初冬の森にそのゆっくりはいました。
ゆっくりは産んでくれた親ゆっくりに会いたい一心で森を這っていました。
普通ゆっくりは跳ねるのですがそのゆっくりには跳ねる力がありませんでした。
本当はすぐに死んでしまうのですが、一人の人間がゆっくりに森を這うだけの力を授けました。
その力のおかげでゆっくりは森を進むことが出来るのでした。
人間はさらに冬の寒さを防ぐ白いもこもこしたものもゆっくりに授けました。
不思議なことに何も無いときには震えてしまっていた体ももこもこに包まれると震えなくなりました。
こうなると百人力です。ゆっくりは親に会うために教えてもらった道をゆっくりと進みます。
今まで跳ねれないことでゆっくり出来なかったゆっくりは親ゆっくりとゆっくりすることで頭がいっぱいでした。
だから、地面が白い理由も空からゆっくり降ってくるものもまったく気にしませんでした。
「ゆっくち!ゆっくち!」
「なにかちろいものがふっちぇるね!」
「なめるとつめちゃいよ!」
「はやくおかーちゃんとおとーちゃんにあいたいね!」
小さい雪が降る中、10匹の赤ちゃんゆっくりが森の中を動いていました。
白い綿に包まれた姿は雪の降る森では見つけにくくなっています。
冬山といえどゆっくりを捕食する動物はいるのでこのことは赤ちゃんゆっくりにとって幸運でした。
まだ積もってない雪の怖さを知らない赤ちゃんゆっくりは懸命に親の巣に這っていました。
親の作った巣を知らない赤ちゃんゆっくりはお兄さんに教えてもらった道を思い出しながら段差のない道を探します。
あれだけ虐めたお兄さんを信じるのはさすがゆっくりというところでしょうか。
しかし、お兄さんはちゃんと道を教えていました。
分かりやすいように目印となる大きな木や岩を言っていたので、多少は雪が降っても迷うことは無さそうでした。
お兄さんとしては巣に辿り着いて餓死してくれるのを期待していたのであえて分かりやすいように教えていました。
餓死してほしいのに餌を与えていたのかと思われるでしょうが、ゆっくりは余裕があるとゆっくりするのです。
おそらく残っている食料は巣にいる4匹分だけだろうとお兄さんは予測していました。
そこに10匹の赤ちゃんゆっくりが行けばどうなるかは考えないでも分かることです。
「ゆっ!このきだよ!ここをみぎにまがりゅといいんだよ!」
「そのあとはおおきないわをみつけないちょね!」
「はやくしゅについてゆっくちちたいね!」
10匹のゆっくりは訓練によってお互いに協力するようになっていました。
1匹ではいかにわかりやすい説明でも道に迷っていたでしょう。
しかし一匹が忘れた場所を他のゆっくりがフォローして道に迷わず這っていました。
10匹の群れは固まって一匹のゆっくりとなっていました。
順調そうに見えた行程もそれは雪が降っていなければのことです。
初冬とはいえ、雪の勢いは強まるばかり。
しんしんと積もり始める雪の一部は赤ちゃんゆっくりにも降りかかります。
普通のゆっくりであれば冷たさにあせり始める頃だが赤ちゃんゆっくりには綿がありました。
綿の上に積もる雪からは冷たさは感じられません。
同じように地面に積もった雪の上を綿でガードしながら着実に親の巣に向かっていきました。
「ゆゆっ!まえがみえなくなっちぇきちゃよ!」
「まえだけじゃないりょ!よこもみえにゃい!」
「ゆゆゆ・・・もうすこしでおおきなきがあるよ!」
「そこまでがんばりょおおおおお!」
雪の量はどんどん増えます。
それに伴い視界も白く染まっていきました。
