『適者生存』
温かな春の陽射しの下、
色とりどりに咲き乱れる花畑があった。
風に揺られて、花びらと蝶の舞う一帯。
そこで、楽しさを全身で表現して、よたよただばだば踊る者達がいる。
胴体付きの、ゆっくりれみりゃ達だ。
「「「うっうー♪ うぁうぁー♪」」」
花畑のステージで、思い思いに踊って歌うれみりゃ達。
その周りで、一回り小さい胴体付きれみりゃ達が草花の絨毯に座って喝采を送っていた。
「まんまぁー、きれぇーきれぇーだどぉー♪」
「とぉーってもえれがんとだどぉー♪」
れみりゃ達は、数組の親子からなる群れだった。
今は、親にあたるれみりゃ達が、
子供達に"のうさつ☆だんす"や"うぁうぁ☆だんす"を教えているところだ。
親れみりゃ達は充実した笑みを浮かべて踊りを止め、
ふくよかな手で拍手を送るギャラリー達に、誇らしげに胸を張る。
「うー♪ あかちゃんたちぃーありがとぅだどぉー♪」
「まんまぁーはかりしゅま☆おぜうさまだから、これくらいあっさめしまえなんだどぉ♪」
そうして、親れみりゃ達は、ワクワク体を揺らす子供達を立たせ、ダンスを教えていく。
お手々を閉じて、開いて、ぐるぐる回して、お尻をフリフリ揺らして、はいウィンク。
そして、最後はおぜうさまだけに許される"かりしゅま☆ポーズ"で決めだ。
「「「れみ☆りゃ☆うー☆にぱぁー♪」」」
決まった。
そこにいる全てのれみりゃ達がそう感じていた。
渾身のポーズに、れみりゃ達は「うっうー♪」と一同に喜びを露わにする。
心が満たされれば、次はお腹が満たされる番だ。
親れみりゃ達は、花畑に咲く大輪の花をもぎ取って、優先的に子れみりゃ達に渡していく。
やがて、親れみりゃにまで花が行き渡ったところで、
れみりゃ達はフカフカの緑をソファーにして、杯に見立てた花で乾杯をする。
「えれがんとなでぃなーにするどぉー♪」
「うーうー♪」
"えれがんと"な食前の挨拶を終え、
れみりゃ達は、花の付け根に口をつけ、ちゅーちゅー吸い出した。
「う~~ちゅぶちゅぶ☆」
「ちゅ~ぶぅ☆ちゅ~ぶぅ」
ちゅーちゅー。
ちゅーちゅー。
れみりゃ達は、花の蜜を吸っていく。
「うーうー♪ あまあまー♪」
「うぁうぁー☆おはなさんおいしぃーどぉー♪」
蜜を吸い終え、まるっこい掌で両頬をおさえる、れみりゃ達。
1輪吸い終えると、また次の花へ。
赤い花、青い花、黄色い花。れみりゃ達は花を千切っては、その蜜を吸い上げていく。
れみりゃ達の顔は、一様に幸せに満ちていた。
そこに一切の不満や疑いは無い。
とはいえ、この花畑に咲いている花は、全てごく普通の花だ。
蜜の量は少なく、人間のお菓子や餡子の甘みとは比較にならない。
にも関わらず、れみりゃ達は満足していた。
「う~~♪ ごちそうさまだどぉ~~♪」
やがて、お腹いっぱいになったれみりゃ達は、どさっと体を倒してゴロゴロひなたぼっこを始める。
とりわけ、さっきまで盛んに踊っていた親れみりゃ達は、温かな日光を毛布にして、うつらうつらし始めた。
一方、遊び盛りの子れみりゃ達は、ひなたぼっこをそこそこに切り上げ、起きあがる。
「まんまぁー、れみぃーおさんぽいきたいどぉ☆」
「う~~ぽかぽかだどぉ~~~♪ むにゃ~~さくやぁ~~~♪」
親れみりゃを催促する子れみりゃ達。
けれど、親れみりゃ達は既に幸せな夢の中にいた。
「うー? まんまぁーたちおやすみだどぉー」
「れみぃーのまんまぁは、おねむしててもえれがんとだどぉー♪」
