れいむの元から逃げ去った2匹の子れいむは、親れいむから逃げるために、方々に散って行った。
1匹は内風呂の中へ、もう1匹は最初に来た植え込みの中に飛び込んだ。

内風呂に入っていった子れいむは、運よく開いていたドアが目に止まり、その小さな部屋の中に飛び込んだ。
しかし、そのドアにはロープが掛けてあり、使用禁止と書かれてあったのだが、子れいむに文字が読める筈もない。
小部屋の隅でしばらく身を隠していると、親れいむの声が内風呂の中に響き渡った。
自分を追って来たと思った子れいむはガタガタ震えたが、どうやら親れいむは子れいむのほうに来る気はないらしく、向こうで壁に体当たりしている音が聞こえてきた。
その後、ドアの開く音と共に、れいむの悲鳴が子れいむの元まで届いてくる。
何をされているのかは知らないが、今まで聞いたこともないような親の絶叫に、子れいむはチビりながら、その声が止むのを待ち続けた。
やがて親れいむの悲鳴も止み、人間の足音が遠さかって行ったが、子れいむは恐怖に足がすくみ、その場から動くことが出来なかった。
そして、神経を減らし続けた結果、余りの疲れにいつの間にか子れいむはその場所で眠ってしまった。

「まったく!! 今日はゆっくりが多くて、散々だよ」

清掃のおばさんが、まりさ親子を崖下に捨て、露天風呂の掃除を終えて戻ってくると、子れいむの入った部屋の入口に掛けられたロープを取って、ドアを閉めた。
閉められたドアには、こう書かれたプレートが填められていた。



“サウナ室”




「ゆっ?」

子れいむは目を覚ました。
一瞬、自分がどこにいるのか分からなかったが、周りを見渡し、すぐに自分がここにいる理由を思い出した。
どのくらいたったのかは知らないが、小さな部屋の窓からのぞく空は、少し夕日掛かっている。
子れいむはまだ親れいむが怒っているのでは震えた。
悲鳴は聞いていたものの、現場を見たわけではないので、まさか親れいむが死んでいるとは夢にも思わなかった。
どうやって帰ろうか? 謝れば許してくれるだろうか? いろいろ考えたが、結局名案が浮かばなかった。
そんな折、子れいむは空腹感に襲われた。
まりさ達と違って、子れいむはお菓子を食べていないのだ。一度感じると、立ってもいられないくらいお腹が空いてくる。
もう帰ろう。お母さんもきっともう怒っていないだろう。
子れいむの餡子脳は、空腹に負けて、面倒事を考えるのを停止させた。

子れいむは、小さな部屋から出ようとした。
しかし、さっき入ってきた入口は、大きな木の板で塞がれていた。
子れいむは、自分が出口を間違えたのかなと、小部屋の中を行ったり来たりしたが、どこにも出られるような場所は無かった。

「ゆうう―――!!! なんで、でられないのおおぉぉぉ――――!!!」

部屋から出られなくて、泣き出す子れいむ。
しかし、ここで泣くことは、ある意味自殺行為に等しいことを、子れいむはまだ知らなかった。

一通り泣き叫んで、子れいむは誰か助けが来るのを待っていた。
窓から見える空は、もうすっかり真っ暗であり、この時期は夜になると、めっきり寒くなってくるのだ。
ゆっくりは寒いのが大の苦手である。
子れいむも、「寒いのはいやだよおおぉぉぉ―――!!!」とまた半ベソをかくも、そこで子れいむは異変に気がついた。
なぜか部屋が暖かいのである。
本来ならもう寒い時間だと言うのに、この暖かさときたらどうだ。まるで春の陽気のそれではないか!!

「ゆゆっ!! あったかくなってきたよ!!」

暖かくなってきて、喜ぶ子れいむ。
空腹なことも部屋から出られないことも一時忘れ、嬉しくなって部屋中を飛び跳ねている。
しかし、次第に状況が一変し出した。
熱さが下がらないのだ。
春の陽気は次第に夏の昼下がりになり、夏の次に秋が来ることはなく、その後もグングン気温が上昇していく。

「たいようさ―――ん!! もうやめでええぇぇぇぇ――――!!!」

子れいむは、余りの暑さに意識がもうろうとしだしてきた。
すでに沈んでいる太陽に文句を言い放つ。
しかし、太陽(笑)は、子れいむの言うことを無視して、どんどん気温を上昇させていく。
室温70度くらいの頃だろうか? 
子れいむの座っている木の板が高温になり、同じ場所にじっとしていられなくなった。

