※何の罪もないゆっくりが悲惨な目に合うので、それが嫌な方は戻って下さい。
ゆっくりは生きていることが罪だという方はそのままお読み下さい。
2月。
最も冷え込む季節であり、同時に冬の終わりを感じる季節。
長く続いた冬の気配も下旬に至れば和らぎはじめ、春の歓喜をいやがおうにも高めてくれる。
この時期、冬ごもりの最中のゆっくりたちもあとしばらくの辛抱。
とはいえ、食料の見通しもゆっくりしているゆっくりたち。そのあと一息を越えられずに餓死するゆっくりも数多い。
今、この瞬間もどれだけのゆっくり一家が自分の体を餌として提供し、泣きながら子供たちが食らっているのだろう。そして、他人の餡の味を覚えた子供たちが、飢えを雪解けまで我慢することができるだろうか。
ゆっくりに冬眠という概念はない。
熊は食料が不足すると冬眠して代謝を抑えるが、ゆっくりたちは冬の間も家族とゆっくりしたいという理由のため、活動を止めたりはしない。巣穴の中で寒くないように動き回り、腹を減らせては死に近づく。
むしろ単純な構造のゆっくりたちならば、冬支度もろくにせず、半凍結して仮死状態のまま一冬すごしたほうが生存率が高いほどだった。
そんなゆっくりたちの悲喜劇が繰り広げられる冬ごもり。
ゆっくりまりさ一家とありすの冬ごもりも、再びの喜劇を迎えようとしていた。
「きもちいいね、まりさ~♪」
「ゆー……」
その巣穴に響くのはアリスの楽しげな声と、まりさ一家のうめき声。
母まりさは生気のない目で虚空を見つめ、犯されている姉まりさは苦悶を涙にかえて瞳一杯にためている。妹まりさは時折憎しみの目をアリスに向け、だが、ありすと視線が合うと目線をそらして恐怖に震える。
まりさ一家の三匹に共通するのは、自らを縛り付ける縄と、弱り切ったあえぎ声。
「おなかすいたー」
一方、まりさ一家の末っ子、赤ちゃんまりさはのんきな声を上げている。
この一家を支配するアリスに可愛がられて、餌を十分に与えられているためだろう。血色もよく、縄にもつながれていない。アリスに蹂躙される姉のそばで、元気にぴょんぴょんとはねている。
その朗らかさの責任の一端はまりさ一家にもあった。犯されていることを知られたくないために、赤ちゃんには子供にはできない高度な遊びなんだよと嘘を教えている。
まりさ一家の涙ぐまし努力もあって、赤ちゃんゆっくり一匹だけがこの陰惨な空気とは無縁だった。
とはいえ、そんあ遊びに興じる姉と母にあまりかまってもらえず、赤ちゃんは若干の退屈をもてあましぎみ。
母の心、子知らず。むしろ、姉たちよりも自分をかまってくれるアリスに懐いている節すらあった。
「まってねえええ、まりざをずっぎりさせてからねえええ!!」
「ゆぐうううう! ゆぐうううう!!!」
アリスの言葉にまりさの呻きが悲鳴に変わる。
とはいえ、アリスを受け入れることが赤ちゃんと一家を生かす条件。泣きながら、おぞましい刺激に耐えるしかない。
「いぐよおおおお、ずっきりするよおおおほおおおおおおおおー!」
この冬、百八回目のすっきりに向けて、ありすの気合いの声が響く。
「すっきり、しだぐないいいいい!!!」
散々に犯されて、今では体だけがすっきりしようとする姉まりさ。その心は全然すっきりしない。ただ悲しさにひしがれるだけ。恋人のれいむに申し訳なくて、ぽろぽろと涙がこぼれていく。こんな汚れた体では、もう愛しいれいむの顔をまともに見ることはできないだろう。
「おねえちゃん、早くすっきりしてね!」
一方、早くご飯にありつきたい赤ちゃんまりさ。姉の心を切り裂くような要求を口にする。
姉まりさは虚ろにほほえんだ。この子は、すっきりの意味もわかってないのだろう。ただ悲しい気持ちをこらえるようにほほえんでいた。
「ゆぎいいいいいいいい!!!」
隣から妹まりさの歯ぎしりの音。しかし、アリスに食料を最低限に抑えられていることもあって、威圧する響きではない。ただ、泣き叫びアリスを喜ばせる弱者の悲鳴。