赤ちゃんゆっくりは目印の木で休むことにしました。
もう少し。もう少しで親の巣です。
こんなところで立ち止まりたくはありませんでしたが、訓練したと言っても赤ちゃんのままなゆっくりの体力はもう少ししかありませんでした。
「ゆ~!ゆっくりちしゅぎだよ!」
「まだぢゅがないのおおおおおお!」
「もうしゅこし!もうしゅこしだよ!」
「ゆっくちがんばっちぇね!」
最後の力を振り絞り懸命に木に近づく赤ちゃんゆっくり。
しかし這えども這えども木に近づいていきません。
「どうぢでええええええええええ!」
もちろん理由がありました。赤ちゃんゆっくりは雪の上を這っていたのです。
赤ちゃんの小さな体格でも積もり始めの雪には重い。
そして赤ちゃんゆっくりは綿の上にどんどん積もる雪に気づきませんでした。
これらの結果、赤ちゃんの乗っているところはどんどん沈んでいきます。
ただ非常にゆっくりなので赤ちゃんゆっくりは気づきません。
寄り添って這っているのでまえの赤ちゃんゆっくりの背中を必死に見ている赤ちゃんゆっくりは気づかないのでした。
そして前のほうにいるゆっくりの方が沈んだ量が少ないので体力は残っていました。
先ほどから応援しているゆっくりは前にいるゆっくりです。
しかし、一番後ろの赤ちゃんゆっくりは息を吸うのに必死で前の声もちゃんと聞いていませんでした。
とうとう木に着く前に後方のゆっくりが止まってしまいます。
「もうすぎゅだよ!くるちいけどゆっくちしないでね!」
「ゆ゙ゔゔううううう!もうじゃめえええ!」
「あとしゅこしだよ!あそこだy・・・ゆゆゆ!きがみえないよ!」
「どおじでえええええええ!」
「そっちじゃないよこっちだy・・・み゙え゙な゙いいいいいい!」
「ごごどごお゙おおおおおおお!」
「おどおおおおぢゃああああああん!」
「おがあああぢゃあああああん!」
後方のゆっくりを待たなければ前方のゆっくりは木についたでしょう。
まさにゆっくりしたけっかがこれだよ!です。
今や視界は真っ白。
動けなくなった赤ちゃんゆっくりはお互いに顔をあわせて寒さを凌ぐしかありません。
無常にも上にはゆっくりと雪が積もっていきました・・・
「ゆうううううう!さびゅいねぇええええええ!」
「ごれ゙ぢゃ゙ゆ゙っぐり゙でぎな゙い゙い゙い゙・・・」
「ゆぅぅぅぅ!もっとひっちゅくよ!」
「ゆっくち!ゆっくち!」
先ほどまで寒くなかったのは必死に動いていなかったからでもありました。
冬の寒さはゆっくりしだしたゆっくりから容赦なく体力をうばっていきます。
必死にくっついて寒さを耐える赤ちゃんゆっくり。10匹だからできる芸当です。
「もっちょひっちゅくよ!」
「ゆっ!ゆっ!」
「ゆっ、ゆっ・・・うごけないいい!」
「ゆぅううううなんでえええええ!」
「ゆっ?・・・なんだかおもくなってきたよ!」
「ゆゆゆっ!ほんちょだ!」
「だれかうりぇにいりゅんだよ!」
「じゃあたしゅけてもりゃえるね!」
「「「たしゅけてええええええええええ!」」」
赤ちゃんゆっくりが感じた重さ。赤ちゃんゆっくりは誰かが助けに来たと思いました。
暢気に叫ぶゆっくり。だがゆっくりの声は厚い雪に雪を突き抜けることはありえません。
この厚い雪こそがゆっくりの感じる重みの正体でもあるのだが赤ちゃんゆっくりは気づきません。
そもそも雪という概念が無いのです。お兄さんはそんなこと一つも教えませんでした。
お兄さんは野生で生きれるようにしただけで、生き抜くためのことは一つも教えなかったのです。
