「あかちゃん、うまれないでね!ここでうまれたらゆっくりできないよ!」
親れいむの体は帯状のベルトで柱に固定されており、眼前にはすり鉢上の傾斜がついている。
その傾斜の終点にはボーリングの玉がすっぽり入りそうな穴が空いていて
もし赤ちゃんが生まれようものならコロコロと転がってその穴へ落ちてしまうことが見て取れた。
昨日までは森でまりさとゆっくりしていて
ずっと薄暗い巣穴にいたら実ゆっくりの健康に悪いからと日向ぼっこをするために草原に出た。
それから、赤ちゃんのために栄養のつくものを食べようとまりさと一緒にお野菜が勝手に生えるポイントで
むーしゃむしゃ♪とごはんを食べていただけなのだ。
それが、どぼぢでこんなところに・・・。
「おねがいだから、あかちゃんゆっくりしていってね!まだうまれないでね!」
そんな親れいむの願いとは裏腹に頭上の実ゆっくりはユサユサと揺れて今にも落ちてきそう。
「ゆっ」「ゆっ」
と声を漏らしている実ゆっくりはすでに飾りの形までハッキリしている。
赤れいむが3匹と赤まりさが2匹だ。
自分では実ゆっくりの様子を見ることが出来ないが、茎を伝ってその重さが以前よりも増していることを実感している。
もう立派なプチトマトサイズ。
本当なら柔らかい葉っぱを敷き詰めて、ゆっくりと受け止めてあげたい。
そこへ、ガラッとスライド式のドアから人間が現れる。
「やあ、ゆっくりしてるかい?」
「ゆっ!?」
暗い部屋に急に外の光が差し込んだことで一瞬たじろいだが
ゆっくりと同じ言葉をしゃべる動物なので、きっとゆっくりの仲間かそのハシクレだろうと直感し
事情を説明して助けを求めた。
「おにーさん、たすけてねぇー!
れいむのあかちゃんがゆっくりできなくなっちゃうよ!」
「むむ、それはいけないなぁ!よ~しお兄さんに任せなさい!」
人間はポケットから木工用ボンドを取り出すと、れいむの頭上でなにやら作業を始めた。
それはプラモデルを組み立てるように慎重かつゆっくりとした動作。
「おにいさんなにやってるの!はやくれいむをたすけてね!
りかいできないの?ばかなの?」
何をしているのかわからないれいむのために鏡をみせてあげる。
そこには、茎の根元と実とをガッチリと木工用ボンドで固められた赤れいむと赤まりさが映っていた。
これなら赤ちゃんが落ちてくることはない。だけどこれじゃあ根本的解決になってないことはれいむにもわかった。
「ちがうでしょ!このむのう!
うごけないれいむをゆっくりしないでたすけてね!」
「あれま、じゃあボンドはこれでおしまいね」
人間はヘソを曲げて、傾斜にごろんと横になりくつろぎはじめた。
「はやく、れいむの赤ちゃんを産んでね~♪ゆっゆっ~♪」とゆっくり風の鼻歌も歌っている。
そうこうしているうちにとうとう1匹目の赤ゆっくりが生れ落ちる。
赤れいむだった。
「ゆっ、ゆっくち・・・」
ポトリッとおちた赤れいむは「ゆっくりしていってね!」と言おうとして言えないままコロリッとバランスを崩した。
「れいぶのあがじゃんがぁああ!」
このままでは、赤ちゃんが傾斜を転がって穴におちていってしまう。
ところが、転がる勢いがつく前に、横になっていた人間が足でそれを阻止をした。
つづけて、2匹目には赤まりさ、3匹目は赤れいむが生れ落ちる。
やはり、転がる赤ゆっくりを足でキープ。
「ありがとうは?」
そんな人間の言葉を無視して
「あかじゃんたちぃ!ゆっくりしていってねぇ!」
「おかーしゃん!ゆっくちちていっちぇね!」
「みゃみゃー!ゆっくちー!ゆっくちー!」
「ゆっくぃしていっちぇね!」
と勝手に挨拶を交わしている。
赤ゆっくりが助かったことでさっきまでの事を忘れている親れいむ。
すくっと立ち上がって赤ゆの支えを取り払う。
「ゆっ、ころころしゅるよ!」
「ゆっくちころがりゅよ!」
「ゆっくぃ~!」
すると、人間にはそうでもない斜面だが手足のない赤ゆっくりはバランスを崩して転がっていく。
「おちびちゃんたちころがらないでね!ころがるとゆっくりできないよ!」
親れいむの言葉もむなしく最初に生まれた赤れいむが穴めがけてホールインワン!
