とある森の中を一匹のゆっくりまりさが飛び跳ねていた。
その様は正に元気一杯、ゆっくり種そのものである。
まりさは一本の大木に着くと、そこが目的地なのか、歩みを止めて大声を張り上げる。

「ありす、きたぜ!!」

まりさの呼びかけに、大木の麓にある小さな穴から一匹の饅頭が顔を出した。
ゆっくりありすである。

「もお、まりさ、おそいわよ。とかいはをまたせるなんて、いなかもののすることよ」
「わるかったぜ。ひさしぶりにいもうとにあいにいってたんだぜ。ゆるしてだぜ!!」
「ゆゆっ! それじゃしかたないわね。とかいはのわたしはうつわがおおきいからとくべつにゆるしてあげるわ」
「ありがとうだぜ、ありす!!」

反省の素振りが全く見えないが、まりさをゆるすありす。
まりさは度々遅刻してはこのセリフを口にする。しかし、そんなまりさをありすは一度として叱りつけたことはなかった。
いや、叱り付けられる訳がなかった。


ありすは小さいころに両親とありすを除く姉妹をすべて失った。
ゆっくりはその性質上、非常に敵が多い。
体そのものが饅頭であることから、食用として人間やゆっくりゃなどの捕食者に捕獲されることが多く、また、里の田畑を荒らすこともあって、農家からは害饅頭として駆除されることもしばしばである。
そのふてぶてしく生意気な様は、一部の人間の嗜虐心を高めさせ、無駄に敵を作ることも余念がないし、水に入れば溶けてしまう癖に川辺が大好きなどといった、野生生物としての何かを幻想郷の外に置き忘れてきたとしか思えない生物である。
そんなこともあって、大抵のゆっくりは片親に育てられるか、姉妹の何人かは犠牲になるか、家族をすべて失い、群れのコミュニティの一員として育てられるかといったゆっくりが多い。

ありすの父親はありすが赤ちゃんの時、餌を求め畑に入ったところを人間に捕まり処刑された。片親で育てられたありすだが、ある時、一つ上の姉を除く姉妹と母親は巣の中で全滅していた。人間が嗜虐心を満たすため、虐待をしたのである。
このありすはちょうど一つ上の姉と散歩に出かけていたため、運よく難を逃れた。
巣に戻り、現状を見たありすは泣き喚いたが、姉がそんなありすを叱り飛ばした。

「おかあさんたちはしんじゃったけど、とかいはのありすたちはおかあさんやほかのしまいのぶんもいっぱいゆっくりしなくちゃいけないんだよ!!」

そんな姉の言葉に励まされ、新たな生活を始めた二匹の姉妹だったが、さらなる不幸がありすたちを襲った。
さすがに人間に見つかった巣にいるのは危険と判断し、新たに二匹で暮らせそうな巣を見つけ生活することにした途端、今度はゆっくりゃに襲われることになった。
姉妹は必死で逃げたが、これ以上逃げられないことを悟った姉が、囮になってありすを逃がしてくれたのである。
ありすはゆっくりゃに捕まった姉を助けようとゆっくりゃに向かっていこうとした時、ゆっくりゃに握られた姉がありすを叱りつけた。

「こっちにきたらいくらとかいはのありすでもゆるさないよ!! ありすは家族みんなのぶんまでゆっくりするぎむがあるんだよ!!」

今にも食べられようというときの姉の言葉に、ありすは奥歯を噛みしめ、姉の愛情を無駄にすまいと、ゆっくりゃから急いで逃げていく。その背中に姉の悲鳴を一身に受けながら……
体中傷だらけになりながらも、なんとかゆっくりゃから逃げられたありすは、森の中をとぼとぼと歩いていた。
もう家族は誰も居ない。しかも、ありすはまだ子供である。自分では狩りをすることもできず、親の庇護なしには生きていけない。近くにはありすを受け入れてくれそうなコミュニティも存在しない。
ゆっくりレイパーとして名高いありす種であるが、それを除けば、ぱちゅりー種に並ぶとも劣らない知能の高いゆっくり種である。今後の自分の境遇を否応なく予測できるだけに、一層、ありすから生きる気力を失わせていた。

