「ゆっくりしていってね!!!」
 威勢のいいセリフと一緒に草むらから現れたのは、高さ一メートル半の大型れいむ。
 声は大きく色つやは良い。大玉ころがしのボールほどもあろうか。
 ワシは右足を出し左足を控え、腰にズンと体重を溜めて裂帛の気合を掛けた。
「ゆっくりせぬ! ゆっくりなどせぬぞおおお!」
「ゆっ!? おじさんはゆっくりできない人? ゆっくりりかいしたよ!」
 れいむはそう言うと、ややのけぞり気味に構えをとり、闘志満々の叫びを上げた。
「ゆっくり死んでいってね!!!」
「ゆくぞ饅頭ウゥ!」
 バッ、とワシは地を蹴った。


 【ゆっくりと】 Round 1 FIGHT!!! 【ガチバトル】


「ちょはぁーァッ!」
 一息に間合いを詰めるが早いかワシの手刀がバシバシバシバシ!
 凄まじい速度でれいむの両頬を打つ!
「おハハハハハハハ!
 ハハハハハハおハ!」
 一秒間に二十発このチョップは誰も避けられぬ饅頭皮に衝撃走り鋭い響きがビチビチビチビチ!
「ゆぶぶぶぶぶぶぶぶっ
 ゆぶぶぶぶぶふぐぅっ!」
 震動連なる素早い打撃にゆっくりれいむたまらずバック転!
 ズシャァ……ずずンッ!
 五メートルの間合いを取って、大饅頭が着地する。
 白かったその頬に、打撃による赤みが差している。
 だが、まだ――ダメージは僅少!
「おじさんはゆっくりしてないね! れいむ、おこったよ!」
「フホホ怒れ怒れ饅頭そして甘くなれ」
「ゆっくりとやっつけるよ!」
 ズシン、ズシン、ズシン! とれいむが着たり来る。
 その重さゆうに二百キロ超、直撃受ければいかなワシと言えど内臓破裂し即死は確実!
 だが、のろい。
 その動き亀に似て鈍重極まりなし! ワシの哄笑天を打つ。
「グハハハハハのろいのろいぞれいむ
 貴様ゆっくりれいむではなくのったりれいむか!」
「ゆっくりい~……」
 刹那、れいむの髪房が持ち上がる。その動き起こすはぷくり膨れた弾力あふるる左右の頬!
「べちべちあたーっく!」
 叫びとともに振られる髪房、綱引きの縄を思わせる髪房が、左右にブルンブルンと揺れ走る。
「おおッ!?」
 びちびちばちん! べしべしぼきん!
 あなどるなかれべちべちあたっく。太き髪房に叩かれし木々や草原、みなみな折れて砕け散る!
 それはさながら饅頭草刈機! 見る間にワシの目前へ迫る!
 べちべちべちべち!
 べちべちべちべち!
「ぬおおおおおおお」
 両腕上げてガードするワシに、左右の髪房襲い来る!
 けたたましき音、重く激しい打撃。老骨深くにギシギシと、強烈な刺激が突き刺さる!
 ビシク! ビシク! ズバシ!
 熊の張り手の如き衝撃。痛みに絶えしワシの顔ゆがみ、思わず苦鳴の漏れ出ずる。
「くほオオ、やるな饅頭!」
「ゆっくりこうさんしてね! いまならゆるしてあげるよ!」
「ほざけッ!」
 叫ぶとともに後足伸ばす。
 ザムッ! と大地に深々ふんばり――
「老技・破饅掌ォーッ!」
 破城槌の如き巨力を込めて、揃えた両掌を叩き込む!
 ズモッホ!!
「ゆぶあああああぁぁぁぁぁぁ!!?」
 顎の下に衝撃受けて、饅頭たまらず絶叫し、ぐげりと奇怪な音立てる。
 間髪入れず噴出す餡子!
「ゆべえええええ」
 広げた大口からあふれんばかりに、でろでろでろと濁流漏れた。
 無論ワシはひらりと跳ね退き、黒褐色の大餡流を回避する。
 その場でスウと構えを変え――
 トーン トーン トーン
 軽快に跳ねつつ、嘲笑をかけた。
「どうした、饅頭。これで終わりか。
 もっとワシを楽しませてはくれんのか」
「ゆぶぶふぅ、おじさんはすごくゆっくりできないひとだね……!」
 涙目れいむはげへげへ吐くが、なんとかこらえてペッと唾を吐く。
 むぅっと口閉じてワシを睨みつけた。
「しょうがないから、おじさんはゆっくりしないで死んでね!」
「ハハハハハハ言うわ饅頭言うわ!
 目にもの見せよ、かからんかぁーい!!!」
「ゆっくりぃ~~……」 
 その時ワシの目に脅威が映る。
 ぐりん、と持ち上がり真っ直ぐにこちらを向く二本の髪房!
「だぶるいんぱくと・きゃのん!」
 ドン! ドン! ドン! ドン!
 赤布で縛りし二条の髪房、重く輝く光弾放つ!
「オオオオ!?」
 とっさに高く跳躍するワシ。その足元を光弾えぐる。
 ずば! ずば! ずば! と飛び散る土くれ。ゴガン! と倒れる硬き若木。
 驚くべきかな! れいむきゃのんの威力、機関砲に匹敵するか!
「ゆっくりにげないでね!」
「オオオ、オオオオ!」
 木から木へ葉から葉へ、タシ! タシ! タシ! と跳び移るワシ。
 その軌跡を光弾追う!
 ドン! ドン! ドン! ドン!
 ドドン! ドドン! ドドン!
 腹に響く重低音とも、ゆっくりれいむ旋回し、固定砲台がごとその威力、こずえをうがち木々を貫く!
「やりおるやりおるやりおるわぁーッ!
 いいぞれいむ、これぞいくさ!」
 ドシュア! と太き大木を蹴り、ワシは稲妻のごとくれいむへ走る。
 腰に引き付けた拳の中、あまたの礫に老力充填!
「老技・饅貫礫ッ!」
 右手を突き出し、弾丸開放!
 ズバババババババババッ!
 無数の礫、イナゴの群れのように跳ね散って、次の瞬間殺到す!
 光の軌跡を描くつぶての、目指すはもちろん大饅頭――
「ゆふあぁッ!」
 刹那、輝くれいむの双眸。
「ゆっくり・ごろごろー!!!」
 ギュルルルルッ!
 一瞬で高速回転、左へ転がる。その様はまるでドラッグレーサー。
 ホイルスピンせしホットロッドのごとく、猛煙蹴立てて駆け逃げる!
 バララララッ!
  バララララッ!
 ドバラララッ!
 惜しきかなワシの饅貫礫! 樫板を貫く満腔の秘技が、むなしく地面をかき削る!
 しかし、逃がさん! 跳ねるワシ。
「ハァーッ、老技・追餡歩!」
 餡を追うとき、ワシの身は昂ぶる。その歩度じつに常の五倍!
 ダシフ! ダシフ! ダシフ! ダシフ!
 地鳴りを立ててれいむ追う。鳥獣は逃げ、草木避ける!
「ゆぅんっ、ゆっくりやめてね!」
 ぐるりと振り向く饅頭れいむ、その大顔面の直前に、ボウと輝く五芒星!
「ゆっくりぃ~・ろばすとあーまー!」
「くおァーッ!」
 五芒の盾と、ワシの拳が、弾丸のように衝突した!
 ゴガァァァァン
 さながら寺社の鐘の音。唸りのような重き響きが、ワシの拳を支え耐える。
「ぬうっ、ぬぬうっ!」
「ゆっ、ゆぐぐぐっ!」
 かたや饅頭、かたやワシ。まなじり吊り上げ、歯を軋り、押し合ったまま、にらみ合う!
 つば迫り合い! 渦巻く闘気がゴウゴウと、周囲の草木を吹き払う。
 ワシのニヤリと顔が緩む。戦いの顔。
「のう、れいむ。最後のチャンスじゃ。降伏せんか?」
「ゆっくりできないひとはきらいだよ! れいむはかっておうちにかえるよ!」
「ふウむ、ヨシ!」
「ゆ゛んっ!」
 バッ! と左右に別れるワシら。闘気の余波がチリチリ消える。
「ならば――わが最強奥義がひとつ」
 両手振り上げ胸反らし、二つの手刀を構えるワシ。
「ゆううううううん……」
 ごうごうと空気吸い込み膨れ上がり、見上げんばかりにそびえる饅頭。