スコーンッと綺麗な音がしたかと思うと「ゆぅぅぅ~」っと赤ゆの声は遠ざかっていく。
「れいぶのおちびぢゃんがぁぁあああ!」
ゆが~ん!
続けて赤まりさと赤れいむも転がり落ちそうになるが、姉れいむが穴に落ちたのを見て必死に斜面にこらえる。
ぴょんっ跳ぶことの出来るゆっくりの足はその柔らかさを利用すれば餅のように吸付いて斜面にも案外たえられるのだ。
「たちゅけてみゃみゃー!」
「ゆぇええ~ん!おかーしゃ~ん!」
しかし、気を抜けば転がり落ちてしまう。
産まれたばかりの赤ゆには少々酷な事態だった。
「おちびちゃんたち!あなはゆっくりできないよ!
こっちまでず~りず~りしてきてね!ず~りず~りだよ!ず~りず~り!」
「ゆっ、まりしゃず~りず~りするよ!」
「れいみゅもず~りず~り!」
餅のような足が接地面積を最大まで広げ、なめくじの様な形状を取って「ず~りず~り」っと親れいむの方へと近づく。
先に赤まりさが親れいむに触れるほどまでたどり着いた。
「みゃみゃ~!す~りす~り!」
「れいみゅもす~りす~りちたいよ!」
それから赤れいむも親れいむの所までたどり着いて、頬をすり合わせて「す~りす~り」と始めた。
「れいむのあかちゃんかわいいよ!とってもゆっくりしてるね!す~りす~り」
親れいむは体が固定されて動けないので、口でそう言っているだけだ。
わずかに親れいむの体もぶにぶにと動くので、その僅かなすりすりでも赤ゆっくりは満足だった。
その間、人間はふたたび横になってケツを掻きながら鼻くそをほじっている。
数分くらいゆっくりしていただろうか、赤れいむが突然泣き始めた。
「ゆえぇええ~ん!ゆわぁあああ~ん!」
「ゆっ、どうしたのおちびちゃん!」
「まりしゃおにゃかついたよ!れいみゅもおにゃかついてないてるんだよ!」
赤まりさの言葉で、赤れいむがお腹を空かせて泣いているんだということがわかった。
普通、植物型妊娠をすると産まれた赤ちゃんのために茎を落として食べさせる。
それは始めての妊娠であっても餡子に刻まれた記憶で親れいむも知っていた。
「まっててねおちびちゃん!いまゆっくりできるごはんをだすからね!」
体が固定されているといってもボルトで柱に括り付けられているわけではない。
ベルトは頑丈だが体を揺さぶる程度の事はできた。
ゆさゆさゆさ・・・
しかし、茎はいつまでたっても落ちてこない。
その代わりに茎が声をあげた。
「ゆっくちちていっちぇね!」
「ゆっきゅりちていっちぇね!」
それは茎にボンドで固定されていた赤れいむと赤まりさ。
落ちてこないからすっかり忘れられていたが、茎についたまま赤ゆっくりとして成長したのだ。
「ゆっ、あたまのうえのおちびちゃんたち!
くきをごはんにするから、ゆっくりしないでおちてきてね!」
赤ちゃんサイズまで成長しているのになんで落ちてこないの?
