※現代設定注意
作者:名も無き埴輪
「ここいらは都心に近い割に比較的静かなんで暮らしやすいと思いますよ。」
「はぁ……」
「こちらが部屋の鍵となります。今後とも良いお付き合いをしたいですね。」
「ええ、はい……」
気の抜けた返事を管理人さんに返しながら俺は今日から自分の住居となるアパートを見上げていた。
築40年は経ってそうな古いアパート。風呂なし・トイレは共同の四畳半の部屋。
一応キッチンはあるものの流しとカセットコンロが置かれてるだけだ。
後から無理に流し部分を取り付けたのか半ば押入れに食い込んでいて、押入れはもう半分しかその機能を果たしていない。
水道管も無理やり引っ張ってきたようで剥きだしになっている。
「最後に入居者さんが出て行ったのはいつだったかねぇ。
ここ最近は全く入居したいって人がいなかったから取り壊そうかとも思ってたんだよ。」
「そうですか……」
「ああ、心配しなくてもいいよ! 住んでくれる人がいる限り取り壊したりなんてしないから!!」
「ありがとうございます……」
俺がこんな古アパートに住む羽目なったのは趣味が災いしたせいだ。
地元では実家の周りが田んぼや自然に囲まれてるおかげかゆっくりがたくさん生息していた。
自然の中でだけ生息していればこちらもわざわざ手出しはしないのに
人家に近づいて庭などを荒らすゆっくりが多発した。
市の方でもいくつか対策は立ててくれたもののゆっくりの余りの多さに手が追いつかない状態だった。
そうなると住民たちは自分たちで対策を立てることになるのだが
俺はゆっくりを追い払ったりしている内にじっくりといたぶり
痛めつけることに快感を感じるようになっていた。
人目に付かないように気をつけてはいたものの一度虐待しているところを
目撃されてしまってからは流石田舎だけあって噂はまたたくまに広がった。
「こんな異常者が近くにいては白い目で見られる」という理由で俺は実家を追い出された。
アルバイトもせずにだらだらと過ごしていた俺には当然貯金などあるわけもないが
親からわずかばかりの金を渡されたのでせっかくだからと上京してきた。
不動産屋さんからこのアパートまでの道中にもゆっくりを見かけたが
俺の地元に住んでるゆっくりとは違い、住民たちにもある程度受け入れられているようだった。
気になって管理人さんに聞いてみたがここら辺に住むゆっくりは皆愛想が良く
ゴミ荒らしなどもしないため住民たちが餌を与えたりしているらしい。
俺の地元に住んでたゆっくりなんか人間を見かけようものなら
汚らしい言葉で罵り、餌の要求をしたりしたものだが流石都会だなぁ。
住んでるゆっくりまで華やかなようだ。
これからの生活を脳裏に思い浮かべながら、俺は管理人さんに別れを告げて部屋へと入っていった。
夜。
荷物が届くのは明日以降なため、使い慣れた布団と枕が無いせいで俺はなかなか眠りにつけないでいた。
何度も寝返りを打っているとアパートの裏手から何やら声が聞こえてきた。
「ゆっふっふ。きょうもにんげんさんたちからいっぱいごはんがもらえたね!」
「ゆっくりできないにんげんさんでもれいむたちにごはんをわたしてるおかげでゆっくりできてるね!」
「ゆゆん! いなかもののにんげんさんにもすこしはとかいはなところがあるようね!!」
俺はゆっくりたちの台詞を聞いて愕然とした。
昼間はあんなに愛想を振り撒いていたのに、その裏では人間を見下していたというのだ。
これでは地元にいたゆっくりたちと何も変わらないじゃないか。
何かに裏切られたような感じに包まれた俺は裏手に面した窓を開け放って一喝した。
「おらぁ! クソ饅頭どもうっせぇぞ!!」
『ゆゆっ!?』
電気を消していたので人がいるとは思わなかったのかゆっくりどもは
何十センチか地面から飛び跳ねてから壊れたロボットのようにギギギとこちらに振り向いてきた。