ひっそりと死が赤ちゃんゆっくりに近づいていました。
にも関わらず、勘違いから赤ちゃんゆっくりは助けられるために声を震わします。
「ゆううううう!もっちょおおきいこえでちゃけぶよ!」
「ゆっくりー!」
「たしゅけてえええええええええ!」
「ごごがらだじでええええええええええ!」
「もっどゆっぐいじだいよ゙おおおおおおおお!」
必死に叫ぶ赤ちゃんゆっくり。それによって死がさらに近づくとも知らずに。
「ゆぅ?ゆゆゆゆ!」
「???どうちたの?」
突如一匹のゆっくりが叫ぶのをやめ震えだします。
不思議に思う他の赤ちゃんゆっくりにそのゆっくりは力の限り叫びました。
「\みぢゅだー!/」
「ゆ゙ゔゔゔゔゔゔ!」
一匹の震えは瞬く間に広がり、叫ぶことも忘れています。
もっとも、そのせいで今の危機があるのですからこれはいい判断だったのかもしれません。
ゆっくりの叫びは熱を出し、とうとう綿の周りが溶け始めていたのです。
綿も水を吸うのでゆっくりは気づきませんでした。
そして叫び続けた結果、綿に溜めきれなくなった水がゆっくりを襲ったのです。
「ゆううううううづめだいいいいいいいい!」
「ゆっくちちてね!うごくときけんだよ!」
ゆっくりの本能からか水を吸った体がどうなるかを理解した他のゆっくりは動かないようにとそのゆっくりに言います。
しかし、
「ゆ゙ゔゔゔ、ざ、ざむ゙い゙い゙い゙!!」
水にぬれた場所は赤ちゃんゆっくりから体温を急激に奪っていきます。
熱をとられた体は熱を作るために震えることを始めます。
いかに訓練された赤ちゃんゆっくりとしてもどうしようもありません。
そして、
「もっとゆっくちしt・・・ざむ゙い゙い゙い゙いい!」
「みぢゅがあああああああ!」
「どお゙じでえ゙え゙え゙」
綿は全体に水を吸い込みます。少しでもくっついていればそこから水を渡していきます。
最初に水に襲われたゆっくりは運が悪かっただけです。どのゆっくりの綿も吸水限界に達していました。
「ゆううう、しゃ、しゃみゅいいいいい・・・」
「みんながんびゃっちぇえええええ・・・」
「みんなでゆっくちちようねええええええ・・・」
互いに震えながら熱を逃がさないようにがんばりますが、それによってさらに水を吸う綿が熱を奪って生きます。
そのとき一匹のゆっくりが閃きました。
「ゆゆゆっ!もこもこをすえばいいんだよ!」
「ゆ?」
「みちぇちぇね!」
そういってそのゆっくりは隣のゆっくりのもこもこに口をつけました。
しばらくするとどうでしょう、隣のゆっくりの震えが弱くなっていくではありませんか。
「ゆぅ~、つめちゃくなくなっちゃよ!」
「ねね!みんなもこうやるんだよ!」
赤ちゃんゆっくりは先ほど見せてもらったとおりに隣のゆっくりの綿を吸います。
自分のものは吸えないのでみんなで協力します。
ゆっくりによって水を吸われた綿はまた水を溜め始めます。そしてその間赤ちゃんゆっくりは水にぬれずにゆっくりできるのでした。
「こうやっちぇればだいりょうぶだね!」
「ゆっくちできりゅね!」
しかしそれも気休めです。
外部からダメなら内部から、水を吸いすぎたゆっくりはだんだんぶよぶよになっていきます。
これでは結局変わらないのですが、体の中に入った水は外の水よりは暖かく、赤ちゃんゆっくりは自分の体の変化に気づきませんでした。
「ゆぅ~、なんりゃかねみゅくなっちぇきた~」
「だめだよ!まだここじゃゆっくちできないよ!」
「でもうごけにゃいよ~」
「ここでゆっくちするりょ・・・」
「だめだよおおおおおおおおおお・・・」