親れいむはさっき人間にされたことなんて赤ちゃんの可愛さですっかり忘れている。
都合の悪い事は記憶に残らないのが餡子脳だ。
「れいみゅはここでゆっくちてるよ!」
「まりしゃもだよ!ここはゆっくちできるよ!」
茎とつながっているためお腹が減ることはないしずっと親ゆっくりと繋がっていられる。
2匹にとって、そこがゆっくりプレイスになった。
「おちびちゃんたちわがままいわないでね!ぷんぷん!」
ぷくー!と膨れて威嚇をするが、そんなもの頭上の赤ゆには見えないのでまったく効果がない。
かわりにお腹をすかせた赤ゆ2匹は怖がっている。
「ゆえ~ん!おにゃかがすいたし、みゃみゃがこわいよぉ~!」
「ゆわぁぁあ~ん!」
茎が落とせない以上、別の餌をとってこないといけない。
しかし、自分はベルトで固定されていて動くことが出来ない。
そこで目に入ったのが人間だった。
ゆっくり語をしゃべるマヌケそうな動物。
ゆっくりにとって頭部の大きさは強さや知能に比例するが、目の前の動物はバスケットボールよりも小さい。
実際、れいむを助けてね!といってもたいして理解できてないみたいだし役立たずっぽいが
それでも今一度仕事を与えてあげよう。
そんな思いで人間に食料をとってくることを命じた。
「にんげんさん!かわいいかわいいあかちゃんたちがおなかをすかしてるよ!
ゆっくりしてないでごはんをもってきてね!それくらいのことならできるでしょ!」
すると人間は、ボケーっとした表情で親れいむの後ろの方を指差した。
「そこの管からお前には栄養が補給されているから食わんでも平気だ。
赤ゆどもには適当にうんうんでも食わせてやれ」
「ゆ?」
確かに実ゆっくりに栄養を吸われているというのにお腹が空いていない。
妊娠してからというもの、ろくに巣の外へ出ていないのにもかかわらず、しょっちゅうお腹を空かせては
まりさが普段よりも多くごはんをもってきてくれたものだ。
芋虫にちょうちょ、木の実にキノコ、甘い草に
人参さんに大根さんに苺やリンゴ、クッキーや飴は今まで食べたことがないほど美味しかった。
それが、もう食べれないで管から栄養を送ってもらうだけだと思うと次第に腹が立ってくる。
「これじゃゆっぐりできないでしょ!ばかなの!
れいむはあまあまやゆっくりできるごはんがたべたいよ!くそじじいはさっさとごはんをもってきてね!」
「ゆっくりちたごはんをもっちぇきてね!」
「れいみゅにもね!ぴゅんぴゅん!」
赤ゆどもまで便乗して騒ぎ立てている。
しかし、親れいむはベルトで固定されて動けないし
赤ゆも斜面から転がってしまえば穴に落ちてしまうのでそこから動くことはない。
気にせず、横になりならがけつを掻く。
「まりざぁああ!まりざはどごにいるのぉおお!
れいぶはごごだよぉおお!ゆっくりしないではやくたずげでねえぇええ!」
れいむはつがいのまりさがきっと助けに来てくれると信じていた。
なにしろ二匹は赤ゆの頃からご近所同士
2匹は駆けっこをして遊んだり、時にはどちらがゆっくりした餌をとってこれるか競争をした。
「ゆっ、まっちぇまりちゃー」
「はやきゅ、はやきゅ~♪」
れいむが地を這う虫を捕まえれば、まりさは木陰に生えている食べられるキノコを
れいむが甘い草を見分けて摘んでくれば、まりさは自慢の足を活かして人間の畑からにんじんを採ってきた。
「ゆっ、これれーむにあげゆ!」
「にゃにこれ、とってもおいちーよ!ちあわちぇ~♪」
こんな事もあった。
「ゆえ~ん、ゆえ~ん!」
「ゆっ、れいむどうしたの!」
泣いているれいむを見つけるまりさ。
もみあげの飾りはそのままだかられいむであることがわかるが、頭頂部の大きなリボンがなくなっていた。
「おりぼんをどこかにおとしたんだね!いっしょにさがすからゆっくりなきやんでね!」
「ゆえ~ん、れいむもうあんよがいちゃくてあるけないよ~!ゆえ~ん!ゆえ~ん!」
「まりさがさがしてくるよ!れいむはゆっくりやすんでいてね!」
ぽい~ん!ぽい~ん!
