幸せなのよ!!!」
 理性を失った女性は、人形に指示を出し、次々とゆっくりに五寸釘を打ち付けていく。
「いい!! いだいよ!!」
「おねーさん、れーむたちなにかわるいことした?」
「だったらあやまるよ!!!!」
「ごめんにゃしゃい!!!!」
「うるさい!! 私は幸せそうなあんた達自体にムカついてるの!!!!」
 生かさず殺さず。
 急所を外しながら、刺しては抜くを繰り返す。
 針山に針を刺すように、何の感情もなしに延々と繰り返させる。
「なんであんた達だけ。何時も魔理沙と仲良くしてるのよ!!」
「ゆゆゆっぐりざぜでーーー!!!!!」
「魔理沙も魔理沙で、なんでそんなに霊夢と幸せそうにしてるのよ!!!!」
「い! いだいよーーー!!!!!」
 釘は次々を刺さっていくが、餡子が漏れないので意識はしっかりと残っている。
 そんな、一家にとっては地獄の時間が、漸く終わりを迎えた。
「はぁ、はぁ。ふぅ。そ、それじゃあ、約束どおり家に住まわせてあげるわ!」
「いいでずーー!!! じぶんだじでおーじざがじまずーー!!!!!」
「おねーーざんありがどーーー!!!」
「ゆっぐりがえるーーーー!!!!」
「あら。言葉が悪かったかしら。私は、家に住みなさいって言ってるのよ?」
 全ての人形に臨戦態勢をとらせ、優しくしかし有無を言わさぬ口調で一家に話しかける。
「ゆゆ!! わがりまじだ!! おうじにいさせでくだざい!!」
「ゆっぐりぎでいぎまず!!!」
「おねーざんのおうtんぎゃ!!!!」
「アリス、よ」
「「「「ありすのおーじにずっといざせでくだざい!!!!」」」」
「ええ! みんなで仲良く暮らしましょうね!!」
 ブリーダー卒のゆっくり達は、その後の生活は比較的幸せになるらしい。

 CASE:4
「あら。あんた達こんな所でなにしてんの?」
「ゆゆ!! れーむたちはきょうぶりーだーのおうちからでてきたの!!!」
「このたべものもじぶんたちでおかねをあつめてかったの!!!」
「おねーさんはどうしたの?」
「私? 私はあんた達がずっとウロウロしてるから気になっただけよ」
「ゆ~~。れーむたちまだおうちがないの!!」
「だから、おうちをさがしてたの!!」
「何だそんな事か。ついてらっしゃい、良い所があるわ」
「「「ゆ♪」」」
 親切そうな女性の後ろを付いていく一家。
 見れば自分や子霊夢達と同じ、綺麗なリボンを付けているではないか。
「ゆっゆ♪」
 自分の真似をしてくれている人間が居た事で、お母さん霊夢はすっかり幸せそうな表情になった。
 街を抜け少し歩くと、いつの間にか大きな神社が目の前に存在していた。
「ゆゆ??」
 突然の事に戸惑う一家だったが、パンパンと手を鳴らした女性がそれを制止した。
「ここの敷地内だったら何処に居てもいいわよ。それに、さっきの道を通れば直ぐに街へ着くわ。ただし、建物の中には勝手に入らない事。自分達の食べ物以外は勝手に食べないこと。他のゆっくり達が来たら、自分達で対処しないで必ず私を呼ぶ事。分かった?」
「うん!! わかった!! ゆっくりさせてもらうね!!!」
「「「「おねーさんありがとうね!!!」」」」
「どういたしまして。そうだ! あんた達が稼いだお金、一回私の所に持ってきなさい。ゆっくり達じゃ買えないような美味しい食べ物を買ってきてあげる」
 自分達では買えない美味しいもの。
 この言葉は、いかにブリーダーによって教育されたゆっくりと言えども抗う事の出来ない魔法の言葉だった。
「ゆゆ!! おねーさんありがとう!!!」
「おかねはおねーさんにわたすよ!!!」
「私の名前は霊夢よ」
「ゆっくりおぼえたよ!! れーむ、ゆっくりさせてもらうね!!!」
 次の日から、ゆっくり達の新たな生活が始まった。
 一家の寝床は住居の軒下に決まった。
 雨風を防げるここはなかなか住み心地が良いらしい。
 そして朝、朝食を食べて街へ向かう。
 昼を過ぎた頃に神社へ戻り、霊夢にお金を渡す。
 夜、霊夢が買ってきた美味しい食べ物を一家で食す。
「今日は甘い食べ物よ」
 出されたのはカラフルな甘いペースト状の食べ物だった。
「おいしい!! れーむおねーさんおいしーよ!!!」
「今日はこんなの買ってきたわ」
 出されたのは、カスタードケーキだった。
「あまい!! すっごくおいしい!!!!」