仕方なく、子れみりゃ達は自分達だけで探検を始める。
それは、ちょっぴりドキドキ刺激的で、まだ幼いれみりゃ達には大変魅力的なものに思えた。
子れみりゃ達は知らなかったのだ。
自分達れみりゃ種が置かれている状況を。
故に、子れみりゃ達は、探検するうちに見つけた"ソレ"に対しても無警戒だった。
「うぁ?」
「どぉーしたんだどぉ?」
「なんだかへんなのがいるどぉー♪」
先頭を行く子れみりゃが足を止め、視線の先にいる"ソレ"を見て首を傾げた。
後ろの子れみりゃ達もまた、不思議がりながらも、無邪気な余裕を露わにする。
「ほんとだどぉー☆れみぃーたちとちがって、ぶちゃいくだどぉー♪」
「おあたまぴっかーん☆だどぉ! だんすのおれいに、まんまぁたちにアレぷれぜんとするどぉ!」
「うっうー♪ ぐっどあいであだどぉー☆きっとまんまぁたちよろこぶどぉー♪」
「「「れみぃーたちってば、やっぱりかわいくておりこうさんだどぉー♪」」」
自画自賛を繰り返し、子れみりゃ達は"ソレ"を捕まえることに決めた。
それが、どれほど危険な行為かも知らずに……。
* * *
"まんまぁー!!"
静かな森からか弱い叫びがこだまし、夕焼けの花畑に届くのに、そう時間はかからなかった。
「う、うぁ!?」
遠くから聞こえてきた愛する子供たちの声に、ハタッと目を覚ます、親れみりゃ達。
親れみりゃ達は、キョロキョロあたりを見回して、額に一筋の肉汁の汗を浮かべた。
「う~~? あかちゃ~~ん?」
「どぉーしたんだどぉ?」
「うぁ、あかちゃんたちいないどぉ!?」
徐々に状況を理解していき、慌てふためく親れみりゃ達。
じたばたどたばた。
あっちへウロウロ、こっちへウロウロ。
親れみりゃ達は愛する子供達を探すが、取り乱すばかりで何も出来ない。
と、その時、再び子供達の声が響いた。
その声は、花畑に隣接する森の奥から聞こえてきた。
"まんまぁー、こっちくるどぉー!!"
「うっ! あかちゃんたちのおこえだどぉー!!」
「ほんとだどぉー♪ あのかぁーわいいおこえはまちがいないどぉー♪」
親れみりゃ達はその声を頼りに、森の中へと走っていく。
トテトテ、だばだば。
その走る姿は、人間からすれば巫山戯ているようにも見えるが、れみりゃ達からすれば必死の全力疾走だ。
ふくよかなお手々やあんよに擦り傷ができようと、
おべべが泥でよごれようと、親れみりゃ達は厭わなかった。
それは親としての情愛、さらにれみりゃ種の種としての生存本能が働いたからこそ出せる火事場の力でもあった。
「う~~~っ! あかぢゃーん! まっででねぇ−ん♪」
「いま、まんまぁーがいくどぉー! もぉーあんしんだどぉー♪」
そうして、がさごそ茂みを抜ける親れみりゃ達。
彼女らは、そこで愛する子供達と再開するのだが……。
「うーっ♪ まんまぁーだどぉー♪」
「ほんとだどぉー♪ やっぱりしゅやくはおくれてくるもんなんだどぉー♪」
「たよりになるどぉー♪ えれがんとでかりしゅま☆なれでぃーだどぉー♪」
子れみりゃ達は、確かにそこにいた。
そして、駆けつけた親達を見て、一様に目を輝かせた。
が、感動の対面……というわけにはいかなかった。
喜色満面の子れみりゃ達の一方で、親れみりゃ達は絶句して固まってしまっていた。
親れみりゃ達が見た光景。
それは、子れみりゃ達が数匹の"ソレ"によって捕まってしまっているところだった。