太陽が沈もうかという頃、まりさはボロボロの体でれいむのリボンを咥えて帰ってきた。
いつも自慢していた素敵なお帽子は泥んこだらけ。
やがて、月日は流れ2匹は新しい巣穴を掘り
群れから巣立ちをした。
まりさが集めてくれた、たくさんのお野菜にお菓子。
頭の上にはその、まりさとつくったかわいいあかちゃん。
れいむはただ、ゆっくりしていただけなのにそれがなぜ・・・
動けない状態で赤ちゃんをゆっくりさせてあげられず
役立たずの人間という動物がいるだけ。
まりさ、どこにいるのまりさ
れいむはここだよ!はやく助けにきてね!
「うん、そうかそうか、まりさに会いたいか?」
人間が懐からリモコンを取り出し操作すると
ピッピッと機械音をさせて部屋の壁が上がっていった。
実際にはブラインドの役目をしていたシャッターが上がっただけなのだが、れいむには壁が動いたように見えた。
さっきまで薄暗かった部屋には蛍光灯が点灯され
さほど広い部屋でないことがわかる。
それでもやはり、人間の住居ではなくどこかの工場といった雰囲気ではあるが8畳程度の空間だった。
その中心から真っ二つに透明なアクリル板で部屋は半分に遮られており、斜面と穴はれいむの側にだけある。
そして、反対側にいるのはれいむが助けを求めているあのまりさだ。
「まりざぁぁああ!」
まりさの様子がおかしい事はひとめでわかった。
まず、れいむと違って柱に固定されていない事。
そして、そのまりさの周囲には5匹の赤ちゃんゆっくりがいて、落とされたばかりの茎を食べていた。
「ま・・・まりさ、そのおちびちゃんたちはなに!」
まりさはの側にいる5匹の赤ゆは全て赤ありすだった。
「むーちゃ、むーちゃ、ちあわちぇー♪」
「なかなかときゃいはなごはんね!」
「ありちゅ、おかーしゃんとしゅ~りしゅ~りしゅるわ!」
アリスにレイプされて出来た子供だ。
まりさは、れいむに何も言うことが出来ずただ黙々と茎を噛んで柔らかくして食べさせていた。
レイプされて産まれた子とはいえ、やはり自分の子だった。
ちなみに、れいむの声は届いていないし姿も見えてない。
アクリル板のまりさ側はマジックミラーを張り合わせてあり、れいむ側からしか様子がわからないのだ。
そんな事はわからないれいむ。
「むじぢないでねぇええ!なんでありずのおぢびじゃんがいるのぉおおお!」
それから2世帯の生活が始まった。
れいむは相変わらず動けないまま、管から栄養を送られて
それが適量を超えているため自分の意思とは裏腹にうんうんが漏れ出し、それを赤れいむと赤まりさが食べる。
「くちゃいよぉおお!」
「れいみゅも、むこうのおとーしゃんみちゃいなゆっくちちたごはんたべちゃいよ!」
「わがままいわないでねぇえ!くるしいのはおかーさんもいっしょだよ!」
「おねーちゃんたちうんうんたべりゅなんてきちゃないよ!」
「れいみゅだったらちんでもそんなのたべにゃいね!」
頭上の大きな実ゆっくりは親の栄養がもらえているので勝手なことを言っている。
昼間、まりさとありす側にだけある赤ゆっくり用のおもちゃで遊ぶ向こう側の様子を見せられる。
声は聞こえないが、赤ありすたちがキャッキャっとブランコで遊び、それをまりさが楽しそうに押してあげている。
きちんと順番待ちをしている5匹のありすに「ぺーろぺーろ」と撫でる様に褒めている様子に親れいむは目をひんむいて青筋を立てた。
赤れいむと赤まりさが
「みゃみゃー!まりしゃもゆっくちあそびたいよ!」
「れいみゅもぺーろぺーろして!」
と言うが、親れいむは「うるさいよ!」と赤ゆどもを一喝した。
夜は斜面で寝ると穴に落ちそうなので、親れいむの頭に乗せてもらう。
一度口の中に入ろうとしたが、れいむが猛烈に怒りだしたので二度とそうしなくなった。
「うんうんのついたからだで、くちのなかにはいるなんてきたないでしょ!ゆっくりりかいしてね!