 時々、霊夢も縁側で食事を取ることがある。
 その時は皆で一緒に楽しくご飯を食べる。
「頂きます」
「「「「いっただきまーーす!!!!」」」」
 しかし、楽しい事ばかりではない。
「うっう~♪ れみりゃ☆だどぉ~♪」
「ゆ?」
「うっう~♪ れみりゃはこーまかんのおぜうさまだっど~♪」
 それは、紅魔館の主が従者を引き連れてここに来る時に、従者が引き連れてくるゆっくりれみりゃだった。
「ゆ! ゆゆゆ!!!」
 一家はこのゆっくりが自分達にとって危険なものである事は理解していた。
 ブリーダーに教えられた事と、先ほど言った通り従者が引き連れてくるからである。
「だいじょうぶよ!! れみりゃさまはとってもグルメなんだから。プディングしかお召し上がりにならないわ」
「う~♪ れみりゃはぷっでぃ~んしかだ~べないどぉ~♪」
 そう言って、その従者にれみりゃと遊ぶ事を強制させられていることも。
 食べないといっても、捕食種のゆっくりと遊ぶ事は危険な事に変わらない。
「うっう~♪ た~べちゃ~うぞ~♪」
「う~♪ れみりゃはつよいんだどぉ~♪」
 そう言って噛み付かれたり、殴られたりしていたのだ。
 去り際に、ゆっくり霊夢の飼い主が文句を言っても、子供同士のおふざけです。
 そう言って話すら聞かないで帰ってしまうのだ。
「うっう~♪」
 それがまた目の前に居る。
 従者の姿は見当たらない、おそらく一人で抜け出してきたのだろう。
 それを確認して、一家はさっさとこの場から逃げ出そうとした。
「ゆ! そこでゆっくりしててね!!」
「ゆ~!! だめ~~~!!! れみりゃとあそぶの~~~~~!!!!」
 しかし、長い事人間と暮らしていた一家は、同じく飼われているれみりゃから逃げる事はできなかった。
 狙いを付けられた一匹が、頭の上からのしかかられ両手で頬を引っ張られる。
「うっう~~♪ れみりゃはつよいんだどぉ~~~♪」
「やめふぇね!!! ゆっふりふぁなしふぇね!!!!」
 必死にれみりゃに対して懇願するゆっくり霊夢だったが、プディンしか聞き分けられないスカスカ脳みその肉まんには何を言っても無駄である。
「うっう~~♪ がぁお? !!!」
「ゆ?」
 突然、頭の上にあった重みが消え、口も自由に動かせるようになった。
 何事かと上を見上げると、そこにはれみりゃの羽を掴んだこの神社の主の姿があった。
「ゆゆ!! れいむおねーさんありがとう!!」
「いいのよ。きょうはあのくちやかましいロリコンも居ないし」
 そう言って、れみりゃを持ち替え顔を正面に向ける。
「ううーーーーー!! はなさないとさくやにいいづけるどぉーーー!!!!」
 両腕でお腹を押さえられているれみりゃは、自分の両手を首元まで持ってきてぶりっ子のポーズを取りながら、若干涙が滲んでいる顔を女性に向けて言葉を吐き捨てた。
「ああこわいこわい!!」
「ぎゃっは!!! うう!! あっぎゃ、かは!!」
 掴んでいた腕から、握りつぶすように力を込めていく。
「これは私が退治するから、あんた達はそこでゆっくりしてなさい」
「「「「ゆっくりしてるよ!!!!」」」」
「うーーーー!!!! ざぐやーーーー!!! どぉごーーーー!!! はやぐれみりゃをだずげろーーーーー!!!!! あっぎゃーーーー!!!!!!!」
 戻ってきた霊夢は、一家に怪我がない事を確認するとご馳走を作るからといって家の中へ消えた言った。
 その日の夕食には、美味しい肉まんと、餃子と、よく出しの取れたお吸い物が並んだ。
「ゆっくりいってくるね!!!!」
 今日も、ゆっくり一家は街へお金を稼ぎに出かけていった。
「これは良い方法だったわ。クズ野菜なんかに砂糖を混ぜて出せば美味しいって言ってくれるんだから。無い時はそこら辺のゆっくりで良いし。お金もいっぱい溜まるし、やっぱり後を付けていって正解だったわね」 
 満面の笑みを浮かべて見送る霊夢は、ボソッと一言呟いて掃除を再開した。
「さてと、今日の夕飯はすき焼きが良いかしら、それとも奮発してお刺身でも買おうかしら?」


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年07月28日 00:53
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。