ゆっくりゃに襲われて一週間。木の皮や土を食べてなんとか生きながらえてきたが、どうやら限界が来たようだ。
ありすはおそらく二度と開くことがないのだと理解し、ゆっくりと瞼を閉じた。夢か現実か分からないが、最後に「ゆゆっ!! どうしたんだぜ?」という言葉を聞いた気がした。

ありすが再び目を開けると、そこは花咲き乱れた天国ではなく、周りが土で囲まれた洞窟のなかであった。
自分は天国ではなく、地獄に来てしまったのかと思ったが、周りを見渡すと一匹のれいむが目に止まった。
まだ赤ちゃんのそのれいむは、ありすの視線に気がつくと、元気よく「ゆっくりしていってね!!!」と声を上げる。
状況が全く呑み込めないありすが、赤れいむに尋ねようとすると、「ゆゆっ!! きがついてよかったよ!!」とバスケットボール大のれいむがありすに近づいてきた。
その隣には同じくバスケットボール大のまりさ、後ろには大小4匹の子れいむと子まりさが並んでいた。
どうやら、赤れいむの声に気づいて、こちらに来たらしい。

「ありすがたおれているのを、れいむのこどもがみつけたんだよ!! ありすはしにそうだったから、むりやりごはんをくちにいれて、てあてしたんだよ!!」

ありすはどうやらこのゆっくり親子に一命を救われたらしい。
「どうしてあんなところでしにそうになってたんだぜ?」と父まりさの質問に、ありすは今までのことを包み隠さず打ち明けた。
行くところがなく、餌も自分で取れなかったことを聞いた母れいむは「それなられいむたちといっしょに住むといいよ!!」とありすに進言する。
ありすは自分のような役立たずの他ゆっくりが居てもいいのかと聞いたが、父まりさも子供達も一斉に「「「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」」」とありすを歓迎してくれた。
こうして、ありすは新しい家族を手に入れたのである。


ありすがゆっくり家族の一員になって、はや数ヶ月。ありすは姉妹全員と完全に打ち解けていた。
中でも、冒頭に出てきたまりさは死にかけだったありすを最初に発見したまりさであり、年も近いことから、特に一緒にいる時間が多くなった。
このまりさは父親まりさ、母親れいむから生まれた、5人姉妹のちょうど真ん中である。
ありすは毎日、このまりさといっしょに父まりさや姉たちから狩りの仕方を教わり、帰ってくれば妹たちの世話をする。今まで不幸続きのありすだったが、ここにきてようやくゆっくりとした充実の毎日を送ることが出来ていた。

やがて、季節が一回りと半分たったころ、父まりさと母れいむが共に老衰で亡くなった。ありすや子供たちはとても悲しかったが、泣くことはなかった。なぜなら、その顔がとても安らかだったからである。
この両親は、敵の多いゆっくりにしては稀に見る、両方とも老衰で死んだ稀有なゆっくりである。
子供達も外敵に襲われることなくみな可憐に逞しく成長し、全員狩りの仕方も巣の作り方も覚え、一人前になっている。
長女と次女は最高の伴侶を見つけたし、真ん中のまりさはありすと一緒に生活していく中で、お互い恋心を持ち始めていた。
赤ゆっくりは少々心配だったが、多少親ばかも入っているが、どこに出しても恥ずかしくない器量の持ち主に成長したし、完全に自立出来るまでは長女とその伴侶がしっかり面倒を見てくれることになっていた。一人前になれば、きっと縁談が引く手数多だろう。
何の心残りもなく逝けたのだろう。まさしく、ゆっくり種にとっての最高の死に方といっても過言ではない。死後の世界で、きっと二人仲良くありすや姉妹たちを見守ってくれることだろう。

ただ、ありすとまりさはお互いを生涯の伴侶として認め合っていたが、一緒に住むことはなかった。一緒に住もうというまりさの提案をありすが断ったからである。

「なんでなんだぜ!? ありすはまりさが嫌いなんだぜ?」

信じられないといった様子で詰め追ってくるまりさ。
互いに想い合っていたと考えていたのは、自分の思い込みだったのだろうか?不安げな様子でありすの言葉を待っていた。

「もちろん、ありすもまりさがだいすきよ。でもまだいっしょにはすめないよ……」
「なんでなんだぜ? せつめいしてほしいんだぜ!!」
「ありすもまりさもまだおとなじゃないわ。もしいっしょにすんで……その……そういうことすることになったらこまるでしょ」

