それからというもの、来る日も来る日も赤ゆっくりを殺しつづけた。
生まれた赤ゆっくりを殺し、胎児を引きずり出して殺した。
眠っている間に薬物注射を行い、胎児を殺して死産させることもあった。
そのたびにれいむ共は喉も裂けよと悲鳴を奏で、
いまでは俺に対する口調も懇願調に統一されていた。
殺しつづける日々が一週間を数えたころ、
俺はある事実を確認した。
れいむ共が赤ゆっくりを隠している。
赤ゆっくりを奪い去られながら懇願しつづけるれいむ共の中、
一匹だけなにも言わず、ぷくうと膨れている子れいむがいた。
れいむ共の懇願も、その日は単調で芝居がかっており、
誰が見ても一目瞭然だった。
もっとも察する以前に、れいむ共の行動は監視カメラで逐一把握できている。
今回は、常時チェックしてくれている使用人が教えてくれた。
「何か隠してないか?」
びくり、と膨れているれいむが反応して後ずさりする。
他のゆっくりが途端に挙動不審になって飛び跳ねだした。
「ゆゆゆっ!!かくしてません!!なにもかくしてませんん!!」
「それよりあかちゃんかえしてください!!おねがいします!!」
「あかちゃんかえしてください!!おねがいします!!」
初日に失敗してから、なんの進歩もしていない。
とはいえ人間に置き換えたとしても、抗う術のない条件下、
無駄な努力とは知りつつあがこうとする気持ちはわからなくもない。
それとも本気で成功すると思っているのかもしれないが。
残念なのは、あまりに演技が下手すぎることだ。
園児でももう少しうまくやる。
「そうか」
俺は、あえて知らないふりをすることにした。
「ゆゆぅ!!そうです!!なにもいません!!」
「あかちゃんかえしてください!!おねがいします!!」
その日は通常通り、奪った赤ゆっくりを傷めつけて殺した。
わが子を殺されるたびに上がる親どもの悲鳴は、さすがに演技ではない。
一匹だけ、膨れている子れいむは、涙を流しながらも声をあげなかった。
子供が隠されているのを知りながら、俺は部屋を出ていった。
これは使えると考えたのだ。
こいつらに与える苦痛は、そろそろ次の段階に入ってもいいだろう。
「ゆっくりしていってね!!」
「ゆっきゅりちちぇいっちぇね!!」
「ゆっきゅりちちぇいっちぇね!!」
俺が扉を閉めた直後、子供を隠していた子れいむが口を開けた。
口の中から出てきたのは、二匹の赤ゆっくり。
れいむ種とまりさ種が一匹ずつだった。
「ゆゆっ、おきゃーしゃんのおくちのなきゃ、ゆっきゅりできちゃよ!」
「あっちゃかかっちゃよ!!またいれちぇね!!」
「ゆっ……おちびちゃんたち、ゆっくりしてねええ!!」
四匹の成体れいむ共が赤ゆっくりを囲んで心からの笑みを浮かべる。
つい今しがたまで、目の前で子供を殺されていたれいむ共。
無事に済んでいる子供たちへの愛もひとしおだろう。
赤ゆっくり共は、親の口の中にいたため、
何が起きていたのかはわからないようだ。
親たちも、事実をひた隠しにしているらしい。
「おきゃあしゃんたち、ないちぇるの?ゆっくちちちぇいっちぇね!!」
「どうしちゃの?なにきゃあっちゃの?」
「ゆゆっ!なにもないよ!きにしないでゆっくりしていってね!!」
「おちびちゃんたち、だいじょうぶ?いたいところない?」
「どきょもいちゃくにゃいよ!!」
「ゆっきゅりできちぇるよ~♪」
「それじゃあ、ゆっくりできるおうたをうたおうね!!」
「ゆゆっ!うたっちぇ!!」
