※俺設定注意










「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁァァ!!!!!」

これは聞いた話だが、出産の痛みは男にとってショック死してしまうほどのものらしい。
ならば仮に、その痛みを以って拷問をするとすればどのような形になるだろうか。

白い部屋。
家具も無く汚れも無くただ白い部屋・・・・・・そこにれいむの絶叫は響く。
れいむは捕まえられていた。それだけではない。

れいむは、子を産んでいた。

「やべっ、やべっで!!も゛う゛っ、も゛ううみ゛だぐな゛い゛い゛い゛い゛い゛ぃぃぃ!!!」

子を産むというのは神聖な行為だろう。
己の命を引き継ぎ、明日への希望を繋げる。愛しい半身。
だが、これはそのようなモノではない。

誰かの悪意によって捻じ曲げられたソレは、最早出産と呼べるようなモノではない。
これは―――そう、この『工程』は、むしろ『生産』と呼ぶに相応しかった。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁっ!!!ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァッ!!!!!」

れいむの額には、当然のように茎が付いている。植物出産の形だ。
いや、ソレを『茎』と呼んでいいものなのだろうか?
人工物―――アルミを基本とした金属の曲がりくねった棒は、果たして『茎』と呼べるのだろうか?

その『茎』の長さ、広さは・・・この部屋を覆って尚有り余る。
まるで果樹園。低木のように張り巡らされた金属の畑。
そこから生まれ出てくるのは・・・・・・もっとも、金属でもなんでもないが。

赤ゆっくりだ。
長い長い『茎』―――そのそこかしこから実っているのは、紛れも無い赤ゆ。
そう、『実っている』だ。現在進行形で、赤ゆは凄まじい勢いで実り続けている。

「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!!じぬ゛、じんぢゃう゛う゛う゛う゛ぅぅッッッ!!!」

勿論、赤ゆを齎しているのは親ゆっくりであるれいむである。
れいむの脳天には太いチューブが挿し込まれており・・・そこから流れてくるものが、このれいむに苦痛を与え続けている。

精子餡。
毎秒100mlで流し込まれる精子餡に、れいむはその身体を削りながら我が子を作る。
それこそ、無限のように。雪崩のように。悪夢のように。

これほど多量の出産には、当然親ゆっくりは一秒として保つ筈がない。
ならば何故このれいむは未だに生きているのか?
それはこの―――れいむの後頭部に刺さっている、オレンジジュースのパックが原因だ。

オレンジジュースは通常、ゆっくりにとって万能薬となる優れものだ。
今れいむに刺さっているものは更に多種の薬品を混ぜ合わせ、より効能を強くしている。
否、強くし過ぎている。これは薬ではない―――劇薬だ。

その効果の程は・・・死んだゆっくりを生き返らせ、後にその毒性によって再び死に追いやる。
およそゆっくりの事など欠片も考えていない獰猛な程の回復力。
しかし問題ない。れいむは今この時、この瞬間のために生きてきたと言っても過言ではないから。

「ア゛ァ゛ア゛ッ!!エ゛ア゛ッ!!ア゛ッ!エ゛ッ!ヒッ!!・・・」

ガクガクと身体を揺さぶり、白目を剥いて奇声を発しながらもれいむは止まることが出来ない。
大量の餡子を一瞬で吸い取られ、オレンジジュースによってまた一瞬で補充される。
既にれいむの意識があるのかどうかすら定かではない。記憶すら失ったのかもしれない。
瞬間的に体の中身を入れ替え続けられながらも、それでもれいむは激痛に絶叫する。

体が黒ずむ。とうとう出産の負荷が回復力を上回り始めたのだ。
それでも止まらない。否、止まれない。
オレンジジュースのパックの残り、あと1リットル。それまでれいむは、生きた屍になりつつも止まることを許されない。

「ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!」

奪われ、補充し、また奪われ、補充する・・・・・・。
れいむの子供たちは、そのなけなしの生命力を容赦なく貪ってこの世に現れ出でる。
一瞬一瞬が激痛。苦痛。不快感。名状すらできぬこの感情。

0から、10、50、100、500、1000、5000、そして・・・・・・。
まだまだ増える。『茎』にはもはや一部の隙も無く、びっちりと赤ゆが実り付いている。
6000、6500、7000、7500、8000、8500、9000、9100、9200、9300、9400、9500、9600、9700、9800、9900・・・・・・。