狩りも巣作りも人並みに出来るようになった二人だが、いかんせん、その体はまだ発展途上。行為をすれば、子供に栄養を吸収され死んでしまうかもしれない。少なくとも、後半年程度は自重するに越したことはない。
ありすは自分の種族の性癖をしっかりと理解していた。
まりさと一緒に暮らし、我慢できなくなって性行為の果てにまりさを殺してしまうかもしれない。
逆に両親が亡くなり、タガの外れたまりさがありすに行為をねだってくることもあり得る。
今すぐにでも行為を行えば、無事に子が生まれるか、朽ちていくか、確率半々といったところだろう。万一、生まれたとしても未熟児ができる可能性がきわめて高い。
もしそんなことになっては、自分を救い、育ててくれた父まりさと母れいむに申し訳が立たない。
ありすはそのことを懇切丁寧にまりさに伝えた。
まりさは最初は納得できないといった顔をしていたが、お互いすぐ近くに巣を作ることを条件に、最終的にはありすの意を汲んでくれた。
ありすだって一緒に暮らしたいのを我慢して、まりさと離れる選択をしたのだ。同じ巣には住めないけど、出来る限り傍にいたい。この条件はありすも望むところであった。
そうして、近くも離れ離れに生活することになったありすとまりさは、今日も家を行き来しているのである。



「れいむたちはげんきだったの?」
「げんきだったぜ。れいむもついにすきなあいてができたらしいぜ!!」
「ゆゆっ!! でもちいさいれいむがすっきりっ!! したらしんじゃうから、とかいはとしてはしっかりせいきょういくをしないといけないわ!!」
「あしたいっしょにれいむにあいにいこうぜ!!」
「ええっ!!」

二匹の会話に出てくるのは、勿論妹のれいむである。
ここ一月ほど、二匹は互いの家を毎日行き来しながら、日々を送っている。
まりさの家からは、長女と一緒に暮らす妹れいむの家は比較的近いため、まりさはありすの家に来る前に、妹に会いに行くことが多い。
最初は自分より妹がいいのかと軽いショックを受けたありすだが、ありす自身も妹たちを大事に可愛がっていたし、何よりありすはそんな家族想いなまりさに心惹かれたのだ。
ありすの方から別居を申し入れた手前、“とかいは”としては、しっかり自制しなければならない。
それに遅刻はするものの、まりさは毎日欠かさず家に来てくれる。これに文句を言ったら、天国の義両親に申し訳ないというものだ。

「それよりもありす、そのはなかざり、にあってるぜ!!」
「そ、そう。ま、まあ、とかいはのありすならなにをつけてもにあうんだけどね!!」
「ゆゆっ!! たしかにそうだぜ!! でもやっぱりにあってるぜ!!」

先日、巣の前に綺麗な花が咲いているのを見つけたありすは、花を摘み、カチューシャの横に添えていた。
勿論、まりさに可愛いと言って貰いたいためだ。
しかし、将来は約束している物の、やはり面と向かってはっきり言われるのは照れるらしく、ありすは勿体ないと思いつつも、無理やり他の話題を振った。

「と、ところできょうはどうしようかしら?」
「ゆゆ!! まりさの家のしょくりょうがつきかけてるんだぜ!! いっしょにかりにいこうぜ!!」
「そういえば、うちもすくなくなってるわ。かりにいきましょう!!」

二匹は狩りをすることを決めた。
出来る限り二匹でゆっくりした時間を作るため、二匹は多くの食料を巣に保存していた。
互いに巣は一匹なので、いつも通り半日も掛ければ一週間程度の食料を確保することができるだろう。
その後は、二人でゆっくりできる場所がいい。