愛する子ども達は、"ソレ"の長い舌に体を巻き取られ、かろうじて顔だけが露出していた。
「う~~♪ しんだどぉー☆おまえらしんじゃったどぉー♪」
「れみぃーたちをいじめたこと、こうかいするがいいどぉー♪」
「まんまぁー♪ はやくこいつらやっつけちゃうんだどぉー♪」
自分たちを捕まえて離さない"ソレ"に対し、悪態をつく子れみりゃ達。
意気揚々な子れみりゃ達に疑いはなかった。
こーまかんのおぜうさまたる自分たちに害をなす者などいるはずがないと、そんなことが許されるはずがないと。
だから、自分たちに無礼を働いた"こいつら"は、間もなく尊敬する"まんまぁー"達にやっつけられて当然だと。
しかし、現実は子れみりゃ達が思うほど甘くはない。
親れみりゃ達は、子ども達の期待になかなか応えようとしない。
それどころか、ガタガタと体を震えさせるのが精一杯だった。
「う~? まんまぁー?」
「お、お、お……」
親れみりゃ達がようやく絞り出し、発した行動……それは恐怖に染まった絶叫だった。
「「「お、お、お、おまんじゅうだどぉぉぉーーー!!!!」」」
うわぁぁー!と目を見開き、パニックに陥る親れみりゃ達。
そこに、先ほどまでの平和で楽しかった面影も、かりしゅまでえれがんとな様も無い。
圧倒的な恐怖と絶望を前にして、そんなことを気にする余裕はどこにも無い。
"おまんじゅう"
親れみりゃ達が口にし、子れみりゃ達を舌で捕らえているもの……それは、ゆっくりれいむの親子だった。
ただし、その大きさは尋常ではなく、親と思われる1匹がざっと3メートル、
その両脇にいる子供らしきものでさえ、2メートル近くはある。
親で1メートルたらず、子どもで50センチほどのれみりゃ達では、どうしようも無い質量の差。
現に、れいむ親子達は、巨大な体躯についた目と口でニヨニヨ余裕の微笑みを浮かべ、愚かなれみりゃ達を嘲っていた。
"うぁぁぁーーん! ざぐやぁぁぁーーーごあいのがいるぅぅーーーー!!"
数匹の親れみりゃが恐怖に負け、子どもを見捨てて逃げ去ろうとする。
だが、回れ右をして走り出したすぐ先に、大きな黒い影が現れ、その進路を塞いでしまう。
「ぶっぎゃあ!」
目の前に突如現れた壁に顔から突っ込んでしまう親れみりゃ。
ボヨンとした弾力にはじき返され、その親れみりゃは尻餅をついてしまう。
"ぅ~~っ、ぅ~~~っ"と嗚咽を漏らし、赤くヒリヒリする顔を押さえて涙する親れみりゃ。
その前で、巨体がドスンと跳ねて地面を揺らした。
そこには、やはり3メートルサイズのゆっくりれいむがいた。
「う、うぁ、うぁあ……」
さらに、茂みの中からは次々と巨大なゆっくり達が姿を現していく。
れいむ、まりさ、ありす、ぱちゅりー、みょん、ちぇん……そのいずれもが、2〜3メートルの巨体を揺らす。
れみりゃ達は、今やこの巨大ゆっくり達に完全に包囲されてしまっていた。
『ぶたまんがにげられるわけないでしょ? ばかなの? しぬの?』
巨大なれいむがそう言うや否や、巨大ゆっくり達は全てのれみりゃを舌で捕らえ、口の中に閉じこめる。
そうして、巨大ゆっくり達は自分たちのコロニーへと跳ねていく。
この巨大ゆっくり達にとって、れみりゃ種は貴重な食料源だった。
だからこそ、この場で食べあさってしまうようなことはしない。
ある者にとってはより効率的で、ある者にとってはより残酷な手順を、この巨大ゆっくり達は知っていた。
"まんまぁーーー!"