「まりさまりさまりさああああああああ、すっきりー!」
「……すっきり」
すっきりしなければ、一家はご飯にありつけない。
歯がみをこらえての恥辱のすっきりに、惚けた顔をしていた母まりさの頬を涙が一筋こぼれ落ちていった。
「とかい派のありす厳選した、こうきゅうかんあふれるブランチだよ!」
ありすがどこから聞きかじった言葉を言いながら、本来まりさ一家が集めた食料を分配していく。
母まりさ微量、姉まりさたっぷり、妹まりさ微量、赤ちゃんまりさたっぷり。
二極化したその分配に異議を唱えたのは姉まりさだった。赤ちゃんまりさはガツガツと餌に頭をつっこんでいる。
「ありす、私の分をみんなにきんとうにわけてね」
姉まりさの言葉に、両脇の妹まりさと母まりさがうつむく。両者とも顔色が悪く、肌に張りがない。栄養がいきわたらないためか髪はぼさぼさで、自慢の帽子も先端がしおれて元気がなかった。
ありすは、お気に入りの姉まりさに便宜をはかってやったのにと不満の表情。
が、すぐニコニコ顔になる。
「きんとうに、だね♪」
「ゆ? ……あ、あ、あああああああ!!!」
叫び出すまりさ一家を尻目に、目の前で全ての餌を食べてしまう。
げふーと、都会派らしからぬげっぶをはき出すありす。姉まりさの献身が、ありすの気まぐれで露と消えた。赤ちゃんまりさを優遇させるために口をつぐんでいた妹まりさも、その無情さにもはや耐えきれなかった。
歯をむき出し、アリスにくってかかる。
「ありずなんが、ゆっぐりざぜなくじでやるうううう! ゆっくりじね!」
残された体力を使い切るかのように、縛られたからだで暴れる妹まりさ。
「おお、こわいこわい」
ありすは鼠口の笑顔で、ただ妹の怒気を堪能していた。
が、ふと思いついたように妹まりさの側により、にっこりとほほえむ。
「ごめんね、おわびに春も近いことだし、そろそろアリスの子供つくってあげるね」
ありすの言葉に続く一瞬の沈黙。
その沈黙は続く怒号と絶叫にかき消さた。
「この体じゃむりなのおおおおおお! じにだくないいいいいい!!!」
「まりさのこどもをごろさないでえええええ!」
「ありずのこどもなんて、ぜったいうみだくないいいいい!!!」
やせ細った体にアリスとの子供。
生きていられる道理がなかった。
「ゆ、どうしたの?」
餌に夢中だった赤ちゃんゆっくりだけが、その怒号に困惑のそぶり。
アリスはほほえんでいた。
「家族がふえるのよ」
簡潔なまりさの回答。
赤ちゃんまりさの瞳が輝く。
「やったね、おねえちゃん! 家族がふえるよ!」
「ふえちゃ、だめなのよおおおおおおお!!!」
母ゆっくりの声は何の制止にもならなかった。
「まりさ、少しブサイクでも愛してあげるからね♪」
はりつくアリスと、未知の感触におぞけだつ妹まりさ。
確実に、それは今までとは違う。子供をつくろうとする動き。
「ありすうう、こどもならわたしがづぐるがら、妹からはなれてえええ」
ありすに贔屓されて、若干余裕のある姉まりさが必死のよびかけ。悩ましく体もくねらせてみせたりする。
だが、アリスは自分の子を産みたいという姉まりさの自分へ向けた濃厚な愛を感じながら、心苦しくもそれを断っていた。
「ごめんね、まりさ。アリスの愛するまりさが死んだらいやだから、こっちのそこそこ愛しているまりさでこどもつくるね」
愛ってどういう概念だっただろう。
惨状に心が砕けそうな母まりさには、もう何も思いつかない。
そうこうしている間にもどんどん高まる嬌声と悲鳴。
アリスはたやすく高みにたっしていく。
「やめでえええ、ながはだめええええええええ! 赤ちゃんらめなのほおおおおおおお!!!!」
「それは、とかいだと中にくださいって意味だよお、こどもほしいんだねうれぢいいいいい! いぐよおおおおお、んほおぽおおおおおおおおおお、すっきりー!!!」
すべては、終わった。
悶絶して、涙とよだれをはき散らした妹まりさ。
満足した顔で離れるありす。
後は黒ずんで子供をはやすのを待つばかりと、わくわくした表情で妹まりさを見守っていた。