「それじゃどこにいこうかしら?」
「あの小川の近くの花畑なんて『君たち、ちょっといいかい?』どうかだぜ!?」

まりさが口を開くと同時に、背後から声が重なった。
二匹はゆっくりと後ろを振り返る。
そこにはニコニコ顔の男が立っていた。


ありすは焦った。
人間はありすの両親、姉妹を皆殺しにした憎っくき生き物だ。
それと同時に、聡明なありすは、自分たちゆっくり種が束になって掛っても敵わないことも重々承知していた。
しかし、そんなありすの心中を察することなく、まりさは「ゆっくりしていってね!!!」と男に声を上げた。人間を知らないゆっくりの悲しい性である。

「君たち、今暇かい? お菓子があるんだけど、一緒にどうだい?」
「ゆゆっ!! まりさもおかしをたべるよ!! おじさん、ゆっくりいそいでおかしをちょうだいね!!」

男のお菓子という言葉につられるまりさ。
ありすも一瞬、その言葉につられそうになったが、相手は人間である。お菓子なんて最初からくれる気がないかもしれないし、もしくれたとしても、毒が入っているかもしれない。
ありすはまりさの前に立って男に反論する。

「おかしなんていらないから、さっさとでていってね!!」

男にさっさと帰ってもらおうとしたありすだが、男より先にまりさが口を開く。

「ゆゆっ!! ありす、なにいってるんだぜ? ありすはおかしいらないのかだぜ? いらないならまりさがもらうぜ!!」

まりさがありすに信じられないといった表情を見せる。
食欲が人生の半分は占めるだろうゆっくり種にとって、ありすの言い分はまりさには納得の出来るものではなかった。
今まで人間やゆっくりゃなどに運よく出会わなかったまりさには、真の恐怖というものが理解できずにいたのだ。

「まりさ、よくかんがえてね!! にんげんはありすのかぞくをころしたのよ。おかしをくれるなんてうそよ!!」

それを聞いて、まりさもハッとした表情を浮かべた。
ありすの身の上話は聞いていた。もちろん、家族が人間に殺されたことも。
まりさはお菓子につられて、そんな大事なことを忘れていた自分を恥じ、失点を取り戻そうと男に口を開く。

「ゆゆっ!! ありすのかぞくをころしたにんげんはしんじられないよ!! おじさんはゆっくりしね!!」

人間に殺されたことは知っていても、人間の力を知らないまりさは男に暴言をまき散らす。
いや、まりさ種の性格を考えれば、例え人間の力を身にしみて体感しても、同じことを言うかも知れない。そんな程度の餡子でしかない。
しかし、男は自分より格下の相手に暴言を吐かれたにも関わらず、二匹に何もしてこなかった。あろうことか、その話を聞いて、気の毒そうな表情を浮かべている。

「……そうかい、それは可哀そうだったね。でも安心して。おじさんはそんな野蛮な人間とは違うから」
「そんなのしんじられないよ!!」
「まあまあ、まずはおじさんの話を聞いておくれよ。なにもね、おじさんだってただでお菓子を上げるわけじゃないんだよ。お菓子をあげる代わりに君たちに仕事を……いや、頼みごとがあるんだ」
「たのみごと?」
「うん。実はね、おじさんの家にはゆっくりがいるんだ」
「!!!」

男の言葉にありすは耳を疑った。
家にゆっくりがいる? なんで敵である人間とゆっくりがいっしょにいるのだ?
人間がゆっくりをペットとして飼うことは珍しくはないが、人間の事情を一切知らないありすにとってその言葉は寝耳に水であった。

「うそをつかないでね!!」
「嘘じゃないよ。これが証拠さ」

男はそう言って懐から一枚の紙を出す。写真だ。
それを二人に見せつける。
そこには、男と共に笑顔で楽しそうに写っている多くのゆっくりの姿があった。

「ゆゆっ!! ほんとうにいっしょにいるぜ!!」
「だから言ったろ、おじさんはゆっくりを殺すような悪い人間とは違うって」
「おじさん、うたがってごめんだぜ!!」
「はは、いいさ。それだけ酷いことをされちゃ疑うのも無理はないしね」

