ゆっくりのすくつ


「先輩! 見つけましたっ!」
 ゆっくり殲滅用の最新機器を背負い、ゴーストバスターズのような出で立ちをした新人君が俺に呼びかける。
「でかした! 今そっちへ行く!」
 反応の途絶えたレーダーの電源を切り、俺も重たい装備を背負い直して新人君のあとに続く。
 鬱蒼とした森を抜けると、一気に視界が開ける。切り立った崖のふもとにそれはあった。
「まさかこんなところに……」
 人間も容易に出入りできるほどの巨大な洞穴。ゆっくりたちの巣穴だ。
「なるほど。こんなところじゃレーダーの電波も途絶えるわけだ」
「行きましょう先輩――」

「ここはれいむたちのおうちだよ!! ゆっくりでていってね!!」
「ちちちちーんぽ!! ちちちちーんぽ!!」
「うわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!! あのおじざんだぢだあ゛あ゛あ゛!!」
「むきゅううーー!! ゆっくりできないひときらいーー!!」 
「かえりみちでじこにあってゆっくりしね!!」
 処理場の作業着姿の俺たちを見るなり、巣穴の数十匹のゆっくりたちは思い思いの反応を見せた。
 ぷくーっと膨れて威嚇するもの。怯えて泣きわめくもの。口汚く罵るもの。
 そのけたたましい声を聞いていると吐き気がしてくる。
「ゆ゛!? なんでおじさんたちがここにいるの!?」
 騒ぎに気づいた一匹のれいむがやってきて、こちらの様子をうかがっている。
 頭のリボンに小さな発信機が付けられていることを確認する。
 いつだったか、俺が捕獲し、発信機をつけた上で開放してやったれいむだった。
 捕獲した饅頭に発信機をつけて放し、レーダーで追跡する。無尽蔵に増え続けるこの害獣を根元から断つためには、
 現在最も効果的な戦術だった。
 と、その時、無謀にも一匹の赤ちゃんれいむが新人君に飛びかかり、その腕に噛み付いてきた。
「ゆっくちちねーー!!」
 だが、饅頭共の噛みつき攻撃など痛くもかゆくもない。
「あん? バーカ」
 グシャア!!
「ぴッ……!!!」
 愚かな赤ちゃんれいむは一撃で叩き潰され、洞穴内に甘ったるい香りが広がった。
「うわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! れいむのあがぢゃんがあ゛あ゛あ゛!!!」
「なにするのおじさんたち!! いますぐしね!!」
「わからない!! わからないよーー!!」
「ここはれいむたちのおうちだっていってるでしょ!! さっさとでていt
『黙れぇッ!!!』
 たまらず俺が大声で一喝すると、ゆっくりたちは恐れおののき、一瞬にして静まり返った。
「ひゃはは! さすがは先輩!」
「ふんっ……」
 こんなゴミクズ共に対して声を荒げてしまった大人気ない自分を少々恥じる。
「しかしこれまた……見てくださいよ先輩。あれ」
 洞穴の隅には、田畑を荒らし、民家を荒らし、商店を荒らし、人間たちから奪い取った大量の食料が備蓄してあった。
 野菜、果物、その他加工品の山に加え、中でも目に付くのが大量のプリン……。
「一体どうやってこんなところまで食料を運び込むんですかねぇ」
「……おそらくあいつの尽力によるものだろう」
「うーうーうまうまっ☆ もっどぷっでぃんだべだいじょーー♪」
 騒ぎには我関せずで、洞穴の奥でプリンを貪り食っているゆっくりれみりゃ。
 その身体は丸々と太り、”お嬢様”などといった印象は微塵も感じさせない。
 れみりゃ種は四肢があるものが多く存在しており、空を飛ぶこともできる。
 こんなデブでも、一匹いるだけで作物被害は甚大なものとなるのだ。
「うげぇー……あれってれみりゃっすか……? きもちわるっ……」
「おい饅頭共! 今すぐそこの作物を人間に返して来い!」
「これはまりさたちがみつけたごはんだからあげないよ!!」
