先程までののんびりとした雰囲気はどこに行ったのか。
部屋は阿鼻叫喚の坩堝と化していた。
泣き叫び俺から逃げ惑う赤ゆっくりもいれば、目を見開いたままガチガチと歯を鳴らすことしか出来ない赤ゆっくりもいる。
「ゆゃああああ!!!」
「ごわ゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」
部屋の隅に、押し合いへし合い団子になって震える赤ゆっくり達。
「・・・・・・・・・」
事態を理解したくないのか真っ白になったまま動かないゆっくり。
反応は様々だが、共通して俺に恐怖を抱いている事は確かだ。
鞭の効果は絶大。これで俺に逆らえばどういう事になるか良く理解しただろう。
ゆっくりに対する飴と鞭は、3対7が理想とされている。
しかしこれは成体の場合。
記憶容量が少ない赤ゆっくりは都合の良いことしか覚えようとしないので、幼体のころは飴など殆ど必要ない。
先ずはビシバシ厳しくして駄目な奴から切り捨てていく。
代わりはいくらでも居るのだ。
「うにゅーーーーーっ!!!」
・・・・・・代わりが無いタイプの奴がまたも俺に対して体当たりを仕掛けている。
またかよ。ほんと学習してねぇな、コイツ。
あと俺が怖くないのか。一応お前の仲間の赤ゆっくりブチ殺しているんだけど。
普通こんな事をされたら問答無用でブチ殺しているのだが相手はゆくうだ。
短気で殺すには惜しい価値を持っている。
幸い他の赤ゆっくりどもはパニックになっており、おくうの蛮勇は見えていなさそうなので影響を受ける心配は無さそうだ。
ならば処置は決まり。俺はゆくうに向かってデコピンを見舞う。
さっきよりもだいぶ強い力で、だが。
ベチィ!
「う゛に゛ゅ゛ん゛!!!!」
コロコロコロ・・・・・・・・・
顔を大いに凹ませ、勢い余って転がっていくゆくう。
やがて回転は止まったが、ゆくうは気絶してしまったようでピクリとも動かなかった。
むしろ好都合だ。今の内に他の赤ゆっくりどもにしっかりと上下関係を教え込もう。
「分かったな?俺の言う事に従わないとどうなるか」
「「「「「ゆ゛ひっ」」」」」
部屋に散らばった赤ゆっくりの一匹一匹を睨め付けるように言い含めていく。
視線が合った赤ゆっくり達は、「ゅぴぃ」と言いながら震えるばかり。
「俺の言うことが理解できたのならその場で跳ねろ。跳ねない奴は殺す」
「「「「「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅぅぅ!!!」」」」」
言うや否や、凄まじい勢いで跳ね始める赤ゆっくり達。
その顔は恐怖に歪み、引き攣っている。
俺が止めろと言わなければ体力の限界まで跳ね続けるだろう。
跳ねると言う行為自体は先程と全く同じなのに、少し脅かしただけでここまでの変わり様とは。
だからゆっくりは面白い。
「止めろ。全員理解したな。それで良い。早速だが、飯だ」
茎を回収して赤ゆっくり達のほうへ放り投げる。
赤ゆっくり達は俺の行動にビクッと身を竦ませたが、それが特に何の危険も無いと分かるとまた震えて俺を見続けた。
流石にいきなり食いつくような馬鹿は居ないか。もし居るとしても、その馬鹿は気絶中である。
今日の予定はこれでおしまい。さっさとこの部屋を後にしよう。
「ちゃんと全員で仲良く分けろよ?独り占めするような悪い子は要らないからな」
それだけ言って赤まりさ達の遺骸を回収し、ドアを開け、俺は部屋を後にした。
ドアの向こうでは赤ゆっくり達の安心したような気配が伝わってくる。続いて餌を食べようとする気配も。
最初に残ったのは290匹か。なかなか幸先の良い出出しだ。
それにゆくうの存在――あれの躾を考えると気合が入る。
ゆくう専用の教育課程でも組んだ方が良いかもしれない。それとも教師役として別のゆっくりでも付けるか。
何にせよ他の赤ゆっくり達の事も考えると色々やっておくべき事はある。
一匹たりとして同じゆっくりは居ない。それぞれに見合った躾を考えてやる必要がある。
―――もちろん、服従させる方法も。
さぁ、今日からちょっとだけ忙しくなるぞ。
赤ゆっくり達の最初の教育は、数の数え方から始まる。