まりさは男の写真を見て、すっかり男を信用したらしい。やさしい人間ならお菓子を貰えるかもしれないと考えたのかもしれない。
しかし、ありすは未だ完全に男を信用できずにいた。別に写真が信用できないわけではない。
写真のゆっくりたちは、全員この世の春といった満面の笑みを浮かべている。
もし男が無理やり笑わせているのなら、こんな笑顔は到底できないだろう。
信じられないのは言ってみればただの勘。家族を失ったありすが人間を信じたくない、人間は凶暴だといった先入観が消えないからにすぎない。
男は写真を懐にしまうと、二匹に切り出した。

「これでおじさんが悪い人間ではないことが理解できたと思うけど、君たちに折り入って頼みがあるんだよ。もし頼みを聞いてくれたら、お菓子をあげるよ」
「はやくたのみごとをいってくれなんだぜ!!」

まりさはお菓子欲しさに、すでに男の頼みを引き受けるつもりのようだ。
ありすはそんなまりさを危ういと思ったが、写真に不審な点はなかったし、もしかしたら本当にいい人間もいるのかもしれない。
それにまりさではないが、お菓子という言葉がありすのクリームを揺さぶってくる。結局はありすもゆっくりということである。
頼みごとと言っているし、聞くだけなら問題はないだろう。少しでも不審な点があれば、断ればいいだけの話だ。
ありすも男の話に耳を傾けた。

「頼みごとっていうのはね、君たちにおじさんの家のゆっくりと友達になってほしいんだよ」
「ともだちに?」
「うん。さっきの写真を見たなら分かるけど、昔はおじさんの家にいっぱいゆっくりがいたんだ。だけど、みんな死んじゃってね。今、家には一匹のゆっくりしかいないんだよ。
おじさんもよく遊んであげてるんだけど、仕事があって毎日は遊んであげられないし、それにやっぱりゆっくり通しのほうがいいみたいでたまに悲しそうな顔をするんだ。
だから、そんな家の子に友達を作ってあげたくてね」
「わかったよ!! まりさたちがおじさんのゆっくりとともだちになってやるんだぜ。だからおかしをちょうだいなんだぜ!!」

まりさはありすに尋ねることなく、一人で安請け合いしてしまった。
まりさに声を掛けようかとも思ったが、結局ありすは声をかけなかった。
男の話が事実なら確かに友達になってあげたいし、聞いた限り、特に不審な点は見当たらなかった。
それにやはりお菓子という言葉は、ありすにとっても魅力的な言葉だった。

「わかったわ!! とかいはのありすもとくべつにともだちになってあげるわ」
「それはよかった!! 実は、家のゆっくりもありす種なんだよ。おじさんは家の子には都会派のセレブになってほしくてね。
まだ淑女とはいえない子供だけど、君のような本場の都会派ゆっくりが友達になってくれたら、きっといい影響があるよ!!」

それはありすの心に残るわずかな疑惑をかわすのに十分な言葉だった。
男の家にも都会派のありす種がいるらしい。しかも、都会派ときている。
ありす種は総じて性欲と自尊心の強い傾向にある。このありすは過去に家族を殺され、やさしいゆっくり家族に拾われたせいか、家族に迷惑をかけるわけにはいかないと多少自制していたが、それでもありす種としての本能がなくなったわけではなかった。
見て分かる通り、まりさや妹たちに対し都会派を気取っているし、自分の性欲の強さを理解しているからこそ、まりさと別居の道を選んだのだ。
その強い自尊心がありすの心を擽る。
男の家のゆっくりありすは、どうやら都会派を気取った子供らしい。
まだ完全な大人ではないけど、すでに自身は完全な都会派であると思っているありすは、そんなゆっくりに都会派とはなにかを教えたくて仕方がなかった。言っても否定するだろうが、要するに優越感に浸りたかったのである。
すでに人間に対しての怒りと恐怖はなく、ありすのクリームはお菓子といかに自分が都会派であるかを認めさせることでいっぱいだった。

「じゃあ、おじさんの後を付いてきてね」

そんな男の言葉にありすとまりさは頷き、跳びはねていく。
この時、ありすが男の邪な笑みを見ていたら、その後の惨劇は変わっていたのかもしれない。

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最終更新:2022年05月03日 18:39