「おじさんたちはあせみずたらしてはたらいて、もっといっぱいごはんつくってね!!」
「どうしてもというならすこしだけわけてあげてもいいよ!! ゆっくりどげざしてね!!」
 まったく、どこまでも生意気で憎たらしい饅頭共だ。
「やはり話にならんな。仕方ない、さっさと済ませてしまおう」
「へーい」
 その場を新人君に任せ、俺は入り口側で待機する。

「はいはい饅頭共っ! ちゅうもーーーく!!」
 敵意むき出しで、しかし若干恐る恐るといった様子で、新人君の言葉に耳を傾けるゆっくりたち。
「お兄さんたちは、ゆっくり処理場から君たちをぶっ殺しにやってきましたー!」
 処理場という言葉にビクッと身を震わせるゆっくりたち。
 ただの人間とは違う。処理場から来た人間だ。ゆっくりたちはよく知っている。
 ありとあらゆる残虐な手段で自分たちを痛めつけ殺してきた恐ろしい人間たちだ。
 小さなゆっくりでも親から教えられて知っている、決して捕まってはいけない地獄の使者だ。
 そういえばこの人間たちもよくわからない機械を背負っている。
 きっと火や水が出て、自分たちを一網打尽にしてしまう機械なんだ。
 そうして殺されてきた家族や仲間を見てきたものもいる。
 処理場の作業着を見たことがなかったゆっくりたちも、事態の重さを痛感する。
 もうおしまいだ。戦慄が走り、吐き気が襲い、冷や汗が吹き出る。
 と、いち早く大声で泣き始める一匹のまりさ。
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! じに゛だぐな゛い゛い゛い゛!!!」
「黙れやこらぁ!!!」
 グシャアァッ!!
「ぶヒゅッ……!!」
 新人君に強烈な蹴りを入れられ、破けた皮から餡子をぶちまけながら吹っ飛んでいくまりさ。
 そのまま洞穴の壁面にぶち当たって弾け、絶命する。
「お兄さんがしゃべってるのに余計な口を挟まないことー! いいですねー!?」
 ふわりと舞い落ちるまりさの帽子。ゆっくりたちは言葉を失い、目に涙を浮かべ、立ちすくんだ。
「ただしっ! 今から君たちにも、生き残るチャンスがありまーす! はいっ!」
 小さな子供へ手を差し伸べるかのごとく屈み、手のひらを差し出す新人君。
「この手に最初に乗っかったコは、逃がしてあげまーす!」
「ゆっ!」「ゆゆっ!!」「ゆー!」
 目を血走らせ、今にも飛び出さんばかりのゆっくりたち。まったく単細胞な生き物である。
「それじゃあ始めるよー? いいー? はい! スタート!」
「「「「「「ゆーーー!!!!」」」」」」
 一斉にピョンピョンと飛び跳ね、猛烈な勢いで新人君の手のひらへと向かっていく。
「どいてよおおおお!!! れいむがゆっくりするのおおおお!!!」
「いやああああああ!!! じゃまするれいむはゆっくりしねええええ!!!」
「おがあざんはいっぱいゆっぐちじだんだがらもういいでしょううう!!?」
「そんなこというあかちゃんはいらないよ!!! ゆっくりしね!!!」
 押し合い、へし合い、噛みつきあい、潰しあい、仲間割れが始まる。
 何匹かの赤ちゃんゆっくりは、自分より大きなゆっくりに踏み潰されて死に至った。
 と、遂に一匹のまりさが新人君の手のひらに乗っかる。
「ゆっ!」
「はーーいおしまーーーい!!」
「「「「「ゆ゛ぐううううーーー!!!!」」」」」
 ゲームオーバーを知らせる声に顔を歪ませ泣きじゃくる、満身創痍のゆっくりたち。
 と、競争を避けて脱走の機会を窺っていた一匹のぱちゅりぃが、新人君の脇をすり抜け強行突破を図る。
「おおっと、君たちは逃がさないよー!」
 ほかのゆっくりたちはもう新人君に遮られて逃げられない。
 病弱な身体で必死に飛び跳ね、肩で息をしながら入り口へと向かうぱちゅりぃ。
 遂に入り口で待機中の俺の元へたどりつく。
「むきゅ……むっきゅううーーーーー!!」
 ドグシャアアア!!