"あがじゃんーーー!"
"やだぁーーごぁいどぉーーー!"
"ざぐやぁーーだじゅげでぇーー!""
暗い口の中に閉じこめられながら、れみりゃ達はあらん限り泣き叫んだ。
特に、親れみりゃ達は、こらから起こるだろう事態を見聞きしていたため、より悲痛な叫びと絶望をあらわにした。
やがて、泣き叫ぶ力も無くなった頃、れみりゃ達はペッペッと巨大ゆっくりから吐き出された。
そこは、巨大ゆっくり達のコロニーのはずれに作られた"のうじょう"だった。
固い地面の上に吐き出され、痛みで叫ぶ者。
久しぶりの親子の対面に、抱き合いながら号泣する者。
れみりゃ達にとっては、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
しかし、そんな叫びを涼しく受け流して、1匹の巨大ゆっくりちぇんが、口を開いた。
『みんな"ようとんじょう"いきなんだよー、わかるよぉー』
養豚場。
ちぇんが口にしたその場所には、既にたくさんのれみりゃ達がいた。
だが、そこからは「うーうー♪」も「うぁうぁ♪」も聞こえてこない。
"ぶぅーぶぅー"
その場所から聞こえてくるのは、そんな鳴き声だけだ。
この場所は、巨大ゆっくり達が自分達群れのために共同で、れみりゃを"飼って"いる場所だった。
人間であるならば目をそむけたくなるほどの劣悪な環境に、大人も子どもも関係なく、れみりゃ達は押し込められていた。
そこでれみりゃ達は、ゆっくりとはほど遠い、悲惨な家畜としての日々を強制されていた。
『むきゅー! ふらんまかせたわよ!』
新たに連れてきた親子れみりゃ達を"養豚場"に放り込んで、1匹の巨大ぱちゅりーが"養豚場"の管理者を呼ぶ。
間もなく、全身薄汚れて傷だらけのゆっくりフラン達が数匹やってくる。
フラン達は、この"養豚場"の管理を任されていた。
「……うー、わかりましたぁ」
本来、最強のハンターであるはずのフラン達。
そのフラン達もまた、巨大ゆっくりの言いなりになっていた。
管理者といえば聞こえはいいが、結局のところこのフラン達もまた巨大ゆっくり達の奴隷であった。
食糧の飼育に、危険で汚い重労働、あるいはストレス発散のすっきり相手として、フラン達もまた悲惨な状況下でこき使われていた。
「ふらんー! おねがいだどぉー! せべでぇあがぢゃんだけでもぉー!!」
「おねがいじまずぅーー! れみりゃをいじめないでぐだざいぃーー!!」
「……ゆっくり……しね」
泣き叫ぶれみりゃの顔を殴ったり、抓ったり、死なない程度に痛めつけておとなしくさせてから、
フラン達は新しく連れてこられたれみりゃ達を養豚場の奥へ連れ込んでいく。
そこでれみりゃ達を待つのは、家畜として無理矢理繁殖させられ、
育ったならあの恐る巨大べきゆっくり達に食糧として食われる無限地獄だ。
"ぶひぃ~~! ぶひぃ~~!"
"はいぃぃーっ、でびりゃはぶちゃいくなぶだまんでずぅー!"
"きょうもでびりゃのあがじゃんたべでぐれでありがどぉーごじゃいまずぅー!"