すでにゆっくりの体は溶け始めていました。
しかし溶けてしまった場所は熱を作れないので凍っていきます。
赤ちゃんゆっくりは他のゆっくりの顔しか見れないので体の後ろがどうなっているか分かりません。
ゆっくりの上にはいまだ雪が積もり続けます・・・
「そとはすごいゆきだよ!」
「あれがゆきなんだね!ゆっくりおぼえたよ!」
「そうだよ!つめたいしさわりつづけるとからだがとけちゃうからね!」
「ゆゆゆ!ゆっくりきをつけるね!」
ここはあるゆっくり家族です。
冬篭りのために巣を埋めていた親まりさは振り出した雪を見て子ゆっくりのれいむとまりさを呼んで雪のことについて教えていました。
奥では親れいむが寒くならないように枯葉や木の枝などでゆっくりできる場所を作っています。
子ゆっくりは生まれてだいぶ経つので発音もはっきりとしていて、大きさも親れいむに近づくほどでした。
これならば春になれば独り立ちできるでしょう。
そのために必要なことを親まりさは冬の間ゆっくりと教えるつもりでした。
「ねどこができたよー!みんなこっちでゆっくりしてね!」
「ゆ!じゃあ巣を閉じるよ!こうやって閉じるんだよしっかり覚えてね!」
「ゆっくりやってね!がんばっておぼえるよ!」
親まりさの手際よい塞ぎ方を真剣に見る子ゆっくり親れいむもその姿に満足気です。
「じゃあみんなでゆっくりしようね!」
「まりさがいちばんー!」
「ゆ~れいむがいちばんだよー!」
そういって子ゆっくりは一足先にゆっくりプレイスに向かいました。
後に残るは親れいむと親まりさです。
「こどもたちすごいゆっくりしてるね!」
「まりさとれいむのこどもだからね!すごいゆっくりしてるよ!」
「これならはるにはひとりだちだね!」
「そうだね!そのためにしっかりおしえなくちゃね!」
「さびしくなるね・・・」
「ゆ・・・」
「おにいさんにあずけたこどもたちはげんきかな・・・」
「だいじょうぶだよ!いまごろおにいさんとゆっくりしてるよ!」
「ゆ!そうだね!ゆっくりしてるよね!」
「はるになったらおにーさんのところにいこうね!」
「うん!これからはあのこたちとゆっくりしようね!」
「「おかーさん、おとーさんはやくー」」
子供達に急かされて親ゆっくりもゆっくりプレイスに向かいます。
みんながそろうと、これから冬篭りが始まります。
「「「「ゆっくりしていってね!」」」」
ところ変わって人里。
ここではゆっくりを鍛えたおにーさんが寒さに負けず訓練に使用した道具を掃除していました。
毎年いろんな種類のゆっくりに使われてきた道具は所々傷だらけでした。
お兄さんは毎年ゆっくりできないゆっくりのために訓練を続けてきたのです。
そして冬になる前に訓練した家族を巣に返してあげるのでした。
反応は様々です。
あるときは春になってお兄さんにお礼を言いにきました。
お兄さんはゆっくりによくがんばったねとおいしいものを渡して返します。
数が減っていたらその話を聞いていっしょに涙を流してあげました。
あるときは春になってもゆっくりはやってきませんでした。
おそらく元気にしているのでしょう。お兄さんはそう思って森で暮らしているゆっくりの健康を祈ります。
あるときは気づかずに潰してしまいました。
お兄さんはお墓を作って弔ってあげます。
今年はどうなるのでしょう。お兄さんは物置に綺麗に道具を片付けていきました。
そして
「ゆっくりちちぇいっちぇね・・・」
最後の火が消えたのは雪が病むのと同時でした。
最終更新:2022年05月03日 19:17