 い ざ !


「老芸! 双牙餡断波ーッ!!!」
「ゆっくり・ぷぷぷぷー!!!」
 双手振り下ろし、空気断つワシ! 大地を削り木の根を断ち、輝く気の刃が走り行く!
 ゾガアアアアアアア
 それを迎え撃つれいむ奥義、口内に溜めた石弾奔る!
 ボワァァァァァァァ
 一つに連なる発射音の、轟きはまるでガトリング砲! 発射速度の恐るべきかな!
 気刃に当たり、発光す!
 バチバチバチバチチチチチヂヂヂヂビヂビヂビヂビヂビヂッ
 爆竹まといしハチの群れがごとく、光と煙の炸裂が、なおも轟然と走り行く!
 石弾わずかに、気刃にかなわず。その接近に、目を剥くれいむ! 
 迫る死の刃、両断の危機! 思わず上げし高い悲鳴が――
「ゆわ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!」
 ザムッ!
 ――ゆっくりれいむの、断末魔となった。

 アァ アァ アァー
 カラス鳴き鳴き巣に帰る。ワシはれいむのそばに立つ。
「鍛錬したか」
「にねんかん……」
「うむ、さもあらん。貴様は戦士だった」
「ゆぅ……」
 左右にバクリと割れ、断面の餡からほこほこと湯気を立てている饅頭。
 不意にその目尻に、余裕が戻った!
「「おじさん、もっとつよいゆっくりがいるよ!」」
「うヌッ!?」
「「おじさんなんか、やられちゃうよ!」」
 左右の口がステレオで叫ぶ。
「「だからそれまで……ゆっくりしていってね!!!」」
 やり遂げたように叫ぶが早いか。
 ドヂャア、と崩れる餡饅頭。いま不思議の力を失い、ただの菓子に帰ったのだ。
「もっと強い……か」
 ため息をつくワシ。歩き出す。
 あらたな餡の匂いが、ワシを呼んでいた。


 fin.
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戦闘シーンが書きたかっただけ。
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最終更新:2022年05月18日 21:04