「ユ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッッッ!!!!!!」

断末魔。
生命が潰える、その最後の一瞬。正真正銘の断末魔。
それが部屋全体を、ビリビリと打ち震わせる。

餡子は・・・残らなかった。ただの一片も。
皮も黒ずみ、薄れ、ともすれば無くなっていたかも知れない。それほどの圧倒的な、『消費』。
れいむの心を圧倒的という形容すら生温いほどに蹂躙し、粉砕し、微塵に引き裂いた、その行為。

れいむは・・・おそらく自身が一番憧れて、羨んで、渇望したものを汚され、穢され、歪み尽くされて果てた。
残せたものなど何も無かった。祝福も、我が子への愛も、暖かな未来への想像も。怨嗟の言葉を吐くことすら、れいむには許されなかった。

たった一つ例外を許せば、れいむが残せたものは・・・一万匹の赤ゆっくりだけだった。










        ゆっくり無双










「やだぁっ!!やべでぇっ!!まりざのっ、まりざのおぼうじいいいいぃぃっ!!」

一匹のまりさが、泣き喚き必死に身を捩って懇願する。
しかし、それが聞き届けられる事は無い。
まりさのおぼうし―――命と引き換えにしても惜しくない、そんな半身とすら言って良いものが・・・・・・燃えている。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!おぼうじっ!!まりざの・・・・・・おぼうじ・・・っ!!!」

メラメラ、パチパチと火の粉を出しながらあっけなく燃え上がるそれ。
たかが帽子一個、燃え尽きるのに時間は要らない。ほんの数十秒の出来事だ。
まりさはそれを、悲しみと悔恨と絶望と―――そしてほんの僅かの諦観を以って、眺めるしかない。

もはや炭と灰としか呼べなくなった物の前で、まりさは力無く泣く。
今まで、ずっと一緒だったのに。どうしてこんなことするの。
その涙は誰に、何に向けられたものなのだろうか。それを理解する者など、今此処には一人としていない。

「まりさの・・・おぼう・・・・・・!? なっ、なにぞれぇっ!!?やべでぇっ!!!」

まりさの悲嘆など、序の口であったのだ。
それを証明するかのように、拒否拒絶、さらなる絶望、嫌悪を剥き出しにしてまりさは叫ぶ。
持ってこられたものは・・・・・・形変わらぬ、まりさのおぼうし。

だが、形だけは取り繕っても、その本質をまりさは見抜いていた。
臭う。何かが臭う。近付きたくない。いやだ。やめて。それちかづけないで。
確かにこれは何の変哲も無いまりさ種の帽子だ。・・・・・・ただし、たっぷりと『死臭』が付いている、ということ以外は。

「やじゃああああああぁぁぁぁっ!!!まりじゃぞれいやじゃああああああああああっ!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」

先程とは比べ物にならないほどの形相で、身を捩るまりさ。
判断は付き難いがその口調からいって幼児退行を起こしている。
それほどまでに嫌なのだ。『死臭』の付いた飾りを、近づけられることが。

だがそんなまりさの都合などは知ったこっちゃないとばかりに、優しくまりさに帽子が被せられる。
何の拷問でもない、ただ帽子を乗せただけ。
たったそれだけの行為に、まりさは今まで最も大きい絶叫を迸らせた。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッ!!!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!」

身を捩る。押さえつけられる。それでも身を捩る。できない。そうだろうと身を捩る。無理だ。
暴れるまりさが、眼前に針と糸――何をするかまりさは理解してしまった――を捉え、尚一層絶望の声を上げる。
ぶすり。頭に響く激痛。いや、それよりも苦痛なのは・・・その痛みが何を齎すかという事実。

「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!いやっ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

ちく、ちく、ちく。
縫われていく。縫い付けられていく。
忌まわしい、おぞましい『おぼうし』と・・・・・・まりさが、一体になってしまっていく。

抵抗は無意味だった。なにをしても無駄だった。
数秒と経たずに帽子のつばとまりさの頭部は熱烈な抱擁を交わす。糸という、物理的な拘束によって。
臭い立つ死臭が、まりさの魂、心、尊厳―――ありとあらゆるものを、貶め、絶望に塗りつぶしていく。