「にんげんさん、びっくりさせないでね! れいむたちをゆっくりさせてね!!」
「何今更取り繕ってんだよ! てめぇらが人間様を見下してるクソ饅頭だってことはとっくに分かってんだよ!!」
俺が怒鳴りつけるとゆっくりたちは押し黙った。
これで静かに眠れると思って窓を閉めようとした瞬間、俺の耳にゆっくりの言葉が聞こえてきた。
「ゆふ~ん、ばれちゃったみたいだね」
「……?」
ゆっくりらしかぬその落ち着いた物言いに疑念を抱いた俺は再びゆっくりたちに視線を向けて驚いた。
数匹いたゆっくりたち全部が小憎たらしい顔でこちらを眺めていたのだ。
「それでおじさんはどうするの? ほかのにんげんさんたちにれいむたちのことをおしえる?」
「おじさんのいうことしんじるにんげんさんなんていないよ。
ほかのにんげんさんはみんなまりさたちのどれいだよ。」
「はぁ? お前ら何言って……」
そこまで言いかけて俺は気づいた。
昼間の住民たちのあのゆっくりの可愛がりよう。
なるほど。調子に乗りやすいゆっくりらしい。
人間が自分たちを可愛がるのは自分たちが優位に立ってるからだと思っているようだ。
「ゆふふ。気づいたみたいね。ほかのにんげんさんたちはありすたちのみりょくにめろめろなのよ!」
それならこっちにも手がある。
俺はゆっくりたちに視線を固定したまま、腰をかがめて足元に置いていた充電中の携帯を拾い上げた。
手探りで携帯に内臓されているボイスレコーダーの機能をONにする。
最近の携帯は便利なものでSDカードさえ挿していれば長時間の録音も可能なのだ。
俺はこのゆっくりどもの本性を録音し、他の住民たちにそれを教えてやろうと企んだ。
「おい、クソ饅頭ども……」
くっくっく。明日から吠え面をかくゆっくりどもの姿が眼に浮かぶようだぜ。
あの後俺は適当にゆっくりどもを挑発し、汚い言葉でこちらを罵る音声を録音した。
そして次の日に早速、前日の昼間にゆっくりたちが住民に可愛がられていた場所へと向かった。
もしかして毎日場所を変えたりしてるのじゃないかと心配したが
どうやらそこは定位置らしくちゃんとゆっくりたちが現れた。
こちらに“ちら”と目を向けてきたもののすぐに興味を失ったようで
通りがかる登校中の子供に愛想を振舞っていた。
俺はと言うとあのゆっくりたちの本性を録音した音声を聞かせようと
子供たちに近づこうとしたら低学年の子の付き添いに来ていた親御さんに
不審者でも見るような目を向けられてそそくさと逃げられてしまった。
話には聞いていたけど都会の人たちはなんて冷たいんだ。
通学の時間帯が過ぎ、暇を持て余した専業主婦らしき人たちが
ゆっくりたちを囲んで井戸端会議をしていた。
時折、ゆっくりたちを可愛がったり持っていたお菓子などを与えていた。
今度こそゆっくりたちの本性を聞かせようと奥様たちに近づいたが
今度は俺の話が聞いてもらえないばかりか根掘り葉掘り質問してきて
仕舞いには「若い男っていいわね。どう? お姉さんと火遊びしてみない?」
などとモーションを掛けられる始末だった。
これが20代の若奥様だったりしたら願ったり叶ったりだったのだが
悲しいかな、その場にいたのは40代、50代のマダムばかりだった。
愛想笑いで何とかモーションを断っていると今日は半ドンだったのか子供たちが学校から帰ってきていた。
しかし、音声を聞かせようとしても朝と同じように不審者を見るような目で
低学年の子の親御さんに連れられ、逃げられてしまった。
何度かそのようなやり取りを繰り返した後。
何とかマダムたちに録音した音声を聞かせることに成功はしたのだが……
「れいむたちはそんなきたないことばつかわないよ!」
「きっとべつのゆっくりのこえだよ!」
「そういえばそんな気もするわねぇ……」
「ゆっくりの声なんてどれも似たようなものだものねぇ……」
「そんな! よく聞いてみてくださいよ!