一昨日は友達が食われた。
昨日は実の子どもが食われた。
今日は子ども増やすために無理矢理すっきりさせられた。
明日は自分が食われるらしい。
いつまでも終わらぬ地獄。
巨大ゆっくりやフラン達が眠った夜遅くに、
れみりゃ達は、あらん限りの声で天に叫ぶのが日課になっていた。
「「「ごーまがんのおぜうざまがどぉーじでごんなべにぃーー!!?」」」
* * *
どうしてこのような事態になったのか。
事の起こりは数年前にまで遡る。
幻想郷に"ゆっくり"と呼ばれる不思議生命体が現れ始めた頃。
れみりゃ種は胴体の無いものが殆どで、胴体を持っているものは希少種中の希少種と呼ばれていた。
だが、それからしばらくして、そのバランスに変化が起こる。
胴体と四肢を持ったれみりゃの数が増えていき、いつしか胴体の無いものの方が珍しくなっていく。
胴体を持つことでれみりゃ種は飛行能力や敏捷性、捕食種としての感覚を著しく衰えさせた。
しかし、そういったデメリットを差し引いても、当時のれみりゃ達は胴体付きに姿を変えていった。
どんなに不器用でも四肢を持っているメリットは大きい。
また、体が有ればより"えれがんと"なダンスを踊れるし、紅魔館の主に近づくことで一部の人間からの寵愛も受けられる。
既に捕食者として通常種に対して明確なアドバンテージを得ていたれみりゃ種は、
外敵への対処や自然環境を生き抜くためではなく、例え身体能力を劣化させてでも"よりゆっくりするための"進化を選んだのだ。
一方で、れみりゃ達が一つの進化の選択を行うのに対して、通常種達はまた別の進化を模索していた。
れいむ種やまりさ種などに代表される通常種。
彼らは、自然環境に生きるにあたって、あまりにも脆弱で非力だった。
故に、少しでもゆっくりするための可能性として、通常種は一つの定向進化を始めた。
それは、他の動物たちでもまま見られる傾向……すなわち種の個体の大型化であった。
初めは"ドスまりさ"に代表される一部の変異体のみだった大型化。
やがてそれは、通常種全体に見られるようになっていく。
代を重ねるごとにサイズを一回り大きくさせる通常種達。
通常種の世代交代のサイクルの早さもあって、その巨大化は他の生物では考えられぬ早さで行われていった。
そして、2メートルオーバーの成体ゆっくりが当たり前になった頃、通常種達は明確な事実に気付くことになる。
自分達が既に食物連鎖のヒエラルキーにおいて最下層にはいないことに。
さらにこの頃、既に全てが胴体付きになっていたれみりゃ種は、
ゆっくりする事を追い求めた結果、羽を完全にお飾りのものにまで退化させ、空を飛ぶこともできなくなっていた。
ここにきて、捕食する者・される者の関係は、完全に逆転したのだ。
れみりゃ種や、同じく巨大化の道を選ばなかった捕食種達は、巨大通常種に次々蹂躙され、そのエサとなっていった。
一方で、巨大ゆっくりの中には、己の力を過信し、捕食種以外に戦いを挑むものもいた。
だが、人間の知恵と技術には到底かなわず、中型以上の野生動物の牙や爪に対して饅頭の体はあまりに無力だった。
故に、巨大ゆっくり達のターゲットは、次第にれみりゃ種やふらん種に固定されることになる。
一時期"希少種"であることを忘れさせるほど大繁殖した、れみりゃ種・ふらん種だったが、
巨大ゆっくりに狩られて次々に数を減らしていき、ついには絶滅寸前にまで追いやられてしまった。
短期間でそこまで追い込まれてしまったのには、胴体付きの種が、通常種に比べて繁殖力が低いのも起因した。
このままではエサが無くなってしまう……そう考えた巨大ゆっくり達は、
自らのコロニーに農場を作り、生き残ったれみりゃ種・ふらん種をかたっぱしから捕獲して閉じこめた。