「あじゅいおおおおぉぉぉぉ―――――!!! やめでえええぇぇぇぇぇぇ――――――!!!!」

あまりの熱さに、子れいむは飛び跳ね続けるしかなかった。
その間も、子れいむの体からどんどん水分が奪われていく。
泣いたり、チビったりしなければ、もう少しは水分ももったかもしれないが、既に子れいむの体の水分は限界まで搾り取られていた。
遂には、跳ねる力さえ出てこなくなった。

「なんで……れいむがこんな……めにあわ…なく……ちゃなら………ない…の?」

カサカサになった唇は最後にそう呟くと、子れいむは先に行った姉妹たちの元に旅立って行った。
2時間後、水分の無くなったカラカラの焼き饅頭が、温泉客に見つけられた。







植え込みの中に逃げ込んだ子れいむは、適当な方向に逃げて行った。
とにかく親れいむに捕まるまいと、場所も考えることなく精一杯逃げていく。
やがて、子れいむの体力が付き、これ以上歩けないというところで、子れいむは足を止めた。

「ゆひーゆひーゆひー……」

大きく肩で息を付く子れいむ。
後ろを振り返ると、親れいむの姿は見えないし、声も聞こえない。
逃げ切ったのだと、ようやく子れいむは、一息つくことにした。
子れいむはその場でしばらくジッとしていれば、その内親れいむの怒りも収まるだろうと考え、安全そうな草むらに身を隠して、疲れをいやすべく眠りについた。

子れいむが起きたのは、サウナに入った子れいむと、ちょうど同じくらいの時間だった。
すでに空は真っ暗で、うっすら寒い。
もう親れいむの怒りも静まった頃だろうと、子れいむは巣に帰ろうとした。
しかし、その時になって、ここがどこか全く分からないことに気がついた。

「ゆううぅぅ―――!! ここはどこおおおぉぉぉぉ―――――!!!?」

大声で叫んでも反応してくれるものは誰も居なく、子れいむは仕方なく、運良く来た道に戻れることを祈り、適当に歩き始めた。
しかし、そんなことで無事にたどり着けるほど、世の中は甘くない。
元々体力が少ない子ゆっくりで、しかも飯抜き山中歩行をしたおかげで、せっかく体を休めたというのに、すぐに子れいむの体力は限界に達した。

「……もう……あるけないよ……」

子れいむはその場にうずくまった。
すると、目の前の草影がカサカサと動き出した。
初め、親れいむが迎えに来てくれたのかと思ったが、出てきたのはカルガモの親子だった。
子れいむは落胆したが、すぐにあることが閃いた。
このカルガモ達なら、あの温泉の行き先を知っているに違いない!!
あそこまで連れて行ってもらえば、後は巣の帰り方は分かっている。

「とりさん!! れいむをゆっくりおゆのところにつれていってね!!」

カルガモに向かって、跳ねて行くれいむ。
本当に危機意識の薄い饅頭である。
人間ならともかく、野生生物の前に饅頭が行くなど、空腹のライオンの前に自分から進んでいく草食動物に等しい。
結果は言うまでもないだろう。

「ゆぎゃああぁぁぁぁぁぁ―――――!!! なにずるのおおおぉぉぉ―――――!!! れいむはたべものじゃないよおおぉぉぉぉぉ―――――!!!!」

親カルガモはれいむを咥えると、子カルガモの前にれいむを差し出した。

「やめでえええぇぇぇぇぇぇぇ――――――!!!! いだいよおおおぉぉぉぉぉぉぉ――――――――!!!!」

子カルガモに、チクチクと啄ばまれ暴れ狂う子れいむ。
しかし、親カルガモの体長は60㎝近くもあり、子れいむとの力の差は歴然で、逃げだせるはずがない。
子カルガモは、子れいむをボロボロ溢しながら食べていくも、しっかり下に落ちた皮や餡子も、残さず食べていく。
食べ物を粗末にしないその精神は、飽食になれた外界の人間や、どこぞの饅頭一家にも見習わせたいくらいである。
やがて、子カルガモ達がもう食べられなくなると、半分ほど残った子れいむは、親カルガモに美味しく食べられた。
ここで、一家全員が死亡したこととなった。


結局、この一家の不幸はカルガモに始まって、カルガモに終わることとなったのである。





~本当にfin~












カルガモの親子って可愛いよね!!
なのに、ゆっくりが同じことやっても腹が立つだけなのはなぜだろうww
ちなみに帽子の設定は、家族は帽子を被ってもなくても個体認識が出来るということで。


今まで書いたもの


  • カルガモとゆっくり 前編
  • カルガモとゆっくり 後編
  • カルガモとゆっくり おまけ

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最終更新:2022年05月03日 16:29