「おきゃあしゃんのおうちゃ、ゆっきゅりできりゅからだいしゅき~♪」
「ゆゆゆ~♪ゆ~ゆ~♪ゆゆゆゆゆ~♪」
成体れいむ四匹で、恐ろしい溺愛ぶりだった。
その姿を、俺は今ビデオカメラを通して見ていた。
見ながら、更なる苦痛を親共に与える構想を練る。
この愛をじっくり熟成していこう。
より濃い子殺しのために。
さらに一週間、殺し続ける日々を重ねた。
親れいむ共は同じ手口を重ね、必死でより多くの子供を助けようとしていたが、
最初の二匹以外の赤ゆっくり共は避けつつ、他の子は全て引きずり出した。
「なにもがぐじでまぜええええん!!ざわらだいでえええ!!」
「ゆぶ!ゆぶぶううう!ぶうううううう!!」
「また隠してるな。全部出せ」
ぱんぱんに膨らんだれいむの頬を、両側からかしわ手で挟み叩く。
「ゆぶびゅうううう!!」
「ゆぴゅっ!ゆ?おにーちゃんゆっきゅりできりゅひちょ?」
「ああああああおぢびじゃんにげでええええええ!!!」
ぼひゅ、と吐き出される赤ゆっくり共を片端から捕まえ、
その眼を爪楊枝でえぐり出す。
「ゆぎゃがああああああああああだいいいいいいいいいい!!!」
「あがぢゃああんんん!!あがぢゃああああんんん!!!」
その日も、あの二匹の赤ゆっくり以外は全て潰した。
一匹だけ箱の隅に引っこんで頬を膨らませている子れいむだけは、
毎回わざと気付かないふりをする。
ゆっくり共は、本気で俺をだませていると思っているだろう。
唯一残された子供である赤ゆっくり二匹に対する親れいむ共の溺愛は、
当然ながらますます濃くなり、わがまま放題に甘やかして育てていた。
「ゆっ!おきゃーしゃんしゅべりだいになっちぇね!!」
「わかったよ!ゆっくりすべってね!!」
「ゆゆぅ~♪ゆっきゅり~♪」
身重の体を苦労して斜めに傾ける子れいむの上を、
二匹の赤ゆっくりが滑っていく。
「もっちょ!もっちょ!」
「おなきゃしゅいちゃ!もっちょたべちゃい!!」
「ゆゆ、じゃあおかあさんのぶんをたべてね!」
「おかあさんのぶんもたべていいよ!」
「ゆっきゅりいただきまちゅ!!」
「む~ちゃ、む~ちゃ………ちあわちぇー!!」
れいむ共に毎日与えている、なけなしの餌。
四匹分にも足りないようなその餌を、
れいむ共は苦労して赤ゆっくりに分け与えていた。
甘やかされた赤ゆっくり共は、足りないと言ってはお代わりを要求し、
親れいむ共は自分の取り分を惜しげもなく与えた。
礼も言わず、当然のように赤ゆっくり共は食べ散らかし、
そんな二匹の姿を親れいむ共は文句も言わずに微笑んで眺めていた。
「ゆぅ~……ゆっくりしたおちびちゃんたちだね……」
「がんばっておちびちゃんたちだけはまもろうね……」
頃合いだ。
俺は準備にかかった。
ある日、俺はその部屋に入った。
親れいむ共がすぐに並び、壁を作って二匹の赤ゆっくりを隠す。
「おちびちゃんはゆっくりしないでかくれてね!!」
こちらにしてみれば丸聞こえなのだが、うまく隠しおおせているようだ。
「おねがいします!!あかちゃんはたすけてください!!」
なにか叫んでいるが無視する。
俺は箱に入れて連れてきた子ゆっくり共をその部屋に放した。
十匹近くいるゆっくり共は、れいむ種とまりさ種が入り混じっている。
「ゆゆっ!!ここはまりさのゆっくりぷれいすにするんだぜ!!」
「れいむはれいむだよ!ゆっくりしていってね!!」
思い思いに勝手にわめき始める子ゆっくり共。