そっちはおりぼんがよごれるから、もっとはしによってね!」
「ゆぇええ~ん!」「ゆわぁぁああ~ん!」
「おねーちゃんたちくちゃいよ!」「こっちよらないでね!」
茎の妹たちも姉ゆたちを邪魔者扱い。
最近では、「さっさとあなにおちればいいのに」なんて事を聞こえる声で言うようになった。
親れいむもそれを否定しない。
そんなある日、事件が起きた。
赤ゆどもがプチではなくトマトサイズになった頃
親れいむの頭上からバサッと茎が落ちたのだ。
それもそのはず、人間は茎と実の間にボンドで細工をしたものの、大元の親れいむの方には何もしていない。
ゆっくりの茎は全ての実がおちると茎が空洞化し、自然に茎が落ちるものだが
そうならなくてもある程度の力が加われば親と茎は、ちぎれて離れる。
それがちょうどトマト2個分であった。
「ゆっくりおちるよ!ゆべっ」
「れいみゅ、おそらをとんでいるみたい!ゆびゃっ!」
その落ちた茎にれいむとまりさがしゃぶりついた。
いままでうんうんしか食べたことがなかった2匹にとって初めての食事。
「むーちゃむーちゃ!ちあわちぇー!」
「うっめっ!これめっちゃうっめ!」
「やめてねれいむのくきをたべないでね!ゆぎゃぁああ!いちゃいよぉおお!」
「くきからまりさのあんこがでてるよ!やめてね!ゆぴぃいいいい!」
ボンドで固定されている2匹は体と茎とかいまだに離れず、落ちた衝撃で体内の餡子が茎へと逆流し
まるで茎がストローの様に餡子を吸い出している。
それが食べられているのだから、体に大きなストローを刺されて内臓を吸いだされているのと同じだ。
寝ていた親れいむが目を覚ますと
頭が軽くなったことに気づき、それが目の前に落ちている食い散らかされた茎と
干からびている2匹の赤ゆが目に入った。
「どぼじでおちびちゃんをたべちゃうのぉおおお!おちびちゃんのいもうとでしょぉおおお!」
「ゆ?まりさたちはごはんをたべてるだけだよ!」
「おかーしゃんはうんうんをうむきかいのくせに、いつももんくがおおいいよ!」
その時、れいむを固定していたベルトが外れた。
鼻息をフーフーっと荒げながら、久しぶりの跳躍をする親れいむ。
赤ゆはトマトサイズまで大きくなっているが、それでもバスケットボールサイズとではまるで大きさが違う。
「ゆっ?」
赤れいむの真上に影ができたと思いきや、次の瞬間にはプチュンッと子気味よい音をさせて茶色いシミが広がっていた。
「ま、まりしゃはいいこだよ!わるいのはぜんぶれいみゅだよ!」
じょじょーっと砂糖水を漏らしている。
ふと、アクリル板の向こう側をみると
親まりさと赤ありすたちがお唄を歌っていた。
「ゆっゆっゆっ~♪」
まりさの調子はずれな音程に赤ありすがつづく。
「ゆっゆっゆっ~♪」「ゆっくり~♪」「していってね~♪」
「とっても、とかいはなおうたね!」
「おにーさんがけーきをさしいれてくれたわよ、みんなでたべようね!」
自分が毎日こんな苦しい目にあっているというのに、まりさは美味しいものを食べて
どこのゆっくりと作ったかわからない子供と遊んでいる。
その怒りは赤まりさへと向けられた。
「まりしゃはいいこだよ!だからゆっくり・・・ゆべっ、やめちゃ・・・ゆぎゃ!