「あああ、ああっ・・・・・・いや・・・・・・いやぁ・・・・・・」

あっさりと、まりさの心は瓦解した。
何の抵抗も許さぬ、出来ぬ・・・・・・まりさの瞳は、奈落のように昏く、ヘドロのように澱んでいる。
精神は既に折れ尽き、今は死こそが救いであるかのような。

そんな饅頭と大差無くなったまりさに、誰かが耳打ちをする。
途端、まりさの目に光が戻る。この生き地獄に垂らされた、蜘蛛の糸に縋るような眼。
次の瞬間、まりさは見も知らぬ場所へと、投げ込まれていた。





「ゆべっ!!」

顔面から着地する。無論、ゆっくりにはそうやって傷つくような器官や骨などない。
故に、まりさが痛みに蹲ったのも十数秒の事で、あとは平然と起き上がっていた。

「ゆぅ・・・・・・?」

キョロキョロと部屋を見回す。
白い部屋だ。白くて、大きくて、あとは・・・・・・何にも無い。
ただの部屋。

まりさのこれまで・・・・・・経験、経歴等に特に意味は無い。語る必要も無い。
しかし、まりさはこんな部屋を見たことが無かった。
一度か二度は人間の家に侵入したことがあるのかもしれないが・・・・・・それでも、こんな奇妙な場所は、初めてお目にかかる。

生活感が無かった。埃も、汚れも、それどころか・・・臭いすらしなかった。
『部屋』ではないのだ。もっと別の目的で用意された、何か意味のある空間。
だがそれがまりさには分からない。ここは一体どんな場所なのかすら。

そういえば・・・・・・まりさは、思い出す。
頭上の忌まわしい帽子。それを縫い付けられ、絶望した先程の事を。
あの時・・・・・・あの時、まりさは、なんて言われた?

"殺せ。全て殺せ。そうすればそれを取り外してやる。生かして帰してもやる"

そうだ。そう言われたんだ。
言う通りにすれば。言うとおりにすれば、この忌まわしい帽子を外してもらえる。
だが、何を?何を殺せと?一体何の事を言っているのか?

そう思いながら部屋を見回し・・・・・・部屋の隅に、何かを見つける。
白い空間を、そこだけ切り取ったか塗りつぶしたかのように色が付いている。
まりさはほんの一瞬だけ安堵し、そして、それに近寄ろうとして・・・・・・総身の毛が逆立った。

それは、赤ゆっくりだった。
轟いている。蠢いている。群がっている。一匹二匹では済まぬ、この大群。
うぞうぞと、お互いに絡みつき、押し合いながらも部屋の隅で群体を形成している。ひどく不気味で・・・・・・おぞましい。
まりさは知る由も無かったが、これを見る人が見れば「蛆が集っているようだ」と形容しただろう。

「「「「「「「「「「ゆ?」」」」」」」」」」

ソレが、一斉にこちらを見る。
無数の眼。まるで大きな生物が、その身体全身に眼を植え付けたかのような。
同時に、形が崩れる。不定形の群体から、部屋に広がるような波状へと。

まりさはその様子を、何も言えぬまま呆然と見つめているしかなかった。
頭のどこかで・・・・・・恐ろしいと感じる。
赤ゆが10匹程度なら、微笑ましく見られただろう。だがこの量は・・・・・・そんな微笑ましさからは、まるで別方向に突き進んでいる。
・・・・・・気持ち悪かった。えもいわれぬ、忌まわしさすら感じられた。

「ゆっくち!」
「ゆっくちちようね!」
「ゅゅ~ん!」
「ゆっ!」
「ゅぅ~♪」

ざわざわと、蠢きながらそれぞれがそれぞれの言いたい事を言い始める。
静かだった筈の白い部屋は、途端に喧しさすら感じるようになった。
まりさは何も言えない。赤ゆの発する声が、群れに群れた蝿の羽音にすら聞こえる。腐肉の啜りあう音にすら聞こえる。

殺せとは・・・・・・まさか、この子達の事か?
この子達、こいつ等・・・・・・いや、『これ等』を潰せば、まりさはこの帽子から逃れられるのか?生き残れるのか?
自問する。誰が答えてくれる訳でもない。
だが、多分、おそらく。間違いない。殺さなければ。殺せ!!