こいつらはこのれいむ共とは無関係で、人に慣れたゆっくりだった。
続いて、さまざまな遊具を運び込む。
ゆっくり用の滑り台、クッション、ブランコ、シーソー。
「ゆゆぅ!!とってもゆっくりできるよおぉ~~♪」
「はやくあそびたいんだぜぇ~~!!」
子ゆっくり共は興奮して飛び跳ねだす。
「思う存分遊んでいいぞ」
「ゆわぁ~い!!」
クッションで飛び跳ね、滑り台に上り、めいめい自由に遊び始めた。
一体何が起こったのかわからない様子で呆然としている親れいむ共の隙をつき、
赤ゆっくり二匹を口に含んでいた子れいむの頬にかしわ手を叩きつける。
「ゆぶぇっ!!」
「ゆあああああぁぁぁぁぁ!!!?」
大切に大切に育てていた二匹が、ついに白日のもとにさらされた。
絶望の叫びを上げ、親れいむ共は涙を流して懇願してきた。
「だずげでぐだざいいいいいいい!!おでがいじばずううううう!!」
「ごのごだぢだげは!!ごのごだぢだげはああああ!!!」
「ぼんどうにだいぜつな、ゆっぐりじだごだぢなんでずううううう!!!」
「ゆゆぅ~?おきゃあしゃん?」
「おにーちゃんはゆっきゅりできりゅひちょ?」
「おぢびぢゃあああああん!!!」
俺はそれきり、箱の中のれいむ共を無視して背を向け、
子ゆっくり共の面倒を見はじめた。
口から吐き出させられただけで、
赤ゆっくりには何も手を出す様子がない俺を見て、助けられたと勘違いしたらしい。
親れいむ共が涙ながらに感謝しはじめた。
「ありがどうございばずううううう!!」
「でいぶのあがじゃんだずげでぐれでありがどうううううう!!!」
「おきゃあしゃんどうちたの?」
それから、子ゆっくり共は思うさま遊び続けた。
仲間たちと遊具で楽しげに遊びまわる子ゆっくり共を、
強化ガラスの壁を通して、赤れいむと赤まりさは食い入るように見つめていた。
「ゆぅ~~……あのこちゃち、とっちぇもゆっきゅりしちぇるよ!」
「まりしゃもゆっきゅりしちゃいよ!!まりしゃもまぜちぇ!!」
ガラスに頬を押しつけて訴えてくる赤ゆっくり二匹は、しかし無視されつづけた。
一匹の子ゆっくりが空腹を訴えてくる。
「おにいさん、おなかがすいたよ!!あまあまたべたいよ!!」
「よし」
俺はすぐに大皿を出し、その上にプリンを沢山並べてやった。
「仲良く分けろよ」
「ゆっくりいぃ~!!いただきますうう!!」
「む~しゃ、む~しゃ!!しあわせえぇ~~!!」
「ゆゆぅうううう~~~~!!」
「たべちゃい!!たべちゃい!!まりしゃもたべちゃいいいい!!」
赤れいむと赤まりさが涎を飛び散らせて飛び跳ねる。
「おきゃあしゃん!!あのあみゃあみゃすっごくゆっきゅりしちぇるよ!!」
「きゃわいいれいみゅにもあのあみゃあみゃちょうだいね!!」
「まりしゃもあっちにつれちぇっちぇね!!」
振り返りもせずに、プリンを凝視したまま背中越しに親に命令する赤れいむ共。
「ゆゆぅ……」
要求してもいいものか、俺の顔色を窺う親れいむ。
俺は視線を合せなかった。
不穏な雰囲気を読み取ったのか、親れいむは赤ゆっくり共に言い渡した。
「ゆっ!だめだよ!!ゆっくりできないよ!!」
「どぼじでぇぇぇぇぇ!!?」
これまで一度も要求を拒否されたことがなかった赤れいむと赤まりさは、
今初めてたしなめられ、火がついたように抗議しだした。
「きゃわいいれいみゅがゆっきゅりしちゃいといっちぇるんだよぉぉぉ!!?
なにいっちぇるのぉぉぉぉ!!!」
「にゃんでぇぇぇ!!?