いちゃい・・・ぴぎゃ!たちゅけ・・・ぶぴゅ!」
一撃で楽にしようとは思わない。
わざと手加減をして何度も何度も念入りに体当たりをした。
そして数分後、正気をとりもどしたころにはもはや原型を留めていたない餅だか団子だかよくわからないものが転がっていた。
「ふひひ・・・れいむのあかちゃん・・・どこいったの・・・ひゃひゃひゃ」
れいむの目はうつろ、焦点が定まらず右目と左目が別々の方向を向いていた。
口からは涎を垂らして、しきりに笑い声が漏れている。
お唄が終わったまりさとありすは
ケーキを囲んで、ゆっくりと団欒している。
「れいむはまりさよりも、ずっとおうたがじょうずだったんだよ!」
「ゆっ、さすがとかいはなおかーしゃんね!」
「ありしゅもおかーしゃんにあいたいわ!」
「あったらすーりすーりしてもらおうね!」
「ありしゅたちのおかーしゃんなら、きっととってもゆっくりしてるわね!」
「おかーしゃんにもこのけーきたべさせてあげたいわ!」
ピッピッと機械音がすると
ガーっと部屋を遮っていたアクリル板が上がっていく。
すると、そこにはしーしーを漏らしながらケタケタと笑う成体のれいむがいた。
飾りのおかげで、それがあのれいむである事がわかるが、まるで変わり果てている。
一歩動くごとにブピュッブピュッと頭の後ろから餡子が漏れ出しているが本人が気づいていない。
栄養を送る管が抜けたため、今度はそこから餡子が漏れていた。
「おちびちゃんが・・・いちぃ・・・にぃ・・・いっぱぁ~い・・・こんなところにいたぁ・・・うひひひひ」
飛びあがる親れいむ。
あっけにとられている赤ありすが2匹下敷きになった。
「ゆぴゃ!」「ぴきゅ!」
ケーキにカスタードが混ざって汚いデコレーションケーキになった。
親れいむはそのまままりさの方へ突進し、まりさの顔にベチャッとカスタードケーキがへばりつく。
古典的なパイ投げコメディの様な姿になったが誰も笑わない。
「おめめがみえないよぉおお!れいぶやめてぇえええ!」
仰向けに倒れたまりさのぺにぺにのあたりを噛力で砕けてギザギザになった歯が襲う。
「ぎゅぴぃいぃいい!まりざのぺにぺにがぁあああ!」
おとーさんをいじめないでね!と1匹のありすが割って入ろうとしたが
「おと・・・」の時点で踏み潰されて姉妹と同じくケーキをカスタードで都会派なコーディネートをしただけだった。
後頭部から致命傷になるほど餡子をブリュブリュと吐き出して
ようやく、まりさへの暴力はおわったが
「けふひゅ・・・これはゆめだよ・・・まりざは・・・ゆっくりめをざまず・・・よ・・・もっとゆっくり・・・し」
すぐに息絶えた。
「まりざぁァア・・・どこにいるのぉおお・・・」
れいむは死ななかったが、それでも動けないほどの餡子を失い虫の息だった。
呆然と生き残った2匹の赤ありすが固まっている。
そこへ、ガラッとスライド式のドアを開けて人間が入ってくる。
「いや~おわったおわった。それじゃあお前たちは森に返してあげよう」
目の粗い籠に虫の息の親れいむと、なにがなんだかわからない赤ありすを放り込むと
そのまま外へ出て、もともとれいむとまりさが住んでいたあたりへと運んだ。
「このれいむも元はといえばあのまりさにそそのかされて畑を荒らしてただけだからな命だけは助けてやろう。
もっとも、このまま放っておけばそのうち死ぬだろうが
チビありすは恨むなら畑お襲ったゲスまりさと、レイパーありすを恨めよ!