「む゛ギゃ゛ア゛っ……!!」
 強引に走り抜けようとしたところをすかさず踏み潰す。
 跡形も残らないように何度も踏みつけ、地面にできあがった汚らしい染みをグリグリと踏みにじる。
 本来は俺と新人君の役割は逆なのだが、彼がいつもあちらの役を務めたいと言うのでね。
 まぁ将来有望というかなんというか……。

「よしよし、君は新しいゆっくりプレイスで存分にゆっくりしてね」
「うん!! ありがとうおにいさん!!」
 手のひらに乗ったまりさを優しく撫でてやる新人君。
 もちろんその帽子にこっそり新たな発信機を付ける作業は忘れない。
「ま゛っ゛でえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!! わ゛だじも゛づれ゛でっ゛でえ゛え゛え゛!!!」
「ま゛り゛ざだげずる゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」
「のろまなみんなにはかまってられないよ!! そこでゆっくりしんでね!!」
 まりさは仲間を見捨て、入り口側へピョンピョンと飛び跳ねていく。
「君が競争で勝ったんだね。おめでとう」
「ありがとうおじさん!! これでゆっくりできるよ!!」
 先ほどのぱちゅりぃの亡骸を素通りし、まりさは森の中へと消えていった。
 レーダーの電源を入れ、今のまりさの位置情報が問題なく受信できていることを確認する。
 強い個体は生存競争で生き残りやすく、別の巣穴へ合流したり、新たな集団を形成して別の住処を開拓したりする。
 あのまりさもいつか新しい巣穴へ案内してくれるだろう。そんな期待をしつつ、俺も洞穴の中ほどへと進んでいく。

「ごれからわだじだぢはどうな゛る゛の゛ぉ!? ゆっぐりにがじでね゛ぇ゛!!!」
 涙ながらに許しを乞うバカ饅頭共。
「逃がして、だ? あははっ、なにを言ってるんだい? 君たちは一匹残らず皆殺しだよ!?」
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「うるせぇっつってんだろ!!!」
 グシュゥ!!
「ぶぇえ゛ッ……!!」
「ゆぐーーーーーっ!!」
「逃げられると思ってんのか!!」
 ブチブチィ!!
「びゃ゛あ゛あ゛あ゛っ゛……!!」
「や゛め゛でえ゛え゛え゛え゛え゛!!! も゛うお゛うぢがえる゛うううう!!!」
 やれやれ。あいつめ、また遊んでるな……?