にゃんでまりしゃはあみゃあみゃちゃべらりぇないのぉぉぉぉ!!?」
おろおろと互いの顔を見合わせる子れいむ共だったが、
親れいむは毅然として言い放った。
「だめだよ!!あのおにいさんにつかまったらゆっくりできなくなるよ!!
ゆっくりりかいして、ここでじっとしててね!!」
さすがにあれだけ子供を殺されたせいで、
親れいむの警戒心は十二分に育まれたようだ。
固い表情で赤れいむ共を諭す。
「どぼじでじょんなごじょいうどおぉぉぉぉ!!!?」
親の気遣いなど伝わるはずもなく、赤れいむ共が絶叫した。
赤れいむ共が羨ましげに見つめる中、子ゆっくり共はさらにゆっくりする。
「うまっ、うまっ、うっめまじうっめ!!これうっめ!ぱねぇ!!」
「む~しゃむ~しゃむ~しゃ、ししししあわしぇええええ~~~♪」
はちみつをたっぷりかけたホットケーキと、
大皿いっぱいのイチゴケーキをほおばりながら、子ゆっくり共は嬉しさに転げ回る。
「ようし、高い高いしてやるぞ」
俺はクリームでべたべたの子ゆっくり共を手に取り、
二匹ずつ上げ下げしてやった。
高い高いの大好きなゆっくり共にはこたえられない遊びだ。
「ゆゆぅぅ~~~~♪おそらをとんでるみたいぃ~~~~♪」
「とっっってもゆっくりしてるよぉぉぉぉ~~~~~♪」
子ゆっくり共は大いにはしゃぎ、
順番待ちの連中が飛び跳ねながら「はやく!はやく!」と催促している。
「おにいいいいちゃあああああんん!!
れいみゅもたきゃいたきゃいしちぇぇえええええ!!」
「まりしゃもゆっきゅりしちゃいよぉおおおおおおおおお!!!」
赤れいむ共は泣き喚きながらガラスに体当たりを繰り返している。
「ゆゆぅ……おちびちゃんたち、がまんしてね!」
「ゆっ、そうだ!おかあさんとゆっくりできるおうたをうたおうね!!」
「ゆ~ゆ~ゆゆゆ~♪」
「うるちゃああああああい!!!」
赤まりさが叫んだ。
「まりしゃをゆっきゅりさしぇないおきゃーしゃんはだまれえええ!!」
「にゃんでれいみゅをいじめりゅのぉおおおお!!?
れいみゅのこちょがきりゃいになっちゃのおおおおお!!!?」
「ゆゆ!そんなことないよ!!
おかあさんたちはおちびちゃんたちがだいすきだよ!?」
「だったりゃしゃっしゃとあっちへちゅれてきぇえええ!!」
「だ、だめだよ!おにいさんはゆっくりできないんだよ!!」
「わけわきゃんないよぉおおおお!!
まりしゃをゆっきゅりさしぇないくしょれいみゅどもはちねぇえええ!!」
「どぼじでぞんなごどいうのぉぉおおおお!!?」
もはやお母さんではなく糞れいむ呼ばわりされた親れいむ共は、
涙を流しながら絶叫した。
「どぼじでわがっでぐれだいどおおおぉぉぉ!!?
おにいざんにづがまっだらゆっぐりでぎないのぉおおおお!!」
「おにーしゃんたしゅけちぇぇええ!!