普通のゆっくりは3以上の数を「たくさん」としか認識出来ない。これはゆっくりの習性みたいなものだ。
だがこの赤ゆっくり達はその習性がすっぽり抜け落ちているので案外教えるのは容易い。
―――野生のゆっくりと人間が対立する原因はその「価値観」の相違にある。
先ずはこうして、赤ゆっくり達の認識を人間寄りに近づける必要があるのだ。
「おい、そこのれいむ。こっちへ来い」
「ゆひぃ!?」
「怯えるな。殺しはしない。算数の勉強だ」
「・・・ゆっ?さんすう?」
「ゆっ!!きらきらしゃん!!!」
「そうだ。これはおはじきと言う。俺の出す問題に全て正解できたら次の勉強の時間まで貸しておいてやるぞ」
「ゆっ!?れいみゅがんばりゅよ!!」
「さて問題。れいむ、今俺が持っているおはじきは何個でしょう?」
「いっこ!!!」
「正解。それでは次の問題、そこに更に一つおはじきを追加しました。いったい何個でしょう?」
「にこだよ!!!」
「正解。さて更に次、もう一個おはじきを追加。さぁおはじきは何個だ?」
「たくしゃん!!!」
「不正解。おはじきは貸せないな」
「ゆが~~~~ん!!!」
大抵の赤ゆっくりは最初に躓くものだが、それでも何匹かは正解を答えたりする。
そんな時には約束通りご褒美としておはじきを一個貸してやるのだ。
「ゆゆっ!!きらきらしちぇる!!!いーなぁ」
「とっちぇもゆっくりしてるのじぇ」
「むきゅ。すごいわ、ありしゅ」
「がんばったからしぇんしぇいはありしゅにきらきらしゃんをくれたわ!ありしゅのたからものにしゅるわ!」
「あ、貸しただけだからな?ちゃんと返せよ」
「ゆがが~~~~ん!!!」
中にはそういったゆっくりを妬んでおはじきを奪い取ろうとする赤ゆっくりもいる。
そういう個体も不適格。さっさと処分してしまう。
「れいみゅにそのきらきらしゃんちょうだいね!!さっさとちょうだいね!!」
「むきゅ、れいむ、これはぱちぇががんばって・・・・・・」
「いいからちょうだいね!!!」
「む゛ぎゅっ!?え゛ほっ、え゛ほっ・・・・・・」
「何やってんだそこのれいむ」
「ゆっ!?れいみゅはきらきらしゃんがほしいんだよ!!だからぱちゅりーからもらってあげぴぃ!!!」
数の数え方と平行してひらがなの読み取りも教える。
これは後に本を読ませたりして人間のルールを教え込むのに役立つこととなる。
人間の保育園に置いてあるような五十音表を使って赤ゆっくり達に教え込む。
「まりさ。この字はいったい何と書いてある?」
「ゆっ!!しょれは『あ』だよ!!」
「正解。ではこれは?」
「『い』だよ!!」
「正解」
ゆっくりは言葉を喋れるからか、比較的早い段階から文字を読み取れるようになる。
それでもゆっくりらしく最初の内は平仮名しか読めないが。
最終的にはある程度の漢字も読ませられるように仕上げる。
「ゆゆ~ん!!らくしょうだよ!!」
「・・・そうか?じゃ、これは?」
「『さ』だよ!!ちぇんちぇい!!」
「ハズレ。これは『ち』です。じゃあこれは?」
「ゆっ・・・・・・こ、これは『は』だよ!!」
「ハズレ。『ほ』だ。じゃあこれは?」
「ゆ、ゆゆぅ~~~~・・・・・・『め』、だと、おもうよ・・・・・・」
「『ぬ』だよ、ハズレ。どこが楽勝なんだ?ええ、まりさ?」
「ゆ、ゆぅぅぅぅぅぅぅ!」
先の算数と比べると簡単だが、それでもこうやって失敗する赤ゆっくりは後を絶たない。
例外として、ぱちゅりー種だけはほぼ全員完璧に答えられている。
やっぱり本の虫になるべくそういう才能があるのだろうか。
「よしぱちゅりー、良く出来たな。ご褒美として絵本を貸してやろう」
「むきゅん!?いいの!?」
一通り読めたものにはこうして絵本を貸し出してやる。
内容はひらがなオンリーの、『ゆっくりのるーる』という本だ。
読んで字の通り、ゆっくりが覚えるべき決まりを分かりやすく記されたものとなっている。
「ゆぅ~!ぱちゅりー、しゅごーい!!」
「ごほんよんでー!!」
「むきゅきゅ、てれるわ。ええと、『ゆっくりのてぃーぴーおー』・・・むきゅ?なにそれ?」
こうやって本を読める者が読めない者に教えることで手間をある程度省くことが出来る。
それに読めない者の文字の勉強にもなって一石二鳥だ。