ケーキに比べたらここのメシはまずいだろうが、まあ頑張れ!」
そう言い残して、人間は去っていった。
寒空の中、呆然としている2匹の赤ありす。
ぴゅーっと北風が吹いた。
「みゅ・・・しゃむいわ、ここはどこなの!」
「ありしゅもうおうちかえりゅ~!ゆえ~ん!」
「う・・・ぐ・・・まりざぁ・・・はやく・・・かえってきて・・・」
かろうじて息がある親れいむ。
後頭部からは相変わらず餡子が漏れ出していて、ブッ・・・ブブッと汚い音を出している。
「ありしゅたちはおとーさんとゆっくりしてたのに、このおばさんのせいで・・・」
「このいにゃかもの!おとーさんをかえして!」
赤アリスの体当たりが追い討ちをかける。
「ゆっ・・・ゆっ・・・ゆっくり~・・・していってね~・・・・ゆっくり~♪」
瀕死とはいえ、赤ありすの体当たりは親れいむにはまるで効いていなかった。
虚ろな目でまりさが上手だよと言ってくれたお唄を歌いだす。
「ゆっ!このとかいはなうたは!おとーしゃんがいつもうたってたおうたよ!」
「まさか、このおばさんは・・・!おかーしゃんなの?」
「ゆっ♪・・・ゆっくり~・・・♪」
「おかーしゃん!おかーしゃんごめんなさい!」
「ゆっくりちていってね!ゆっくりちていってね!」
季節は冬間近。
ほとんどの動物は冬眠の準備を終えた誰もいないはずの森の奥から「ゆっくり~♪」と音程のおかしな歌声が聞こえていた。
やがて、風の音に歌はかき消され
それからもう森から歌が聞こえることはなかった。
終わり。
ーオマケー
親れいむの体にすりよってしきりに謝る2匹の赤ありす。
「おかーしゃん、けがをしてるわ!」
「いまありすが、たべものをもってくるわね!」
2匹の赤ありすがピコピコッと跳ねて森の奥へと入っていく。
産まれてから人間のごはんやお菓子を食べてきた。
だから何が食べられる物なのかわからない。
石の下に蠢いていた虫を捕まえて、口にいれてみたが苦くてとても食べられたものじゃない
そこら辺りに生えている草もそう。
あてもなく森を彷徨って、ゆっくりの巣を発見した。
大半の動物は冬前に越冬のための準備を終えるが、ゆっくりのほとんどは冬になってから冬篭りをする。
だから、まだ入り口が閉ざされていない巣があった。
「ゆっ、とかいはなありすにはせまいいえだけど
これならおかーしゃんもありすもこごえないですむわ!」
奥には産まれたばかりのプチトマトサイズの赤れいむが5匹と、赤まりさが4匹いた。
「おねーしゃんだれ?ここはまりしゃのおうちだよ!」
「そのごはんは、おかーしゃんがあつめたれいみゅたちのごはんだよ!」
「たくさんごはんがあるなら、ありすたちにわけてね!
おちびちゃんたちはちいさいから、ありすがびょうどうにやまわけするわよ!」
そう言って、山となっている餌の5分の4ほどを自分のほうへ引き寄せた。
これにおこった赤ゆが、ありすにつめよってくる。
「かってにはいってきて、ごはんをとらないでね!」
「ゆっくちできないおねーしゃんはでちゃいってね!」
「わがままをいうおちびちゃんはきらいだよ!」
ぽかりっ
ありすが先頭にいた赤まりさの頭を突き出した体でこづいた。
「ゆぎゅっ・・・ゆわぁぁぁあああん!」
泣き出す、赤まりさ
他の赤ゆたちも、それをみて赤ありすから離れる。
「このよは、じゃくにくきょうしょくだよ!
おまえたちはそこでゆっくりしててね!」
さっそく、勝ち取ったごはんをほうばるありす。
乾燥している虫とキノコ、それに硬い木の実だ。
「ゆ・・・まじゅい!これぜんぜんあまくないよ!ありすはとかいはなあまあまがたべたいわ!」
2匹はそう喚き散らすと、巣の中にあるものを捨てだした。
ゆっくりできない食料に、赤ゆが大切にしていた小石、それからお布団に使っていた葉っぱ。
次々と剥ぎ取っては外へ捨て自分達が生まれ育った何にもない部屋を作ろうとしている。
「やめちゃね!まりしゃのちゃからものが!」
「それはおかーしゃんたちがあつめてくれたごはんだよ!ゆぇえ~ん!」
「ゆっ、おちびちゃんたちそのおはなはなにかしら?」
お花の輪が目に入った。
これは赤ゆたちが親にプレゼントするために一生懸命作った花飾り。
「むーしゃ、むーしゃ、それなり~!」
「むっちゃむっちゃ、とかいはじゃないけど、まずまずたべられるわね!」
「ゆわぁぁああ~ん!」「ゆぇええ~ん!」「ゆわわぁ~ん!」
そこへ、ヌッと巨大な影がありすに覆う。
「もっとおはなをたべさせ・・・ゆべっ!」
「ありすたちは、とかいはなこーでぃねーとをしてあげただけ・・・ぶきゅっ!」
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最終更新:2022年04月16日 23:34