絶対こいつらの声で間違いないんですから!!」
「そんなこと言われてもねぇ……」
さっきまであんなに熱烈なモーションをかけてきていたマダムたちも
ゆっくりどもの言い訳をすっかり信じてしまい俺の秘策はあえなく敗れた。
今までの可愛らしいゆっくりたちのイメージはなかなか壊れないようだ。
俺はアパートの部屋で打ちひしがれていた。
ゆっくりたちの本性を住民たちに知らしめることができなかったからだけでなく
引越し屋さんの方で何やらトラブルがあったらしく荷物が届かずに
2日連続で畳の上に直に寝ることを余儀なくされたからだ。
なかなか寝付けずに何回も寝返りを打っていると裏手の方から
窓に何かがこつこつと当たる音が聞こえてきた。
「何だ?」
疑問を声に出しながらも俺はそれが何なのか知っていた。
実家にいた頃はよく聞いた音だ。
「ゆゆっ! ようやくでてきたね! ゆっくりしすぎだよ!!」
「やっぱりお前らか。」
窓の外には案の定ゆっくりどもがいた。
口に小石を銜えて窓に向かって飛ばしていたようだ。
「何の用だ?」
「ばかなにんげんさんはばかなにんげんさんなりに
あたまをつかったみたいだけどむだだよ!」
「ほかのにんげんさんはまりさたちのどれいだってことが
きょうのことでよくわかったでしょ?」
「これにこりたらあなたもありすたちのどれいにしてあげないこともないわよ?」
「ありすはあいかわらず“つんでれ”さんだね!」
「べ、べつにありすは“つんでれ”なんかじゃないんだからね!」
「あー、黙れ黙れ。うっさい。」
ゆっくりどもの間で胸糞悪い会話をし始めたので俺は制止した。
「めんどくさいからお前らもう俺に関わるな。
俺もお前らに関わらないようにするから。」
「ゆゆ~ん! とうとうおじさんもかんねんしたみたいだね!!」
「ふん! どれいのぶんざいでまりさたちにさからわないでよね!!」
(ぷっ)
(かつん)
「いでっ!?」
まりさが言葉とともに口に銜えて飛ばしてきた石が俺に当たった。
所詮ゆっくりの力なので言うほど痛くはなかったものの
頭にカッと血が上った俺は足元に落ちたその石を全速力でゆっくりどもに向かって投げ返した。
「ゆびぃ!?」
「ま、まりざぁぁぁ!!」
「おべべが……おべべがみえないよぉぉぉぉぉ!?」
「まりざ、ゆっぐりじでぇぇぇ!!」
どうやら投げ返した石はちょうどまりさの目にクリーンヒットしたらしい。
どこかすっとした俺は晴れ晴れとした気持ちで窓を閉めて畳に寝っ転がった。
外からは依然ゆっくりどもの叫び声が聞こえていたが
地元にいたことに聞き慣れていたため、俺はゆっくりと夢の中へと意識を沈めていった。
翌日。
バイトを探すためにバイト情報誌を近くのコンビにまで取りに行った俺は
自分が周りから奇妙な目で見られていることに気が付いた。
この目の感じはよく覚えてる。
地元にいた頃に虐待趣味が周りにバレたときの目と瓜二つだ。
嫌な感じがしてあのゆっくりどもの定位置となってるらしい場所へと
向かった俺は予想通りの光景を目の当たりにして眩暈がした。
昨日偶然石を目にぶつけたまりさと他のゆっくりたちがこぞって
まりさをこんな目に遭わせた酷い人間さんのことを訴えていた。
「れいむたちはおうたのれんしゅうしてただけなのに
あのにんげんさんはいきなりあらわれてまりさにいしをぶつけてきたんだよ!」
「れいむ、いいんだよ。きっときづかなかっただけでまりさがわるいことしちゃっただけなんだよ。」
