『おはなしのくに』
紅魔館の瀟洒なメイド長・十六夜咲夜は、
その日、博麗神社を訪れていた。
ふわりと境内に降りて、神社の建物の中へ向かう咲夜。
すると、中から聞き知った叫び声が響いてきた。
"うぁぁーーん! しゃぐやぁーー! ごあいひとがぁーーー!"
泣きながら自分に助けを求める幼い声。
その声に、咲夜はハッとして駆け出し、部屋に上がる。
「れ、れみりゃ様? どうなさったんですか?」
障子を開け放ち、幼き声の主を確認する咲夜。
赤白の巫女がお茶をすすったまま咲夜を見て唖然とするさらに奥、
そこにピンク色のスカートを着た太ましく可愛らしいお尻が見えた。
「うぁ!? しゃくやぁ~~♪」
咲夜の声に、踞って震えていた大きなお尻がくるりと回って、泣きじゃくった顔を向ける。
その尻の主・ゆっくりれみりゃは、咲夜を見るや否や、トテトテだばだば咲夜へ駆け寄っていった。
「う~~! おねぇーしゃんが、れみぃーにいじわるするのぉーー!」
ばふっと抱きつくれみりゃを、優しく受け止める咲夜。
咲夜は畳の上に座り、その膝の上にれみりゃを座らせてあげる。
咲夜に優しく抱かれて、れみりゃは"うー♪"と涙を忘れて微笑んだ。
「ずいぶんな言われようね……」
お茶請けの乗った卓袱台の前に座りながら、霊夢が暢気な溜息をついた。
一方、咲夜はれみりゃの頭を撫でながら、鋭い視線を霊夢へ向けて突き刺した。
「……どういうつもりかしら?」
「どうもこうも、こいつに頼まれて本を読んであげただけよ?」
霊夢が指差す先へ視線を移す咲夜。
そこには、畳の上に何冊もの絵本が散らばっていた。
「これ、外の世界の絵本よね?」
「早苗がゆっくり達に……って持ってきたのよ。よくわかんない奴よね」
守矢の風祝の話題が出ると、以前会ったことがあるれみりゃが、ニコニコ笑みをこぼした。
「うー♪ あのおねぇーしゃんは、とってもゆっくりできるひとだったどぉー♪」
「へぇー、わたしはゆっくりできないわけ?」
「う、うぁ!」
霊夢に意地悪げな笑みを向けられて、
れみりゃは怒られると思って反射的に頭を押さえる。
俯き両手で頭を抱えて、"う~~! う~~!"と怯えた声を漏らすれみりゃ。
咲夜が良し良しとなだめると、れみりゃは咲夜の腕にギューと抱きついた。
こんなに怯えるということは、やはり何かされたのか?
咲夜はそう考えて、霊夢を問い詰める。
「……本当に本を読んだだけなの?」
「本当よ! まずはこれを読んであげたわ……そしたらこいつ」
霊夢が手を伸ばし1冊の本を手にとって、咲夜に見せる。
その本の表紙には、『シンデレラ』というタイトルが描かれていた。
* * *
「……というわけで、めでたしめでたし」
パタンと絵本を閉じる霊夢。
だが、霊夢に絵本を読むようせがんだ"こーまかんのおぜうさま"は、
霊夢の傍らで両足を前に投げ出して座ったまま、ぷくぅーと両頬をふくらませていた。
「どうしたのよ?」
「うーー! あねよりすぐれたいもうとなんていないんだどぉーー!」
れみりゃは畳の上で、どんどんだばだば、両足と両手を上下させる。
どうやら、姉が悪役で妹が主役のシンデラレを読み聞かされて、姉として納得いかないところがあったらしい。
頭の中で、意地悪な姉を自分に、シンデレラをゆっくりれみりゃの妹・ゆっくりフランに置きかえているのだろう。
そこで霊夢は、れみりゃへ向かって常々思っていたことを聞いてみた。
「でも、あんたより、ゆっくりフランの方が強いじゃない?」
「そんなことないどぉー! れみぃーはかりしゅまなんだどぉー! だんここうぎするどぉー!」
霊夢は、紅魔館を訪れた際に、
目の前のれみりゃが妹のフランに虐められているところを、何度と無く目にしていた。
その度に、れみりゃは泣き叫び、咲夜に助けを求めていたのだが……。
しかし、それはそれ。
妹のフランの方が強かったり、賢かったりする部分があるのは、
やはり姉たるれみりゃにとって決して認めたくない痛い部分だった。
だどだど!