が、変化はいつもでたってもあらわれない。
「どうじでええ!?」
百発百中のアリスとしては想定もしてない事態。
どれだけまっても状況は変わりなく、アリスの不発を物語るばかり。
「ごめんね、今度はがんばからね!」
謝りながら、再び交尾を開始するアリスだが。
「どうじで、にんしんじでぐれないのおおおおおお!!!」
二度、三度と交尾が続き、五度目でようやく生殖ができなくなっている自分に気がついた。
「ごんなの、全然とかい派じゃないいいいいい」
泣き崩れるアリス。
アリスに原因は思い至らなかったが、不妊に至る原因はあった。
最初に姉まりさを襲い、まりさ一家に叩きのめされて外に放り出されたその夜。アリスは自分の家に戻らず、ひたすらに外から巣に戻ろうと踏みとどまり、結果凍結した雪球と化した。
体は昼の日差しでほとんどが元に戻ってはいたが、その時に体の一部が密かに壊死していた。それは、アリスの生殖に作用する重要な部分。
いわば、今のアリスは種なしだった。
そのことが、母まりさ、姉まりさと試して明らかになってくと、アリスは声もなく震えるばかり。未来永劫、アリスに幸せな家族は築けない。
「ありす……」
その様子に、まりさ一家はアリスがきてから久々の心がすく思いを味わっていた。
特に、恨み骨髄に徹した妹まりさは止まらない。
「アリスって、種なしだったんだね!」
「ゆぐうううう!」
「家族もできず、永遠にひとりぼっちなんだね、かわいそう!」
「ちがうよおお! だって、まりさたちはアリスのこと大好きなんだよね!? アリスも大切な家族でしょおおおおお!!」
「違うよ! ありすのことが好きなゆっくりは誰もいないよ! ありすはゆっくりしね! ひとりぼっちでゆっくりしね!」
思いこみまで打ち砕かれて、アリスの悲鳴は言語の体をなしていなかった。
そこへ、母まりさのねらい澄ました言葉が放たれる。
「でも、このなわをほどいてくれたら、まりさだけでもゆっくりいっしょにいてあげるよ! 一人でいるのと、どっちがゆっくりできるの、ありす!」
「ゆぎぎぎ!」
アリスの錯乱した歯がみ。
あと一息だった。
ほんの少しつつけば、「ありずがわるがっだでずううう、ありずといっしょにいでぐだざいいいいいい」と泣きついてくる。
姉まりさの瞳に希望が宿っていた。
だが。
「やめてよ、お母さん、お姉ちゃん! ありすをいじめないで!」
赤ちゃんまりさが突然割って入ってきた。
かつて身を食わすことで赤ちゃんだけでも助けようとし、今は母と姉妹が身を投げ出すことで何とか守ってきた赤ちゃん。その家族の愛を一身に受ける赤ちゃんまりさの言葉に、思わず声も止まるまりさ一家。一方、悲嘆にくれていたアリスが持ち直したように、その表情にニヤニヤ笑いが戻ってくる。
その様子に、母まりさは自らの狙いが頓挫したこと悟らなくてはならなかった。
「赤ちゃんは、黙っていてね……」
母まりさの時期を逸した虚ろな言葉に、むっと眉をひそめる赤ちゃんまりさ。
「だって、ありすおねーちゃんはご飯をたっくさん食べさせてくれたよ、お母さんよりもずっと!」
それは、母と姉妹の犠牲の上だということを赤ちゃんまりさ知らない。
「それに、ありすはまりさとたくさん遊んでくれたよ! お母さんも、おねえちゃんたちも、いしにはりついてまりさをかまってくれないもん!」
ぷううとふくれてみせる赤ちゃんまりさ。縛り付けられた肉親たちを、ずっと好きでそうしていると思っていた。
ありすに生殺与奪を握られ、赤ちゃんの安全のために反論を封じられてきたまりさ一家。その一方で育まれてきた誤解が、ここにきて最悪の破綻をもたらそうとしていた。
「ちがうのおおお」
母まりさの言葉も力なく、赤ちゃんまりさの心には届かない。
一方、アリスは満面の笑顔で、赤ちゃんまりさの元へ近づいてくる。
「ありがとう、まりさ。ところで、どうしてみんなまりさをかまってくれないのか、知りたい?」
「アリスが縛っているからでしょおおお!!!」