こにょくしょれいみゅどもがまりしゃたちをいじめりゅううぅぅ!!」
「たすけちぇえええ!!たしゅけちぇえええ!!ゆっきゅりさしぇちぇぇぇぇ!!」
「おぢびじゃああああん!!ぞんだごどいわだいでえええええええ!!!」
親れいむ共は悲しみのあまりに突っ伏している。
幸福な家庭はすでになかった。
甘やかされきった赤れいむと赤まりさにとって、
ゆっくりさせてくれない母親に存在意義はないようだ。
さっきから無視しつづけている俺に向かって、母親から助けてくれと要求している。
「こっちに来たいか?」
そこで、俺は初めて話しかけた。
「ゆゆっ!!きゃわいいれいみゅをそっちにつれてっちぇにぇ!!」
「はやきゅしちぇにぇ!!ぐじゅはきりゃいだよ!!」
「おにいざんにぞんなごどいっぢゃだべええええ!!」
「ゆっきゅりできにゃいおきゃあしゃんはちんでにぇ!!」
「ゆわああぁぁああん!!」
「こっちに来たら歓迎するよ。
ただし、お母さんが許してくれたらね」
「ゆゆ!?ほんちょう!?」
「本当だとも。
君たちはお母さんの大切な子供なんだから、勝手に連れてくることはできないな」
俺の言葉を聞き、赤れいむと赤まりさが母親のほうを向く。
「きいちゃ!?きゃんげいしちぇくれりゅっていっちぇるよ!!」
「おきゃあしゃんははやきゅゆるしちぇにぇ!!」
胸を張って命令する二匹。
「だべえええええ!!いっぢゃだべえええええ!!」
「ゆっぐりでぎないよおおおおお!!」
「ゆぎぃいいいいいいいい!!!?」
「にゃにいっちぇりゅのおおおおおお!!?
ゆっきゅりできにゃいよおおおおおお!!!」
互いに同じ事を言い合い怒鳴り合う親子に、俺は念を押す。
「お母さんが許してくれたら、いつでも来ていいよ。
みんなと一緒に、たっぷりゆっくりしようね!」
「ほらああああああああ!!!ゆっきゅりしちゃいいいいいいいい!!!」
「ゆっきゅりさしぇりょおおおおおお!!!」
「だべなのおおおおおお!!わがっでよおおおおおお!!!」
たっぷり二時間、赤ゆっくり二匹は泣き喚いた。
「ゆっぎゅりじぢゃいいいいいいいい!!!ゆわぁぁああああん!!!」
「いえええええええええ!!!!ゆっぎゅりじでいいっでいえええええええ!!!
ぐぞれいみゅどもおおおおおおおおおおおおーーー!!!」
「ごんにゃのおがあじゃんじゃないいいいいいいい!!
おがあじゃんはゆっぎゅりざじぇでぐれりゅううううううう!!!」
涙と涎としーしーを撒き散らしながら床を転げ回る赤れいむ、
憎悪と殺意をあらわにして母親に噛みつく赤まりさ。
親れいむ共はほとほと疲れきっていた。
宥め、怒り、聡し、乞い、どれだけ言っても赤ゆっくり共は耳を貸さなかった。
悲しげに目を伏せ、黙って子供たちの叫び声を聞きながらしゃくりあげている。
あれほど可愛がっていた子供にここまで憎まれるのはやはり耐えられないのだろう。
本来、普通のゆっくりならば、
ここまでわがまま放題を言われれば愛想をつかして捨てるだろう。
しかし、何度も何度もさんざん子供を殺され続け、
ようやく守り通したたった二匹の、念願の子供たちだった。
愛想をつかすなんて考えられない、大事な大事な可愛い子供たちなのだ。
親れいむの執着は想像もできないものだろう。
「ゆゆっ?このれいむたちどうしたの?ゆっくりしてないよ?」
こちら側の子ゆっくりが、数匹不思議そうにガラス箱の中を覗いている。
俺は教えてやった。
「あのおちびちゃん達が君たちとゆっくりしたがってるんだけど、
お母さんが行かせてくれないんだよ」
「ゆゆっ、そんなのひどいよ!!ゆっくりできないよ!!」
「あかちゃんこっちにこさせてあげてね!!」
「みんな、あのおちびちゃんがこっちに来たら仲良くしてくれるかな?」
「もちろんだよ!!あかちゃんかわいいね!!」
「いっしょにゆっくりしようね!!」
「するううぅ!!ゆっくりしたいいいいいい!!」
赤れいむと赤まりさがガラス壁に頬を押しつけて叫んだ。
向こう側の子ゆっくりと、ガラス越しにすーりすーりをし始める赤れいむ。
「ゆぅ……ゆぅぅぅ……」
親れいむ共はたしかに揺れていた。
ほとほと疲れていたことに加えて、期待のほうが膨らみはじめていた。
もしかしたらお兄さんは許してくれたのではないか。
これほどゆっくりした子たち、優しい言葉。
お兄さんは「大切な子供」だと言ってくれた。
今までの愚行を反省して、ようやく自分たちをゆっくりさせる気になったのだろうか。
子供をゆっくりさせてあげたい。
たっぷりゆっくりさせて喜ばせ、またお母さんと慕ってほしい。
れいむ共の心情はそんなところだろう、くっきりと顔に浮かんでいた。
その時、赤まりさが母親たちのところに這いずっていって言った。
「ほんちょのおきゃあしゃんにあわせちぇにぇ」
「ゆっ……おちびちゃあああああん!!?