「おい」
「せ、先輩っ?」
「なにやってんだ。早く片付けてしまえ」
「も、もう少し遊ばせてくださいよー」
 奥の方を見やると、デブれみりゃはまだプリンをパクついていた。
 そして驚くべきことに、あれだけたくさんあったプリンがもうなくなりかけていた。
 と、新人君への懇願は効果が薄いと思ってか、一匹のまりさが俺の足にまとわりついてきた。
「おじざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛っ!!! だずげでよ゛お゛お゛お゛ンぶぅッ……!!!」
 躊躇なく踏み潰す。
 しかし、懲りずにまた一匹のれいむが擦り寄ってくる。
「おじさん!! あのときのおじさんでしょ!?」
 リボンに発信機をつけ、逃がしてやったれいむだった。
「ああ、覚えているよ」
「あのときみたいにれいむをにがしてよ!! おねがいだよ!!」
「ゆっ!! れいむだけずるいよ!! わたしたちもにがしてね!!」
 また押し合いへし合いとなる。そこへ薄ら笑いを浮かべた新人君が語りかける。
「バカだなぁ君は」
「ゆっ!? れいむはばかじゃないよ!! ゆっくりあやまってね!!」
「みんな見てごらーん。このれいむのリボンを。変なものがついてるだろーう?」
「ゆっ? ほんとうだ!! なぁにこれ!?」
「これは発信機さ。これが君たちの居場所を処理場の人に教えてくれてたんだ。実はこのコはおにいさんたちの友達なんだよ」
「ゆゆッ!? れいむそんなのしらないよ!? うそつきなおにいさんはゆっくりしね!!」
「君は今までよく頑張ってくれたね。お疲れ様。でも君はもう用済みなんだ。だからここでさよならだよ。ぷぷっ」
「れ゛い゛む゛の゛ばがあ゛あ゛あ゛!!」
「う゛ら゛ぎり゛も゛の゛はゆ゛っぐりじねえ゛え゛え゛!!」
「ゆ゛ぐぅぅぅ!!! み゛んなや゛め゛でえ゛え゛え゛え゛!!!」
 洞穴内はもうパニック状態だ。
 笑いを堪えきれない様子の新人君に問いかける。
「そろそろ満足したか?」
「くくっ……! は、はいっ……! じゃあ一気にやっちまいますか! ふっ……ふひゃひゃひゃひゃ!」
 俺たちは、背負った機器から伸びたホースを構え、スイッチを入れる。
「放射ああああああ!!!! うっひゃひゃひゃひゃ!!!」
 内部分裂して混乱状態の饅頭共に、霧状の薬品を吹きかける。
「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!?」
 霧を吹きかけられたゆっくりたちの身体は、見る見るうちに膨れ上がる。
「な゛、な゛に゛ごれ゛え゛え゛え゛え゛!!!」
「ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛よ゛お゛お゛お゛お゛!!!」
 次第に皮が内側から破け始め、その激痛に涙がとめどなく溢れ出る。
「ゆ゛ぐうううううううううううううううううううううううウウウウウウぇ゛ア゛ッ……!!!」
 限界まで肥大し、破裂していくゆっくりたち。
 この薬品は、饅頭共の体内の餡子を膨張させ、そのまま破裂に至らしめる特殊な薬品なのだ。もちろん人間には無害。
 これまでの火攻めや水攻めでかかっていたコストを大幅に減らす、処理場の画期的な新発明だ。
「ゆ……ゆ゛ぐう゛う゛う゛う゛う゛う゛ーーーーーーっ!!!」
 死に物狂いで逃げ回る饅頭たち。しかし、広範囲にわたる薬品の噴射から逃れることなどできはしない。
「ウェーーハッハッハッハ!! イーーヒッヒッヒッヒ!!」
 破裂する饅頭たちの返り餡子を全身に浴びながら、狂ったように薬品をばら撒き続ける新人君。
 ここは彼に任せておこう。俺は薬品を噴霧しながら、奥にいるデブれみりゃの方へと向かった。

「おい」
「う?」
 口の周りをカラメルソースでベトベトにした豚がこちらへ振り向く。
「うーーー♪ だーべぢゃーうぞぉーー♪」
 豚が食い散らかしたプリンの容器を見る。消費期限も過ぎていない新品だった。
「貴様、どこからプリンを持ち出している」
「うー? れみりゃーはごーまがんのおぜうざまだっどー♪」
 パーン!
 豚の頬を平手打ちする。
「ぅ……うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!! はだじでえ゛え゛え゛え゛!!!」
 パーン!
 逃げ出そうとする豚の胸倉をふん掴み、また平手打ち。
「答えろ。このプリンはどこで手に入れた」
「う゛うぅっ……れみ、りゃ、うーーーっ☆」
 パーン!