妹まりさの絶叫。
予想できた言葉をアリスはしなやかに利用する。悪意が、アリスの知識を活性化させていた。
「そうだよ、そうしないとお母さんとお姉ちゃんたちが、赤ちゃんのご飯を全部食べちゃうからね! アリス、赤ちゃんを助けたかったの!」
「ゆっくりいいい!? まりさのごはんを、お姉ちゃんたちが食べようとしていの~?」
赤ちゃんまりさは驚愕の顔で母まりさを振り向く。
当然、一家はぶんぶんと首をふる。が、唐突にその動きが止まった。
赤ちゃんの向こう、その死角にいるありすが大きく口を開けて、赤ちゃんをいつでも飲み込めるぞと戦慄のデモンストレーション。
凍り付くまりさ一家を尻目に、ありすは赤ちゃんを再び自分へと向き直らせた。
「そうだったんだ、ありがとうアリスおねーちゃん! でも、まりさおねえちゃんがなんでそんなことするの?」
「うふふ。なんで、まりさたちがそんなことをすると思う? それは、あなたは本当はアリスの子供だからなの! 実は今日まで、まりさをお母さんに預かってもらっていたのよ!」
「ゆっぐーっ!?」
とんでもない話だった。
驚愕の赤ちゃんは否定してもらうために家族の方へ向き直るものの、すぐさま赤ちゃんまりさの死角で共食いのデモンストレーションを行うアリス。
身じろぎもできないまりさ一家を、赤ちゃんはそれが答えだとうけとった。
アリスは口を閉じ、うってかわった気弱い呟きを赤ちゃんまりさへささやきかける。
「ずっとゆっくりしてて言えなかったお母さんを許してね、まりさ」
「お、おがあぢゃん……」
子をなせないアリスが家族を手に入れる唯一の方法、赤ちゃんの横取り。
そのためにわざとらしく泣き真似をするアリスと、目を潤ませる赤ちゃんまりさ。
麗しい、いびつな仮想親子の誕生だった。
「まりさのあかちゃんがああああ……」
赤ちゃんがアリスの嘘に気づいたとしても、アリスからすれば即座に失敗した赤ちゃんを処分して、春に生まれたばかりの違う巣の赤ちゃんを手に入れればいいだけの話。
自分勝手に現実をつくりかえようというアリスにとって、まりさの赤ちゃんにだけこだわる理由はあまりない。
そのため、母まりさの嘆息は誰の耳に届かによう、押し殺した嘆きとなった。
アリスは自分に泣きすがる赤ちゃんまりさと、声もなくなきくずれるまりさ一家を見比べながら、そっとほくそ笑む。
孤独な身の上のアリスが姉妹を襲ったり、子供をつくろうとしたのは単なる性欲だけではない。
生まれてすぐ親姉妹を失って天涯孤独だった身の上を少しでも癒すためだたった。
一端、絶望に閉ざされた新しい家族の夢。
それがこうして赤ちゃんを得たことに、アリスの顔を緩ませる満足しきった微笑は、消えることがなかった。
3月。
季節は春を迎えようとしていた。
朗らかな春告精の襲撃に、急速に領域を狭めていく冬の領域。
ありすは愛しい我が子、赤ちゃんまりさとともに巣の外壁を押し破る。
和らいだ寒気とともに、ひそやかな草原の香り。
春だ。
アリスと赤ちゃんの顔が歓喜にゆるむ。
もう、巣穴にこもる必要はない。
「ねえ、もう、ほどいてええ……」
その春の陽光が届いたのか、それまで死んでいるかのようにうつむいていた母まりさが、こいねがうような声をあげる。
「もう……いいでしょ……」
姉妹まりさのうめきが続き、まりさ一家の越冬が見事に一匹の死者をださずに終わったことを示していた。
もっとも、あと一息で全滅の体だったが。
アリスは赤ちゃんまりさを手にいれてから、もうまりさ一家に興味を抱かずにただわずかな餌を供給するだけで、ここ一週間ろくに顔も見ていなかった。
もう一家がどうなってもいいと思っていたアリスだが、春の訪れに心が弾んだのか、振り向いて笑顔で話しかけていた。
「ごめんね、アリスはもう構ってあげられないの! 赤ちゃんといっしょに新しいおうちを捜しに行くからね!」
すっかりアリスの子となった赤ちゃんまりさもそれに続く。
「ゆ! さようなら、偽お母さんと偽おねえちゃんたち! ゆっくりしていってね!」