だばだば!
うーうー!
れみりゃは怒りながら、目にうっすら涙を浮かべて悔しがる。
そんなれみりゃの様子を眺めながら、霊夢はふと意地悪を口にしてみたくなった。
「……妹の方が紅魔館の主になったりしてね」
「うぁぁーー!! なんでそんなごどいうんだどぉーーー!?」
ぎゃー!と目と口を大きく見開いて、れみりゃは絶叫した。
* * *
「うーー! しゃぐやぁー! ほんとにふらんがおぜうさまになっちゃうどぉー?」
咲夜の腕の中、うっぐえっぐと嗚咽まじりになりがら、不安げな表情を浮かべるれみりゃ。
ぬぅーと咲夜を見上げる曇った下膨れ顔に、咲夜は太陽のような笑顔を輝かせた。
「大丈夫ですよ。れみりゃ様も妹様も、私の大事なお嬢様です」
そう言って、咲夜は指でれみりゃの涙を拭う。
「う~~♪ しゃくやぁ~~だいしゅきぃ~~♪」
れみりゃの顔が、徐々にぐずり顔からいつものニコニコ顔へ戻っていく。
"うーうー♪"と御機嫌になるまでに、さして時間はかからなかった。
「……あんたも、微妙に明言避けてるじゃない」
「……なにか言った?」
霊夢の冷淡な突っ込みを、それ以上の氷の微少で受け流す咲夜。
"おお、こわいこわい"と肩をすくめて視線をそらす霊夢。
かわりに霊夢は、別の絵本をとって咲夜へ説明を続けることにする。
「……で、そいつが不機嫌になっちゃったから、今度はそっちの本を読んであげたの」
霊夢が持つ本にはこう描かれていた。
『アリとキリギリス』と。
* * *
「……というわけで、めでたしめでたし」
「うーーっ! なっどぐいかないどぉーー!」
パタンと絵本を閉じる霊夢に、
れみりゃはまたしても食ってかかった。
やれやれと溜息をつく霊夢の肩を、
立ち上がったれみりゃがゆっさゆっさと揺すろうとする。
信じられないくらい柔らかくて、力の無い揺さぶりに逆に驚きつつ、
霊夢は何が気に食わないのかとれみりゃに聞いてみる。
すると、れみりゃは実にゆっくりらしい抗議を始めた。
「きりぎりすさんは、ゆっくりしてただけだどぉー! なんでゆっくりしちゃいけないんだどぉー!」
なるほど、そう考えるわけか。
ポンと心の中で膝を叩く霊夢。
この寓話の教訓は、確かに"ゆっくりすること"を否定しているともいえる。
ゆっくりからすれば、ゆっくりしていたキリギスが死に、ゆっくりしていないアリ達が生き残るのは到底認められないだろう。
それを認めてしまえば、ゆっくりという存在自体を否定しかねない。
……ゆっくりれみりゃがそこまで考えてだだをこねているとは思えなかったが、
少なくともそれに近い何かを本能的に察したのだと霊夢は考えた。
「ゆっぐりすると、ゆっぐりできないんで、ひどいどぉー! あんまりだどぉー!」
れみりゃは泣き出しながら、霊夢の肩を全く痛くない掌でバシバシ叩き出す。
ぶつけようのない気持ちに、れみりゃは涙が止まらなくなっていた。
「ゆっぐりするどぉー! ゆっぐりしたいどぉーー! うぁぁーーゆっぐりぃーーー!!」
* * *
「しゃくやぁ~~! れみぃーはゆっくりしたいどぉーー!! さむいおそといやぁーー!!」
咲夜の膝の上で、いやいやとかぶりを振る、れみりゃ。
そんなれみりゃを、咲夜は温かくギュッと抱きしめる。
「大丈夫ですよ。れみりゃ様は、ゆっくりするのがお勤めですから」
咲夜の言葉に、れみりゃはホッと胸を撫で下ろす。
安心したれみりゃは、咲夜の顔に親愛の"すりすり"をする。
「う~しゅりしゅり~♪ しゃくやもいっしょにゆっくりするがいいどぉ~~♪」
互いにほっぺたを"すりすり"しあう、れみりゃと咲夜。