ゆっくりの常識がごっそり抜け落ちた彼女たちは、本に書いてある内容以外の判断基準を持たない。
ここで赤ゆっくり達は人間の常識に対応する下地を作り上げるのである。
先程のおはじきもそうだったが、ここで借り物の本を自分のものだと言い張る個体が現れる。
ある程度まで注意はするが、それも聞き入れないなら処分だ。
此処で赤ゆっくり達に我侭は許されていない。
「いやよ!!これはぱちゅりーのごほんよ!!もってかないで!!」
「さっき俺は『貸してやる』と言ったんだが?いい加減返さないと酷い目を見るぞ」
「これはぱちゅのなの!!せんせいのじゃないの!!」
「あっ、そう。それじゃあさよならだ」
「むきゅ!?なにいって・・・むぎゅううううう!!!」
運動も忘れずに行わせる。
いくら飼いゆっくりとは言っても、最低限の体力をつけなければペットとして不適格である。
それに運動させないとゆっくりはデブになる。過剰な餡子を排泄物として排出する個体も居る。
体内の餡子を循環させ、知能の発育を促すためにも運動は必須なのだ。
「それじゃあこの部屋を大きく一周。遅れているものが居たら助けるように。では初め!」
「「「「「ゆゆーっ!!!」」」」」
ここではやはりと言うか、まりさ種、みょん種、ちぇん種が得意とする分野である。
逆に苦手なのはぱちゅりー種とありす種。後者はこういうドタバタした動きが苦手らしい。
れいむ種は平均・・・よりちょっと下、といった所か。算数も読み取りも同じような成績だ。
万能と言うよりは、器用貧乏といった方が合っているかもしれない。
「ゆっせ、ゆっせ、ゆっせ、ゆっせ」
「みょん、みょん、みょん、みょん」
「わかるよー、みんなはやいんだねー」
「む・・・むきゅう・・・・・・」
「ぱちゅりー、だいじょうぶ?ありしゅにつかまってね」
「れいみゅにもつかまってね。いっしょにがんばろうね」
こんな調子で脱落者はほぼゼロ名となっている。
例外は、最初から走ろうとしない怠惰なものだけだ。
やはりある程度注意はするが、それも聞き入れないようなら処分する。
「みんなばかだねー、もっとゆっくりすればいいよー」
「おいちぇん、何故走らない?お前だけが走っていないぞ」
「ちぇんははしりたくないんだよー。それよりもひなたぼっこのほうがゆっくりできるよー」
「・・・・・・ふむ。ある意味猫らしいが、そういうの要らないから」
「わぎゃっ!?・・・・・・わ、わぎゃらないよ゛ー・・・・・・・・・」
ゆっくりの成長に、餌と言うのは欠かせない要素だ。
食べたものを餡子に変換するといっても、栄養のある食物を摂取した方が知能や精神の発育に良いのだ。
しかし、あまり美味い餌を食べさせると舌が肥えてしまう。
酷いものになると人間のお菓子でしか満足できないようになったり、それが元で餓死してしまうのだ。
そういうことを勘案した結果、赤ゆっくりに与える餌は加工所謹製のゆっくりフードを使うことにしている。
値段は4kg500円。「安っ」と思われるかもしれないが生物未満であるゆっくり専用の餌なのでこんなもんである。
それにこの世には一トン千円台の飼料もあるのだ。栄養とか内容物とかがアレなので使わないが。
ちなみに加工所以外のゆっくりフードは毒性の強いものが多いので気をつけよう。
「ほら、お前ら。餌だぞ」
「「「「「ゆっー!!!」」」」」
餌用の大皿にゆっくりフードを注ぎ込みながらそう宣言する。
津波の如く集団でこちらへやってくる赤ゆっくり達。
「待て!」
「「「「「「ゆっ!?」」」」」
そこで『待て』の命令をかける。
こういう所でも指示に従わせ、ヒトの言うことをきちんと聞くゆっくりに育て上げるためだ。
・・・勿論、そう上手くいかないのは重々承知である。
「ゆっ!!ごはん!!ごはん!!」
「まりしゃがいちばんなんだじぇー!!!」
身の程知らずの赤れいむと赤まりさが一匹ずつ飛び出してきた。
とりあえず警告1。二匹を強めのデコピンで弾き飛ばす。
べちん。
「ゆぎゅっ!!」
「ぷべっ!!」
ころころと転がり、他の赤ゆっくり達の下へと戻る二匹。
赤れいむはそれで懲りたようだが、赤まりさは起き上がると同時にまたこちらへとやって来た。