アリスたちの行動は早かった。
それらの言葉を残して、陽気な足取りで日だまりの草原へとかけだしていく。
「まりさの、あかちゃん……」
後には弱り切って身動きできないまりさ一家。
このまま、死ぬのだろうかと視線をかわす。
「ううん、赤ちゃんがゆっくりできただけでも、よかったね……」
母まりさの言葉に、押し殺したな鳴き声で同意する娘たち。
アリスは帰る気配もない。
ぼんやりと衰弱を待つまりさたち。
「でも、わだじだぢも、ゆっぐりじだがっだああああ」
妹まりさの嗚咽もやがて消え入り、濃厚な死の気配が降りてくる。
姉まりさは、静かに覚悟を決めようとしていた。
そこへ、奇跡が訪れる。
「まりさ?」
入り口から影をなげかける訪問客の姿とその声に、姉まりさの目が見開かれる。
姉まりさの恋人のゆっくりれいむだった。
冬ごもりの様子が心配でいの一番にかけつけようとしたれいむ。
だが、赤ちゃんまりさと草原をはねるアリスの姿を見て、身を隠して遅くなった。春先の解放された気分に影響されるのか、春先はアリスが最も発情しやすい季節。
もっとも、それは種なしアリスのために警戒は無用ではあったのだが。
「だずげで、れいむううううう!!!」
最後の力を降りそぼった姉まりさの叫びに、れいむは異常事態に気づく。
すぐさま駆けつけ、そのぼろぼろになった一家の様子に戦慄しながら、そのなわを外しにかかる。
三十分のほどのゆっくりした苦闘の末、外と中から力を合わせることで縄抜けを達成。
ほぼ四ヶ月ぶりに自由となる一家の体だが、強張った上に力を失って起き上がることもできない。
「どうして、こんなことになったの、まりさ!?」
休ませてあげたいものの、れいむはあまりに異常な冬ごもりの光景に問いかけずにはいられなかった。
まりさたちも黙ってはいられない。ありすが手の届かない場所に行く前に、赤ちゃんと取り戻さなくては。
「あ、ありすが……まりさの、あかちゃんが……!」
倒れ込むように口々にすがるまりさ一家を、れいむは正面から受け止めてていた。
「アリスがそんなにゆっくりできないなんて!!」
すべてを聞いたれいむの声は、巣をふるわす渾身の怒声。
特に姉まりさが泣き崩れながらアリスにすべてに奪われた話では、あんこが煮えたぎったように赤い顔。すぐに復讐と姉まりさを受け入れることを告げるが、姉まりさの顔はうつむいたままだった。おそらくは、この先どれほどたっても微妙な距離となって二人の間に残るだろう。
アリスの蛮行が、粉々に砕いてしまったれいむと姉まりさの関係。
渦巻く怒りが、れいむを外へと駆り立てた。ちゅりーや理性的なゆっくりアリスに知恵を借り、世話好きなちぇんに家族の介抱を、他のれいむやまりさにアリスへの処罰の手配を頼むのが先決。
冬をのりこえ、存分に春の味覚で体を癒したれいむの瑞々しいからだが巣穴を飛び出す。
そこで、種無しアリスの放ったチェックメイトにようやく気がついた。
春風に混じる、はあはあという湿った息。巣の周囲を取り囲む、五十匹にも及ぶゆっくりアリスの群れだった。春先の発情しかかったところを、「あなたを大好きなゆっくり一家がいる」という煽りを受けて結成された大軍団。
理知的なアリス種以外、草原のほとんどのありすが結集していた。
その群れの先頭には扇動者の種なしゆっくりアリスと、まりさから奪った一匹の赤ちゃん。
それらが、れいむの登場に一斉に色めき立った。
「ゆ、すごい! れいむまでいるよおおお!」
「ゆ! れいむ、すてきなのおおおおお!」
れいむは脱出経路を探し、幾重にも取り囲むアリスの総数を認識してしまった。
絶望に先ほどのまでの怒りの火種は急速にしぼむ。
ただ、どうすればいいのかじりじりと下がり、飛び出したばかりの巣穴にまで後退。
「そごをどおしてよおお!! まりさたちが死んじゃう!! まりさを助けたいのおおお!」
もはや、アリスたちのひとかけらの理性に訴えかけるしかない。