その様子に呆れながら、霊夢は一応話を続けることにする。
「……で、そいつがぐずりだしたから、この本を読んであげたの」
霊夢の声に、顔を上げる咲夜。
霊夢が持っている本の表紙には、お菓子で出来た家が描かれていた。
「ほら、表紙からしてそいつの好きそうなものばっかりだし」
その本の名前は、『ヘンゼルとグレーテル』といった。
* * *
「うぁーうぁー♪ しゅってきだどぉー♪ れみぃーもおかしのこーまかんほしいどぉー♪」
満面の笑顔で、下膨れた頬をこぼれ落ちそうにさせる、れみりゃ。
先ほどまでの涙はどこへやら、畳のに座って、口角にヨダレをためている。
仲の良い兄妹が、森の奥でお菓子で出来た家を発見する物語……。
どうやらこの本は正解だったらしいと、霊夢は肩で息を吐く。
れみりゃはと言えば、両手で頬を支えながら、"うーうー♪"と楽しげに頭を左右に揺らしている。
その頭の中では、(自分を虐めることもない)可愛いフランと一緒にお菓子の家を食べているのだろう。
泣いたり笑ったりコロコロ表情を変えるれみりゃに、
霊夢は面倒くさいと思いながらも、興味を覚えだしていた。
今はこんなに御機嫌でも、きっとまたすぐぐずるんだろうなぁ……と。
そんな霊夢の予感が的中するのに、そう時間はかからなかった。
物語の中盤、お菓子の家が実は子供を食べようとする魔女の罠だと判明した瞬間、
見ている方がおもしろいほど、れみりゃの表情は見る見る顔面蒼白に染まっていった。
「ぷっぎゃぁー! まじょさんごぁいーー!!」
れみりゃは泣き出し、絵本の挿絵の魔女から逃げるように、畳部屋の隅へ駆けだしていく。
前を見る余裕も無いれみりゃは、部屋の隅で壁にゴツンと頭をぶつけて、そのまま倒れ込んでしまう。
"う~~~!"とヒリヒリ痛む頭をさすりながらも、れみりゃの恐怖はおさまらない。
ずりずり這うように部屋の奥へ奥へと逃げていき、そこで霊夢と絵本の魔女に背を向けるようにして、
頭を抱えこんでガタガタ震えだす。
「れみぃーはおかしのいえなんてしらないどぉー! ぷっでぃーんこぁいどぉーー!!」
大好きなはずのお菓子まで、魔女を連想させるものとして怯えだすれみりゃ。
そんなれみりゃを見ているうちに、霊夢の中でフツフツとイタズラ心が湧き出てきた。
「ほらほら、あんたも我が侭言ってプリンばっかり食べてると……」
霊夢は、魔女の挿絵が描かれたページを開いたまま、れみりゃへ近づいていく。
「やだぁーー! れみぃーたべちゃだめぇーー!!」
れみりゃは帽子をずらして顔を覆い、丸々大きな尻を両手で隠そうとする。
ニヤニヤと笑みがこぼれてしまうのを、霊夢は止められない。
霊夢は、普段我が侭に振り回されているぶん、もう少し怖がらせてやろうと思った。
「あ、あそこに魔女が」
「うぁぁーーん! しゃぐやぁーー! ごあいひとがぁーーー!」
* * *
「……ってわけよ」
咲夜の視線に時折殺気がこもるのを感じながら、手早く事の顛末を説明しきる霊夢。
幸い、咲夜が直接霊夢に手を上げることは無かった。
咲夜は霊夢に構う暇など無いとばかりに、れみりゃにベッタリだった。
「しゃくやぁ~~、れみぃーぷっでぃ~んたべてもいいどぉー?」
「もちろんですよ。魔女だろうが巫女だろうが、私がナマス斬りにしちゃいますから」
自分を無償の愛で包み込む存在の温かさと力強さに、
れみりゃは難しい考えなど抜きにして胸の中がホカホカするのを感じた。
その嬉しいホカホカに促されて、れみりゃはバンサーイと両手を大きく広げるのだった。
「うっうー♪ しゃくやはおつよいどぉー♪ れみぃーをこあがらせたまじょさんはしゃくやにいぢめてもらうどぉー♪」