「さっさと答えろ!」
「わ゛ぅ゛ッ……!! ご、ごーじょーっ……!!」
「工場?」
 はぁ、なるほど。ちょうどこの辺りにプリンの製造工場があることに思い至った。
「うー……ぷっでぃんもうなぐなっだ……。だがら、まだどりにいぐーー♪」
 パーン!
「ヴぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! い゛だい゛い゛い゛い゛い゛っ!!!」
 肥え太った手足をじたばたさせ、必死に抵抗する。
「貴様っ」
 パーン!
「人様にっ」
 パーン!
「どれだけっ」
 パーン!
「迷惑をかければっ」
 パーン!
「気が済むんだっ!」
 パーン!
「や゛べでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!! い゛だい゛の゛や゛だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
 涙と鼻水とよだれで顔をグシャグシャにする豚。
 すぐにでも殺してやりたいところだが、これだけは聞いておかなければいけない。
「おい、おまえの飼い主は誰だ」
「ぅーー……」
 パーン!
「答えろっ!」
「う゛ぅぅぅぅ!!!! ざぐやにい゛い゛づげでや゛る゛ううううう!!!」
「ざぐや……か」
 最近、ゆっくりを利用した飼い主の窃盗事件が相次いでいる。
 特にれみりゃは扱いやすく、犯罪に活用されるケースが多くなっている。
 こいつをいたぶり続けると、そのうち特定の名前や、お兄さん、おじさんといった誰かに助けを求めるのだが、
 こうして遺伝子的に組み込まれている咲夜という人物の名前が出てくる場合は、野良ゆっくりであるということなのだ。
 飼い主がいる場合は警察に届けなければならないのだが、野良ゆっくりのこいつを生かしておくべき理由はなくなった。
「おまえが与えた経済的損失、せめて死んで償ってもらうからな」
「ぅぅ……? うううぅぅわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
 邪魔な翼をもぎ取ったあと、後頭部を鷲掴みにし、顔面を地面に叩きつける。
 ガスッ!!
「う゛ぇ゛ア゛ア゛ア゛あ゛あ゛!!! ごべんだざい゛い゛い゛い゛!!!」
 右目の眼球が破裂し、前歯がいくつか砕ける。
 ガスッ!!
「ぅぶっ……ごボぉお゛っ……!!」
 衝撃と共に身体全体を揺さぶられ、体内のプリンを嘔吐する。
 ガスッ!!
「ぶゥッ……!!」
 後頭部から握り潰さんばかりに突き立てた俺の爪が豚の頭にぐいぐいと食い込み、指先に生温かい肉まんの感触が伝わる。
 気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い!
 ガスッ!! ガスッ!! ガスッ!!
「あ゛ア゛ッ……!! あ゛がっ……!! ガあ゛ッッ……!!」
 やがて顔面の皮が全て剥がれ落ち、肉まんの具から身体が生えている状態となる。
 身体はヒクヒクと痙攣し、もはや声を上げようにもヒューヒューというおかしな音しか出ない。
「……気持ち悪い」
 わき腹から思い切り蹴飛ばす。肉塊はぐるぐると回転し、頭部の肉を撒き散らしながら宙を舞う。
 石ころを蹴飛ばしながら通学路を帰るように、頭部のなくなった豚の身体を何度も蹴飛ばしながら入り口の方へと向かう。
 途中で豚の胴体と下半身が千切れてしまった。体内に残っていたプリンがどろりと溢れ出す。
 俺はその胴体を踏み潰し、残った下半身を股裂きの要領で引き千切って放り投げてから、新人君へ声をかけた。

「おーい、そろそろ引き上げるぞー。……って、まだやってんのかー?」
 新人君は、妊娠中のゆっくりだけを何匹か生かして縛り付け、
 同じ妊婦ゆっくりに薬品を少しずつかけて、じわじわと膨れ上がる様を楽しんでいた。
「ゆ゛ぐう゛う゛い゛い゛い゛い゛……!!!」