「ゆ?」
「ゆっく・・・ち?」
「ゅゅ?」
「ゆ・・・・・・?」
「ゅぅ~?」

そんなまりさの決意を知ってか知らずか、赤ゆ達は疑問の声を上げる。
いや、違う。疑問ではない。
これは・・・・・・嫌疑。忌まわしいものが発する『臭い』は、赤ゆといえどもその本能に刻まれている。
それが誰から発せられているか気付いたのだ。剣呑な目つきになっていく赤ゆ達。

「ゆっくちちね・・・」

ポツリ、と。
部屋の中の誰かが、そんな呟きを漏らした。つられる様に、ポツポツと呟き始めるものが、増える。
伝播する。広がっていく・・・殺意。

「ゆっぐぢぢね!」
「かじゃりどろぼうはゆっくちちね!」
「ころず!!」
「ゆ゛っぐりぃ!!!」
「じね!!」

噴き出す、無数よりの殺意。
それに中てられて、まりさもまた理性を放棄する。
帽子から離れたいという一心と、赤ゆとはいえ無数の敵意を浴びた恐怖心が、まりさの殺意を剥き出しにしていく。

「ゆ゛う゛う゛う゛う゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ッッッ!!!ゆ゛っぐりじね゛え゛え゛ェ゛ェ゛ェ゛ッッッ!!!」

咆哮。絶叫。雄叫び。慟哭。
その何れかを放ちながら、まりさが駆ける。迎え撃つは、一万匹の赤ゆっくり達。
片や己が生き残るために。片や罪人を討つために。
一対一万の、凄絶なる死闘が始まった。





「ゆ゛り゛ゃあ゛ァッ!!」

離れて先行してきた莫迦ども目掛けて、飛び掛る。
成体ゆっくりの体重は、赤ゆでは相当数を揃えねば支えきれない。
そしてその相当数には届かなかったと見えて・・・水っぽい音を立てて、赤ゆ達は一瞬で踏み潰された。

「ゆ゛う゛ぅッ!!」

そのまま、赤ゆの群れまで突っ込む。
口と眼を閉じ、そのまま転がる。ぶちぶちぶち、と、何かが潰れる音。
目を開けてみればどうやら群れのど真ん中は外れたらしい。だが逸れたと言っても、ある程度の損害を出すことには成功した。

「「「「「ゆっぐぢぢねぇ!!」」」」」

そう喚きながら、赤ゆどもが小さな口を目一杯に広げて飛び掛ってくる。
すかさず迎撃。こちらも口を眼一杯に広げて、逆に赤ゆどもを捕食する。

「むーじゃ!!むーじゃ!!・・・・・・べっ!!!」

口の中から聞こえる断末魔も意に介さず、咀嚼を続ける。
甘い。口の中に広がる芳醇な味。殺せる。もっと殺せる。殺し続けられる。
何か固いものがあったので吐き出す。赤ゆどもの歯やリボンだった。

先程と同じく。跳躍、踏み潰し、転がりのコンボを行う。
第一撃で十数匹、その次で二十匹ほどが潰された。
しかしまだまだ底が尽きない。あちらは文字通り掃いて捨てるほど居る。
まりさの殺意はますます研ぎ澄まされる。

群れの形が変わる。
攻め一辺倒だった波の形から、まりさを取り囲むような輪の形へと。
全方向から向けられる殺気。まりさはいてもたってもいられずに飛び出した。

「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

包囲の一部を、文字通り食い破る。
口の中では赤ゆがなにやら喚いていたが、それも一噛みしてやると黙った。
撹乱のために、赤ゆどもに向かって姉妹の亡骸を吹き出してやる。

「ゆぎゃあ!!いぢゃいい!!」
「ゆぴいいいいい!!」

どうやら何匹かに歯とかが当たったらしく、そいつ等は激痛に悶えていた。
餡子を引っかぶった奴等は・・・・・・みっともなく錯乱するか、一層怒りに狂ってこちらに突進してくるかのどちらか。
一直線に来てくれるなら有難い。転がって突っ込んできた莫迦どもを轢き殺す。