そしてそこで、自分達の都合の良い家畜や奴隷として、調整生産することにしたのだ。
この進化と生存競争の課程が、現在れみりゃ種に起こっている悲劇の理由だった……。
* * *
れみりゃ達の叫びが、巨大ゆっくりに届くことはない。
巨大ゆっくりのコロニーの一画、れいむとまりさの番からなる家族では、今日もいつも通りの夕食が始まろうとしてた。
『おちびちゃんたち、ゆっくりごはんのじかんだよ』
『『『はぁ~~~い』』』
巨大れいむに呼ばれて、子ども達が集まってくる。
子どもとはいえ、そのサイズは成人男性よりもよほど大きい。
家族ですごす一家団欒のひととき。
今宵のメインディッシュは、鮮度の良い子豚だった。
「「「まんまぁーーー!! ざぐやぁぁーーーー!!」」」
号泣するのは、痛めつけられ動くことの出来なくなった子れみりゃ達。
れいむとまりさは、子ども達にれみりゃの食べ方を教えていく。
『おちびちゃんたち、まずはきたないから皮をむこうね』
『ほらこうするんだよ、べぇ~りべぇ~り、ぺっぺっ』
れいむとまりさは、舌を使って子れみりゃのおべべを剥ぎ取っていく。
子ども達もそれを真似するが、まだ不器用で、ついつい力を入れすぎて子れみりゃの皮膚ごと剥ぎ取ってしまう。
「ぶっぎゃぁーー! いだいーー!!」
「れみりゃのおべべがぁーー! おぼうじがぁぁーー!!」
「それきちゃなくないどぉーー! まんまぁーからもらっただいじだいじだどぉーー!!」
「ぎゃぼぉーー! ぎゃぼぉーーー! たべちゃうぞぉーーー! だべちゃうどぉーーーー!!」
「おねがいじまずぅーーおばんじゅうざまぁーー! えびりゃをだべないでぐだじゃいぃぃーー!!」
『きたない皮をむいたら、次はこうするんだよ』
「うわぁぁぁーーー!!! まんまぁーーーーー!!!!!!」
れいむは舌で子れみりゃを1匹巻き取りそれを丸ごと口の中へ運ぶ。
そして、その質量を活かして咀嚼をはじめた。
『『『ゆぅ~~♪ むーしゃむーしゃ♪』』』
親れいむに続き、番のまりさや子ども達も、子れみりゃを丸呑みにして噛み砕いていく。
ばりばりむしゃむしゃ。
ばきばきごっくん。
不愉快な音は、れいむ達には聞こえない。
感じるのは満たされる空腹感と、口の中に広がる肉汁の美味だけた。
『ゆっくりごちそうさまだよ』
『おいちかったねぇー♪』
子れみりゃを全てたいらげ、れいむ一家は幸せを満喫する。
『でも、ぶたはちょっとあきちゃったよ……』
『ゆっ、そうだね、それじゃこんどはあんまんをたべようね』
『ゆぅーーん! あんまんはあまくて、とってもゆっくりできるよ♪』
明日はれみりゃを食べようか、それともフランを食べようか。
あるいは、久しぶりにゆゆこや、きめぇ丸を食べるのも良いかもしれない。
かつての通常種では考えられなかっただろう食の悩みと、選択肢。
これからもいつまでも、ずっとゆっくりした日々が続くに決まっている。
この巨大ゆっくりの一家には、薔薇色の未来しか見えなかった。
だから、子どもの1匹がふと違和感を口にしても、さしたる危機を覚えることは無かった。
『……ゆぅ? おかーさん、なにかきこえるよ?』
『ゆー?』
外の音に注意を傾ける、親れいむと親まりさ。
すると、確かに外が騒がしいようだ。
『ようすをみてくるよ、みんなはゆっくりここでまっててね!』
親まりさはそう言うと、一人で巣から出て行く。
他の家族も、巣の入り口付近に立って、勇敢な親まりさの様子を眺めている。
親まりさは、どっすんどっすん跳ねて、開けた場所に出て周囲を見回した。
『ゆっ、なにかとんでるよ!?』
まりさは、コロニーの上空、ほの暗い薄暮の空を飛ぶ"何か"を見つけた。
一方、その"何か"も、まりさを見つけたらしく、まりさめがけて降下してくる。