だがその試みは、先頭のアリスにいやらしい笑みを浮かべさせただけだった。
「まりさは本当にいんらんだね! アリスじゃ満足できなくて、すぐれいむを引っ張りこむなんて、まったく田舎ものはこれだから困るわ。でも安心して。アリスたちでみんなをすっきりさせてあげるね!」
これが、アリスのまりさ一家への最後の手向けだった。
生殖を失った自分ができる最後の贈り物。
一方的な、愛情の果て。
「なに、いっでるのおおおお!!!」
「みんな、れいむと穴の中のみんなをゆっくりさせてあげてね!」
それは合図だった。
れいむの絶叫も、アリスの呼びかけと応えるアリスたちの歓喜の雄たけびにかきけされていく。
「れ、れ、れいむうううううう!!!」
その単一の言葉を、五十匹のありすが一斉に口にすると轟きのよう。
「や、やべでええええええええ! こすらないでええええええええええ!!! ゆぎいいいいいい……」
れいむは、アリスの怒涛の勢いであっという間に姿が見えなくなる。
飴にたかる地虫のように、アリスが一塊に群がるところ、そこにおそらくれいむがいたのだろう。
「気持ちいいよおおおおおお!!!」
「ゆふふふ、この前のれいむもかわいかったよね、おねーちゃん♪」
「きれいなれいむ、すごくいい声でないてくれたよね♪」
涎を垂れ流しながら、執拗に体を震わす姉妹らしきアリスの姿。
一方ではそれにあぶれたアリスたちが、その矛先をまりさ一家のすむ穴倉へと向ける。
まりさ一家の元へ、一列になってアリスの大行進。
「れ、れいむ? ……ゆっ!? ありすうううう、なんでええええええっ!!! もお、いやああああああああああああ!!!」
すぐさま、巣穴の中から期待に満ちた呼びかけと、それに続く大絶叫。
それも殺到するアリスの荒々しい嬌声にかきけされて、何も聞こえなくなる。
計算どおりにことが進んだ種なしアリスには、にこやかな笑みがもれていた。
「つんでれも過ぎると、こうなるのよ!」
これで、すべてが終わった。
そうアリスが思ったときだった。
「ゆぎいいいいいい!? おがあぢゃん、だずげでえええええ!」
赤ちゃんまりさの突然の悲鳴に振り向くと、赤ちゃんまりさにのしかかる一匹のゆっくりアリスの姿。
その悲鳴に同じく振り向いて、赤ちゃんまりさの存在に息を荒くして頬を染めていくゆっくりアリスたちの表情。
「ありずが、へんなごどじでぐるうう! ぎもぢわるいいいいいいい!!!」
その悲鳴は呼び水だった。
じりじりと性欲に身をよじらせながら迫ってくる周囲のアリスたち。
「ありずのこどもに、なにじでるのおおおおおお!!!」
種無しアリスの絶叫も無視して、ついにあぶれていた数匹のアリスたちが殺到する。
「ちいさいまりさがぎゃわいいいいいい!!!」
たちまちのうちに倒され、ねぶられ、囲まれる赤ちゃん。
種無しアリスがかけよるものの、同じ体格で性欲に燃え上がるアリスたちに跳ね飛ばされて近寄ることもできない。
「小さいまりさは素敵なのおおおお!!!」
「ゆぎいいい、おがあざん、おがあざん!!! だずげて、くるしいよおおおお!!! しんじゃうううううう、ゆぎいいいいい!!」
押しつぶされるようなうめき声は、一刻の猶予も無いことを雄弁に物語る。
アリスは赤ちゃんまりさを守るため、かけよりながら必死に同種に呼びかけていた。
「やめでええええええ、無理矢理すっきりするなんて、とかい派のやることじゃないわよおおおおお!!!」
言葉とともに体当たりするが、跳ね飛ばされる。
「やめでえええ、むりやりされる側のぎもぢ、かんがえられないのおおおおお」
泣いてすがるが、逆に圧し掛かられた。
「おやのまえでこどもをおかさないでえええ、このげす! へんたい! きちくうううううううう!!!」
そんな種無しアリスの言葉は、ただ同種の嗜虐心を満たすばかり。
圧し掛かるアリスのにやにや笑い。
なぜ、泣いて嫌がるゆっくりを犯しながら笑えるのか、アリスに理解できなかった。
「おがあざん、おねえちゃーん! もっとゆっぐりじだがっだあああああ……」