「じねっ!じねっ!じねっ!じねっ!じねっ!じねっ!じねっ!」

やたらめったらに飛び跳ねて、とにかく踏み殺していく。
潰された赤ゆ達によって、床は黒く染まり、壁にも飛び散った餡子がいくつか見受けられる。
しかし構わない。此処はそういう場所だったんだ。
まりさは理解した。此処は凄惨な殺し合いをする『闘技場』だということに。

「じねっ!!・・・・・・ゆっ!?」

何度目か分からない圧し掛かりの感触に、まりさは驚嘆する。
踏み潰せていない。まりさのあんよの下には、まだ赤ゆ達が生きている。
運が悪かった。偶然によって出来たこんもりとした赤ゆ達の塊・・・まりさはそこを着地点にしてしまったのだ。

「「「「「ゆっぐぢぢねぇっ!!!」」」」」

このチャンスを見逃すほど赤ゆ達も莫迦ではない。
蟻が得物に食いつくように、まりさの身体を覆っていく赤ゆ達。
まりさの足に直接触れていたものは、そのまま噛み付きに移行している。

「はっ・・・・・・はな゛れ゛ろ゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛!!!」

身を捩り、転がるまりさ。
しかし千載一遇のこのチャンス。例え押し潰されようとも、一匹たりとしてまりさから離れようとはしない。
噛み付き、食い千切ろうとする。成体ゆっくりの皮に比べて、赤ゆっくりの顎の力は些か弱い。
だが、それが何百、何千と集まればどうなるか・・・・・・。

「ゆ゛う゛う゛う゛う゛ぅぅぅ!!!じねっ!!」

まずまりさは再び跳躍した。
赤ゆが密集していない、必ず殺せる場所に着地。足から下の赤ゆ達は残らず潰れた。
そうして壁へと身体を叩きつけ次々に赤ゆを潰し、また身体を振り回し赤ゆを吹き飛ばす。
・・・・・・だが、最後に残った赤ゆ。後頭部に見事噛り付いていた赤ゆが吹き飛ばされた時・・・・・・。

まりさは痛みを感じた。場所は、後頭部。つい先程まで忌々しい赤ゆの一匹が噛み付いていた場所だ。
この感覚・・・まりさは青褪める。恐らくだが、皮が千切られいる。
無論、傷は深くない。赤ゆに付けられる傷など、たかが知れている。
だが、まりさはこの傷を庇って後どれほどの赤ゆを潰せばいいのだろうか。

振り返る。まりさに傷を負わせた赤ゆっくりが、虫の息でそこに居た。
死にかけの分際で、何が嬉しいのか不敵な笑みを浮かべている。
まりさの頭に血が上る。逆上する。即座に積み潰した。

残る赤ゆは・・・・・・まだまだ、沢山沢山沢山沢山沢山沢山たくさんたくさんたくさんたくさんたくさんたくさんたくさんたくさんたくさん。
潰された赤ゆなど歯牙にもかけないように・・・・・・それほどまでに大量の赤ゆ、赤ゆ、赤ゆ。
一瞬萎えかけた殺意が再び牙を剥く。

「ゆがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッッッッ!!!!」

再び咆哮。
こいつらを殺しつくせばこの帽子から解き放たれるんだ!
殺してやる!殺してやる!
生き残るという願いを殺意に変えて、殺意の波へと突進するまりさ。

さて、ようやく一分。たった百匹を、まりさは潰したに過ぎない。次の百匹まで辿りつけるのだろうか?その次は?その次の次は?―――





まりさは健闘した。
百匹を殺し、二百匹を潰し殺し、三百匹を噛み殺し、四百匹を―――――
だが、着実に傷は増えていく。傷を負えば、それを庇う。またその為に傷を負う。
そうやってまりさは・・・・・・・・・。

「やべろぉ!!じね!!ゆっぐりじねぇ!!じねええええぇぇ!!」

今、まりさは赤ゆの波に揉みくちゃにされていた。
傷を負い、体力が尽きても相手は尚動く。数の有利がここで効いていた。
もはやまりさに抵抗する余力は残されていない。目に付いた数匹を噛み殺すのが関の山だ。

「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」
「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」
「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」
「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」
「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」
「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」
「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」
「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」
「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」
「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」「ゆっくちちね!!!」

怒涛のように押し寄せる声。
傷口を押し広げて潜り込もうとしてくる者。
新たな傷口を作ろうとする者。
まりさの命は風前の灯だった。ピラニアが待つ水の中に投げ込まれるのを待つ水鳥のよう。