万華鏡のように変わるれみりゃの喜怒哀楽に、霊夢はお茶を一口流し込んで溜息をついた。
「……ったく、早苗も余計なものよこすんじゃないわよ」
「あら? それは読む人の問題じゃないですか?」
咲夜のものとも違う声に、反射的に顔を向ける一同。
見ると、咲夜が来て以降空いたままになっていた障子の向こう、
年季の入った板張りの縁側に、バスケットを持った緑色の髪の少女が佇んでいた。
「さ、早苗?」
「う~☆ゆっくりできるおねぇーしゃんだどぉー♪」
霊夢に社交辞令の一礼をした後、その巫女の少女は部屋に入って来て畳に座る。
そして、霊夢に向けたのとは全く違う、心のこもった微笑みをれみりゃと咲夜に向け、
はしゃぐれみりゃへ向かって手を振った。
「うっうー♪ れみぃーもおててふるどぉー♪ おひめちゃまみたいだどぉー♪」
れみりゃは、まるで王族や皇族が庶民にするように、ゆっくり手を振り返す。
想像の中で、れみりゃは咲夜や早苗に良くしてもらっているお姫様になっていた。
「……うぁ?」
ふと何かに気づいて、ぴたっと手を振るのを止める、れみりゃ。
「……う~~くんくん」
れみりゃは咲夜の膝の上から立ち上がると、
くんかくんかと鼻を鳴らしながら早苗の下まではいはいして近づいていく。
やがて、早苗が横に置いたバスケットへ、ぬうーと下膨れスマイルを寄せる、れみりゃ。
「ああ、これ? 食べるかなーと思って作ってみたの」
その様子を見て、早苗はバスケットを開いて中身をれみりゃに見せる。
そこには、美味しそうなクッキーが詰まっていた。
「オーブントースターが使えなかったからちょっと手間取っちゃたけど……」
「うぁーうぁー☆しゅっごいどぉー♪ こ、これたべていいどぉー?」
クッキーにくっつくほど寄せられたれみりゃの顔は、期待に満ちたヨダレで溢れている。
早苗が頷くや否や、目の中に星を輝かせたれみりゃは、がつがつむしゃむしゃクッキーを頬ぼっていく。
「うっうー♪ あまあま☆でりしゃすぅー♪」
口の周りや畳の上をクッキーの欠片まみれにしながら、れみりゃは幸せを全身で表現する。
その屈託の無い様に、早苗の顔も自然とほころんだ。
「ふふ、よかった♪ 隠し味にミラクルフルーツを使ってみたの」
引き続きクッキーを漁っていくれみりゃ。
それを、ニコニコ眺める早苗。
そんな2人をよそに、咲夜は目で合図をして霊夢と部屋の外に出るのだった。
その時の、少し寂しそうな咲夜の顔を、れみりゃが見ることはなかった……。
「う~~♪ おなかいっぱい☆ゆめいっぱぁーい♪」
バスケットの中のクッキーを全てたいらげて、れみりゃはポンポンと腹鼓みを打った。
「しゃくやぁ~♪ こんどこーまかんでもこれつくってねぇ~~ん♪」
くるりと振り向く、れみりゃ。
だが、そこには咲夜も霊夢の姿も無い。
「う~~? しゃくやぁ~~?」
キョトンと頭上に大きな「?」マークを浮かべる、れみりゃ。
早苗は、れみりゃの注意を自分に向けようと、畳の上に散らかっていた1冊の絵本をたぐりよせる。
「そ、そうだ、それよりこの本読んであげるね?」
「う、うびぃ!?」
絵本を見せられて、れみりゃはビクッと体をすくませる。
「……うぅ~~それこぁくないどぉ~~?」
「だいじょぶよ、とってもゆっくりした人のお話だから」
早苗が手に取った本、それは『三年寝太郎』という物語だった。
最初は訝しんでいたれみりゃだったが、
ゆっくり寝続けた人間が成功する話に、パタパタ羽を動かして御機嫌になっていく。
「うぁーい♪ やっぱりゆっくりするのはいいことなんだどぉーー♪」