「まりさ……」
嫌らしいのは俺が一方的に悪者みたいに話を捏造していることもだが
被害者であるはずのまりさが自分に非があったんだと訴えていることだ。
あのゆっくりたちは人に同情させる術をよく心得ていやがる。
「あ! いしをぶつけたおにいさんだ!」
憎々しげにゆっくりどもを眺めていたらそのうちの一匹がこちらに気づいてしまった。
「おにいさんごめんね。まりさがわるかったんだよね。ごめんね。」
隻眼となったまりさがこちらに謝罪の言葉を投げかけてくるが
周りにいた人たちは俺を犯罪者を見るような目で見ている。
その視線に耐え切れなくなった俺はこそこそとその場を離れるしかなかった。
「くっそー、あのクソ饅頭どもめ……!」
やっと届いた家財道具に囲まれて俺は部屋でひとり不満を顕わにしていた。
「なんとかしてこの鬱憤を晴らしたいな……あ」
思い出した。家財道具が届いたってことは“あれ”もどこかに入ってるはずだ。
ダンボールを片っ端から開け放って“それ”を見つけたときに奴らの声が聞こえた。
「ゆっふふ~ん。うまくいったね!」
「おめめはみえなくなったけどにんげんさんたちにいっぱいあまあまもらえたよ!」
「ゆん! わざとけがしてもっとあまあまもらおうよ!!」
「ゆゆ~ん……でもいたいいたいはいやだよ」
どうやらまた悪巧みをしているようだ。
しかしお前らの命運もここまでだ!
「やあ、れいむたち。今まではごめんね。お詫びにたくさんお菓子持ってきたよ。」
「ゆっ! おじさん何しに来たの!?」
流石に警戒されているようだ。あまあまと聞いても警戒を緩めない。
だが所詮はゆっくりよ。
「おじさんが愚かだったよ。おじさんなんかじゃれいむたちには
全然敵わないよ。奴隷になるから許してくれないかな?」
「ゆゆっ! よーやくかんねんしたみたいだね!!」
「あまあまちょーだいね!」
「ああ、当然さ。」
お菓子を地面にばら撒く。
途端にゆっくりどもはお菓子に群がってわき目も振らずに貪っている。
『むーしゃむーしゃ……しあわせー!』
「さてと、と……」
(かぽん)
「ゆ? あまあまさん、ゆっくりしていってね?」
外側の方にいるゆっくりに虐待お兄さん御用達の透明ケースを被せて捕獲する。
ゆっくりはお菓子の方が離れて行ってるように見えたようだ。
他のゆっくりたちはお菓子に夢中でこちらの行動には全く気づかない。
俺はこの調子で全部のゆっくりを透明ケースに捕獲した。
数週間後。
ここらでは名物だったゆっくりは姿を消した。
最初は住民たちもゆっくりの行方を心配していたが
今までゆっくりがいた場所に猫が居つくようになると
住民たちの興味はそっくりそちらへと移った。
所詮ゆっくりたちの価値などその程度だったということだろう。
俺に向けられていた白い目も地域の奉仕活動などに
積極的に参加することでだんだんと緩和されていった。
その日もようやく見つけたアルバイトから帰ってきた
俺は部屋に待つ愛しの彼女たちに出迎えてもらう。
がたがたと揺れるケースたちを目の前にして俺はゆっくりと笑みを浮かべた。
今までの収録作品
ゆっくりいじめ系1773 実験
ゆっくりいじめ系2044 かくれんぼ
ゆっくりいじめ系2141 ゆンプリンティング
ゆっくりいじめ小ネタ378 ゆっくりスパーク
未収録作品
fuku4831 “とかいは”じゃないありす
最終更新:2022年05月22日 10:52