「じねっ!!じねぇっ!!まりざはっ、いぎのごるんだぁ!!だがらぁ、じねええぇっ!!」

しかしまりさは諦めない。
己の命が尽きるまで負けではないと、殺意を燃やし挑みかかる。
それは、あまりにも虚しい行為だが。

「い゛や゛だっ!!じにだぐない!!じに゛だぐな゛い゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛っっっ!!!」

弱弱しい、赤ゆの歯。そんな弱弱しい武器によって、まりさの命は尽きようとしていた。
今もまりさの体内には多数の赤ゆっくりが蠢いている。まりさの餡子を全て喰らい、その息の根を止めるため。
既に痛みも感じないのだろうか、まりさはただ叫ぶだけ。・・・・・・そもそも正気を保っているかもどうか怪しいものだが。

「ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!ユ゛ッ!」

とうとう大切な何かが壊れた。まりさは白目を剥き、痙攣するだけの物体と化す。
それでも赤ゆ達がその攻撃を緩める事は全く無い。
本能に刻み付けられたままに、ただまりさを破壊していく。

「ユ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッッッ!!!!!!」

断末魔。
生命が潰える、その最後の一瞬。正真正銘の断末魔。
それが部屋全体を、ビリビリと打ち震わせる。

そうしてようやく、赤ゆ達はまりさを解放した。
穿たれ、裂かれ穴だらけになった顔。貪られ、皮に付着する程度しか残っていない餡子。
もうこれは、まりさではない、まりさであった、何かだ。






赤ゆ達は、そんな元まりさを見ながら勝利の歓喜に酔う。
わるいゆっくりをやっつけた。かざりどろぼうはゆっくりできない。だからゆっくりしね。
多少の犠牲が出てしまったが、それは自分ではないし、まだまだ姉妹は大量にいるのだ。何も悲しいことなんて無い。

ゆっくりできるようになったらおなかがすいてきた。
そうだ、このゆかにおちてるあまあまさんをたべよう。
そんな考えの下、姉妹だったはずの餡子を嬉しそうに貪る赤ゆ達。
別にそれが悪いわけではない。赤ゆ達は無知なのだから。ただ、それが他人から見れば酷く醜悪に映るだけ。

赤ゆ達はこれが始めての食事だった。
所謂同族食い。しかも生まれて初めての食事がそれだったのだから、彼女たちの末路は想像に固くない。
赤ゆ達は同胞以外の味に満足せず、一匹になるまでお互いを貪りあうだろう。

だが、そんな事を今走る由も無い赤ゆっくり達。
そうとも。ゆっくりしたんだから、次はお昼寝の時間だ。まだまだ眠くない子は、ちょっとばかり遊ぼう。
眠りだす子、遊びだす子。何も知らないというのはここまで幸福なのだ。それが良い事かどうかは置いといて。

それに、あくまで未来の話―――仮定の話だ。『もし』なんてモノは、今となっては意味が無い。
赤ゆ達はどこまでも無知だった。
だから、天井から白っぽい煙が降り注いできたことも。
それに触れた途端、身体から激痛が発せられるという因果関係も。
裏返るように、捻じ切るように、搾り取られるように、引き千切られるように―――そんな風に姉妹が餡子を吐いている周囲の事も。
そしてそれを冷たく見守る機械の目の事も。
―――赤ゆ達は、何も知らずに、何も分からずに、何も理解しようとはせずに。・・・・・・そして無駄に、死んでいった。










この世の中には、ゆっくりを虐めて悦びを得る人間が少なからず存在する。
例えば、透明な箱に押し込めたり、切ったり、叩いたり、焼いたり―――とにかく色々だ。
だがそれだけでは飽き足らず、もっと大規模な虐待を望むものも少なくない。

とはいっても、その大規模な虐待と言うのはいかんせん少々手がかかる。
例えば、千匹単位でゆっくりを集める場合などは、それだけで相当の金額を消費する。
野良ゆっくりを探すという方法もあるが、時間がかかるし、保健所とはいえ千匹も一々保管してはいない。
色々な意味でコストに見合わないのである。勿論、ゆっくりだけでなく虐待に使う道具、装置にも同じことが言える。