めでたしめでたしと早苗が本を閉じると同時に、
れみりゃは立ち上がり、早苗に背を向けて"のうさつ☆だんす"を踊り出した。
「れみぃーのかぁ〜わいい〜おしりにゆっくりするがいいどぉ~♪ う~う~☆ふ~りふりぃ~♪」
その踊りは、ゆっくりした気持を表現する手段であると同時に、
自分をゆっくりさせてくれた早苗への、れみりゃなりの精一杯の感謝だった。
"今日はとっても御機嫌だから、優しい自分は特別サービスをしてあげよう"
れみりゃはそう心の中で呟いて、早苗の眼前に太ましいお尻を突き出して、小刻みにふりふり揺らしだす。
「うっふ~ん☆おさわりしてもいいのよぉ~ん♪」
「え、えと……」
微笑みながらも、流石に戸惑う早苗。
「えんりょすることないどぉ♪ れみぃーからのぷれぜんとだど……」
そこまで言って、れみりゃは"うっうー♪"と畳の上でとび跳ねた。
そして、くるりと振り向いて、早苗の手を握って興奮を露わにする。
「うぁ♪ おあたま☆ぴっかーんだどぉ♪ そういえば、もうすぐかっりすますぅだどぉー♪
いっしょにこーまかんでぱーてぇーするどぉ♪ ぷっでぃ~んいっぱいで、とぉ~ってもゆっくりできるんだどぉ~♪」
クリスマス。
御馳走を食べて、サンタさんからプレゼントを貰う、とってもゆっくりできる日。
去年の冬を紅魔館で過ごしたれみりゃは、楽しかった思い出を反芻しては、幸せを噛み締めた。
今年もゆっくりしよう。
咲夜とフランと、それにこのお姉さんと、それにちょっと恐いけどあの赤白のお姉さんも呼んで、みんなでゆっくりしよう。
れみりゃはその楽しい夜を想像しては、踊り出さずにはいられなかった。
「うっうー☆うぁうぁー♪ くっりすますぅーはーかっりすますぅー♪」
うーうー☆だどだど♪
うぁうぁ☆ぷっでぃーん♪
幸せそうに踊るれみりゃを見て、早苗は思った。
このれみりゃの天真爛漫な笑顔をいつまでも見ていたいなと……。
* * *
一方、その頃。
寒風吹く境内で向き合う、霊夢と咲夜。
咲夜は、手に持った包みを霊夢に渡した。
「……はい、これ今月のぶん」
それを受け取り、中身を一瞥する霊夢。
中には、"れみりゃの養育費"という名目のものが入っている。
「ったく、あんたも面倒なことするわね」
「仕方ないじゃない……」
今、神社の中で早苗が相手をしているれみりゃ、
彼女に戻るべき紅魔館は既になかった。
あまりにもゆっくりした日々を謳歌してしまったがために、
れみりゃは館の真の主を怒らせ、追い出されてしまったのだ。
しかし、れみりゃを溺愛する咲夜は、森へ放り出すことも出来ず、
こうして博麗神社へ預けることを選んだ。……いつか、館の主が許してくれることを願って。
もっとも、当のれみりゃはそんな事情など知らず、
少し長いバカンス旅行をしているつもりらしいが……。
「ま、居候は他にもいるし、あいつが1匹増えたところで構わないけどね」
「悪いわね……。ここなら妖怪に襲われることもないだろうし……れみりゃ様のことよろしく頼んだわよ」
"はいはい"と生返事を返す霊夢。
守矢神社の周辺に妖怪がいなければ、押し付けてやれるのに……。
そんなことを呟いて、霊夢は咲夜を見送ってから、神社の中へ戻っていく。
ゆっくりれみりゃも楽じゃない。
せめて、おはなしの国の中だけでも、もう少しゆっくりさせてやるかと思いながら……。
おしまい。
サンタクロースに、ゆっくりれみりゃをプレゼントしてもらいたい。
そんな二十何回目かのクリスマス(/Д`)・゜・。
by ティガれみりゃの人
最終更新:2022年05月04日 00:02