アリスに囲まれた赤ちゃんまりさの悲鳴は、死に際に理解したのか実の肉親に向けたもの。
それを最後に、赤ちゃんまりさのうめきは消えうせる。
「ゆー? もう動かないよ! ぜんぜんすっきりできなかった、失礼しちゃう!!!」
「これぐらいでペラペラにならないでね!」
わが子の死を告げるアリスたちの言葉。
「あいずとまりさの、あいのけっしょうがああああ……」
悲しさのあまり、種無しアリスはもはや身動き一つとれなかった。
すっきりできない不満顔のアリスたちがこちらを見ても、もう何もする気力がわかない。
「代わりに、この田舎もののアリスにすっきりさせてもらおうね!」
「子供の責任は親がとるのがとかいのルールよね!」
押し寄せる同種の波に種無しアリスは沈む。
「あかちゃん……ありすの……あかちゃん」
その声がありすたちの荒い鼻息に掻き消える間際、種無しアリスの脳裏に浮かんだ光景。
それは、ほんのわずかに仲睦まじく暮らした凶行に至る前のまりさ一家との日々だった。
餌を素直に返していれば過ごせていたかもしれない、本当のしあわせ。
もう届かない夢のかけら。
一際激しい重みにすり潰されながら、アリスの夢は終わりを迎えた。
一方のまりさ一家の巣穴。
怒濤の突撃によって、すでに一家は全滅していた。
あっという間だった。
闇雲のありすの大軍に、短い悲鳴を残し、踏み潰されての絶命。
それは、この後の事態を考えると幸せなことだったのかもしれない。
「まりさ、どこなのー?」
「でてきてー!」
一方、巣穴に反響するのはまりさを探すアリスたちの声だが、おせんべいと化したまりさはすでにアリスの体の下。
うろうろと探し回るアリスたちは、次第に窮屈になってきたことを悟る。
巣穴の外からの増援が到着していた。
その数はれいむが犯し殺されて、あぶれた分の増員。
とはいえ、さして広くも無い巣穴で、先行していたアリスたちは奥に奥に押し込まれ、やがてがっちりと壁と後続の間にはさまれてしまう。
「ゆぐううううう!!」
圧力でアリスの顔はおそろしく縦長に。これではたまらない。
「ゆぐうううううううううう! まっでえ、もう一杯だよー!」
恐ろしい圧力。一斉にうめきはじめるアリスたち。
その声が入り口付近に伝播するや、逆にアリスのすっきりできないあせりを刺激した。
「嘘つかないでね! 前のアリスだけで楽しんでいるんでしょ!」
「ち、ちが……っ」
「早く代わってね!」
発情したアリスはとまらない。
「ぶべらっ!」
悲鳴。ぶちゅりという重い音。
ついに押し破られm飛び散った先頭のアリスのクリームだが、後続のアリスにはそれがわらかない。
さらに赤ちゃんまりさと種無しアリスを犯し終えたアリスたちが殺到していく。
「げべっ!」
「ぶぎいい!」
ぶちゃ、ぱちゃと湿っぽい音が響くたび、クリームの海が広げっていく。
中ごろのゆっくりアリスたちは、そのむせ返る甘い匂いにようやく異変に気づいた。
「お、おがじいよ! もどって!」
「どこが出口なのー!」
「はやくすすんでえええ、すっきりしたいのおおおおお!!!」
「おざないでええええ!!」
もはや地獄だった。
クリームの海に沈みながら自らもその海に溶けていくアリスたち。
まるでプチプチを潰すように、その弾ける音と悲鳴が立て続けに何度も響く。
アリスの発情がようやく治まったのはその日の暮れ。
息も絶え絶えなクリームまみれの生き残りアリスがぜえぜえと這い出しくる。
各々、何に興奮していたのかも忘れ、とぼとぼと自らの住処へ戻っていった。
こうして、この日だけで草原のアリスの大半が死滅した。
本来のアリス種は、ゆっくり集団の個体数の維持に必須の存在。
そのバランスの要を欠いたゆっくり平原は、これから静かに他の獣たちの平原へと姿を変えていくだろう。
by小山田
集団アリスの全滅が無理やりだったので、いくらか生き残った方向に修正。(2008/8/2)
注意書き追記。
最終更新:2022年05月03日 18:26