つまり、よっぽどの道楽者でなければ大規模な虐待は難しい。
この事実に一体何人の虐待人が涙を呑んだだろうか。中には虐待に金をかけるあまり、破産してしまった者も居るほどだ。
しかし人間とは過剰な空想力を持つものである。ぶっちゃけた話、「別にリアルでなくてもいいから大規模虐待したい」という輩が現れ始めたのだ。
そしてそんな要求に応えるかのごとく、とある一つの方法が考案された。
それが、殺人(スナッフ)ビデオならぬ・・・殺ゆ(スナッゆ)ビデオである。

例えば採掘場にゆっくりを集めて、それを爆弾でまとめて吹き飛ばしたり。
道路に大量のゆっくりを敷き詰めて、それをロードローラーで餡ペーストにしていったりなど・・・。
金のかかる虐待をカメラに収めて、お手ごろ価格で鑑賞できる。
「見るだけなんて虐待じゃない。これは邪道だ」との声もあるが、中々どうして、それなりの売り上げを誇っている。

今録画されているこの光景も、じきに編集され、売りに出されることだろう。
タイトルは『ゆっくり無双』シリーズ、『まりさVS赤れいむ一万匹』である。
片方は一匹、もう片方は少なくとも千匹からなるこの同士討ちは、シリーズ化される程度には好評のようである。
今回は、「過去最多」のキャッチセールスに漏れず、赤ゆを一万匹使用している。

過去に加工所が考案したゆっくりの生産法―現在は劇薬オレンジジュースの危険性が指摘され、廃止された―は、一匹から一万匹の赤ゆを生産可能だ。
そこに死んだゆっくりの帽子を被せ死臭を纏わせたまりさをぶつける。両者は争い、どちらか一方が生き残る。
どちらか一方が死んだ後に、ゆっくり用の神経ガスを散布。あとは勝者が苦しみ悶えて死ぬのを鑑賞できる、といった内容だ。
あのれいむは殺される為だけに我が子を一万匹も生んだのである。全く以ってご苦労様なことだ。

今まではれみりゃ、ふらんと言った捕食種に対し通常のゆっくりをぶつけていたが、今回は大人対赤ん坊を演出してみた。
あのまりさの表情。死に物狂いで赤ゆを潰して回ったあの狂気。死ぬ間際の絶叫。何も知らぬ赤ゆの最期。
思っても見なかったものが撮れたと、監督もご満悦のようである。





ゆっくりがこの世に現れてから○○年。
徐々に、徐々にだがゆっくりにも人間の社会で役に立てる場面が増えてきた。
農業、介護、実験体、愛玩動物、盲導犬の代わり等等。・・・・・・変わったところでは、雑誌の編集員などをやっているとか。
全てが全て、このような暗い仕事ばかりではない。ちゃんと人の愛に触れ、幸せになっていくゆっくりは大勢居る。
これは、ほんの一例なのだ。踏みにじられ、引きかされるのが彼ら「俳優ゆっくり」の役目。聞こえはいいが要は人柱である。
もっとも、まりさと赤れいむ達は自分達が見世物になっているという自覚は無かったが。

今この瞬間にも、何処かで誰かが、ゆっくりを惨たらしく殺しているだろう。
だがそれこそゆっくりの本懐。
どんな形であれ、相手にゆっくりしてもらうのがゆっくりなのだ。例え、それが鬱憤を晴らすための八つ当たりだとしても。

よってまりさ達の死は無駄ではなかった。
まりさ達の最期は、裏の流通に乗りながらも誰かの溜飲を下げる為に役立っている。










        おわり










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書き溜めです。
本当は希少種無双を書きたかったけど、不評そうなのでこんな形に変更。これなら文句は無い・・・と思う。
あと書いてる途中に社会進出したゆっくりが書きたくなった。図書館で司書の手伝いをしてるぱちぇとかアンティークショップで飼われてるありすとか
庭師のお爺さんと一緒に盆栽に精を出すみょんとか清掃員のお兄さんの手伝いをするおりんとか発電所に勤めるいくさん、おくうとか
町工場の一角で手伝いをするにとりとか裁判官のお姉さんのペットのえーきとか船乗りのお兄さんに付き添って世界の海を渡るこまちとか・・・・・・
色々。でも愛でになるから自重する。

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最終更新:2022年05月19日 12:44