「ゆっゆ♪ ゆくり~~していってね~~~♪」
騒々しい街の中、ストリートミュージシャンに混じってゆっくり霊夢の一家がお喋りをしていた。
「!! れいむとこどもたちのおうたじょーづだったでしょ!! おかねいれてね!!」
「いれちぇねーーー!!!」
どうやら、他の人間がこうやってお金を手にしているのを見て真似をしているらしい。
通りかかった男に気が付いた一家は、お喋りを中断させて男に話しかける。
「ゆ!! お金入れててね!! どうして黙ってるの!!」
「れいみゅたちの、うつくいしこえにみとれちゃったんだね!!」
「ゆ!! それならしかたがないけど、はやくおかねいれてね!! いちまんえんだよ!!」
「「「いっちまんぇん!!!!」」」
ぽかんとしている男を尻目に、一家はお子で覚えたのかお喋りの聴講料に一万円を要求してくる。
「……お金が欲しいのか? ……ほら」
「ゆ!! ありがとーーね!!」
「すごいね!! こんなにもらえたね!!!」
「これだけあればふゆのあいだも
ゆっくりできるね!!!」
「「「「ゆっくり~~~~♪」」」」
男から渡されたのは一万円のお札であったが、一家はその本当の価値は分からず、ただお金を渡された事だけに感激しているようだ。
「それじゃあ、みんなゆっくりついてきてね!!」
お母さん霊夢を先頭に、一家は一列になって元気に進んでいく。
最後尾は、先ほどの男だが、後ろを見ないゆっくりたちはその存在に気付いていない。
「ゆ♪ ここだよ!! はやくはいろうね!!」
「「「「ゆっくりしていってね!!!!!!」」」」
近くの店に入るや否や、全員でお決まりの文句を言い、そのまま店のレジへ。
「ゆっゆ♪ このおかねでゆっくりできるたべものいっぱいちょうだいね!!」
「「「けちけちしないでいっぱいちょーだいにぇ!!!」」」
跳躍し、レジに上がった親の声に重ねる形で、子供達も食べ物を要求する。
「……んべ!!!」
しかし、ニコニコ顔に突きつけられたのは拳だった。
「んぎゃぶ……」
レジの下に叩き落されたお母さん霊夢、びくびく痙攣しているその周りに、子供達が駆け寄ってくる。
「おがーーじゃーーん!!」
「にゃにしゅるにょーーー!!!」
「れーーみゅたちはたべものをかいにきちゃんだよぉーー!!」
「……ゆゆゆ、きちんとおかねをはらうんだから、らんぼうしないでね!!」
余りダメージは深くなかったのだろう。
すぐさま回復したお母さん霊夢は店員に文句を言うが、バイトのおにーさんはしれっとあしらう。
「偽札っすよ。買いたきゃ本物の金持ってきてください……っす」
「ゆ!!」
お母さん霊夢が、ここに来るまで満面の笑みで咥えていたお札。
少し涎でふやけてはいるが、そこには大きな文字で子供銀行の文字が書かれていた。
「ゆ!! ちがうよ……んぶ!!」
「「「ゆーー!!」」」
「あじゅじゅしたー……っす」
それ以上の抗議を許さず、店のそこまで吐き出された一家。
「よ!!」
すると店先には、先ほどの男の姿が。
「ゆゆ!!! おにーーさん!! このおかねはつかえないよ!!」
「しょーだよ!! つかえるおかにぇちょーだいね!!」
「「「ゆっくりれいむたちにおかねちょーだいね!!!」」」
「るさい!!」
「んじゃ!!」
余りにも煩かったのだろう、一番身近にいた子霊夢を蹴飛ばし、摘み上げる。
「ゆぐぐぐ!! はなしてね!! いだいよ!!! おがーーしゃーーん!!!」
「ゆ!! そのこをはなしてね!! ゆっくりはなしてね!!!」
「煩いって言ってるんだよ!! 大体、さっきのお喋りで何で金を取られなきゃならないんだ?」
手にしている子供を一家に見せながら、男は淡々と話しかける。
「ゆ!! れいむたちはおうたをうたってたんだよ!!」
「そうだよ!! れいむたちのおうたじょーずなんだよ!!」
「もうっ♪ おにーさんちゃんときいてね♪」
「んんぎゃらっぺいんじょーーー!!!!」
「「「「「ああああ!!! なにずるのーー!!!!!!」」」」」
「この位じゃまだ死なないだろ。それより、そんなに歌に自信があるのなら俺について来い」
そして、ぐったりとしている子霊夢を握った男の後ろをぴょこぴょこ着いていく一家。
たどり着いたのは、先ほどとは反対側の大通りであった。
「ほら。そこを見てみろ」
「「「「ゆ?」」」」
男と一家の視線の先には、ブリーダに育成された霊夢と魔理沙の一家が楽しそうにテンポよくお喋りをしている。
「ゆゆゆ!! おかねをもらってるよ!!!」
「ほんとだ!! たくさんもらってるよ!!」
「なんで!! どうして!!!」
空き缶に次々と投げ込まれるのは、殆どがカースト制最下位の硬貨なのだが、一家は恨めしそうに見つめる。
未だ、その理由が分かっていないのだろう。
「お前等の歌よりもずっとずっと上手だからさ」
「「「「!!! ゆぐ!!!」」」」
幾ら餡子脳と言われているゆっくりでも、流石に現物を見れば理解するらしく、みるみる間に顔に皺が増え、ついには大声で泣き出した。
こちらのほうがリズムが良い。
「ぞんなーーー!! れいむはおうたがじょーずだねっでいってぐれたのにーー!!!」
「おかーーしゃんはおうたはじょーーずだよーーー!!!」
「いいや。下手だね。俺以外のヤツに声をかけてたら、即座に潰されるか加工場に連れていかれただろうね」
「「「「「ゆっぐりーーーーーーーーーー!!!!!!!」」」」」
加工場の言葉が燃料となり、更に一家の泣き声は大きくなる。
それにしてもこの一家、抜群のリズム感である。
「それでだ。この俺がお前えらの歌を鍛えてやってもいいぞ?」
男の拍子抜けの提案に、最初に泣き止んだお母さん霊夢が応える。
「ゆ? ……れいむたちおうたじょーずになるの?」
「そうだ。あの一家よりも沢山のお金がもらえるかもな」
「やる!! やるよおにーーさん!! れいむたちにおうたおしえてね!!」
「「「「おちえちぇね!!!!」」」」
こうして、男とゆっくり一家の特訓が始まった。