警告2。先程よりも強いデコピンで迎え撃つ。
ベチッ
「ちゅぶん!!!」
ころころころ・・・
「ゆ゛ゆ゛・・・・・・まりしゃのごはん!!」
再び転がり倒れ、それでも餌への執着を止めない赤まりさ。
仏の顔も三度まで。もう手加減はしない。
過ぎたる執着は身を滅ぼすのだ。
赤まりさをつまみ上げ、そのまま捻っていく。
「ゆぎゅっ・・・ぢゅみまぢぇん!!まりぢゃ、はんちぇいしまぢだ!!だぎゃらたちゅkあぎゃああああああ!!!」
聞く耳持たず、赤ゆっくり達の目の前で赤まりさを惨殺する。
基本として、こういう処分が決定した赤ゆっくりはみんなの前でむごたらしく殺す。
その方が他のゆっくり達にとっていい薬になるからだ。
「ゆっくりぃ・・・」
「こわいよ・・・」
「しぇんしぇいやっぱりこわい・・・」
目の前で仲間を殺された赤ゆっくり達は、それがトラウマとなり以後そのような行動を慎むようになる。
俺への恐怖心も忘れない、個人的に気持ち良い、一石三鳥だ。
赤ゆっくりは物事を忘れやすいため、ちょくちょくこういう事をやる必要がある。
「俺の言うことを聞いていれば殺したりはしない。お前ら、分かったな?」
「「「「「・・・ゆっくりりかいしたよ・・・・・・」」」」」
「良し。それじゃあ食べて良いぞ」
「「「「「ゆっくりいただきます・・・・・・」」」」」
「ほら、おくう。あたいと一緒にがんばろ?ね?」
「う、うにゅ・・・・・・」
ゆくうには特別に、教師役のゆっくりを付けることにした。
胴付きのゆっくりおりんである。相性は最高だ。
⑨のゆくうの教育も、これで格段にやりやすくなるだろう。
算数。
「おくう、今おはじきは何個ある?」
「ひとつ!」
「正解。じゃあこれは?」
「ふたつ!」
「正解。それじゃあもう一つ足して・・・さぁどうなる?」
「・・・・・・あ ろっと!」
「何で英語?」
読み取り。
「・・・・・・おくう。これは一体何と読む?」
「H!」
「・・・・・・じゃあこれは?」
「U!」
「・・・・・・これは・・・・・・?」
「Pu!」
「・・・・・・何で元素周期表なんだよ・・・・・・」
運動。
「うにゅーーーーーっ!!!」
「㌧㌦」
「うにゃー、おくうったらもう飛べるようになったんだねぇ」
「いや、そうじゃないだろおりん。なんか違うだろ」
「一応おへやの中を一周してるからだいじょうぶじゃない、お兄さん?」
「・・・・・・いやまぁ問題ないっちゃ問題ないんだが・・・・・・」
「うにゅーーーーーっ!!!」
食事。
「待て、おくう」
「うにゅ!!」
~三十分後~
「・・・・・・もう食べて良いぞ、おくう」
「うにゅ!・・・・・・うにゅ?」
「・・・三歩歩く前に忘れてやがる。ほら、おくう。もう食って良いぞ」
「うにゅ!・・・・・・うにゅ?」
「いやだからもう食べても良いって」
以下略。
・・・・・・規格外であった。
根が素直そうなので言う事は聞くものの、結果がすべて斜め上なのだ。
とりあえずデコピンをかます。相当強い力で。
「うっっ゛に゛ゅ゛ん゛!!!」
ひとまずはこんな所である。
赤ゆから子ゆへと成長する過程で、最も多くのゆっくりが死ぬ。
一週間経過した現在、既にゆっくり達の数は150を切った。
これからもバシバシ死ぬだろう。
道徳や交通ルール、人間の常識などの教育は子ゆっくりになってから行う。
その頃には十分な知識の下地を作っている筈だ。
落伍するとしたら、性格に難ありの者。
所謂"己がゆっくりしたいから従っているだけ"の"ゆっくりさせろ"タイプ。
その手のゆっくりは後々堕落するので最後まで育てる事は無い。
もうすぐ赤ゆっくりから子ゆっくりへの成長――第一次成長期――に達する。
その時にはまたどれ程のゆっくりが残るだろうか。
非情に・・・・・・いや、字が違った。非常に楽しみだ。
つづく
―――――
書き溜めです。
気付いたらゴミ箱に埋もれていた物をちょちょいと手を加えて完成させました。
今までのゆっくりに足りないものは何か?→爆発オチだよ!
と言うわけで爆発要員の確保、これからオチに困ったら基本自爆させます。続きは未定。永遠に未定。
最終更新:2022年04月27日 23:42