まりさは、それを大きくてゆっくりしている自分に対する挑戦と受け取った。
『みのほどしらずだね! まりさがやっつけてあげるよ!』
ドッスンと跳ねるまりさ。
しかし、降下してきたそれは、まりさの体当たりを軽々よけると、まりさの左右に散っていた。
『ゆっ!?』
体当たりを避けられながらも、まりさは"何か"の正体をかいま見た。
それは、自分よりずっと小さい、空を飛ぶ生き物の群れだった。
まだ、自分たちに逆らう愚か者がいたとは……。
まりさは、その小さい飛行生物を倒すべく体の向きを変えようとして……違和感に気付いた。
自分が振り向いた時、そこには既に小さな飛行生物はいなかった。
飛行生物はすばしっこく、常にまりさの死角へとまわり込む。
『ゆぅー! まりさとたたかってね! にげまわるなんてひきょうもののすることだよ!』
まりさは叫ぶが、飛行生物がそれを気にとめることはない。
それどころか、飛行生物達はノロマで鈍重なまりさを、まるで嘲るように、からかうように周囲を旋回する。
いいように翻弄され、次第に息を荒げていくまりさ。
さらに、飛行生物はまりさの死角から、チクチク攻撃をしかけ始める。
何かをついばむような、突き刺すような痛みが、まりさの後頭部や側頭部に繰り返される。
『ゆぎぎ! やめてね! ゆっくりまりさにやられてね!』
1回1回の攻撃は、そこまででは無かったが、集団でそれを繰り返されれば、巨大なまりさといえどたまらない。
さらに、まりさの攻撃能力を見極めた飛行生物は、それまでのヒットアンドアウェイではなく、本格的な攻撃を開始した。
髪の中、帽子の中に潜り込まれ、さらに噛みつきようのない、目の周りや頬にまでその攻撃は及ぶ。
ここに来て、まりさは久しく忘れていた感情を呼び起こす。
それは、生命の危機に対する、恐怖だった。
『ゆ、ゆげっ! や、やめてぇー!!』
とうとう、まりさは悲痛な叫びを上げる。
それと同時に、飛行生物の群れは暗い影の塊となって、まりさを覆った。
その光景を、番の巨大れいむは家の出入り口でじっと見つめていた。
れいむには全く想像できないでいた、大きくて強い自分たちに害がなされることなどあるはずがないと。
『ま、まりさ……?』
黒い影に覆われたまりさに、声をかけるれいむ。
次の瞬間、黒い影が散開して、まりさの姿が露わになった。
……ただし、そのまりさは、既にれいむの知る姿とは大きくかけはなれていた。
『ま、まりざぁぁーーー!?』
絶叫する、れいむ。
視線の先のまりさは、体内のあんこを急激に失い、既に事切れていた。
体中に無数の穴が開き、そこから今なおビュッビュッとあんこが漏れている。
そのショッキングな光景に、身を固まらせるれいむ。
呆然とするれいむを現実に戻したのは、子ども達の助けを求める声だった。
『ゆ、ゆぇ~~ん! おかぁ~しゃ~~ん!』
『ゆゆっ? おちびちゃんどーしたの!?』
ハッとして後ろを振り向く、れいむ。
そこには、先ほどまでまりさを覆っていた影に覆われる、我が子達がいた。
その影……飛行生物の群れは、先ほどのまりさと同様、子ども達の死角にまとわりつき、
攻撃を加えて弱ったところを狙って、あんこを吸い上げていた。
『おかーしゃーん! いたいよぉーー! ゆっぐりできないーー!』
『も、もっどゆっぐり……ぢだがっだよ……』
子どもとはいえ2メートル前後の巨体を持つ、子れいむや子まりさの顔から、あっという間に生気が失われていく。
全身にくまなく無数の穴が空き、そこからは親まりさと同様あんこをもらしていた。
『お、おちびちゃんーー!!』
子ども達の惨状を見て、叫ぶれいむ。
しかし、時はすでに遅く、親れいむの目の前で子ども達は息を引き取ってしまう。
『ゆがぁーー! しねぇーー! ゆっぐりしないでじねぇーー!!』