れいむがおちびちゃんのおかあさんなのよおおおおお!!」
「うちょいわにゃいでにぇ。
おきゃあしゃんならゆっきゅりさしぇちぇくりぇるよ。
おまえちゃちがにしぇもにょなにょはよきゅわかっちゃよ。
いいきゃら、はやきゅほんちょのおきゃあしゃんにあわしぇちぇ」
「ぞ、ぞんにゃごど………いわだいでぇ……おでがいだがらぁ……」
「おにぇがいだきゃら、まりしゃをゆっきゅりさしぇちぇくれりゅ、
ほんちょのおきゃあしゃんにあわしぇちぇにぇ。
まりしゃ、しゃびちいよ」
赤まりさの視線は、よそよそしく冷たかった。
その眼が見ているものは、もはや母親ではなく、
母親のふりをした得体の知れない別のなにかだった。
「ゆぅうううううう!!ゆぅうううううう!!!」
目をぎゅっとつぶり、声を押し殺して泣く親れいむ共。
限界が来ているのがわかった。
「ゆっぐりざぜであげでねええええええ!!!」
ついに、あの子れいむが叫んだ。
いつも二匹を口に含んで守っていた子れいむだった。
「ゆっ、ゆっぐりざぜであげでぇええええ!!」
「おぢびじゃんおでがいじばずぅううううう!!」
全員が堰を切ったように叫び始める。
「本当にいいのかい?」
俺は念を押した。
「この子たちをゆっくりさせてあげられるなんて嬉しいけど、
本当に僕に、この子たちを預けてくれるのかい?」
「ばいいいぃぃ……ひっぐ、うっぐ……ゆっぐり、ざぜであげで……」
「おぢびぢゃんだぢ……たっぷり、ゆっぐりじでいいがらね……」
「大切な子供たちなんだろう?そばに置いておきたくないかい?
いまならまだ取り消せるよ?」
「どりげざないよ……ばやぐ、ゆっぐりざぜであげでね……」
「考えなおすなら今だよ?
今考えなおせば、この子は、お母さんのそばにいられるんだけど」
「ゆっぐ……ぞ、ぞれより……ぞっぢでゆっぐりざぜであげでぇ…」
「わかった」
俺は二匹の赤ゆっくりをそっと手に取り、箱から取り出した。
「ゆゆぅ~♪おしょらをちょんでるみちゃいぃ~~!!」
きらきらと目を輝かせる赤れいむと赤まりさ。
親れいむ共が目を潤ませ、微笑みながら見送る。
「おちびちゃんたち……たっぷり、たっぷりゆっくりするんだよ……
れいむがおかあさんだからね……ゆっくりしていってねぇ……」
「よし、では始めよう」
言うが早いか、俺は子ゆっくり共を籠に詰めると、
遊具や食べ物と一緒に、カートに載せてさっさと部屋から出してしまう。
残ったのは二匹の赤れいむと赤まりさだけだった。
「ゆっ?」
そして、部屋の外から俺は新しい箱を持ってくると、
赤ゆっくり共の目の前に中身を広げた。
親れいむ共の顔色がみるみるうちに青ざめる。
「おぢびぢゃんにげでえええええええええええええええええ!!!!!」
最終更新:2015年12月25日 04:22