「苦しいか? ん? おい饅頭、苦しいか? ふひゃひゃひゃ!」
「も゛う゛や゛め゛て゛え゛え゛え゛え゛!!!」
「だずげでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」
「まりさちゃん、君、俺が指でちょっとでも触れたら破裂しちゃうけど、どうする? ねぇ、どうする?」
「ゆ゛ッ……!! ゆ゛ぅ゛ッッ……!!!」
 破裂寸前のまりさは、この世のものとは思えないほど不細工な表情で、体中から変な汁を垂れ流し続けている。
 ところどころ破けた皮から餡子が溢れ出し、耐え難い激痛に喘いでいる。その耳元で新人君が語りかける。
「これからかわいいかわいい赤ちゃんが産まれるって矢先に、残念だったねぇ♪ じゃ、バイバイ♪」
 フッと息を吹きかけると、妊婦まりさはたちまちバシャッと破裂し、新人君の顔を餡子で染めた。
 飛び散った餡子は、縛り付けられたほかの妊婦ゆっくりたちの顔にもふりかかる。
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「ゆ゛っ゛ぐ゛り゛ざぜでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」
 弾けた妊婦まりさから未成熟の赤ちゃんまりさがコロッとまろび出る。
 口の周りについた餡子を舐め回しながら、新人君は今にも崩れ落ちてしまいそうな胎児まりさをそっと手に取り、
 ほかの妊婦ゆっくりたちの眼前に掲げ、握りつぶす。そしてその餡子を妊婦ゆっくりたちの顔に塗りたくった。
「あ゛ッ……!!! あヒッ……!!」
 壮絶な光景を見せられ、一匹の妊婦れいむは発狂してしまう。
 もう一匹の妊婦まりさは流産してしまい、それを示す餡子が下部からどろりと流れ出た。
 ショックのあまり、もう言葉を発することもできず、ただヒクヒクと痙攣する。
「おーい、もういいかー?」
 腹を抱えて爆笑している新人君に再度声をかけ、区画殲滅用の使い捨て薬品発生器の封を切る。
「ふひゃひゃひゃひゃ!! あ、先輩、もう満足したっす! いやーやっぱ饅頭の断末魔はたまらんっすわー!」
 新人君は、ゆっくりを痛めつけることを心底楽しんでいるようだった。
 ”できるだけ凄惨なやり方で虐殺し、人間を畏怖させ野に帰す”という国の指針からしても、彼はこの仕事に適任だ。
 俺はいつしか虐待することにも飽きてしまって、淡々と仕事をこなすようになってしまった。もう歳かな。
「発信機は回収したか? 盗まれた食料は?」
「え、ええっ。こちらに。飼い主はいないみたいですね。こいつらただの野良ゆっくりの集まりですわ」
「そうか。よし、それじゃあ引き上げるぞ」
「あっ、待って下さいよぉ先輩っ! あのれみりゃはどんな風にぶっ殺したんすかっ? 聞かせてくださいよぉ!」
 設置した薬品発生器が辺りを煙で包み込む。
 大量のリボンや帽子が散らばる洞穴内。
 そこからはもう、物音一つ聞こえない。ただただ甘い香りが充満するのみだった――。

 人と共存することを選択しなかったゆっくりたち。
 人間界の衣食住を崩壊せしめ、食物連鎖の構造を根底から破壊してしまう害獣。
 こいつらをペットに、などと考える人間ももういない。
 最初はうるさかった動物愛護団体も、ゆっくりが環境にもたらす深刻な悪影響に口を閉ざさざるを得なくなった。
 ゆっくりも、別の世界に生まれていたのなら、もっと幸せに暮らすことができたのかもしれない。
 だが、爆発的に繁殖し続けるゆっくりは、この世界では害獣でしかない。狩られ続けるしかない存在なのだ。
 俺はせめてもの慰めとして、仕事が終わるとやつらの魂にこう語りかけてやる。
 あの世でゆっくりしていってね、と。



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2022年05月03日 18:22