れいむは、怒りで我を忘れ、飛行生物達に突撃をかける。
しかし、巨大な質量塊となったれいむは、パワーこそ凄まじいが、スピードはお粗末なものだ。
空を飛び回る、敏捷なそれらに体当たりが当たることはなく、れいむだけが体力を消耗していく。
『よぐもぉー! よぐもばでぃざをぉーーー!! おぢびぢゃんだぢをぉーーーー!!』
れいむは、舌をのばして飛行生物を捕らえようとするが、飛行生物の俊敏な動きには舌の動きがついていかない。
それどころか、伸ばした舌にまとわりつかれて、攻撃されてしまう。
『よぐもぉー! よぐもぉー!! ばでぃざをがえぜぇぇーー!! おぢびぢゃんぼぉがえじぇぇぇーーー!!!』
その怒りが通じたか、れいむは口を最大限に開き、目の前をゆく飛行生物の一匹を丸呑みにすることに成功する。
が、それとて飛行生物には通用しなかった。
『ゆ、ゆぎゃぁ!?』
れいむが口の中の飛行生物を咀嚼するよりもはやく、その飛行生物はれいむの体内を攻撃しはじめた。
口の中を飛ばれ、体内の大事なあんこを直接攻撃され、食べられてしまう……その事態に、れいむは恐怖を爆発させる。
『た、たべないでぇー! れいむをなかからたべな』
それが、巨大れいむとその一家に訪れた、幕引きだった……。
そして、それと同様の光景が、巨大ゆっくりのコロニー各所で巻き起こっていた。
『『『ゆぎゃーー! おねがいゆっぐりざぜでぇぇーー!!』』』
ゆっくりできない生命の危機に、巨大ゆっくりのコロニーは大混乱に陥っていた。
次々に巣の中から飛び出してくる、巨大ゆっくり達。
上空を舞う飛行生物達は、その様を見て楽しげに微笑んだ。
そして、その飛行生物達は、独特のリズムで羽をはばたかせ、歌を口ずさむ。
「うーうー♪」
「うっうーうぁうぁー♪」
その歌を聞いて、自分たちを狙い上空を舞う飛行生物達を見上げる、巨大ゆっくり達。
そこいた生物を、巨大ゆっくり達ははるか昔に見たことがある気がした。
50センチほどの顔にニコニコした表情を浮かべ、
その下ぶくれ顔の左右にはコウモリを思わせる羽がついている。
「うー♪ うまうまー♪」
「あまあま☆おいしぃぞぉー♪」
飛行生物の正体……それは、巨大ゆっくりが現れるよりもはるか前に消えたと思われていた、原初の捕食種。
……胴体無しの"ゆっくりれみりゃ"だった。
あんこの遺伝子に刻み込まれた、遠い記憶を呼び起こす巨大ゆっくり達。
気付くと、巨大ゆっくり達は一様に叫んでいた。刻み込まれた通常種の宿命たる叫びを。
『『『れ、れ、れ、れみりゃだぁぁーーーー!!!』』』
* * *
数年後。
そこには、胴無しれみりゃから逃げ回る小さなゆっくり達がいた。
瞬く間に起きた、胴無しれみりゃ、胴無しフランの復活。
それは、れみりゃ種フラン種が、種として巨大種に対抗するための進化だった。
巨大で鈍重なゆっくり達は、機敏な胴無しれみりゃ達に次々と狩られ、あっという間に姿を消していった。
ゆっくり達は、少しでも生存確率を上げるため、
ちょっとした隙間でも身を隠せる小さな体へと進化していった。
それからさらに数年後。
胴無しれみりゃ達にも変化は起きる。
飛びながらでは入れない小さな隙間にゆっくりが逃げ込むようになり、思うような狩りができなくなったためだ。
その結果、胴無しれみりゃ達は飛行能力を犠牲にして、地面に降り立った。
その四肢で、隙間や洞の奥に逃げ込んだゆっくりを掴みだせるように……。
「ぎゃおー☆たーべちゃうぞー♪ あまあまどもーまつんだどぉー♪」
「うっうー☆まんまぁーはかりのてんさいだどぉー♪」
諸行無常。世界は流転し繰り返す。
おしまい
by ティガれみりゃの人
最終更新:2022年05月03日 23:56